表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/55

不吉な前兆

飛行機を降りると、そこは日本とは全く違う空間が存在していた。機内では友世が緊張していただろうが、ここに来て今度は晴明が緊張していた。

(心の準備はしてきたんだけどなぁ…。税関職員に捕まるとかなければ良いんだけど…、心配だなぁ。)

晴明はこの間テレビで税関職員が取り上げられており、麻薬の売人に利用されていた人や持ち込んではいけないものを持ち込みそうになった人などさまざまなトラブルが紹介されていたのだ。それをみてビビっている辺りは、友世が観た飛行機事故のテレビ番組と同レベルである。

「日本ノミナサン!コチラデスヨ〜!」

カタコトの日本語が聞こえて呼ばれた方向を見ると、ピンクがかった髪色の大柄な女性が手を振っていた。

「初メマシテ。ワタシハ『ジェシー』ト言イマス。コレカラミナサンノ案内ヲスルノデヨロシクオ願イシマス!」

満面の笑みで親しげに話しかけてくれる。今回交流するアメリカの白虎隊や新撰組のような政府が委託する民間団体、『アメリカエスパー協会』の職員ということだ。日本は政府運営の機関として白虎隊と新撰組が東西に分かれて存在しているが、アメリカでは政府が力を使える覚醒者を雇い入れるという事はしていない。理由としては能力訓練をさせるのにもお金が掛かるためである。そのため覚醒してしまうと、暴走時の破壊修理費や能力訓練代など多額のお金が必要となるため、『覚醒者保険』なるものまで存在しているのだ。

ジェシーに案内されて空港の外に用意されているという車に乗るために移動するが、その車というは玄関口にビタ付されていたリムジンであった。ドアマンが開けてくれて乗り込む。飛行機はエコノミークラスだったのに、降りた途端にビジネスクラスに昇格したようで晴明は少し萎縮してしまう。

「晴明くんはなんでそんなに緊張してるんですか〜?」

晴明が車に乗り込もうとしたとき、不意に三浦が聞いてきた。きっとこの人は接待とか全て受け入れるタイプなんだろう。晴明は過剰な接待は逆に恐縮してしまって気が休まらないタイプであった。

「自分は三浦さんほど図太い神経を持っていないもので、こういう場面では恐縮してしまってダメなんですよ。」

少しイヤミも混ぜて突き返してやる。すると1番最後に乗り込んでからこう言い返されるのであった。

「接待ってのはある程度受けてあげないと、逆に接待役が怒られる事にも繋がるから気をつけてくださいよ〜。図太いとかは別にしても、この日のために色々と準備をしてくれた相手の気持ちを踏みにじってはいけないですよう!」

三浦はきっと今までにも接待をする側で活躍してきたのだろう。受けてくれなかった時の大変さを知っているからこそ出るひと言である。

晴明は少し反省し、せめて恐縮しながらでも甘んじて受け入れるようと考えるのであった。


「コチラガ皆サンノ本日カラゴ宿泊シテモラウホテルニナリマース。」

ややおかしな日本語だが、英語で説明されるのに比べればありがたい。

そして非常に立派なホテルにやはり恐縮してしまうのだが、せっかくのご好意は受けておかなければならないのだろうと自分に言い聞かせている。

中に入るとそこは広いロビーであり、見るからに上流階級であろう人たちがくつろいでいる。私服の中でもまだ見られる物を着て来たつもりではあるが、まだ自信がないためにソワソワとしてしまう。

(そりゃパーティーの服装もオーダーで仕立てるわけだわ…。)

晴明は日本にいたときに想定していた状況よりも緊張しているようで、非常に疲れている事に気がついた。正直部屋で休ませてほしいところであるが、そういうわけにもいかないため必死に我慢している状態だった。

すると心配げな表情で友世が話しかけて来た。

「晴明くん大丈夫!?こっちに来てから顔色悪いよ?夕方のパーティーまで予定キャンセルしてもらって部屋で休ませてもらおうか?」

心底心配してくれているのだろう。それだけ晴明の顔色が悪いという事である。

終いにはいつも茶化してくる三浦ですら心配してくれている。

「正直今日のこの後の予定は晴明くんが居なくても、私達2人がいれば問題ないから休んでいても大丈夫だよ?きっと慣れない環境と移動で疲れが出たんじゃないかね?」

今日のこの後の予定は明日からのスケジュールの確認と、責任者との顔合わせである。スケジュール確認であれば後で聞けば良いので問題はないように思うのだが、責任者に対しては失礼にならないだろうか。そう思うとなんとか頑張って向かおうと考えてしまう。

「体調ガ悪イトキハ、シカリ休ムトイイヨ!」

ジェシーが追い討ちのように休めと促してくる。確かにここで無理して夕方からのパーティーに参加できない方が問題だろう。友世が1人になってしまう。その状況は避けたい。

「…わかった。2人ともごめん。少し休ませてもらうよ。なんとか夕方までには体調を戻せるように頑張るね。」

そう言うと晴明は部屋へと案内されていったのであった。


「晴明くんが体調を崩すなんて珍しいこともあったもんですね?」

三浦が不思議そうにしているが、このことについては友世は少し違和感を感じていたのであった。

「具合が悪くなってきたのは空港で降りてからなのよ。普通は緊張というのは物事の前からするものだと思うし、機内での様子からは緊張をする素振りもなかった。もっと言えば、ジェシーさんとのコミュニケーションで緊張の糸が解けてたように思うの。でもここに来て具合の悪さが悪化してきている。」

友世の言わんとする事は分かるが、晴明の体調がアメリカとどう関係すると言うのだろうか、三浦にはその意図が読めないでいた。

「簡単に言うと、アレルギー物質とかに晒されているような感じなんじゃないかって事。これはあくまでも例え話よ?」

つまり友世は晴明の体調の悪さは何かしらの原因があると考えていると言うことだ。

「考え過ぎじゃー無いっすか?晴明くんだって体調崩す事くらいありますって。」

そりゃもちろん友世もそれは分かっているのだが、タイミングが異常に悪いのが気になったのである。

「用心に越した事はないって事!この件は三浦さんに調査をお願いします。向こうとの打ち合わせはわたし一人で問題ないから。」

「もー。人使いが荒いんだから!残業代請求しますからね?」

「よろしくね。」

お互いに()()()()()のやり取りをすると、三浦は颯爽と消えていった。

「アレ〜?三浦サンハドーサレマシタ?」

「疲れたから休憩したいって部屋に案内されて行きましたよ!顔合わせはわたしがいれば大丈夫ですよね。」

「イエス!友世サンイレバ大丈夫!問題ナイヨ!」

ジェシーは心配いらないとばかりににこりと笑顔で対応してくれる。

友世はそのまま会議室へと通されるのであった。



友世達がニューヨークに着いたちょうどその頃、日本では首相官邸に一本の電話が鳴った。

「緊急対応が必要のようです。総理、どうされますか?」

電話口ではあわてた様子で緊張が伝わってくる。

「…とりあえず防衛庁長官と警視総監の両名を官邸に呼んでください。マスコミにはまだ伝わるわけにはいきません。極秘に行動するように努めてください。」

日中が暑過ぎて、日付が変わろうとしているのに35度は超えているだろうか。だが、汗ばむのは暑さのせいだけではない。内容が内容なだけに、事は慎重を要するのである。防衛庁長官の池崎と警視総監の野田が次々に官邸に顔を出す。状況から緊迫した状況であるのは間違いない。

「総理、私達を呼び出してどうされたのですか?」

部屋に総理が入室してきたタイミングですぐさま質問が飛ぶ。それもそのはず、これだけのメンバーがこの時間に招集されたのだ。只事出ないのは間違いない。

「まずは落ち着いて話しましょう。今回は専門家を呼んでいる。彼から状況を聞いてから判断することにしよう。」

総理が上座に座ると、続いてドアがノックされて1人の人物が通されてきた。

「遅れて申し訳ない。本日はよろしくお願いいたします。」

そう言って入室してきたのは内閣副総理であり、新撰組と白虎隊の総軍隊長である日江島晋ひえじますすむであった。

「…日江島さんがここに来たということは、例のモンスターについてですか?」

『例の』というのは恐山での一件でのことである。この事はすべての省庁に詳しく通達されているため、日江島が説明に来たということで大体は察することになる。

「私が報告を受けたのは昨日夜のことです。新宿を担当していた夜間警備の隊員から報告があったのです。恐山で報告にあったような見たこともない生物がうろついていた、…と。」

場所が都内と言うことで一気に緊張が走る。恐山は観光地ではあるものの、山の中と言うことで被害が少なかったのだ。しかし今回は人が溢れる大都会東京の、しかも中心地となれば話は変わるだろう。

「して?そのモンスターは仕留めたのか?」

池崎が確認すると、日江島は首を横に振る。

「目撃されたのは、犬のような姿で顔が豚のようであったと言われているのですが、応援を要請している間に姿を消したと言うことでした。実は数週間前に地下鉄の運転士も見た事もない生き物のようなものを運転中に目撃したと話していたそうで、これが本当であればこの東京のどこかに恐山と同じようなゲートが開いている可能性があります。」

「これはあくまでも可能性であり、現在調査中の案件だ。ここだけの話に留めておいて欲しい。情報が漏れてパニックになるのは避けたい。」

総理はまだ不確かな情報をリークする事で、現場が混乱することを避けたいようである。だが、もし情報が正しければ一刻を争う事態であるのは間違いない。

「では我々は何をするために呼ばれたのでしょうか?」

野田総監は落ち着いたように質問をする。もちろん対応が決まっているからこそ呼ばれたわけだ。総理はふーっと息を吐いてから指示を飛ばす。

「明日以降夜間の地下鉄等が停まった時間帯に、都内全域で恐山と同じようなゲートがあるかの捜索をして貰いたい。そのために人数は多く用意して欲しい。通常の業務に支障をきたさないよう且つ、周囲に情報が漏れないように1週間を目処に捜索して貰いたいと考えている。」

「…もしゲートなるものが発見された場合はどうされるおつもりですか?」

「もちろん都内全域に避難指示を出して、恐山と同じ封印を施す予定とする。」

「確か白虎隊一番隊に所属する少年が封印を施したという事でしたよね。本当にその少年を信じても大丈夫なんでしょうか?」

言わんとする事は分かる。東京の運命を1人の少年に押し付けるようなものだからである。だが現状ではそれ以外に策はない。

「現状では彼以外に封印を行える者がいないのです。重要な任務ではあるが、彼なしでは打つ手がない状態です。ただ現在その少年、蒼井晴明はアメリカへ出張しています。そろそろニューヨークに到着する頃だと思います。すぐに呼び戻しますか?」

日江島は確認をするように発言をする。だがアメリカの要請で派遣した者を、用もこなさずに呼び戻すのは体裁が悪い。急を要する状態かどうかもわからない以上、現状は維持する判断となった。

「念の為、アメリカの出張終了後にこちらに寄って貰うよう話しておいてくれ。」

アメリカでの任務は5日間の予定で、アメリカ滞在自体は3日間となっている。東京でのゲート捜索にかかる時間も考えると、任務をこなしてからこちらに合流させるのが良いと判断したのである。


……しかし、この判断はのちに『甘い判断』と揶揄される結果となるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ