今度はアメリカへ
4月になり晴明たちは小学生最高学年となった。
沖縄から帰ってきてからも晴明は特に変わった事はない。せいぜい大会を観ていただろう周囲が労ってくれたくらいである。それも3ヶ月も過ぎればほとぼりも冷め、穏やかな生活を取り戻していた。
友世は予想通り剣術小町としてテレビにも呼ばれるようになり、動画サイト内でもコラボ依頼が殺到するようになった。これにより、比翼連理はかなり知名度が上がってきたのである。
「晴明〜。お前も忙しいんだから、そろそろ比翼連理のマネージャーみたいなの誰かに譲ったらどうだ?身体持たないだろ。」
そう心配してくれるのは陸斗である。その脇でケイジもうんうんと頷いている。
「陸斗のいう通りだぜ?ここまで有名になってくると、編集マンも2人だけじゃ回らないだろうし、日程調整もお前がやってるようじゃいつか大きなミスに繋がるぞ!」
ケイジにしてはごもっともな意見である。だが、決して大きくもない事務所の仲間になってくれるメンバーなどそうそう見つからない。怪狸も編集者として頑張ってくれているので、無碍にもできないのだ。
「うーん、信頼できる人がいればいつでも雇いたい気持ちはあるんだけど、募集しても面接とか大変だしなぁ。」
晴明としてはメンバー一人一人にマネージャーを付けてあげたい気持ちもある。だが安心して任せられる人とはどういう人なんだろうか。
「なんだなんだ?リーダー抜きで人雇う話とかしてるなんて酷くない?」
晴明を説得する声が聞こえたのか、楓がやってきた。
「そのリーダー的には晴明1人に任せておいて大丈夫なのかよ?」
別に楓としても任せたくてというよりは、今の信頼できる関係を維持したいという気持ちの方が強いのだろう。正直他に誰か適任がいればもちろん採用したいという気持ちはもちろん持っている。この点においては晴明と同意見なのだ。
「誰か信頼できる身内がいれば即採用なんだけどな。怪狸が優秀すぎるせいで同格すら見つからないんだよなぁ。」
晴明は自分の相棒の優秀さに嘆くしかない。しかし小学生が社長のチームに入ってくれる優秀な人物など皆無なのだ。
その場の全員がため息をついていると、育美と亜希が会話に入ってきた。
「さっきから聞いてれば怪狸ちゃんが優秀なら、怪狸ちゃんと同じ式神の中から選抜すれば良いんじゃない?」
育美の一言で急遽放課後にマネージャー選抜作戦を決行することとなったのである。
「第1回、比翼連理マネージャー選抜選手権大会〜!!」
せっかくなので選抜するところを企画として動画に撮ろうということで始まったのだ。裏方を勤めてた怪狸が呼ばれて初めて映る貴重な会ではあるものの、友世は白虎隊関連の仕事と被ってしまい朝から学校を休んでいたので晴明も含めた5人で撮ることになったのだ。
怪狸からのぎこちないあいさつがあった後に、順番に出てくる怪異を観ていき、それぞれ気に入ったメンバーが選んでいくシステムになっている。
「では初めに、エントリーNo.1、ネコ娘さんです!」
怪狸は人型に近い、または人型になれるだけでなく、スケジュール管理もできる頭脳を持ち合わせている怪異をすでに厳選してくれていた。正直いうと収録前に各々がお気に入りの怪異をすでに選んでいて、今撮っているのは出来レースと言うやつである。怪狸厳選はさすがと言う人選!?で、皆優秀であったため、怪狸の補佐で2名、各メンバーのマネージャーとしてそれぞれ1名の計6名が登場することになっている。
ネコ娘は見た目高校生位の美少女であり、頭の後ろで大きなリボンで髪を結っている。実はこれまでも怪狸の補佐として頑張ってくれていた古参でもある。
「ネコ娘さんは得意なこととかありますか?」
すでに決まっているとはいえ、動画を撮ると決めたらしっかりやり遂げるのがこのメンバーである。ちなみにネコ娘は怪狸が編集マンとして欲しいと懇願していて、今まで通り裏方で働いてくれることになっている。
(今度裏方メンバーで動画撮っても面白そうだな。)
晴明は個性的な怪異たちをみて安心すると共に、なぜ今まで気がつかなかったのかと後悔するのであった。
「それじゃあまた観てねー!」
収録が終わり、それぞれのマネージャーが決まった。怪狸の元にはネコ娘と座敷童子が編集組として集まり、楓には玉藻前というキツネの大妖怪が、育美には河童が、亜希には豆狸がそれぞれ個別に付くことになった。河童と豆狸は見た目も可愛くて2人は即断即決で決めていた。
「ではみなさんこれからよろしくお願いしますね!正直河童と豆には少々不安はあるのですが、お二人はお仕事的にも一緒に動くことが多いので大丈夫かと思います。玉藻前は…正直やってくれるとは思っていなかったから驚いてはいるんですが、やる以上はしっかりお願いします。」
怪狸がそれぞれのメンバーに注意を与えていく。さすがは式神統括係である。玉藻前はプライドが高いのだが、楓であれば承ると言ってくれたのだ。怪狸もそこには驚いていたのでやや不安は残るのだが、玉藻前本人がやる気なため任せることにしたのだ。正直、玉藻前とネコ娘以外がみんなちんちくりんなのでマスコット枠なんじゃないかと心配にはなるのだが、怪狸の厳選を信用することにした。
「結局友世に付く怪異だけ決まらなかったね。スケジュール管理とか細かいこと1番苦手なタイプなのに。」
楓が心配しているのも納得である。沖縄から思っていたことではあるのだが、友世は意外とズボラな一面を持つ。まず計画的とは言えない行動が多いのだ。沖縄でも水族館こそ決まっていたが、それ以降は全く何も考えていない上に移動や食事場所なども晴明が全て手配したのだ。大会開催を観に来た人や、年末の帰省などでステーキハウスが多いと言えど実際には数軒予約で一杯と断られている。危なく夕食を食いっぱぐれるところだったというわけだ。そんな人物こそ個人マネージャーが必要だろう。だが現在不在であり、怪狸厳選の怪異でも適任がいないらしい。
「…もっといなかった?豆腐小僧とか色々妖怪いるじゃん。人型でスケジュール管理できるなら大丈夫なんだろう?」
晴明は怪狸にほかの人選を聞いてみる。しかし怪狸は首を横に振りながら、一枚の写真を見せてきてこう言ったのだ。
「豆腐小僧も確かに支配下にいますけど、成長して小僧ではなくイケメンに変わってしまっています。晴様は友世さんの隣にいるマネージャーがこの好青年で良いんですか?」
晴明は写真を見てはっきりしっかり答えた。
「却下だ!」
次の日も友世は学校を欠席していた。気にはなったが、白虎隊の業務であるならば守秘義務があるかも知れないので聞くのもためらわれる。
(今晩さりげなく連絡してみようかなぁ。)
晴明が通学用鞄に教科書などを入れていると、通信端末に佐々木事務官から招集が告げられた。ここ最近は特に呼ばれるようなことが無かったので、久しぶりの招集である。とりあえず招集案内に返信を入れて、白虎隊一番隊隊舎に足を運ぶことにした。
佐々木さんがいるのは幼少隊と本隊舎の真ん中に位置する事務室である。着くと応接室に通されてお茶とお茶菓子を出されて少し待たされる。ここまでは招集された時のいつもの流れであったが、ノックの後に入ってきたのは佐々木さんではなく友世だったのだ。
「…えっ!?友世も呼ばれたのか?」
晴明は驚きを隠さずに友世に尋ねると、友世は逆に申し訳なさそうに説明してくれる。
「うーんとね、実際にはわたしは呼ばれたんじゃなくて呼んだ側って感じかなぁ。先に謝っておくと、今回も巻き込んでごめんね。」
友世は両手を合わせて謝っているが、晴明は一体何に巻き込まれたのかがわからないのでどうしようもない。するとそこに佐々木さんがやってきて具体的な説明をしてくれたのだ。
「単刀直入に言うと、晴明くんにはまた出張命令が出たと言うことです。」
「なるほど、そんなことですか。良いです大丈夫ですよ!恐山に沖縄まで行ったんですから、今度はどこですか?京都とかも行ってみたいですね。」
晴明は流れ的に友世との出張ということですでにテンションが上がっている。どこでも行きます!と元気よく返事をしてしまったのだが、その準備が大変だということに後から気がつくこととなったのだ。
「今回はアメリカに行ってもらうことになったんだよ。内容としては向こうの覚醒者との交流会に参加してもらうということだね。時期は夏休み中だから今のうちにパスポートなどを取得しておいて欲しいんだ。パスポート代は経費にはならないので自分で出してもらうことになるんだけど、移動費や宿泊代等は全額出るから安心してくれて大丈夫だよ。」
いきなりの海外で先ほどまでの浮かれようが一気に冷めてしまった。晴明は英語が苦手な事もあり、極度に海外の人との触れ合いに苦手意識を持っているのである。
やや青い顔をしていると、友世が助け舟を出すように話してくれる。
「基本はね!わたしと一緒だし、いつも使ってる端末で翻訳しながらの会話だから大丈夫だよ。」
言葉の壁はさほど無いと言いたげな様子である。ちなみに端末とはクビに引っ掛けている携帯電話のことである。
(なるほど?じゃあ何が友世的にヤバいんだ!?)
晴明的には言葉が一番の問題だったのだが、どうやら友世は違うらしい。
何か言いずらそうにしている友世を他所に、今度は佐々木さんが友世に助け舟を出す。
「まぁね、実は歓迎のパーティーが開かれるんだけど、そこが所謂エスコートが必要な重苦しいものなんだよ。テーブルマナーとかも知らない2人には正直これから放課後に色々と学んで貰うからよろしくね。」
その言葉を話しながらにこりと笑う佐々木さんの目は、全く笑っていなかったのである。隣ではカタカタと震える友世がおり、もしかするとすでにマナー講習をさせられているのかも知れない。しかし、エスコートと聞いたら他の人には任せられない。
「喜んで参加させていただきます。」
晴明は夏までの約2ヶ月間の地獄の特訓を快諾してしまうのだった。




