謝罪の難しさ
「今回初出場で勝ち上がりシードを決めました、白虎隊一番隊の蒼井晴明くんに来てもらっています。今の気持ちを率直に教えてくれますか?」
会場を出ようとしたところでいきなり女性アナウンサーにマイクを向けられたこともあり、少し狼狽えながらもこほんっと小さい咳払いをしてから。
「こっ、ここまでは特に苦戦もなく勝ち上げれました。とりあえず約束は果たせたので、明日も負けないように頑張ります!」
というひと言を、声が上擦りながら話すのがやっとであった。そもそも晴明は目立つことがあまり好きではない。比翼連理を手伝っているときも、目立たないように後ろでベースを弾いている。急にインタビューを求められても気の利いた一言など不可能なのだ。
「今約束と仰いましたが、それは誰との約束なのですか?」
そのひと言で余計なことを言ってしまったと後悔するが、冷静さを欠いている状態ではうまく回避する事はできずに正直に言ってしまい、またしても後悔するのであった。
「完全に優勝候補に祭り上げられちゃったよ…。」
控室に戻ってきた晴明は項垂れている。インタビューなどしたことがない人物が不意打ちで答えれば、正直こんなものである。
「友世ちゃんの名前出したのは完全に失敗だったねwww」
三浦が腹を抱えて笑っている。晴明はあまり自分のことについては何を言われても怒らないのだが、三浦にだけはふつふつと怒りが湧いてきた。
「まあどちらにしても明日当たるんだから気にしてても仕方ないでしょ!早く帰ってゆっくり休んで忘れたほうがいいよ。」
日野が気を使ってくれるが、その前にそこにいるおしゃべりクソヤローの口を塞いで欲しいと思う晴明なのであった。
ホテルの部屋に帰り汗を流すためにシャワーを浴びて着替えを済ませる。夕食に向かおうとドアを開けたところ、目の前に友世が立っていたのだった。さすがにビクッと反応してしまったが、もちろん嫌なわけはない。下を向き表情は読めないが、どこか申し訳なさそうにしているのが気になる。
「…と、友世さん?どうされたのですか〜?」
晴明はずっと立ったままの友世に呼びかけてみるが反応がない。だからと言って、ここにこのまま置いて飯を食いにいくわけにもいかない。どうしたもんかと悩んでいると、やっとボソボソと何かを話し始めたのだ。だが声が小さく聞こえない。近くに寄って耳を近づけても聞き取れない。
「友世…?どうしたんだ?話があったんじゃないのか?」
晴明が再度尋ねたことで、やっとはっきりと聞き取れるくらいの大きさで話し始めてくれた。
「…ごめんね。って謝りたくて。注目されるのが苦手だなんて知らなくて。その…平山さんとの試合中もなんか揉めたって聞いて、私が余計な事言ったから揉めたのかなとか、その所為で注目されちゃったのかなとか…さ。明日晴明くんがいつもの調子を出せなかったら私のせいだよね。だからそうならないようにと思ってここに来たんだけど、何て謝ればいいのかも分からないし、どうしたら明日に支障がないようになるかも分からないの。だから…まずはごめんねって謝りたくて。」
友世は普段、あんなに無茶振りをしたりする事はないし、相手をイジったりするような事を言うタイプではない。沖縄に来てからそんな一面が見られて晴明としては知らない友世が見られたと喜んでいたくらいである。だがそれは普段の姿では無かったと言う事だ。この特殊な環境が友世を高揚させて、普段とは違う行動をさせたというわけである。その結果、晴明に迷惑が掛かったと考えて謝罪に来たというわけなのだ。
今にも涙をこぼしそうな友世を見ると、やはり年相応の美少女である。晴明は確かに目立つ事は嫌いだし、メディアが追い掛けて来るとかはマジでやめて頂きたいと思っているが、友世に泣かれるのと天秤にかければどちらが重いかなんて比べる必要など無いほどに決まりきった事である。
「友世。確かにオレは目立つ事は苦手だけど、全部友世の所為だなんて思っちゃいないよ?墓穴を掘ったのはオレだし、キッカケを作ったのは平山さんだろ?友世が謝る必要なんてそもそも無かいんだよ。」
晴明は友世の横にそっと近寄って耳打ちをする。
「あの変態組長に言われてブチギレちゃってボコボコにしちゃったのは、友世に手を出そうとしてたからなのよ。だからアイツがオレにボコボコにされた事だけは友世のせいかな?」
晴明は友世を見てニッと笑う。友世は初めはキョトンとしたが、晴明からイジられたと気が付いてようやく笑顔になったのだった。
その後は友世と夕食を一緒にとることになり、2人でビュッフェ形式のレストランへと進んでいく。笑顔を取り戻した友世と話しながら歩く道は晴明にとって最高のご褒美に思えた。2人で仲良く食べ物を選んでから席に着く流れなど、付き合っている男女に見られてもおかしくないほどにスマートな流れだったのだ。…運悪くあかねに遭遇してしまうまでは。
あかねは姉のさくらと一緒だったのだが、初めは晴明を見つけて手を振ってアピールしてきた。しかし隣に座る友世に気が付いた後に明らかにムッとした様子でこちらにズンズンと向かってきたのだ。そしてにこりと笑顔になると晴明に話しかけてくる。
「こんばんは。…明日対戦するお二人が仲良くお食事とかされるんですね。お2人はどうゆう間柄なんですか?」
何やら怒ってそうな物言いをしてくるあかねに対し、同じくにこりと笑顔を見せながら友世が返す。こちらも笑顔ではあるが少しとげとげとした雰囲気を感じる。
「確かに明日の対戦相手ではあるけれど、その前に同じ隊舎で同じ学校のクラスメイトの間柄ですが食事を一緒にとることに何か問題があるのでしょうか?」
明らかにあかねとの間に見えない火花が散っているように感じたさくらが慌てて割って入ってきた。
「ご、ごめんね友世。晴明くんもびっくりしたよね。あかね!急にどうしたの?いきなりそんなにケンカ腰で突っかかるなんてらしくないでしょ!?」
さくらが妹をなだめようとしているが、あかねはどんどんと不機嫌な顔のなる。友世に対して完全に敵対心を見せている。だが『らしくない』というのはどうだろうか?そもそも初対面だったときに晴明も似たような対応をされたような記憶があるので、姉はもう少し妹を制御しておいて欲しい。だが、あかねは友世と試合があるわけでもないのにいきなり噛み付くのは確かにらしくない。晴明からすれば、話せば分かる妹分と認識している。
「確かにあかね、どうしたんだ?オレ、なんか気に触るようなことしちゃったか?」
晴明のその質問に、あかねは怒りとは違う表情で顔を赤くしてしまい、隣ではさくらが右手をおでこに当てて頭を抱えている。晴明は何をやらかしたのかが理解できないままなのだが、誰が見てもあかねのヤキモチであったことは一目瞭然であろう。鈍い晴明は気が付かずに先ほどの発言をしてしまったというわけである。
晴明はふと横を見て、友世もさくらと同じように頭を抱えているのを確認し、どうやら状況を理解できていないのが自分だけと察してしまう。そして自分の発言が不味かった事に対して謝罪してしまうのであった。この状態では火に油もいいところである。
「…もう良いわよ!好きにすれば良いでしょ!!」
顔をさらに真っ赤にしてあかねはスタスタと食事会場から出て行ってしまった。それを見てさくらがまた頭を抱えるのを見て少し気の毒に感じてしまう。
そしてさくらはひと言謝罪を言うとあかねを追いかけて出ていくのであった。
「…なぁ友世さんや?オレがどんな地雷を踏み抜いちゃったのか聞いても良いかな?」
その晴明の質問に少しため息混じりで。
「鈍チン、バーカってことよ。」
友世から言われてタジタジになってしまうが、そもそも晴明に落ち度はないため追いかけて謝る意味も分からない。少し罪悪感は残るものの、2人は気を取り直して食事を再開するのであった。




