仮封印完了
次の日、旅館から出た晴明一向は穴封印のためにもう一度恐山へと向かう事になった。今回は船ではなく車で向かう。
「元リーゼントさんも昨日はお礼も言えずに申し訳ありませんでした。ミキさんも晴さまの治療ありがとうございました!」
怪狸が丁寧に挨拶しているのだが、一人知らないヤツがいる。
「…この人は…誰!?」
晴明は金髪坊主を指を指して怪狸に聞く。怪狸も悪びれもせずに。
「元リーゼントさんです!」
というのだ。
「お前ら…絶対バカにしてんだろーー!!帰ったら前髪がなくなってたんだから仕方ねーだろ!そんでもって『リーゼント、リーゼント』ってずっと呼んでんじゃねー!俺は古郡和樹って名前があるんだよ!」
昨日天狗に切られたせいで、坊主にせざる終えなかったらしい。
(そして改めまして古郡さん!)
隣でミキが楽しそうにクスクスと笑っている。
今日は穴からモンスターが出てきても晴明一向は戦闘はしない。周囲には護衛がついており、穴の封印をするためだけに呼ばれているのである。前日に金物関係者を招集して焼印を作ってもらう事になったのだが、流石に1日で完成は不可能である。よって今日は晴明の自前の護符で応急処置を行い、年をまたいでから完成した木札で再封印を行う事になったのだ。
「しかしよ?あんなちっこい穴?からあんなバカでけーサメみたいな生き物が出てくるのか?しかも湖までは結構距離もあんぜ?」
たしかにそこについては疑問ではある。前からあの湖にいたという事はないだろう。つまり穴が開いてからやってきたということになる。あの大きさを考えるとたしかにサイズは合わなさすぎなのだ。すると怪狸が会話に参加してくる。
「その事なんですけど、実は私が見たときに牛の頭を持つ人型の大きい怪異が出てきたのですが、ゲートがそのときは拡がっていたように見えたのです。あの穴には入口の大きさとかは関係ないのかも知れません。」
たしかにそれなら大きさについての説明がつく。
「じゃあもしかしてほっといたらデカくなるって話は違うって事なんかな?」
古郡は時間が経つと大きくなって強いモンスターが現れると言われた事に言及し始める。確かに怪狸が初めにそのような話も補足で話していたような気がする。手遅れになる前に封印が必要だと言っていた。
みんなに一斉に見つめられて怪狸は少し焦った様子であったが、少し咳払いをしてから。
「わたしが話した話は一千年前にドウジさまがわたしに託した遺言みたいなものなので、文句は過去に戻って伝えてください!」
完全に責任転嫁である。だが、その話が本当ならそれはもちろん大変だったはずであり、早急に動いておいて正解だった気がする。
「まあいまさら放置して実験するわけにもいかないし、とにかく封印しちまえば良いんだから穴の大きさは置いとこうぜ!」
怪狸に助け舟を出しておく。これ以上責められると泣きそうだからだ。
「じゃあ湖にデカいサメがいたのはなんでだ?」
それは確かに疑問ではあったが、距離を考えれば誰かが故意に移動したという事なのだろう。そして故意に移動した人物は天狗たちの中の誰かなのであろうという事で話は終わったのである。
寺側には許可をとってから立札に護符を貼り付けていき、五芒星状に結んだ後に札へ力を通しながら結界を完成させる。とりあえずは大丈夫なはずだ。
「今回はお疲れ様。今度は雪が解けてからもう一度完成した木札でお願いする事になるからよろしくね。」
日野副隊長に声をかけられた晴明はぺこりと頭を下げて応える。
「怪狸さんもありがとう。キミがいなければもっと大きな問題になっていたかもしれない。助かったよ。」
怪狸も同じくぺこりと頭を下げて対応する。
しかし問題は山積みだろう。中でもこれからの白虎隊と新撰組の運営については人事を含めても大きく変わる事になるかもしれない。今までは暴走した人を助けるための役割が一般的だったが、今回初めてモンスターの討伐を行うという状況が起きたのである。
世間でも関心が持たれていて、連日恐山にドローンを飛ばして撮った映像を使ってニュースが放映されているし、記者が白虎隊の隊士を追いかけまわしてインタビューしようと頑張っているようだ。もちろん箝口令が敷かれているため話す隊士はいない……はずである。にもかかわらず、未知のモンスターの話はすでに広まっており、メディアは躍起になって探しているというわけだ。生物研究の観点でもかなり注目されており、討伐した個体は東北大学まで運ばれていった。もちろんあのサメもどきもである。
昨日のニュースではモンスターを運んできたトラックが大学に入るところを中継していた。すごい情報網だと感心するが、逆に白虎隊隊士になれば、そんなモンスターと戦わなければならないという事であり、隊士の家族はさぞ心配している事だろう。
晴明としては、そんなモンスターや自分の置かれた状況よりも、今一番関心があるのは自分の隊の隊長の事であり、怪狸から言われた『一番隊隊長=アリス』という説を確かめたくて仕方がないのだ。
「副隊長質問です!一番隊隊長が昨日自分の班にいたのは何故なんですか?」
晴明としては、もっと踏み込んだ質問をしたかったのだが、きっと答えてはもらえないだろう。ならば、隊長の意図が知りたい。なんで近くにいてもこちらに正体を明かさないのかを。
「…実はね、昨日キミの隊に入るはずだった隊士と隊長がわたしにも内緒でこっそりと交換していたんだよ。キミと直接会っていたことを知ったのは、全てが終わった後だったんだよ。」
なんともお粗末な話だ。そりゃ班内に裏切り者が入っていても気が付かないわけだ。
「…ちなみに本来隊長はその時間何をする予定だったんですか?」
今の話が本当であれば、隊長は自分の仕事を放っぽり出して自ら前線に乗り込んできたというわけである。言い方を悪くすれば『自分の仕事をサボって』という事だ。
日野副隊長は頭をガシガシとしながら、大きいため息を吐き。
「今回の件であがってきた報告をまとめる係かなぁ…。前線に出て良いなんて許可を取ってもなければ聞いてすらもいないんだよ。こっちは帰ってから報告書を作るときなんて書けば良いか…。」
それはなんとも…ご愁傷さまです。
どうやら自由奔放な人物であるということは分かった。
「隊長は年齢が若いからその辺り緩いってことで許してもらえたりするんじゃないですかね?」
晴明はワザと自分の知らない『年齢』について知っている程で話した。否定されれば見た目から推察したということで誤魔化すしかない。否定されなければイコールそれは肯定となるのである。
そのとき一瞬時間が止まったかのような感覚を受けたが、日野はひと呼吸置いてから何事もなかったかのように話す。
「まあ直接会ったのなら年齢くらいは気がつくよね。誰かまでは教えてもらえなかったんだろ?晴明くんを見ていれば知りたくてウズウズしているのが分かるよ。」
さすがに一筋縄ではいかないようだ。心理戦では日野副隊長の方が上手であったと痛感する。だが年齢がかなり若いということは分かった。もしかすると自分とタメか、年下の可能性すらあるんじゃないか?という発言である。
(でも待てよ?もし隊長がアリスというなら、年齢はかなり上という事になるんじゃないか?ということはやっぱり怪狸の予想はハズレているという事になるけど…。)
よくよく考えれば、もし怪狸の予想が当たっていたとした場合、何故アリスが正体を明かさないのかが分からないのである。特に今回のような事件が起こったときを考えればデメリットしかない状態なのだ。
(もう一度会った時にでも直接確認するしかないな。)
晴明は考えるほどに深まる謎に、考えることを放棄したのであった。
今回で地獄の蓋編も終わりとなります。
次回は剣術大会本戦です。
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