怪狸の失態!?
「友世。ちょっと見て欲しい女の子がいるんだけど良いか?」
そう言ってミシェルを友世の前に送り出す。
「この娘がどうしたの?」
友世はミシェルを不思議そうに見ていたのだが、晴明の次の言葉で少し顔色が変わったのだ。
「フェスのときを覚えてるか?あのときオレの札を友世が間接的にではあるけど使ったことあったじゃん?あのとき札は虹色に輝いたけど、この娘も赤く輝いたんだ。もしかすると、友世の能力に近いのかもしれないと思ってさ。」
それを聞いた友世はしばらく考えてから、『なるほど…。』と呟くとミシェルの手を握った。
「私が教えてもうまくいかない可能性があるけど、それでもやってみたい?」
この確認はきっとミシェルを思ってのことだろう。もし結局ダメでもミシェルがショックを受けてしまわないように配慮をしているのだ。
それを聞いてもミシェルは。
《このまま私だけが何もできないのはイヤなの!せっかくの能力で喜んでたのに使えないなんてイヤ!少しでも可能性に賭けてみたい!》
ミシェルの悲痛な叫びに友世は頷きながら聞いていた。そして。
「じゃあやってみようか!晴明くんの見立てではわたしの力に似ているなら使える可能性もあるしね!」
そう言いうと、ジェシーに上階の使用許可を取り付けて秘密の特訓を開始したのであった。
「ミシェルはあの後どうだった?」
夕食を取りながら情報交換をし始める。ちなみに夕食はバイキング形式が採用されている。晴明と友世の年齢を考慮した食事体形が取られたホテルを選んでくれたらしい。
晴明の質問に対して友世はどこか話しづらそうにしているが、その理由は多分自分の能力がバレたくないためなのだろう。真意は分からないが、手の内がバレることで自分が不利になることもあるだろうと考えれば納得がいく。
「単刀直入にいえば、ミシェルさんはうまく能力を使う事ができたよ。明日もわたしが直接見ることにしようと思う。それでね。…彼女は…、特殊なタイプでさ、みんなと一緒にってわけにはいかないから…。」
どうにも歯切れが悪い言い方だが、要は個別指導をするからということである。それが伝われば別に何の問題もない。
「りょーかい!」
そう一言伝え、あとは何も聞かないようにした。
友世はもっと色々聞かれると思っていたのだろう。顔には『それだけ!?』と言いたげな様子が見てとれるたが、晴明の配慮に気が付きニンマリとしながらすくっと立ち上がると晴明の後ろを通りながら。
「…カッコいいね!」
と聞こえるか聞こえないか位の声量で呟くと、そのままデザートを取りにいってしまった。晴明がにやにやしている顔を整えるのに必死になったことは言うまでもない。
2日目は個別に適した物を模索していく事にしている。晴明の予想は、白覚醒者は何かしらの宗教的な呪術や呪文的な物を必要とする能力者ではないかと考えている。そのため普段の生活の中や訓練ではその能力に気が付きにくいと読んでいるのだ。
(陰陽術も東洋の五行思想を元に作られた物だし、聖書や聖典なんかの引用箇所でうまく能力が発動できたりなんてできないかな?なんて考えたけど、宗派とか色々あって大変なんだよなぁ…。)
事にキリスト教とひと言で言っても、カトリックやプロテスタント、ギリシャ正教会なんて大きく分けても3つある。細々としていけばどれだけあるかなんて分からないほどだ。その中で自分が一番適している物を探し出す必要があるのだから気が遠くなる。
(そう考えればお札が使えるのに気がついてすぐに怪狸に会えたことは奇跡的だったってことだな。)
遠くの地にいる相棒に感謝しかないのだが、実はその相棒に一つ調査を依頼したのである。それはもちろん現在も悩まされている晴明の能力減少についてだ。考えられる要因をまとめると2つであると、怪狸と相談して結論付けた。その2つとは、①他者から呪術的な物を受けている。②晴明自身が施した術式に多くの力を消費されている。というものである。
①に関しては晴明を呪いにかけるほどの強力な術者がいる事になる。晴明の予想では呪術を使う以上白覚醒者でなければならず、現在判明している白覚醒者は一番隊隊長と晴明の2名である事から考えなくとも良い結論付けた。もちろん野良の術者がたまたま自身の能力に気が付き行動している可能性があるし、呪いという能力に特化した覚醒者がいる可能性も否定はできないが、晴明自身が狙われる可能性を考えるとほぼほぼあり得ない事になる。
そうなれば②が濃厚だろう。晴明が施した術式は比翼連理の事務所の結界と各メンバーが持っている御守り、さらに春休みに依頼された国会議事堂の結界と恐山の封印になる。恐山には結界+封印を施していて、そこに力を持って行かれている可能性がある。恐山の封印は用意された護符を使用している点も気になる。さらに封印が解けかかっている可能性もあるため、怪狸に確認をお願いしたというわけである。
(怪狸が恐山に到着するのはこっちでの昼過ぎ、問題がなければ良いんだけど…。)
封印が解けたとなれば非常に申し訳ない。ドウジが約千年もの間ゲートを封印し続けられたというのに、自分は数ヶ月という事になってしまう。勉強不足を恥じるしかないのであった。
昼食後に休憩を取っていると、怪狸からの通信が飛んできた。
「…どうだった!?」
おそるおそる聞く晴明に対し、怪狸は状況だけを正確に伝えてくる。
「まずは結界ですが、問題なく動作していました。晴様の能力と技術の高さでこの短期間での解除はあり得ないとは思っていましたが、読みは当たっておりました!」
むふーっとなぜか怪狸がドヤ顔をしているのが電話越しでも伝わってくる。そしてもう一つ。
「ただしこれにより、現在晴様の力が減少している理由が判明しました。これは私のミスです。申し訳ありません。…報告を続けてもよろしいでしょうか?」
怪狸からの原因特定という報告から考えると、やはり②案が近かったという事だろう。だが怪狸がミスとはどういう事だろうか?とにかく話を聞くしかないのである。
許可をもらった怪狸は、こほんっと小さく咳払いをすると自身の調査を報告し始めた。
「晴様が今回施した結界は楔と呼ばれるものがなく、地から常に晴様の力を得て封印が継続されています。ですが現在日本という国から出立している状態のため、地から離れたことで維持に必要以上の力が必要になっている状態です。その点に私が気づいていれば、このような事にはならなかったはずなのに…。気が付きもせず申し訳ありませんでした。この事により、帰国後直ぐに楔を打つことをお勧めします」
「………。」
つまりは恐山の結界と封印は、常に晴明から力を奪って継続している状態なのである。このままでは海外遠征のたびにこの状態になるということだ。それは勘弁してもらいたい。
「わかった。帰ったらすぐに恐山に行って、代わりの封印を施すようにするよ。でも怪狸、別にお前のせいではないから責めなくていい。いつも助かってるのはこっちなんだから!」
「身に余るお言葉。では封印用の護符と楔になりそうな物を早急にピックアップしておきます。」
そう言って通信が切れた。何ともできた相棒である。だが今回はずいぶん思い詰めていたように感じる。ストレスを溜め込むとハゲるぞと伝えてやりたい。
これで原因は突き止められたので一先ず安心という事を友世に伝えなけらばならない。よほど心配を掛けた気がするので早い方がいいだろう。
(…あと2日で帰るんだよなぁ。なら別に夕方でもいいか!)
友世はミシェルに個別の特訓をしている。乗り込んでいくのも気が引けたのである。
とりあえず4人の能力開発をもう少しサポートしながら、自分の理論が正しいかを見極めたいところであった。
「では失礼します。」
通信を切ってから再びPCの画面に向かって座り直す。
「怪狸さん怪狸さん!ご主人様には安心していただけましたかにゃ?」
ネコ娘が運転席から顔を覗かせる。
「一先ずは納得してもらえた様子でしたよ。ネコさんにも迷惑を掛けましたね。」
怪狸はふうーっと息をはくと、今度は楔になりそうな物をネットで検索し始めた。
「いや〜、まさかこの車を買って初めての使用が恐山の再調査とは思いませんでしたにゃ。電波が通ってて良かったにゃ〜。」
大型トレーラーの荷台に居住スペース兼仕事部屋を作り、いつでもどこでも仕事をしながら移動ができるようにしたのである。もちろん案は怪狸だったのだが、一部晴明から居住スペース費用を捻出してもらい、残りは比翼連理の方からはトレーラー代と仕事部屋にするためのPC、ネット環境を構築してもらったのである。ちなみに運転はすでに自動運転が常態化しているためAIさまさまというわけなのだ。
「お座敷ちゃん、具合は良くなったかにゃ?」
ネコ娘は居住スペース側のソファでグッタリする座敷わらしに声を掛けると、弱々しい声で返答がくる。
「ごめんなさいいい〜。まさか妖怪が乗り物酔いするなんて…。ご迷惑おかけしてます〜。」
「仕方ないですにゃ!お座敷ちゃんは基本移動なんてしない妖怪なんですからにゃ。」
車移動中に画面を見続けた結果、完全に車酔いでダウンしているのだった。ちなみに今回怪狸の助手として召喚されているため、座敷わらしでも家には紐付いていないため、移動ができるのだ。
「…今回の件は、よく確認もしないで渡された護符で術式を組んだ私の責任です。晴様から攻められこそしませんでしたが、正直管失格です。もし向こうで力を行使しなければならない用件があれば、確実にお困りになったはず。完全に失態です。」
怪狸は今までにないほど自身を責めている様子である。実際は晴明が怪狸の優秀さに脱帽している状態なのだが、怪狸はそうは思わない。
「…何でそこまで自分を責めているのですか?怪狸さんは誰がどう見ても優秀で素晴らしいと思いますよ?」
ソファから声にならないようなか細い声で座敷わらしがフォローしてくる。ネコ娘も同じようで首を縦に頷いている。
怪狸はそれでも納得はしないのである。
「怪狸さん怪狸さん、良ければ私たちに話してみるにゃ!少しは気持ちが落ち着くかも知れにゃいにゃ!」
そう言われて自分が焦っている事に初めて気がついたのである。
「怪狸さんは仕事しすぎです…。いくら妖怪でも、倒れちゃいますよ。」
座敷わらしも心配している。
心配してくれる同僚にお礼を伝えつつ、怪狸は自分の気持ちを2人に話し始めたのであった。




