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思考加速のモーメント

「始め!」の合図をされてから、すでに数分が経っただろうか。お互いジリジリと構えながら隙を窺う。晴明は本能的に先に打ち込むことを身体が拒否してしまっている。とにかく友世の隙という隙全てが誘い込まれているようにしか感じないのだ。

(正面に立っているだけなのに汗が止まらない。友世は何を狙っているんだろうか…。)

晴明がどんなに考えてもわかるはずもない。会場はこの状態を固唾を飲んで見守っている。いつまでもこの状態を続けていては先に根を上げるのは間違いなく晴明である。目の前の友世は涼しげに構えているのに対し、晴明は全身から汗が滴ってきている。友世の剣圧をビリビリと肌で感じているだけで消耗している状態なのだ。


(…仕方ない。先に攻めるしかないか。)

意を決して晴明はゆっくりと剣先を上げてから一足飛びで友世の間合いに踏み込むと、牽制のために友世が持つ刀に向けて振り下ろす。

あわよくばそのまま刀を落としてくれないかと考えての先制のはずだったのだ。

……が、次の瞬間打ち込んだはずの晴明の刀は弾かれて真上に打ち上げられていた。

(なっ!?上から打ち下ろした刀が上に??)

晴明は突然のことで一瞬戸惑ってしまったが、友世はもちろんその隙を逃さずに懐に飛び込んでくる。友世が突き出す刀をなんとか柄で受け止めてそのまま後方に下がるのだが、友世も逃がさないとばかりに前進して斬りかかってくる。晴明は後方に下がりながら友世の猛攻を必死で捌く体勢となってしまった。一太刀でも浴びたら一気に飲み込まれて負けるだろう。友世は小さい体を低くかがめ、常に下から攻めてくる。上体を起こされながら回避するのは難しいため、なんとか一度離れたいと考えた晴明は逆に前に出ると友世の上を飛び越えるようにすれ違ったのだ。流石の友世も上を超えて行くのは予想だにしなかった様で、これにより互いに5メートルほど離れることに成功したのだった。


晴明が動いてからその間数秒だろうか。静からの動と目まぐるしい攻防に呆気に取られた観客は息をするのを忘れたように魅入っていた様で、数秒間のラグが生じた後に地鳴りの様な歓声が会場を揺らしたのだ。

(あっぶねー!!マジで一瞬で負けるとこだったよ。打ち込まれたら反撃できる余裕なんて全くないじゃん!)

晴明は額から吹き出るように汗を拭いながら束の間の一息を入れる。友世はいままで相手をしてきた誰よりも強く隙がない。気を抜けば一瞬でやられるだろう。

しかし今の攻防で晴明には一つの違和感が表れる。それは晴明は友世の剣は初見だったはずなのだが、何処かで見覚えを感じていることについてである。一体どこで!?それもつい最近だった気がする。友世とはどう考えても初めて剣を交わすため知っているはずはない。ではいったい何故?晴明は思い出そうと必死に考えながら友世に向かって構え直す。視線の先では目をキラキラさせて楽しそうな知世がいるのであった。


会場にはカンカンと金属がぶつかり合う高い音だけが響いている。試合が始まりすでに10分が過ぎただろうか?もしかすると30分ぐらい経っているのかもしれない。それくらい晴明と友世は互いに刀を交え続けている。しかしそのほとんどが友世の一方的な打ち込みであり、晴明は常に防戦一辺倒なのである。攻めようとしてもすべての攻撃をいなされてしまい、逆に隙が生まれて斬り込まれる。そうなると攻めることができずに防御しかさせてもらえない状態になるというわけである。

(華奢な体格の友世の何処にオレの一撃をいなすだけの力があるんだ?)

友世にどう打ち込んでもすべてが空回りの状態では勝ち筋が見えない。何か有効打となる一打があれば展開も変わると思うのだが、現状は全くと言っていいほど完膚なきまでにやられている状態だ。

「ふふふ、とっても楽しいね!こんなに打ち合いの試合になったのは初めてだよ。でも防いでばっかりじゃ勝てないよ〜」

「打ち合いとは名ばかりで、オレは打たれてばっかりなんですがね。何処からそんな力が出てるのか教えて欲しいくらいだぜ?」

お互いに引かない攻防の中での会話は正直晴明にはキツイのだが、友世の問いかけに無視などできるはずがない。この息が上がって辛い状態ですらも、友世と話していられるなら続いて欲しいとさえ思っている。側から見れば残念なヤツなのだが、ポーカーフェイスでやってのける辺りが他の挑戦者との違いなのかもしれない。

しかし、そろそろ限界が近いのは間違いない。正直足が徐々に動かなくなってきており、身体をさばいて逃げられなくなってきている。なんとか刀で防いではいるが、一撃ももらえないという精神的な緊張感とこの運動量も相まって体全体が重くなってきているのだ。

(そろそろ本当に限界が近い。なんとか一矢報いる一手が欲しい。)

晴明は受けながらも虎視眈々とチャンスをうかがう。だが逆に足がもつれたところを友世に狙われてしまったのだ。

(ヤバッ!)

前のめりにつまずくように身体が出てしまい、友世はすかさず下から横に払いにきたのだ。慌てて晴明は刀で防御をしたことで、友世の打ち込みに対して体重が乗った防御姿勢となったのである。普通であれば完全に晴明は次の一手が遅れるため負け確定な状態なのだが、刀がぶつかった後に友世の身体が後ろに飛んでいったのである。それは完全にトラックと軽自動車の正面衝突のような弾かれかたであった。

「キャッ!」

この試合で初めてみる友世のリアクションに、晴明は初めて勝ち筋を見出すことに成功する。それは友世が打ち込んできたタイミングで体重をかけた一撃を出せば、軽い身体は背後へと投げ出されることになり隙が生まれるのだ。しかしカウンター攻撃とは諸刃の剣である。失敗すればそれは自分へと返ってくる事にもなるからだ。

(今のでオレが気づいたということは、友世も気づいたということ……。でももうこれしか可能性はない!)

晴明は次の一撃に全てを賭ける覚悟が決まったのだった。


友世は今の攻防のおかげでおいそれと攻めることができなくなったのだ。晴明からすれば元々いなされて隙ができるため自分からは攻められないでいる。ジリジリと緊迫した時間だけが過ぎて行くのだ。

そんな中、先に動いたのは友世であった。下段で構えられた状態からいままでと同じ超低空姿勢からの攻めを行ってきたのだ。チャンピオンとしての意地なのか、決して攻め手を変えることはないという表れなのか。もちろん晴明はお情けとはいえ、もらったチャンスを逃さないように仕掛けるだけである。

友世の左からの斬り込みに対し体を反転して受ける。どの方向にも力を入れなければいなされる事などないのだ。あとはひたすらチャンスが来るまで壁の如くただ斬撃を受け続ける。友世も真っ向から力を加えないように仕掛けることに気をつけながら素早く打ち込んでいく。簡単に言うがそのスピードは凄まじく、観客は一瞬で決まる可能性がある展開を逃さないようにと瞬きすら躊躇するほどである。それだけこの2人が高いレベルで試合を行なっていると言うことでもあり、この大会始まって以来の名勝負が繰り広げられているのだ。

すでに汗だくの2人の熱気に、沖縄とはいえ冬の競技会場全体が熱くなっているようだった。

(仕掛けるならここか?)

晴明は徐々に息が切れつつある友世の状態から打って出る。打って出ると言っても、出るのではなく引いたのだ。そこに壁があると思って手を付いたら無かったと考えれば分かりやすいだろうか。打ちつけたはずが手応えもなく流されて行く。これにより友世は踏み込み過ぎてしまったのだ。

慌てて反転して刀を出すが、そこには友世と正対した晴明がいる。そのまま体重を乗せて身体ごと弾いたのである。まさに計画通りであり、友世の上体が反るように飛んでいく。この瞬間を逃さないように晴明は踏み込んで攻めに入ったのだ。

上段から振り下ろした瞬間であった。晴明は背筋にヒヤリとした悪寒を感じ、友世の顔をよく見ると、しっかりとこちらを確認しながらニヤリとしている。

(上手く行き過ぎだとは思ったんだよな…。天才ってこんなこともできるのかって思っちゃうよね〜)

そう思っているうちに友世と晴明の身体が入れ替わり、晴明は背中から床に叩きつけられたのだ。そして目線の先には会場の照明で溢れる天井ではなく、汗によってキラキラと髪が輝く天使の微笑みがあり、首に刀を当てているのであった。


「勝負あり!勝者、沖田!」

会場からはまたしても地鳴りのような歓声が聞こえてきた。

晴明は負けたことよりも、目の前の光景に心を奪われてしばらく動けないでいたのだが、友世に手を差し出されてようやく起き上がったのだ。

(もうしばらく上に乗っててくれてもよかったのに…。)

晴明はそんな思いからか、最後の挨拶の場でつい正直な宣言をしてしまうのだった。

「来年も今と同じ景色が見たい。だからもう一度対戦して欲しい!」

友世は満面の笑みで応える。そして気づく。

「…ってそれ来年も負けてない?」

会場は笑いに包まれたのだった。

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