シード獲得への障害
大会1日目。
本日はベスト16までを出すため約4試合を行うことになる。晴明は東北予選大会の覇者でもあるため、本日最終戦までは現在のシード選手とは当たらないことになる。トーナメントをみると、予選の決勝戦で勝っておいて良かったと改めて思うのであった。
「シード持ち選手と1回戦から当たるとかお前も災難だよな。」
隣にいる2人組がトーナメントを見ながら話しているのが聞こえてくる。袴の違いから新撰組の代表選手のようだ。
「しかも昨年の覇者で今話題のバンドボーカルだろ?注目されて負けるとか完全に噛ませ犬扱いじゃね?」
言われている選手が可哀想ではあるが、実際はそうなることだろう。ディフェンディングチャンピオンの1回戦の相手に選ばれるということは、出ている選手の中でも予選ギリギリ通過ということになる。
(マジで勝っておいて良かった〜!!)
晴明は改めてトーナメントを見ていく。今日の最終戦で対戦するだろう相手は平山隼人、新撰組五番隊組長である。年齢は晴明と比べ一回りほど違い、剣術面ではパワー型で真逆のタイプだと聞いている。
「今のところは特に気にしてもしょうがないか。そもそも誰が上がってくるかも分からないし、対戦してみないと結局わからないからなぁ。」
恐山で対戦したあの女性隊士は強かった。こちらが打ち込んでも全く先手が取れなかった記憶が蘇る。独学で学んだのか、予選のときにもみたことがない剣術を使っていた。
「みたってわからないでしょ?事前情報があっても途中で負けてて当たらないで終わったりするから、結局来た人を相手にするだけなんだもん。」
話しかけられて振り向くと、友世が立っていた。チャンピオンとして自信があるのか、トーナメントを前に堂々としているように見える。初めからこんなに堂々としていたのかと聞いてみると。
「別に堂々としているつもりはないんだけどなぁ。」
と話すのだから多分最初からなのだろう。
第一シードが目の前にいる!や、比翼連理の友世だ!などと有名人相手に話しかけようかとウロウロしている輩が多いことに気がつき、とりあえず場所を変えることを提案したときである。
「久しぶりだね、友世ちゃん」
そう話しかけて来た人物こそ、新撰組五番隊組長の平山だった。
「今年はベスト4をかけて戦うことになりそうだね。今回は負けないよ!」
平山はゴリラのような太い腕で力こぶを作ってアピールする。剣術は筋力だけではないと思うが、無いよりはもちろんあった方が良い。それよりもこんな筋骨隆々な相手を、この小さい少女が打ち負かしたという事実が信じられないのである。平山との体格差は晴明と比べても熊とタヌキほどに違い、友世に至って熊VSうさぎという状態だろう。
それだけでは無い。昨年対戦しただけの相手に対しては随分と馴れ馴れしい。話しかけ方もさることながら、目線も顔以外をジロジロと見ているようにも見える。極め付けはニヤニヤしていて気持ちが悪いのだ。これ以上友世に近づくようであれば晴明は自分が前に出てブロックに行こうと考えていたのだが、友世はとんでも無いひと言を言い放ったのである。
「どちら様か存じませんが、それはここにいる晴明くんを倒してからのことですよね?晴明くんは一番隊のスーパールーキーであり、白虎隊の隊長からも信頼される実力者ですから。そんな状態では足元をすくわれちゃいますよ?」
(…友世さん!?私の代わりに喧嘩を吹っ掛けるのはやめてもらえませんかね???)
完全に間に挟まれた状態になった晴明に、平山はにっこりと微笑みながら挨拶をしてくるのだが、その声からは確実に苛立ちを感じる。さらに出てくる言葉は少しトゲトゲしい物であった。
「それはすまなかったね。君はどうやって隊長に取り入ってもらったのかな?そんな大物を見落としていたなんて確かにうっかりしていたようだよ。」
いやいやいや、絶対にそんなこと思ってもいないでしょ!っとツッコミを入れたくなったが、ここで何か発言するのは火に油だろう。晴明は友世に目で『なんで煽った!?』と訴える。その訴えに対して平山の影で『てへっ』とぼけた顔をする友世を観て、なんでも許してしまう。
(なんと可愛い生き物なのだろうか?持ち帰りたい!)
完全にデレデレ状態になり始めたところで平山が再度話しかけてくる。
「きみきみ?なんかぼくのこと無視していませんか?こう見えて新撰組の五番隊組長を任されているんですけど?」
友世に対して犯罪者的な思考が芽生え始めた晴明だったが、一瞬のうちに平山に連れ戻されてしまった。
そんなことは言われなくとも知っている。晴明だって友世と当たるまでの道筋は確認済みであり、本日最終戦の相手になる可能性No. 1としてチェック済みなのだ。ただし顔までは知らなかったので、目の前の人物が平山隼人ということに今気がついたのである。
「トーナメントを確認していたのでもちろん新撰組五番隊組長さんのことはもちろん知っていますよ!ただお会いしたことがなかったため顔までは存じておりませんでした。本日はよろしくお願いします。」
晴明は丁寧に挨拶をしたつもりだったのだが、平山は自分お顔を知らないと言われたことを煽りと受け取り、さらに口撃されることになってしまった。
もはや嫌味のオンパレードで、そこで初めて晴明は平山の地雷を踏み抜いたことに気がついたのだった。
平山は言うなればイケメン枠でも無い上に実績でもパッとしないため、新撰組でも知名度は低いのである。しかし、この剣術大会だけはシード権を獲得していて自信を持っていたというわけだ。そんなプライドを知らずに踏みつけてパキッと折ってしまったワケである。
(やっちまったなぁ…話振りからうすうす気付いてたけど超絶メンドクサイ相手だじゃん…。流石に友世さんといえどもゆるせまs…!?)
友世を恨み節で睨みつけようとしたとき、スススッと横に来て耳元で『ごめんね』っと言って両手を合わせて来たのである。
「はい許します!なんでもオッケー!筋肉ダルマに嫌味を言われても今の顔を見たら怒れません。なんなら友世を困らせるヤツなんてオレがボコボコにしてやりますよ!!!!」
そして気がついてしまうのだった。友世に興奮しすぎたあまりに心の声がダダ漏れになっていたことに…。目の前で友世が下を向いた状態で、笑いを堪えられずに呼吸も忘れて笑っている。晴明はヤっちまったことに気がつき恐る恐る平山をみると、友世とは真逆に耳まで真っ赤にして頭の頂点から湯気が見えるような状態である。
(完全に浮かれすぎたあああ!謝罪!謝罪しなきゃー!!)
慌てて頭を下げようとしたときである。周囲がざわ付き始め、口々に挨拶する声が聞こえる。そしてどんどん近づいてくるのだ。なんだ?なんだ?と周囲も気にし始めたときである。
「やあやあ、今年も盛り上がってるね。友世ちゃん、今年も期待しているよ!」
急に声をかけてきたのは、60歳は超えているであろうスーツ姿のダンディーな男である。その姿を見てブチ切れ寸前だった平山がピシッとした姿勢で立ち始めた。どこかで見たことがある人だなと考えながら、友世が挨拶をしているのをみていて思い出す。この人物こそ内閣副総理であり、新撰組と白虎隊の総軍隊長の日江島晋である。白虎隊と新撰組の隊長任命権を持ち、白虎隊総隊長や新撰組総組長への命令権を持つ人物こそ日江島なのだ。
「怪我をしないように気をつけて頑張ってね。」
友世の肩をポンポンと叩き、今度は晴明の方をみると歩み寄ってくる。
「君が蒼井晴明くんだね。この間の下北での件はお手柄だったよ。報告書を読んだときはすぐにでも激励に来たかったのだが時間がなくてこの場になってしまった。良くやってくれた。ありがとう!」
日江島が握手を求めて手を差し伸べてきたため同じく手を出すと、周囲からフラッシュの嵐に見舞われる。
「目線こちらにお願いします!」
とカメラマンが何枚もバシャバシャと写真を撮っていく。晴明はまだ理解していないが、恐山での一件は晴明の活躍により終結したということを総軍隊長の口から言及され、この瞬間救国のヒーローとして紹介されたようなものなのだ。
「この功労は追って必ず。今回の大会も頑張ってね!」
そう言うと、友世にしたように肩をポンポンと叩いてからまた颯爽と歩き去っていった。
「よかったね!名前を覚えてもらえてて。さすが今注目のルーキーだね!」
友世が晴明にそう言って囃し立ててくる。晴明としては全く目立ちたいわけでもなく、手柄が欲しいわけでも無いので覚えられても困るのだが、記者の何人かは友世とのツーショットすらも撮っている。その写真は欲しいが、目立たせるのは勘弁して欲しい。
そんなやり取りですっかり忘れていたが、近くにいても一言も声を掛けてもらえず大恥をかかされたのが平山であった。もう怒りが頂点に達して身体がプルプルと震えている。顔もゴリラから赤くなりすぎてニホンザルもびっくりの状態になっている。しかしここで揉め事を起こすわけにはいかず、振り上げたそうな拳をグッと握り込めながら晴明の脇を通り過ぎる時に一言こう言って去っていったのであった。
「絶対にここまで上がって来い。上下関係をキッチリと教えてやる。」
(………ボスザルコワイ。)




