日本出国前のひと時
楓との一件で、晴明の中では白認定者と呼ばれる人達に対してひとつの仮説ができた。それは陰陽術や神道などの『術式』を用いる力なのではないかということだ。他の色ありの能力者は1つしか能力がない代わりに、強力なものが多い。まぁその力の大きさはレベル次第でもあるのだが…。
(白認定を受けている一番隊隊長は魔法が使えると言ってたし、あながち間違ってはいないんじゃないかと思うんだけど…。でも確信を持てる何かがないと断定はできないよな。)
晴明は白認定者の能力がもう少しで分かりそうなのに事例の少なさが確信へと至らない点にモヤモヤとする反面、だからこそ面白いと思っているのであった。
(アメリカでもう少し何か分かるかもしれないな。行くのが少し楽しみになってきた!)
この間までしょぼくれていた自分とは明らかに違う反応になっていることに気が付き、つい1人で笑ってしまうのだった。
「2人とも忘れ物とかは無いかい?」
見送りに来てくれた佐々木さんが最終確認で聞いてくる。
「佐々木さん、もしここで忘れ物に気が付いたとしても戻れませんよ!」
友世が笑いながらツッコミを入れているが、初めての海外に晴明は本気で忘れ物が気になっているのだ。
(パスポートはここだし、財布はここ、盗まれたとき用にここにも分けて入れてあって、あれ?イヤホンどこだったっけ??)
1人でわたわたとしていると、友世に笑われてしまった。
「緊張してるのが出てるぞ!そんなに心配しても疲れるだけだよ!」
友世は慣れているのだろうか。余裕があるように見える。晴明としては良いところを見せたいのだが、今回はムリだろうと諦めがついたのだった。
「な〜んだ、なんだ?せっかくの楽しい海外出張だってのに何しけた顔してんだい?晴明くん!」
このウザい絡み方は忘れもしない、沖縄以来の登場の三浦真純三席である。今回のアメリカ出張の引率者として参加する事になっている。晴明は最初聞いた時は愕然としたが、こう見えて副隊長の次に偉い人なのだ。それに小学生だけで海外に行く出張を公務員である白虎隊がOKを出すわけにはいかないのだろう。
「三浦くんもお二人のことをよろしく頼むよ。」
佐々木さんが声を掛ける。さすがの脳内お花畑の三浦も佐々木さんには頭が上がらないらしい。
「もちろんです!お任せください。」
そう言って頭を下げながらも、友世と晴明を見てニヤニヤしているあたりが相変わらずである。
ここからの道のりは青森空港から羽田に行き、羽田からアメリカ行きに乗り継ぐのだ。飛行機の乗り継ぎなどなんとも贅沢な気もするが、お金を出すのは自分では無いため、晴明は意外とウキウキで飛行機に乗り込んだ。
荷物を入れてから座席に座ると、隣の座席で友世が少し青い顔をして座っている。さっきまでのテンションと明らかに違い具合が悪そうだ。
「どうした?体調悪そうだけど大丈夫?」
晴明が心配して声を掛けると、友世は顔をあげてから理由を話し始めた。
「実はわたし、飛行機が苦手なの!離着陸の時の腰が浮く感じも嫌だし、事故が起きたらほぼ助からないでしょ?ずっとビクビクしてこの1週間怯えて過ごしてたくらいなんだよ。しかも昨日のテレビでちょうど『奇跡の生還』とかいう番組で飛行機事故の話があって観ちゃったし〜!!」
頭を抱えてテレビを観たことを激しく後悔しながら頭をブンブン振っている。さすがにフォローもできずに苦笑いを浮かべるしかできない晴明だったが、友世の意外な弱点にやっぱり微笑んでしまうのだ。
「沖縄のときは大丈夫そうだったのに、今回はダメなのか?」
沖縄遠征時は行きだけでも2本乗り継いでいる。だがここまでビビってはいなかったのだが…。
「離着陸はすごく緊張してたんだよ?でも乗ってる時間短いじゃん!今回はずっと空の上とか無理〜!自分で空を浮遊しているのとはわけが違うでしょ?」
その理論だと自分が運転する車はOKでも人が運転する車はダメって事になるのだが、飛行機は自分で運転できないだろう。
「今は全部自動運転に切り替わってるし、事故率も車よりも圧倒的に低い乗り物なんだから大丈夫だよ。」
2035年辺りから自動車だけで無く、ほとんどの乗り物が自動運転に代わってきた。それにより人的事故が無くなり、鉄道や飛行機の事故はほぼ無くなったのである。だが、直前に観たテレビが悪すぎたのだろう。友世は全て悪い方に考えているようだ。
「なんだいなんだ〜い?なんだかラヴな匂いがするぞ〜?」
今までのやり取りをさりげなく聞いていたのだろう。後部座席から三浦のウザ絡みの奇襲を受ける事になってしまった。
隣では頭ブンブン、後ろからウザウザで出発前から疲れてきた。
「とにかく落ち着け!三浦さんも茶化さない。離陸前にテンション上がるのは分かるけど、他のお客さんもいるんだから静かにしてください!」
全く誰が引率者なのか分からないやり取りで場を正すと、シートベルトを着用させる。CAによる緊急時の説明がされている中、まだ緊張でカタカタと震える友世にそっと話しかけ。
「友世、安心しろ!もし事故が起こっても、オレが乗客乗員全員助けてやる。だから何があっても心配することなんかないよ。」
友世はそのひと言で震えが止まった。そして晴明は緊張した面持ちでこう続けたのだ。
「……も、もしそれでも怖かったら、オレの手を握ってても良いからさ。」
晴明の精一杯のアピールだった。緊張から声が裏返りそうになりやや焦ったのに気付かれていないだろうかとヒヤヒヤする。
友世が隣でどんな表情をしているか、見ることができない。自分で言ったくせに、少しクサかった気もするし、気持ち悪がられていないか心配になっているためだ。
心の中でやや後悔が勝ち始めた時だった。
「…ありがとう。今回のパートナーが晴明くんで良かった。」
そう言いながら晴明の左手をそっと掴んできたのだ。
(安心してくれたなら良かった。)
もう震えていない友世の手の感触にドキドキしながらも、役に立てたことは素直に嬉しい。しかし全員助けると言った晴明の言葉自体はウソでもなんでもない。晴明は常に最悪を考えて行動している。もちろん世界中の人が助けられるなんて考えているわけではない。せめて自分の周囲にいる人達くらいは助けられるようにと準備に余念がないのだ。
後ろでニヤニヤしている気配を感じて相変わらずウザさを感じるのだが、今は左手にある熱をしっかり感じようと思う晴明であった。
羽田に着くと国際線ターミナルと国内線ターミナルの移動をしてから昼食を取る事にする。
「ラウンジなんて初めて入った〜!出張サイコー!!」
隣で小学生以上にはしゃぐ大人がいるのを無視して友世と列に並ぶ事にした。
「わたしテレビでカレーが美味しいって言ってたのを聞いたんだよね!後はオムレツとかもその場で焼きたてプルプルなんだって!」
色々な食べ物が並んでいて、さすがに全種類食べるのは無理そうである。ならばテレビからの付け焼き刃的知識でもありがたい。なぜなら確実に美味しいものが食べられるからだ。しかし、こういうバイキング形式になると好みが分かりやすい。友世は意外と一つ一つを小盛りにして多くの種類を食べるタイプのようで、お皿がどんどんと賑やかになってくる。むしろお皿ごと提供されるものがあり、乗り切らなくなってきていた。対して晴明はというと、お気に入りのものをガッツリと取るタイプであり、お盆に乗り切らなければ一度テーブルに行って置いてからまた取りに行くのだ。2人とも最初に全てを取ってからゆっくりと座って食べたいというところは同じらしい。
「「いただきます!」」
2人揃って食べ始める。三浦はというと、バーカウンターのようなところで昼間から飲んでいる。
(隊長が見たら減給もんだろ、あれは。)
晴明は完全に三浦を反面教師のような大人として認識している。
「晴明くんはサラダとかちゃんと食べるタイプなんだね。」
友世に話しかけられて友世のお盆をみると、サラダこそ無いものの焼き野菜や茹でたブロッコリーなどしっかり取ってきている。
「普通だろ?別に肉も魚も食べてるし、一通りはなんでも食べるぞ!友世だって野菜取ってきてるじゃん!」
「わたしはちゃんと食べる方なんだけどね?メンバーは意外と取らない人が多くてさ、しっかり者の楓だってほとんど食べないんだよ?」
「あの楓が野菜を取らない…だと!?亜希と育美ならぶっちゃけ分かるが。」
1番にバランスを考えて食事をしそうな楓が野菜を取らないのには驚いた。
「むしろ楓が1番食べてないんじゃないかなぁ?亜希も育美もバイキングでサラダは持ってくるよ?一応。その5倍はお肉食べてるけど。」
一応という部分には引っ掛かるが、意識はしているのだろう。仮にもカラダが資本の芸能人である。ライブ中に倒れても困るので食事には気を使ってほしいところだ。
「楓で思い出したけど晴明くん、楓の能力を見つけたんだって?」
先日の一件でのやり取りはもちろん友世にも話は言っているのだろう。別に隠すことでもないから知っていてもおかしくはない。
「楓から相談を受けてさ。総隊長から手紙で指示があっただろ?つい口に出してぼやいてたら聞かれてって感じだったんだよ。…やっぱり聞かれちゃマズかったか?」
晴明はどこか叱責されているような気がしたのだが、友世の返答はむしろ逆だったようだ。
「楓はさ、ずっと悩んでたんだよね。覚醒した時期も早いし、レベルも高いからさ。役に立てないことが辛いって泣いていた時もあったんだよ。それがあの日の夜に電話をくれてさ、晴明くんのお陰で初めて能力が使えたってまた泣いてたんだよ。」
あの日のことは晴明にとって『研究』や『検証』の類であったのだが、そこまで喜んでくれた事がとても嬉しかった。白認定者の力を研究すれば、楓以外にも悩んでいる人の役に立てるかもしれない。そう思うと、早くアメリカで白認定者の人達と会いたくなってくるのであった。
「楓みたいな悩んでいる人たちの役に立てるなら、能力についてもっと研究してみても良いかなって思ったよ。アメリカでも役に立てれば良いんだけど。」
「きっと大丈夫だよ。晴明くんはすでに結果を出したじゃん!全員はムリだとしても、期待以上の成果は出せると思うんだ!だから一緒に頑張ろ!」
そういう友世の顔はキラキラと輝いているようだった。




