楓の能力
貴船の宵宮での騒動もひと段落した頃、アメリカへ出発する準備や打ち合わせが多くなってきた。そんなにも重要なミッションだったのか?と思うほど、綿密なやり取りが続いていた。そのひとつが総隊長直々の指令通知のような手紙である。
その手紙によれば、今回の交流会は両国の若い覚醒者同士の友好的な交流と合わせてもう一つの目的が書かれていた。それは能力検査で白色と判断された能力者と交流し、能力を使えるようにしてあげて欲しいという事である。
(…つまり、アメリカにいる同じ白認定された人と交流しながら能力を使えないか模索しろって事だろ?いや、控えめに言ってムリ!英語に苦手意識がある上に、初対面に人と話すとか絶対ムリだろ〜!)
晴明は陰キャとまでは言わないが、初対面で自分から話題を振るなど不可能なタイプである。転校初日もケイジから話しかけてくれた事で色々と助かったのである。
(ここは相手次第という事で…。)
すでに若干の諦めた気持ちを持ちながら、行く直前に大事な話をしないで欲しいと思い大きなため息を吐くのであった。
しかし白認定者の能力開発の補助とか言うが、日本では一番隊隊長と晴明以外に白認定でハッキリ能力が分かった事例は無い。
(そのお願いはかなり無謀なんじゃねーか?)
と少し疑問に思うのである。
今回そのうちアメリカに直接赴くのは晴明1人であり、隊長が行くとは聞いていない。むしろマナー講座を受けているのは友世と晴明2人だけである。そこから考えられるのはメイン参加者が2人だけだと言うことだろう。
(そう言えばケイジや陸斗含め、他の人の認定色とか聞いたことないなぁ…。いまさら聞けないけど。)
先日迂闊にも日野副隊長に能力を聞いたときのことを思い出し、他の人に能力の話は御法度と晴明の中では決めている。今回は能力を探ると言うことなのでノーカンとしておくが、親しくとも晴明からこの話題を振る事は今後はないだろう。
「せめて他の白認定者で能力が分からない人を紹介してくれて、能力開発の練習相手をしてくれれば〜!」
晴明は声に出てしまっていることすら気が付かないほど、頭を抱えて天を仰いでしまう。すると扉がバン!と開いて楓が入ってきた。
「何を騒いでるの!怪狸さん達との打ち合わせの邪魔をしないでよ!」
事務所に動画チェックをしにきていたらしく、うるさいと怒られてしまった。しかし、急にひとつトーンの下がった声に変わったかと思うと。
「もう少しで打ち合わせ終わるから、お昼に行こ!さっきの話、詳しく聞かせてちょうだい。」
そう言うと編集部屋へと戻っていったのだった。
(さっきの話って白認定者の事か?なんか気になることでもあるのかな…。ってまさか、…ね。)
晴明は誰にも能力について聞いていない(友世は自分で巫女と言ってたけど)ため、もちろん楓がどんな能力者なのか知らないのである。
しばらくして楓が編集部屋から出てきてお昼に行くことにする。
ゆっくり話すならとファミレスがチョイスされ、編集メンバーも一緒の賑やかな一行ができあがっていた。
楓と晴明は怪狸達とは別の座席に座る。もちろん先ほどの話をするためである。
「んで?オレの話の何が知りたいんだ?」
ドリンクバーのコーヒーをすすりながら、同じく問面に座りオレンジジュースを飲む楓に質問してやる。先ほどは勢いはあったものの、ここにきて聞くきっかけを探っているようで、意気消沈気味だったので気を利かせたつもりだ。
「…実はね。さっき白認定者の能力開発って聞こえたからさ。」
「つまり、楓が白認定者ってわけだな?」
「…うん。」
小さくうなずく楓からは、普段の元気な優等生キャラからは想像ができないほど自信を感じられない。
「本当はね。最初第一隊にいたんだよね。小学一年生の秋頃に覚醒者として登録されて、白認定者は高レベル反応が出やすいとは聞いてたんだけど…。」
楓の話していている姿が、どこか申し訳なさそうにしているのが印象的である。
「つまり高レベル覚醒者に認定されたが能力が分からず、そのうちに隊番も下がっていったってことか?楓としては能力が知りたいのか、それとも使えるようになりたいのかどっちなんだ?」
「使えるようになりたい!せっかく力があるのに何の役にも立てないとか嫌だもん。能力開発、手伝ってくれるんでしょ?」
手伝うとは言い難いが、むげにも出来ないため晴明の事情を説明する。楓は晴明が白認定者だったことは知らなかったようすだが、特に驚くそぶりは見せなかった。この反応に違和感を持ったのだが、重要なのはそこではないため今は置いておく事にする。
「何か能力が開花してから変わったこととかないのか?」
とにかく情報が足りないため、楓に質問をしまくる事にしたのだった。
昼食を食べながら質問、デザートを食べながら質問と楓の情報を聞き続けたが決定的なものがない。どうしたものかと考えていたときに、貴船神社でのことを思い出したのだった。
「そういえばこの間の宵宮のときにハッキリと見えてるっぽかったけど、実際はどのくらい見えてたんだ?」
その一言には眉を捻じ曲げるほどに怪訝な顔をしてから答えたのだ。
「どこまでってか、生首が睨みつけながら晴明たちの周りをグルグル回っているのが見えたわよ。ってかこっち見て睨みつけてきたんだから!」
思い出させないで!と言わんばかりの勢いだが、ケイジや陸斗、むしろ日野ですらそこまでは見えていなかったのに、楓は晴明や怪狸と同じものを見ていたということなのだ。何かそこにヒントがあるような気がした晴明は、事務所に帰りがてら近所の児童公園に寄り道をする。
「ここで何をするの?」
楓は不思議そうに晴明を見ている。正直ここは遊具と言えるものは砂場くらいしかないため、近所の小学生すらやってこない公園だ。
「人気がないところじゃないと実験できないからね。楓、このお札を持ってみてくれ。」
晴明は自身が作成したお札を一枚渡すと、同じものを右手の人差し指と中指で挟んで真っ直ぐ手を伸ばした。楓も晴明を真似て構える。
「できるかは分からないから期待はしないで試してほしい。この札は『五行』にまつわる力を使うための札なんだ。オレも初めはお札に助けられた事で『使える!』って分かってから神道や仏経なんか色々試して、一番しっくりきたのが陰陽道だっただけなんだよ。まぁ怪狸のお陰で確信に変わったんだけどね。楓が『見える』ということはきっと何処かにヒントがあると思ったんだ。」
そういうと晴明は軽く札を振って真っ直ぐに伸ばすと。
「水龍招来!急急如律令!」
と、呪文を唱えた。
普段の晴明はすでに無詠唱で発動しているが、初心者であればイメージを持たせる意味でも必要だろう。晴明の呪文により術が発動し、お札から水が流れ出した。楓からすれば手品を見せられているような気持ちになるが、これは手品ではない。
「陰陽術といえど、何もないところから水は出せないんだよ。これは精霊と言えば分かりやすいかな?そういう者に対して自身の霊力を渡す代わりにその力を借りているような状態なんだよ。霊力は使ってもまたしばらくすれば戻るから安心して!足りなければそもそも契約が成り立たないから術が発動できないだけだからその辺も大丈夫だよ。」
それだけ説明して楓にやってみろと促す。楓は少し躊躇いながらも、呪文を唱えながら水をイメージしてもらったのだ。するとお札から水がチョロチョロと出てきたのである
「…できた。…できたできたやったよー!!!晴明できたー!!」
楓は満面の笑顔でぴょんぴょんとその場でジャンプしながらも、水の滴るお札は離さない。今まで悩んでいたことが一気に解消されたのか、食事中も暗かった表情が一気に明るくなったのだ。クルクル回りながら水をまいている様子は、真面目で大人しい楓のイメージからは想像できないほどだ。
「良かったな!とりあえず一歩進んだわけだ。楓の場合はオレに近い力のようだな。やっぱり同じ白認定者ってだけはあるんだろう。神道とか仏経とか色々試して1番しっくりくるものを探してみるといいよ。」
晴明は楓がどういう力が1番発揮できるのかは本人に委ねる事にした。なぜなら能力のキッカケがあれば、後は自分の興味で突き進めるからだ。
「晴明と同じ陰陽道とかじゃないの?」
楓は不思議そうな顔をしてこちらをみている。
「実はオレが初めて使ったお札は神道の物で、それよりも陰陽道術式の方が高いパフォーマンスが得られたからお札も自作で用意しているんだよ。楓も陰陽道系護符で力が使えたけど、もしかすると神道や仏経系の護符とか力の方が扱いやすいかもしれないからね!」
楓はなるほどと納得した様子であったが、約5年もの間悩んでいたことが、この瞬間解消されたのだ。今はしばし喜びを噛み締めて、夏休みの課題にしてもいいだろう。
そう思っていた晴明に楓はひとつ疑問を提示するのだった。
「キリスト教とかイスラム教とか他の宗教もあるけど…それって宗教によって異なるのは何で何だろうね?うちは基本仏壇にお線香あげてるから仏経だと思うんだけど。関係ないってこと?」
その言葉で晴明に、また一つの疑問が生まれたのだった。




