晴明の体調不良
部屋でゆっくりと時間を過ごしても、晴明の体調が戻ることは無かった。ただ晴明も、全く心当たりがないわけではなかった。
(どうもこっちに来てから力をガリガリと削られている感覚があるんだよなぁ…。)
今までも能力を使えばその分減る感覚はあったのだが、それも術発動時だけである。今のようにどんどんと減っていっている感覚は初めてのことなのだ。そのため原因がわからない。どちらにせよ、この霊力とも表現できる力が枯渇しているために具合が戻らないのは明白であった。
「とりあえずパーティーから帰ってきたら怪狸に電話して原因を探ってもらうか。」
そう呟いてからベットを降りて着替え始めたのであった。
「晴明くん大丈夫ー?」
ノックの後に心配する友世の声が聞こえ、顔色が戻ってきている晴明は準備万端でドアを開けた。
「せっかく練習はしたけど、具合が悪いなら無理はしない方がいいよ?」
ドレスを身に纏った友世が心配そうに声をかけてくれる。晴明は友世を見ただけでも元気が出るような気がした。それだけ晴明にとって着飾った友世は破壊力抜群である。
「友世とせっかく練習したのに活かせないままなんてオレが嫌だからな!今日のエスコートはオレがさせてもらえるんだろ?その手を取らないわけにはいかないよ。」
もちろん万全ではないものの、他の誰かにこの大役を譲るくらいならはってでも行く気である。
「…約束。限界が来たら必ずわたしに教えて!無理はしないで。」
そういうと小指を出してきた。指切りをさせる気なのだろう。微笑ましいと思いながら小指を絡ませて誓わせられる。
「ゆーびきりげんまん、ウソついたら『一ヶ月わたしに話しかけないで』指切った!」
「えっ!?ちょ、ま!」
言われるがままに指切りをされてしまった。同じクラスで職場も同じ、比翼連理でも一緒である友世と一月も離さないなど考えただけでも恐ろしい罰である。だがそもそも無理することもないので、この約束を破る必要がない。つまり問題はないわけである。。
「ま、そもそも絶対に約束を破ることはないから大丈夫!むしろ介抱してくれるならそれもアリだしな!」
「約束守ってくれるなら介抱くらいしてあげるよ。でも倒れたらわたしじゃ運べないからね!」
そんな話をしながら会場に向かうのであった。
会場は泊まっているホテルの最上階にある広間で行われる。立食形式で、ロビー活動に余念が無い人達がこぞってシャンパン片手に会話をしている。
(一体何の会話をしているのやら…、翻訳機を作動させて無いと単語も聞き取れないなぁ。)
英語で話しているだろう事くらいしか分からないやりとりを他所に、入口での受付を済ませて中に入場する。すでにウェルカムドリンクでほろ酔いの人達がいるようだ。
「コチラデスヨ〜!オ2人ハ何飲ミマスカ?」
すでに会場入りしていたジェシーがウェイターを呼び、飲み物を聞いてくれる。ドリンク一覧を見せられたが、果物系以外はよく分からない。
「うーん…コーラで!」
結局アメリカなんだからコーラくらいはあるだろうと、一覧を読むのを諦めて注文しておく事にした。
差し出されたグラスに口を付けて周りを見渡していると、大人に紛れてこちらをチラチラ見てくる5人組がいる。
(上は高校生くらいかな?下は…同じくらいかもしれないなぁ。)
多分彼らがこれから交流する事になる白覚醒者なのだろう。お互いが様子を伺っている状態である。
「流れは聞いてきたから大体頭に入ってるけど、ほとんどが『好きに食って好きに話して』って感じみたいだったんだよね。交流する白覚醒者の人達とは明日から一緒に訓練する事になるんだって!」
友世は打ち合わせで聞いてきた内容を要約して教えてくれる。とりあえずパーティー内で紹介されて飲み食いしながら、たまにダンスを踊れという事だ。
(最近のダンスブームのせいでパーティー=ダンスみたいになったらしいけど…16世紀のヨーロッパ貴族かって思うわ。)
そもそもが目立ちたく無い人物からすれば人前で踊れと言われる事ほど辛い仕事はないのだが、ダンスパートナーが意中の相手では致し方ない。喜んで引き受けるしかないのだ。
「ソロソロスタートスルカラ、壇上ニスグニ上レル場所マデ行クヨ!」
ジェシーは会場脇からステージ袖マデ案内してくれる。手にはまだグラスが握られていてこのまま出るのかとヒヤヒヤしたが、袖にいたボーイさんが受け取ってくれたので丁寧にお辞儀をしておく。
《日本から来てくれた友人を紹介する。沖田友世と蒼井晴明のお二人だ!》
耳に差した翻訳機をから流れる音声は順調のようで安心した。いつもは首に掛けているケータイ端末だが、流石に正装では付けられない。そのためわざわざ翻訳機の性能だけを搭載したイヤホン型を使用している。
拍手に包まれながら舞台袖から出ると、地元の記者などさまざまな人からフラッシュが焚かれて何も見えないほどであった。
《日本で覚醒者として活躍している2人が、我々の悩みを一緒に解消するために力を貸してくれる事になっている。》
紹介は一緒に壇上に上がった40歳くらいの男性が話してくれているのでにこりと笑顔を作りながら立つ事に専念していたのだが…。
《それではひと言ずつ話してもらいましょう!》
(…ん!?)
今まで饒舌に話していた男からの急なキラーパスにドッと冷や汗が噴き出てくる。同時に大きな拍手が鳴り響き、目の前にはマイクスタンドを用意されて日焼けをするんじゃないかというほどフラッシュを浴びている状態だ。
「おい!聞いてないぞ!!」
友世に肘で小突きながら小声で訴えると、見るからに『伝えるのを忘れていました!ごめんなさい!』と顔に書いてあるようである。
先に友世から挨拶をし始めてたのだが、場慣れをしているため堂々としていて観ている側も感心しているようであった。さすが今注目のガールズバンドのボーカル様である。対していつも隅っこで人目を避けてきた晴明からすると、待たされている時間すら辛いものであった。
《では次に蒼井晴明さんどうぞ!》
翻訳機の流暢に聴こえる音声に促されるようにマイクの前に立つ。まさにど緊張で何をしていいかもテンパリすぎてあたふたしてしまう。
(まずは挨拶!おじぎ〜!!!)
ゴンッ。
テンパって挨拶をしようとしたところ、激しくマイクに額を打ちつけてしまったのであった。その勢いでマイクはスタンドごと倒れ、晴明はしゃがみ込み悶絶。会場は一瞬静まり返ったのだが、一呼吸置いた後に割れんばかりの笑いと拍手が巻き起こったのであった。
「酷い目にあった…。」
額を赤くして不貞腐れギミの晴明だが、周囲は先ほどの『マイクパフォーマンス』で晴明が面白いヤツという認識でいるようである。戻ってくる間にも口々に『サイコーだったぜ!』と声を掛けられまくったのだ。
「でもみんな喜んでくれたんだから、結果オーライでしょ!」
まだ先ほどの状況を思い出して笑いが収まらない様子の友世が慰めてくる。
「…そう言いって慰めようとしても無駄だぞ…、さっき涙流して笑ってたのを忘れてないからな。」
ジト目で友世を見ながら恨み節である。晴明としては心の準備は欲しかったところだからだ。
「ごめんごめんって!ほぼいるだけって言ったじゃん。まあひと言下さいは確かに困るよね。次は気をつけるからさ!」
そう言いながらまた吹き出しそうになっているのでやはりジトッと恨めしい気持ちで見てしまうのであった。
「話は変わるけど、体調はどう?良くなってきた?」
友世の表情から、先ほどぶつけた額を心配したわけではないのが分かる。約束もあるため素直に共有するしかないのだが、状態は良くも悪くもなっていない。現状は霊力が出ていく量と回復量がつり合った状態である。とにかく良くも悪くもなっていない事だけを伝えるしかない。
「そっか。もしダメならちゃんと教えてね。絶対だよ!」
どれだけ信用がないんだ?とも思ったが、それだけ心配してくれているという事である。ありがたいなぁと感じながらも自分が能力さえ使わなければ大丈夫であるため、現状悪くなることはないだろう。
「では姫、…せっかくなので私と踊っていただけますか?」
せっかくなので楽しまなきゃ損だとダンス講師に言われたこともあるが、晴明としては友世とダンスしておかなきゃ後悔するという気持ちが優先するわけである。
一瞬キョトンとした友世だったが、差し出された手をそっと受け。
「せっかくならサイコーのダンスを見せつけてあげよ!さっきは笑いを取ったけど、今度は絶賛の拍手を受けなくちゃね!」
そう言って2人で中央に出ていくのであった。
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