白虎隊幼少隊その2
※『陸斗のノート』は後書きでエピソードを記しています。
説明を受けた後に道場へと案内された。
中ではケイジからの説明通り、第一隊から第五隊と分かれて訓練をしているようだった。よく見ると、床にひっくり返りぜーぜーと荒い息をしたケイジが目に映り、説明がなくてもここが第一隊である事がわかったのである。
「晴明くんの検査結果をもとに今日からここ幼少隊の第一隊で訓練することになる。ケイジくんたちと一緒だから心配しなくても大丈夫だよ。」
佐々木さんが分厚い手のひらで晴明の右の肩ポンッと叩いて前に進ませた。
よく見るともう1人クラスで見た女の子が立っている。ケイジのように息を切らした感じもない。まさかのタイミングでの接触に心臓が口から飛び出しそうになる。
「今日来た転校生ね。わたしは沖田友世。同じクラスなんだけど…まあまだ分からないよね。」
存じております!!っと、元気よく返事をしたいところであったが、見知ったエピソードを聞かれると困るため黙って愛想笑いをするしかない。理由は出所が不純(※『陸斗のノート』)だからである。
「んん?晴明か!やっぱり一緒だったな。どうだよ陸斗、俺様の推理力は!」
伸びてたはずのケイジが元気よく起き上がり、同じく隅っこの方で伸びている陸斗に声をかけた。
「クソッ、…うぜーッて…ツッコミ、ハアハア、…ゴホッ、するほど回復してねー。」
陸斗はケイジ以上にダメージが大きいようで、まだ呼吸が整わないらしい。一瞬目線をこちらにくれたが、直ぐにダウンしてしまった。
「ケイジくんは回復したみたいだね!じゃあもう一戦やろうか。」
黒髪ロングをポニーで束ねた美少女が、これまたお金を払ってでも見たいと思う笑顔でケイジを手招きする。
晴明としては自分が志願してお相手をしてもらいたいと思っているのだが、ほぼ初対面で立候補できるほど陽キャでもない。モヤモヤした気持ちを胸に抱きながらそのやり取りを見ているしかないのだ。しかしケイジは嫌だったのだろう。晴明の横にスッと身体を寄せたかと思うと。
「し、新人教育も立派な訓練であります!さあ晴明くん、先ずは木刀を握って素振りから始めようか!」
どうやらケイジという男は、今日知り合ったばかりのクラスメイトを自分が訓練をしたくないあまりに売るつもりらしい。清々しいほどのクズムーブを決めた事で、その場にいた者全員から憐れみの表情を一身に浴びることとなったのはいうまでもない。だが晴明だけは友世の苦笑いが見れたので満足したのであった。
晴明はたくさんある木刀を一本ずつ手に取り、馴染む物を探す。その様子にケイジは顔をひくつかせながら尋ねてくる。
「…剣術のご経験がお有りなのですか?」
なぜ敬語?と思いながらも晴明は答えることにした。
「5歳頃からだからもう5年かな?一応爺ちゃんが昔通ってた老舗の道場に行ってたんだよ。木刀は素振り用の物を持っててさ、基本は竹刀だからそんなには握って無いよ。」
「じゃあ寸止めとかできる?せっかくなら基本メニューをこなしてみようよ!」
青ざめたケイジをよそに、期待の眼差しを向けてくる友世が話しかけてきた。
男としてその期待に応えなくては!とやる気十分の晴明なのであった。
一通りメニューをこなし辺りを見渡すと、道場はいつの間にか活気に溢れていた。夕方の5時をまわり、中高生が続々とやってきたからである。周囲を観察してみると、今晴明がやったメニューを全員が取り組んでいる。学年・年齢関係なくやる事は一緒なんだなと思いながら汗を拭き、水分補給のために道場から出たところで陸斗に出会した。
小柄メガネのイケメンも水分補給をしていたようで、こちらを見つけて近寄ってくる。
「話しかけて仲良くなったクラスメイトがこんなスーパールーキーだったとは流石に思わなかったよ。つーか結構あるメニューをあっという間に終わらせるスタミナもあるとか完璧超人じゃねーか?同い年とは思えなくなってきたわ。」
尊敬というより若干呆れ顔を見せる陸斗だったが、一応は褒めてくれているらしい。
だが上には上がいるだろうし、別に一番を目指しているわけでもない。
正直覚醒した力をコントロールできるようにそれなりにやれればいいとさえ思っている。
「いけるんなら上を目指せよ!ケイジはああ見えて同学年の中ではエースだから、ライバルが増えるのは歓迎すると思うぜ?まあさっきはマウント取って教える予定が完全に崩れて、沖田に引きずられて行ったときの顔は蒼白で面白かったがな!」
エースなのはケイジではなく友世なんじゃないのか?それに自分がライバルとして頑張らなくとも、可愛いライバルがいるだけで十分じゃないか?と晴明は友世の組手相手に選ばれるケイジに嫉妬心が募り、モヤモヤした気持ちが溜まってきている。その所為で少しトゲのある言い方をしてしまう。
「ケイジにはすでにライバルがいて、その娘と一緒に切磋琢磨していると思うんだが?」
言い方だけでなく、顔からもちょっとムスッとした気持ちが現れてしまう。しかし、それを見た陸斗は笑いながら答える。
「あははは。沖田はライバルになりはしないよ。そもそもアイツは幼少隊のメンバーじゃないからな!覚醒が早くて、小学校入学前から白虎隊に訓練に来ていたらしい。実はお前が来る1年くらい前に転校してきたんだよ。そのときからすでに一番隊本隊のメンバーとして訓練に参加していたからな。ケイジと年期がちげーわけよ。ライバルってか先生だな!」
力の差がありすぎる場合は彼氏として立候補しても相手にしてもらえないんじゃないか?と考え、友世に並べる位には力をつけようと心に決めるのであった。
※『陸斗のノート』
検査結果を聞きに白虎隊支部に行くまでの間、放課後に教室でケイジと陸斗に学校や道場について教えてもらうことにした。
徐々に2人のキャラが分かって来ていたが、改めて自己紹介から始めることにした。
「オレは蒼井晴明。弘前が地元で白虎隊支部に近いこの学区に越して来たんだ。それまではお城の周辺に住んでて、今年の春は歩いて桜祭りとか行ってたんだよね。」
地元民としては毎年欠かさず参加する桜祭りが遠くなるのは不便ではあるが、来年も絶対参加するという意気込みも添えて紹介とした。
次は俺だなっと、ケイジが話し始める。
「藤田ケイジ!よろしくな!特技はサッカーで地元のクラブチームに参加してるんだぜ。まあ覚醒者は試合に出れないんだけど、好きだしこれからも続けるつもりだよ!」
覚醒者は試合に出られない。これはどんなに力を抑えても、常人以上の力を持つ覚醒者はチート扱いなのである。ケイジは力が強いから諦めがつくかもしれないが、覚醒者の3分の2は測定器が微妙に振れるほどの力しかない人なのだ。そんな人たちも高レベル覚醒者と同じ扱いのため、プロスポーツ選手が覚醒者になり引退!なんてニュースが新聞の一面になることがある。そりゃ一生懸命に頑張って練習して来たのに、覚醒したせいで夢を絶たれて犯罪に手を染める人の気持ちもわからなくもない。
「最後は俺だな。佐伯陸斗。よろしく!俺は学校内や白虎隊支部にいるかわい子ちゃんデータを収集するのが趣味なんだ!一応男のデータもあるぜ?」
…今なんと?イケメンから変態的なコメントが飛んできませんでしたか?と晴明は混乱していると。
「こいつちょっと変わってるけど、すげーデータ持ってるから告白考えてる男子から重宝されてるんだぜ!」
ケイジがフォローにならない補足を加えて来る。どちらにしてもツッコミ屋のメガネイケメンの趣味としては如何なものか。
「まあ待て。ドン引きするのは有益な情報を得て、それでも納得ができなかったときにしてもらおう!」
自信満々に話す陸斗の表情をみて何故か期待してしまい、唾をゴクリと飲み込んだ。
「まずはクラスの人気女子を紹介しよう。一人目は学年をまたいで人気ナンバーワン!五十嵐楓!整った顔立ちはもちろん、肩口まで伸びたやや茶色のセミロング。性格もサバサバしていながら面倒見がいいところが大人気!6年生に兄貴がいて、兄弟仲も悪くない。合唱部に在籍しててどんな楽器も綺麗に弾いてくれるらしい!覚醒者で幼少隊の第三隊に所属している。彼氏なし!」
何処から集めて来た人気投票なのかはわからないが、確かに詳しい。それに携帯端末のフォログラムで投影された写真付きでわかりやすい。だがこれは大丈夫なのだろうか?バレたらイケメンが台無しじゃないか?そしてわずかに漂う犯罪臭…。
「二人目は中里亜希。ショートカットでスポーツ少女。母親のバレーの練習に付き合いで参加しているらしく、自身もクラブでバレーをやっている。ポジションはセッター。先輩から高い支持を集めている。歳の離れた弟がいて可愛がっているらしい。彼女も覚醒者で先程の楓と同じ第三隊に所属。彼氏なし。」
淡々と説明しているところは素直に凄いと感じるが、同時に怖くなって来た。マジでドコ情報なんだ?一歩間違えばストーカーだろうに。
「3人目は大和地育美。高身長でスタイル抜群のモデル体型。小学生にしてファッション誌にモデルとして参加した事もあるし、誰にでも話しかけられるコミュ力が魅力的で低学年男子の初恋キラーと化している。一人っ子で実家は老舗和菓子店を営んでいる。覚醒者で第二隊に所属。彼氏なし。」
確かに身長はケイジほどでは無いが中学生女子と言われても信じてしまうだろう。サイドツインで可愛さも演出されており、こんな写真をよく入手したなと感心する。…この情報がバレたらこいつ後ろから刺されるんじゃないか?
「最後は沖田友世。笑顔が人気で頭脳明晰、運動神経バツグン。元は宮城県石巻市に住んでいたらしく、昨年弘前に転居。一人っ子で両親と三人暮らし。誰に対しても分け隔てなく接してくれるため勘違い男子が量産され、現在告白を考えているという相談件数ナンバーワン!本人は現在イロコイに興味なし!もちろん覚醒者で彼氏なし!」
フォログラムには黒髪ロングのを後ろで縛り、ポニーテールにした美少女が映されていた。今までにない衝撃を受け、話したこともないクラスメイトに興味を抱いている自分に気がついた。
(えっ、ちょまっ、めちゃかわ。)
そのとき晴明は初めて知ったのである。初恋というものを。