誓い
本戦は順調に消化されているようだ。
時折ケガ人は出るものの、白虎隊の四番隊の隊士を中心に救護活動が迅速に行われているため、今の所は大事には至っていない。
晴明はというと初戦が始まったのが昼頃と遅く、現在は2回戦を待機中である。
(2回戦が終わるとそこから試合間隔が急に短くなっていくんだよなぁ。さっきもう少しご飯食べてけば良かった…。)
小学生らしからぬ落ち着いた性格とはいえ、初戦はそこそこ緊張した。特に待っている間はソワソワしてしまい、『今のうちにご飯を食べておこう!』などと考える余裕もなかった。とはいえさすがは東北チャンピオンである。あっという間の貫禄勝ちを収めたのだ。周囲は東北チャンピオンが小学生という事にも驚いていたが、初戦を観た人からは沖田友世との対戦を望む声が聞こえ始め、さらに注目を集める事になってしまった。
(目立ちたいわけじゃ無いってのに、カメラがこっちを向いて追いかけてくるのがストレスだわぁ…。)
ライブカメラが完全に晴明をロックオンしていて、現在の待機中の姿ですら全国中継されているのだ。この状況にウンザリしていると、友世がコソコソとやってきて耳打ちしてくる。
「…控室あるの、知ってる?」
聞くところによると、各隊ごとに控室があるというのだ。どうやら友世はなかなか控室に現れない晴明を心配して声をかけに来てくれたらしい。しかもお弁当や飲み物もそこに置いてあるという。
「それは…説明あったっけ?」
晴明は友世に尋ねてみると、首を左右にふるふるしている。
(そうだよな!説明がないのが悪い!オレ、悪くない!!)
教えてもらっていなかったわけで、人の話を聞いていないヤツと言うわけではないと思って安堵していると、友世が続けて教えてくれた。
「初めにもらった説明書に書いてあったんだけど、読んで…は、ないよね?」
「無茶苦茶恥ずかしい!」
晴明は顔を手で隠して赤くなるのであった。
2回戦も順調に勝ち上がり、説明書を見ながら控室を探して歩く。説明書をみると、試合会場を境にして東西で白虎隊と新撰組の控室が分かれている。
(…仲良くないのかな?まあオレとしては伍番隊組長様に絡まれたくないから都合はいいけどね。)
持ち場が違うが志は同じだと思うのだが、どうもチームとして別れると敵対心や競争心が芽生えるようである。まあ正直上の人達はそれを見越してあえて別けたのだろう。ライバルがいる方が切磋琢磨して強くなれると言うわけである。
やっと見つけた一番隊控室に入ると、すでに負けたメンバーが出迎えてくれて、お弁当や飲み物を運んできてくれる。どうやら2回戦を勝ち上がったのは晴明と友世、そして日野の3人だけのようである。八戸とむつから来た3名はすでに敗退していて控室の番をしているようだった。控室のテレビには日野の試合が中継されていて、まさにこれから始まるところである。
「日野副隊長も友世ちゃんと一緒で毎年優勝候補と言われているんだよ!」
お茶を淹れてくれた三浦真純三席が教えてくれる。
ちなみに三席とは隊長、副隊長の次に偉いのだ。席次は九席まで存在し、昇格と降格が行われている。末席の九席であれば、晴明のようなスーパールーキーが入ってくると席次を失う可能性がある。つまりはこれもまた競争心が芽生えると言うわけである。席次がもらえると腕章がもらえて付けることができ、給料にも手当が付くため簡単には手放せないのである。三浦は三席という上位の席次を持っているため、そこまでは焦っていないと言うこともあるが、何より晴明の実力を認めているため、もし晴明に三席の座を奪われても納得なのである。
「友世は何処にいったんですか?」
日野は試合中だが、友世の試合はまだのはずである。控室にいると思って来たのだが、どうやらここには居ないようなので気になってしまった。
三浦はその質問に対してニヤニヤしていたが、晴明は気にせず弁当をかき込む。少し年が上の人はいつも似たような態度を取ってくるため、気にしないようになってしまったのである。
「友世ちゃんなら電話がかかって来て何処かに行ったきり帰って来てないわね。」
友世の電話相手が若干気になったのだが、三浦がさらにニヤニヤし始めたので気にするのを辞めて黙々と食べる事にしたのだった。
そして気がつけば日野の試合は目を離した隙に終わってしまっていたのであった。
晴明は3回戦を順調に勝ち上がり、次はいよいよ朝に因縁を付けられた平山である。
勝てば来年からシードとなる戦いを前に、控室にいるメンバーの応援にも熱がこもって来た。
だが当の晴明はコーヒーを淹れてもらってテレビで試合観戦をしている。初めての本戦で、しかもシードとの一戦を前にして緊張するそぶりも見せていない。
「…晴明くんは…その、緊張とかあんまりしないタイプなのかい?」
日野はあまりにも普段通りの晴明の様子に、心配して話しかけてくる。日野には晴明が諦めたように見えているのだ。
「緊張はさすがに初戦の時にはしましたよ。でも試合が始まればあとはやるだけなので。そのあとは別にそこまでは緊張してないですね。慣れちゃうので。」
晴明の返事に日野は驚きながらも、友世の試合以外では初めて観たいと思い始めたのだった。
「晴明くんに何を言っても無駄ですよ!自分のことに関してはかなり鈍いみたいですから。」
三浦が間に入って茶化してくる。ニヤニヤしている顔に少しイラッとしてしまうが、ここで反応するのも癪なので完全スルーを決め込む事にする。
テレビ中継では、晴明の次戦の相手が順当に勝ち上がって来た。息を切らした様子もなく、晴明との試合に万全の状態である。
「昨年、t…沖田さんに負けはしたけど、平山組長は強いよ。何か勝算はあるのかい?」
日野は、落ち着いた表情でテレビを観ていた晴明がどうしても気になるらしい。
晴明はコーヒーを飲み干すと立ち上がると。
「やってみないとわかりませんからね!パワーがあるし、状況判断も上手い。一筋縄では勝てない相手なのは確かですよ。」
作戦もなく相手の良いところを見付けて褒めた後に、控室から試合会場へと向かって行ってしまう。
その様子が日野には何故か自信たっぷりに見えてしまい、先が見えない展開に興奮している事に気がついてつい笑ってしまうのだった。
「いよいよだね!蒼井選手は勝つ自信ありますか?」
試合を終えて控室に向かう途中で会った友世が、すれ違いざまに聞いてくる。
緊張をほぐそうとしてくれているのか、はたまたゲキを飛ばしてくれようとしているのかは定かでは無いのだが、晴明にとってはこんなやり取りができること自体が嬉しいのだ。思えばこの剣術大会に参加して以降、友世との距離が縮まったような気し、心から参加して良かったと思う。
振り返れば去年までは同じ教室にいても挨拶する程度だった。それが楓の一言で比翼連理に関わり、グッと近くなった気がする。そして極め付けはこの剣術大会だ。冗談を言い合えるような仲にまで進展していると実感する。
(友達以上の関係になるにはまだかかるけど、その前にやらなければならないことがある。)
「…と、友世!」
晴明は意を決して友世と向き合う。本人を前にこんな宣言をすれば、自分の想いを知られてしまうんじゃないかと考えて緊張がピークに達し、心臓の鼓動が早い。試合ですら緊張なんてしないのに、この女の子を目の前にするだけでこんなにも緊張する自分に気が付き苦笑いしてしまう。だが晴明はこの夢のような時間を夢として終わらせたくないと思ってしまったのだ。そして新たな目標ができる。『友世に勝つ!』という目標が。
「……どうしたの?珍しく緊張した顔をしてるよ?試合前に変な感じで絡んじゃってごめんね。」
友世は晴明の鬼気迫る表情に、自分の発言がプレッシャーを与えてしまったと考えてしまったようだ。
「違う違う。そうじゃない!!」
晴明は珍しく声を張り、そして友世に一歩近づくと。
「オレはお前に勝ちたい。勝たなければ自分が前に進めないと思ってる。でも正直今のままでは勝てない事も分かっているんだ。でもせっかくのチャンスを前に諦めたくはない。チャンピオンへの挑戦権はオレが必ずもぎ取ってくる。だからクラスメイトとかじゃなく、1人の男としてオレをみてほしい。」
晴明はしっかりと友世の目を見ながらそれだけを伝えると、気合い十分に試合会場に向かって行った。
その一言に、友世はしばらくその場から動けないでいるのであった。
しばらくしてから晴明は気がついてしまう。勢い余って『1人の男として』と発言してしまったため、完全に告白紛いのセリフになってしまった事に…。
(……やっちまったぁぁーーー!!!!)




