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救援と晴明救出

怪狸かいり、ありがとう。助かったよ。」

完璧な防御陣を構築して主人あるじを守ったヒーローは、目から大量の涙を垂れ流しながら抱きついている。そばにはリーゼントと一緒にいた女性の隊士が治癒にあたってくれており、なんとか命はつながったようだ。しかし脇腹を貫通している刀はそう簡単に抜けるわけもなく、しばらくこの激痛と付き合わなければならなさそうなことに気がつき、グッタリしてしまった。

それを見たミキと呼ばれる女性隊士はオロオロし、怪狸かいりはぎゃんぎゃん泣くのであった。

「全く、一人で頑張りすぎなんじゃないかい?」

そう話しかけてきたのは六番隊隊長の黒坂であった。晴明はこの場にいるはずがない人物に驚いてしまう。その反応を見て黒坂は『任務だからね』と、困った顔をするのであった。

「四番隊もすでに麓まで来ている。このまま彼女の治癒を受けながら移動して、箭内隊長に診て貰えばいいよ。あとは俺たち隊長に任せておけ!」

普段は頼りなさげな黒坂隊長なのだが、今ほどカッコイイと感じたことはない。さすが隊長は格が違うと感じてしまう。

「…ん!?俺たち??」

晴明は黒坂の一言に違和感を感じてしまう。他にも隊長が駆けつけてくれたのだろうか?すると黒坂の横でスネをゲシッと蹴るもこもこがいた。黒坂は少し焦りながらももこもこに手を合わせて『ごめんごめん』といかにも軽い謝罪を行い、晴明に向けて人差し指を口につけるジェスチャーをしたのだ。

(……まさか…もこもこがうちの隊長!!!!?)

あまりの衝撃につい脇腹に力を入れてしまい悶絶してしまう。

だったら自ら指揮を取ってもらいたかった。リーゼントにやっかみがられ、腹を貫通されることもなかったんじゃないのかと思うと少し腹立たしい。

「これに懲りたら見た目で判断せずに、えらぶったりしないようにしなさいね。」

雪菜がチクリと晴明に忠告してくるのだが、…それはオレじゃなくてリーゼント君のことなんじゃねーの?と言ってやりたい。言ってやりたいのだが、隊長の式神である以上何も言い返せないのであった。



晴明救出の約15分前である。

怪狸かいりとリーゼントがどちらが残るかをまだ相談していた時、大きな音と共に天狗てんぐが座っていた木に雷が落ちたのである。

「ニ〝ャー!!!?」

怪狸かいりはいきなりの出来事に、タヌキではなく完全にネコのように驚いてしまう。目の前には煙が上がった木が燻っている。

「いやいや、ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなくてさ。」

ひょっこりと現れた人物にリーゼントは警戒しているが、怪狸かいりは支援部隊が到着したことに気がつき安堵したのである。

「…急に攻撃を仕掛けてくるなんて、白虎隊の人方はずいぶんと礼儀がないんじゃないかい?」

天狗てんぐが焦げ落ちた木の影から顔を出して苦言を言っている。

「いやー、大妖怪さま相手だし、少し気合いが入っちゃったかなー?でも、こんなもんじゃ討伐できないことくらいは知ってるからね。挨拶がわりだと思って受け取っておくれよ。」

悪びれもなく言い放つ黒坂に苛立ちを見せたが、流石に多勢に無勢と判断して引くことにしたらしい。

「今回の僕の任務はそこのタヌキを向こうに近づけないことだけだったからね。そろそろいいだろうしお暇させてもらうよ。」

そういうと踵を返して立ち去ろうとするが、天狗てんぐの背後にも小さな着膨れ隊士がいる。まだ逃す気はないということだ。

「キミたちの目的はなんなんだい?なんで怪狸かいりさんが関係するのかな?」

黒坂は威圧しながら質問する。いや、これは質問ではなく尋問である。いつでも斬りかかれる状態での質問なのだ。

「いやだね〜。おっかないよう。」

天狗てんぐはおどけるていて余裕があるように見える。

だが意外と質問には答えるようだ。

「いやね?計画を実行する過程で()()()そこのタヌキのご主人様が邪魔になるから、()()()先に殺しておこうって決めたみたいなんだよね。そのためには意外とそこのタヌキちゃんの防御陣が面倒らしくて、押さえて欲しいって頼まれたわけ。僕は最初から言ったよ?今回は『しゅ』じゃないってさ。」

どういうことだろうか?一千年前なら分かるが、晴明と共に行動するようになってから怪狸かいりは一度も防御陣を構築した事はない。であるならば、この天狗てんぐと手を組む誰かと一千年前に戦っていたことがあるということになる。しかも口ぶりからすれば何度もだ。だがそんな記憶はない。

「ここまで答えたんだからさ、そろそろ帰してくんないかな?キミたちもあの少年を助けに行きたいんでしょ?流石に死んじゃうんじゃない?まあ殺す気なんだけどさ。」

確かに一刻を争う状態かもしれない。怪狸かいりは急いでみたま石に向かって走り出す。

「ちょっと待って!私も連れてって。あなたたちに守られてばかりで情けない姿ばかりだったけど、ケガは治せるの。もし怪我してたら私が必要でしょ!」

ミキは目の前の状況でなんとか気持ちを持ち直し、助けてもらった分の恩返しをするために立ち上がったのだ。怪狸かいりはリーゼントも含めた3人で班長を救いに走ったのであった。



晴明に、ことの説明をしていたときである。

「なるほど、つまり天狗てんぐは仕事を放棄したわけですか。」

声のする方を見ると、頭から血を流した女性隊士がこちらを睨みつけている。

黒坂がすかさずみんなの前に一歩出て防御態勢をとる。

「君が今回の指示役なのかな?」

黒坂の質問にも相変わらず答えてくれそうにはない。その代わりなるほどと、何かを納得している様子であった。そして誰かに報告をしているようである。

「事象の収束を確認。この時間軸においても蒼井晴明の殺害は不可能と判断します。また、現在の状況は私にとっても不利であるため、離脱許可を頂きたいのですが。」

一瞬にして空気がピリッとする。こいつは天狗てんぐが話していた『しゅ』ではない。もっと上役が存在するということだ。

「一体キミは誰と話しているのかな?」

黒坂はジリジリと距離を詰めながら話しかける。しかし全く動じる事はなく、報告を終えるとこちらに向き直してから一言。

「『今回はまた良いデータが得られた。今回はここまでとして引く事にする。』とマスターからみなさまへの伝言です。」

そう話してから今度は晴明に対して向く。

「『お前はこの世界のことわりの中心部にいる。それがなぜかは分からない。だが必ず我々の邪魔をする存在として現れる。これは予言ではなく事実だ。我々はこの世界の行く末を変えるために行動する者である。今世こそ、お互いの利害が一致する事を望んでいる。』」

マスターと呼ぶやつからの、晴明に対しての伝言なのだろう。

だがその意味は晴明には全く分からない。

周りにいた者も分からない様子である。つまりは世界の行く末を危惧して自分を殺そうとしたという事なのだろうか?

もっと詳しく教えて欲しいと質問をしようとした時、目の前からすうッと消えてしまったのだ。隊長2人の目の前で、何事もなく逃げ切ったという事になる。慌てて周囲を索敵するが、やはりどこにも見当たらない。完全に消えたのである。

「完全にやられちゃったねー。天狗てんぐといい、今の娘といい、重要な容疑者を取り逃しちゃったのは失敗だよね。こりゃ降格かな〜?」

黒坂は頭をぽりぽりと書きながら反省を述べているが、今のを一体誰が止められるというのだろうか。その場にいた誰もがしばらくその場から動けないのであった。


その後、黒坂から天狗てんぐも同じように消えてしまった事を聞いた。

天狗てんぐにしても、今回の黒幕にしても、結局目的がなんであったのかが分からない。多分理由は『世界を危惧して』起こした、という事なのだろう。だが晴明は自分の行いの何が関係しているのかが全く分からないのだ。相手に『お前は悪の親玉だ!』みたいな言われ方をされたことだけは確かである。だが身に覚えがなさすぎて、正直全く責任を感じていないのだ。

(いやいや、どんなに力を持ったって独裁政治で世界を縛り上げるとか絶対しないと思うんだけどなあ…。多分。)

大体もしまつりごとに興味があるなら前世でやっている。そして歴史の教科書あたりに『平安の独裁者』みたいに紹介されていたかもしれない。晴明はもちろんそんなものには興味がないし、前世のドウジがそんな事をしたという話も聞いたことがない。

「ってそういえば隊長は何処に!?」

せっかく目視で確認できた隊長がお見舞いには来ず、黒坂、箭内姉、怪狸かいりと、完全に仙台で飯を食ったメンツが残っているだけである。あかねが来ていないのはおいておこう。

「キミのところの隊長さんは忙しいからね!まあまたそのうち会えるよ。」

黒坂は自分のせいでバレてしまった事に対してバツが悪いのか、これ以上は何も教えてくれる事はなかった。さくらも同じようで、そのうち会えるとしか言わない。そのうちがいつなのかも分からないのだが、今回はそれでよしとしておく事にする。


その晩晴明が休養できるようにと1人部屋を用意された。実際は怪狸かいりが一緒なのだがそれはいつも通りなので気にしない。ふと、今日の出来事を思い返していた。

(あの口ぶりは今まで何度も戦闘しているような話振りだったけど、どう考えても今のオレじゃないのは確かだな。実際前世の記憶があれば分かったのかもしれないけど…。怪狸かいりも分からないみたいだし、今のところはお手上げかなぁ。)

旅館の奥座敷にある椅子に腰掛けて、月を観ながら買ってきたスポーツドリンクを飲む。すると怪狸かいりが部屋に戻ってきた。女性陣に大浴場に連れて行かれてだいぶ揉まれたのであろう。疲れた顔をしてのぼせた様子が見られる。

「今日は本当に助かった。お疲れ様。」

そういいながら、もう一本買ってきたスポーツドリンクを向かい側の椅子の前に置いてやる。くだであり正体が化け狸と分かっていても、年頃に近づいた晴明が少しドキッとしてしまうほど、月明かりに照らされた怪狸かいりは可愛い。

ありがとうございます。っといいながらスポーツドリンクを飲んでひと息ついたとき、怪狸かいりは真面目な顔で話し始めたのである。

「晴さま。隊長さんと今日初めてお会いしましたが、間違いありません。あの方はアリスです。」

っと。

地獄の蓋ももう少しで終わりです!

始まってから初めての、能力を使った戦闘シーンをどうするか悩んだ結果、時間がかかってしまいました。

まだ話せない伏線を隠しながら表現しなければならないことも多く、くどくなってしまったと思います。

次は少しのほほんとした雰囲気に戻ります。

応援よろしくお願いします!

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