いざ沖縄へ!
恐山の一件が終わり帰ってきたと思ったのも束の間、今度はすぐに沖縄に向かう事になる。学校に行けたのもたった二日間であり、結局また金土日と青森を離れることになる。ハードスケジュールで疲れを隠せない晴明であったが、今回は友世と一緒に遠征ということもあり気分は上々なのであった。ちなみに付いていきたいと言っていた怪狸にはお留守番をお願いしておいた。友世とのデートを邪魔されるわけにはいかない。お土産はしっかり買ってくるから許して欲しい。
行きの飛行機に搭乗するため青森空港に向かう。流石に二人きりという事はなく、日野副隊長と3人での参加である。青森県内の本戦参加者のうち半分が弘前支部ということを考えるとやはりレベルの高さを痛感する。普通は各隊舎1名出られれば上々なのだ。ちなみに日野、友世はシード持ちなので予選には参加していない。
「晴明くんはお弁当食べるかい?」
いつものようにひどく気を使われている感じがするが、今回は日野副隊長の引率による修学旅行みたいなものである。交通費や宿泊代、3食のご飯に至るまで白虎隊の経費なのだ。
「…税金ということを考えると本当に食べていいのか怖くなりますね。」
晴明は小学生であるもののすでに白虎隊一番隊の隊士であり、公務員なのである。経費と言われてもよく分からないため、奢られている感覚になってしまう。そのためご飯くらいは自分で出す方がいいのではないかと逆に気を遣ってしまい美味しく食べられないのだ。すると友世が答えてくれる。
「今回の大会からはスポンサーと中継費用も入ってくるから、実は収益的にはプラスらしいよ?戦いもしないお偉いさんのロビー活動場の費用になるくらいなら、私たちが美味しく頂いた方がずっと健全でしょ!」
なんだかそう言われると勿体無い気がしてきた。自分が稼いだお金を誰か違う人が使っているような感覚である。知らない人のパーティー代金になるくらいなら、お弁当の一つや二つかわいいものだろう。
「じゃあお言葉に甘えて、1番高いものでお願いします!」
その一言に友世は満面の笑みを見せてくれるのだった。
飛行機を乗り継ぎやっと那覇空港に到着する。青森の気温が氷点下だったのに、沖縄は12月でも20度を越えている。暑いためカバンにコートを急いで仕舞い込み、腕まくりをする事になった。
「こんなに暑くても海には入れない時期だから旅費も意外と安いんだよ。ホテルも美ら海水族館に徒歩で行けるほどの距離で、目の前がオーシャンビューだからね!晴明くんは沖縄は初めてかい?」
日野がホテルの説明をしてくれるが、東日本を出たことすらなかった晴明には刺激が強いようで、キョロキョロと周りを見ている。完全にお上りさんの典型的な行動である。沖縄に上るとは言わないと思うが…。
「美ら海水族館てでかいサメがいるやつですよね!海も、内陸に住んでるとあんまりいかないから新鮮です!!」
珍しくテンションが高い晴明に移動の車内はにこやかである。青森県は広いため、海に囲まれているからみんな海で遊んでいると思われがちだが、交通の利便があまり良くないこともあり、内陸弘前では海は珍しい方なのである。
大会会場も下見がてら一度見に行く。さすがは本大会というほど、予選の時よりも機材が多く驚かされる。世間の覚醒者に対する興味や関心が恐山の一件でかなり高まっているため、本戦出場者がまるで芸能人のような扱いを受けているようだ。しかしそんな中、本物の芸能人が隣にいる。優勝候補でもあり、記者はすでに沖縄入りをしていると聞きつけて現在血眼になって探しているというわけである。もちろん捕まればインタビューなどでなかなか出られなくなってしまう。変装してこっそりと裏口から入るのはもちろんだが、陰陽術でフォローしておくのも忘れない。
実はこうなったのは亜希のせいである。
比翼連理である歌番組に出演した際に、友世の特技として亜希が『剣術』と言ってしまったのである。小さいボーカルの意外な特技に食いつかないわけもなく、この剣術大会で連覇中であることを話さざる終えなくなったというわけだ。おかげでメディアは放映権を争い、スポンサーも付きとトントンと話が大きくなったわけである。さらに先日の事件も重なったため、国内の大会なのにオリンピックかというような盛り上がりを見せている。
当の友世はというと緊張は特にないようだが、注目度が上がったことでやや恥ずかしそうであった。
「比翼連理もこの一年でめちゃくちゃ有名になったね。ネット動画のMVからスタートして今じゃテレビでも歌うようになったしさ!」
そういうと友世は急に晴明の方を向く。
「こんな風に注目されるようになったのも晴明くんと怪狸さんのおかげだよ。晴明くんは名アドバイザーだね!お願いしてみて本当に良かった。怪狸さんとは…うまく時間が合わなくて直接会えてないけど、動画編集を手伝ってもらったり感謝してもしきれないよ。」
その一言で寝不足になりながらも頑張った甲斐があったというものである。怪狸にもお土産を予定よりも追加しておこうと思う。
「そういえば怪狸とはまだ会ったことないんだっけ?事務所に結構入り浸ってるんだけど。」
事務所として借りた部屋を編集部屋として使っている。防音処理を施したガレージも付いていたため、バンド練習にはもってこいのため即決だった。ちなみに名義は五十嵐楓パパさんである。そこに日中は怪狸が編集のために缶詰になっているというわけだ。まあ土日など休みのときでなければ怪狸と比翼連理のメンバーが一緒になることは少ないだろう。特にリーダーの楓と一緒に編集チェックなどの仕事をすることが多いため、友世と会えていなくとも支障がないというわけなのだ。
「それなら今度会ってやってよ!今回置いて行かれてちょっと拗ねてるからさ。」
晴明は比翼連理の影の功労者である怪狸が自分以外でも外に遊びに行けるようになればいいと思っている。だがメンバーそれぞれが忙しいため結果1人でずっと編集しているのである。不健康だと思うのだが、野生のタヌキも意外と穴暮らしのため普通なのかもしれない。しかし、せっかく人型の姿を手に入れたのであれば、楽しんで欲しいと思ってしまうのであった。
…今回置いて行かれたのは晴明の所為なのだが…。
夕ご飯を食べて部屋に戻ってお風呂に入る。
風呂上がりに冷蔵庫から水のペットボトルを取り出して飲みながら、ふと気がついてしまう。なんとなくテレビを付けっぱにしてお風呂に入っていたのだが、理由は単純だった。1人部屋だがベットが2つもあり、なんとなく寂しいと感じてしまったからだ。いつもなら怪狸が甲斐甲斐しく世話をしてくれるが、今回はお留守番をしている。いるのが当たり前になりすぎて寂しいと感じるようになってしまった。
(意外といるだけでも頼もしい相方なんだな。)
ベランダに出て空を見上げながら、遠い青森の地にいる怪狸を思うと、もう少し優しくしてやろうと考えてしまう。別に冷たくしているわけではないのだが、今回置いてきたことを今さら後悔してしまうのだ。
改めて怪狸の存在に感謝しているとインターホンが鳴った。
時間は夜8時半を過ぎたあたりである。小学生の部屋を訪れるにはやや遅い時間だ。
「…どなたでしょうか?」
無視をするわけにも行かずにドア越しで対応する。すると意外な声が聞こえてきた。
「久しぶりね!まさかもう寝てたとか言わないでしょ?」
箭内あかねがにこりと微笑みながら立っていた。格好はTシャツにショートパンツと仙台で会った時とは比べ物にならないほどラフな格好だ。髪型こそ変わっていないものの、雰囲気が一変していて初めは誰だか分からないほどであった。
「あかね、訪ねてくるには少し時間が遅いんじゃないか?」
薄着の女子が寝床に訪ねてくるなんておねーちゃんが許してくれなさそうなのだが、さくら隊長には許可をとったのだろうか。
「せっかく訪ねてきたのに先に文句が出るなんて酷くない!?」
あかねがぷりぷりと怒っているが、いつものことなので華麗にスルーする。いくら相手が年下の小学4年生だからと言っても、男子の1人部屋に入れるほど無粋な対応はできないため、下のロビーにある喫茶店に行くことにした。
「恐山で怪我したって聞いたけど、大丈夫なのか?いくらおねーちゃんが治療したって言ってもお腹貫通してたって聞いたし。」
どうやらあかねは見舞いに来てくれたらしい。そもそも治ってなければ大会に出れないしここにいない。だが、あかねは晴明のことをかなり心配したようである。それについては晴明も真摯に受け止めてお礼を言っておく。あかねは照れたように顔を赤くして。
「別に心配なんかしてないし?お腹に穴開いたって聞いたから見に来ただけだし?」
と分かりやすいほどツンデレちゃんである。
なんだか面白いようにキョドルあかねに笑ってしまい、それに対してまたぷりぷり怒るのだった。
しばらく他愛のない会話をしていたが、時間も経ってお店の閉店時間になった。
「明日から大会だからそろそろ戻らないと。あかねもしっかり寝て明日は応援よろしくな!」
目を擦り始めているあかねだったが、その一言でスッと立つと一歩近づいて上を見上げるようにしてこちらを見た。晴明は最近身長がみるみる大きくなり、すでに160センチを超えている。対してあかねはこれから伸びる時期であり、現在は30センチほど差があるため首が辛そうだ。だがしっかり晴明を見て宣戦布告をしたのだ。
「わたしがまだまだ実力不足だったのはこの間の予選会で痛感したわ。だから来年に向けて一からやり直そうと思って訓練を始めたの。…だから…ね?その…あの…。」
なんだか歯切れが悪い。下を向いてごにょごにょと何かをつぶやいている。
「どうしたあかね?言いたくないことは無理して言わなくていいんだぞ?」
そういうとあかねはもう一度上を向いて声高らかに続きを宣言し始める。
「来年こそはあなたに勝って見せるんだから!だからあなたは絶対に本戦のシードを勝ち取って来て!わたしの目標が予選選手とかあり得ないでしょ!!」
顔を真っ赤にして一気に話した後、走って帰っていってしまったのだった。
晴明は覗き込んだ瞬間に頭を上げられたことで鼻を強打し、しばらく悶絶するのであった。




