沖縄でのアディショナルタイムその①
決勝戦は前年度と同じく友世と日野の対決となり、意外とあっさり日野が引いて決着してしまったのだった。
そのせいもあってか、晴明との試合が事実上の決勝戦と言われているのだ。
友世が受けたインタビューでも。
「今大会で1番苦戦した相手は誰でしたか?」
や、
「来年もう一度対戦したい相手は誰ですか?」
など、確実に晴明を答えさせたいだろう質問が用意されている。いやいや、決勝戦の感想とか優勝した感想を聞けよ!っと突っ込みたくもなるのだが、その全てに友世は『晴明くんです!』と答えてしまったので、晴明はホテルから出られなくなってしまったのである。優勝した友世は当たり前だが、晴明は完全にとばっちりであり、友世はあえて道連れを狙ったのだろうか。晴明は部屋で不貞腐れるようにベットに四肢を投げ出す。
「…一緒に沖縄観光しようって言ってたのに…。」
ぶつぶつと一人文句を言っていると、ドアがノックされる音がした。
一体誰だ?取材とかの話はやめてくれよ?っと思ってドアを開けると、そこにはサングラスを頭に付けて大きな麦わら帽子を被った友世が立っていた。
「さあ!観光に行こう!」
「まずは水族館かなぁ。大きいサメがいるんだよね!サメが有名なんだっけ?」
白いワンピースに大きな麦わら帽子とサングラスを付けた友世はご機嫌で晴明の隣を歩いている。友世が持ってきた変装道具を身に付けさせられた晴明は、ご機嫌な少女に物申してみる。
「…その前にさぁ、なんで記者の質問に対して全部オレの名前で答えたんだよ?お陰でメチャクチャ追われるようになったじゃないか!オレは目立ちたくないの!」
晴明が抗議すると、友世はキョトンとして答える。
「だって事実だし、記者の人たちだってそう答えて欲しいってことでしょ?そこでウソ言ったって仕方ないし。」
正論である。今回のことは友世の悪戯心とかではなく、純粋に答えた結果ということなのだろう。じゃあ仕方ない。疑ってごめんと友世に頭を下げておく。
「なら諦めるか。注目の2人がこんなところで歩いているのがバレたら大騒ぎだろうけどな。」
少しイジワル気味で友世をイジってみるが、対する友世はアハハと笑いながら。
「わたしたちを追える記者がいたら、きっとそれは覚醒者か来年の剣術大会優勝候補だね!」
というのであった。
(まあ間違いないな。)
「ちなみに友世さん。この水族館が有名なのはサメがいることじゃないんですよ?」
「…えっ!?じゃあサメの数が多いとか?」
「おしい!世界最大のサメであるジンベイザメが複数入れるほどでかい水槽が有名なのでした!」
「そうなの??ってかそれ魚が珍しい水族館じゃなくて水槽が珍しい水族館ってこと??」
友世との楽しい会話を弾ませながら入り口のジンベイザメのモニュメントの前で写真を撮ると、チケットを買って中へと入場する。
2人は進んだ先にあった例の巨大水槽の大きさに度肝を抜かれながら、見上げるようにジンベイザメに魅入っていた。
「晴明くんはどんな生き物が好きなの?」
水槽を観ながらこちらを一切見ずに友世が質問してくる。
「唐突な質問だなぁ。それはもちろん海洋生物でって事でいいのか?」
その質問に対して友世は少しうーんっと悩んでいる。晴明はその感じも異様に可愛らしく感じてしまう。
「じゃあ質問を変えようぜ!オレの好きな動物と海洋生物はなんでしょうか?」
唐突に始まったクイズに友世はノリノリで答えてくる。
「ピンポーン!」
「はい、友世さん!」
「動物はタヌキで海洋生物はイルカでどうでしょう?」
沖縄に来てすっかり忘れていた相棒を思い出してしまう。
「…怪狸は愛玩動物ではなく式神ですよ?まあタヌキ好きだけどさぁ。」
言われてみれば動物で1番好きなのはと聞かれてなんと答えるかといえば、タヌキかも知れない。晴明はキツネよりならずんぐりとしたタヌキに可愛さを見出している。
「じゃあタヌキは正解だね!じゃあイルカは?」
「…海洋生物ってくくりなら、イルカじゃないよ。正解はね、クラゲ。」
友世は『えっ!?』と驚きながらもジンベイザメから目を離さない。
「なんでクラゲ?刺されたら痛いじゃん!わたし昔海水浴場で泳いでたら刺されて水ぶくれになってから苦手なんだよね。」
まあもっともな意見である。
「海で出会ったらそりゃ厄介ではあるんだけどね。水族館で観るのは好きなんだ。ぷかぷか漂ってるだけの生活ってある意味ですごいしね。ベニクラゲって知ってる?死にそうになったらポリプって幼体に戻ってやり直すんだって。不老不死ってやつだよね。」
クラゲウンチクを披露しただけだったのだが、友世はジンベイザメから目線を晴明に移すと。
「不老不死って憧れるようなものではないんじゃないかな…。」
と寂しそうに言うのが印象的であった。
「じゃあ友世はどんな生き物が好きなんだ?ずいぶんジンベイザメがお気に入りみたいだけど。」
晴明と友世は本館出口にあるお土産コーナーで物色しながら会話を続けている。晴明としては友世の好みを知りたい欲求から質問しているに過ぎないのだ。もちろん会話の流れからもおかしくはないので気持ち悪がられたりしていないか気になるところである。
「わたしはね。ペンギンかなぁ。」
「…こう言っちゃなんだけど、友世は大きい生き物が好きそうだと思ってた。大きいのに抱きついてそうだったわ!」
完全にイメージの押し付けではあるが、多分多くの友世を知る人のイメージはそうなんじゃないだろうか。
「もちろん犬とかならゴールデンレトリバーとか大きいのにもふもふしたいと思うけどね!ペンギンはさ、鳥なのに空が飛べないじゃない。」
「…??そんな生き物沖縄のヤンバルクイナとか他にも色々いるじゃん!でもペンギンなのか?」
晴明の質問は的をいている。家畜化されて飛べなくなったニワトリや、飛ぶ必要がなくなり地面を走り回る鳥など、飛べない鳥は実は結構いるのだ。
「でもさ、他の鳥は飛べないけど脚、速いじゃん!ペンギンって歩くのもテクテクって遅いし、全く進化の過程として上手くいっていないんじゃないかなって思っちゃうでしょ?」
確かにその通りである。故にペンギンは最弱と言っても良いほどに弱くて守りたくなる生き物である。
「…友世は弱い生き物を守りたくなるのか?」
それを聞いて首をふるふると左右に振ると。
「ペンギンは飛べるんだよ!」
そういうと、晴明の手を引いてペンギン舎まで走り出す。急に手を掴まれてドキドキしているが、意外とすぐに着いてしまった。
「みて!ほら飛んでるでしょ?」
そこはペンギンが泳ぐのが見えるのだが、水中では飛ぶようにして泳ぐペンギンの姿があった。
「わたしね、これほど適材適所って言葉が綺麗にハマる光景を見た事なかったんだ。空は飛べないけどさ、ペンギンは水中でなら飛べるんだよ。」
友世はそういうと、カメラ機能を使ってパシャパシャとペンギンを撮り始めた。
「友世が結果ペンギンが好きって事は分かったけど、ペンギンは海洋生物なのか?それとも動物なのか?」
晴明の素朴な疑問に2人で顔を見合わせると笑ってしまったのだった。
あと数日で新年を迎える12月の沖縄はさすがに遊泳禁止ではあるが、足をパシャパシャと海に浸けて歩く事はできる。砂浜で星の砂を拾いながら、せっかくだし海にも入ろうと2人で裸足になる。冷たい水に足首まで入れてその綺麗な海に感動してしまう。青森の海はお世辞にも綺麗とは言い難い。
「友世は石巻出身って聞いたけど、海はどうだった?」
「さては陸斗くんの情報だなぁ?顔は良いのに中身が残念って皆言ってる意味が分かるようだわ。」
どうやら『あのノート』は有名らしい。哀れな男だが、情報屋として重宝している部分はある。男子女子構わず求められれば情報を出す。そんな男だから頼りにもされるが、残念と言われている意味がよく分かるのだ。どちらにしてもどの時代においても情報は命という事である。
「石巻の海もそんなに綺麗ではなかったなぁ…。むしろ漁港って感じで、雨が降る前日は海の匂いがしてきて磯臭いんだよ!」
思い出しながらも笑顔で話すその姿に目を奪われる。
「石巻の方が良かったか?」
あまりの笑顔につい変な質問をしてしまう。
友世はうーん…と少しだけ考えると、こっちを向いてニッと笑いながら。
「石巻も嫌いじゃないし、今でも連絡を取り合うお友達もいるからね。でも、あのまま石巻にいたら今の自分はいなかったわけでしょ?比翼連理もやってないし、晴明くんと沖縄でこうして遊んだりして無かったと思うんだよ。それを考えれば、今が1番幸せだと思うんだよ!」
そう話す友世を、晴明はこっそり写真におさめておくのであった。




