大将戦!?
怪狸は天狗からの一言に動揺してしまう。
つまりは先ほどの話から察すれば、この天狗の方が足止めであり、晴明の方に今回の大将がいることになるのだろう。
頭によぎるのはドウジとの別れの事ばかりだ。あのときも、怪狸は何もできなかった。ドウジと最後に会えたのも、アリスがいたお陰だ。
(なんとしても晴さまに加勢しなければ。)
だが、弱体化しているとは言え大妖怪である天狗が立ちはだかっているのだ。管程度がどうこうできる相手であるはずがない。背後を見ると、震えるミキを励ます元リーゼントがいる。であるなら取れる行動は一つしかない。
意を決して元リーゼントに提案を持ちかける。
「現在晴さまがお一人で未知の敵と交戦中です。ここは私が引き受けますので、お二人はみたま石辺りにいるはずの晴さまに加勢しに向かってくださいませんか?」
その一言で元リーゼントは怪狸の覚悟を察してしまう。だが、このままここであの天狗とやり合っても勝機はない。それだけ実力差を感じる相手であるのも分かる。
「その提案に乗るのはやぶさかじゃねーけどよ。あの天狗やろーは俺たちを逃がしてくれると思うか?」
確かにわざわざここに現れたのは怪狸たちの足止めのためなのだろう。現在は何もしてこないが、大将戦を邪魔立てする輩が進軍するのを良しとするわけがない。大将同士が戦っているなら、負けた方はそのまま負けになる。一縷の望みがあるとすれば、今回天狗が自分は『主』ではないと話していたことから、こいつにとって勝ち負けが重要ではないのかもしれない。しかし、だからと言って進軍を許す道理もないのである。
「ですが、このままこう着状態が続いたところでそれもまた意味がないと思うのです。彼が何もしてこない今だからこそ、動くチャンスだと思うのですが。」
怪狸の提案も一理ある。しかし、背後から攻撃されたとなればさすがに避けられないだろう。正面からであっても正直回避できるかあやしいのだ。しばらく考えてからリーゼントが出した答えは自分が犠牲になることであった。
「…っクソ!分かったよ!怪狸だっけ?お前はミキちゃんと後退しろ。俺がここを食い止める。逃げるにしても結界が作れない俺よりも、お前の方が確率は高いだろ。」
怪狸はさすがにその提案を受け入れるわけには行かない。主人は優しいため、もし仮に怪狸が生き残り、リーゼントが死んだとしても苦言を言うことはないだろう。だが班長として責任を持たされている主人の立場というものがある。直属の部下が死に、いくらでも代替が効く管が生きているなどあってはならない。
「お考えを改めては下さいませんか?元リーゼントさんの命を守るのも私の勤めにございます。」
怪狸は必死になんとか状況を変えるために思案するが、生還率を考えればリーゼントの提案を超えるもが出ることはない。
実際は大天狗相手にどちらがどう動いてもさほど変わらない。リーゼントからすれば、自分と怪狸のどちらの方が、ミキを無事に帰還させられる可能性が高いかという選択しかない。怪狸としては、逃げた後に晴明の援護ができる戦力を考えて、防御一辺倒の自分よりも攻撃が可能なリーゼントに向かってもらいたいのである。
こうしてしばらくこう着状態が続くことになったのであった。
みたま石周辺では、一進一退の攻防が繰り広げられている。晴明としては相手にケガさせることなく取り押さえたいのだが、状況は芳しくない。剣術のレベルはもしかすると相手の方が晴明よりも少し上かもしれない。だが、陰陽師としての能力が使える戦闘となれば、土相や水相など遠距離での攻撃をすることができるため、刀が触れ合う距離にまで接近させることはない。今の状態であれば晴明が負ける事はないのである。ではどうすれば戦闘を終結させることができるだろうか。
「…刀を引いてもらう事とかできませんかね?」
説得を試みるが相手は会話をするつもりはないらしい。
むしろなぜ命が狙われるのかが分からない。まだ無名の成り上がり剣士を排するために、わざわざ隊に潜入してチャンスを伺う必要があったのだろうか。むしろそこまで実力を買われるほど活躍した記憶もない。いっそ他の隊長を倒す方が手柄として分かりやすい上に、敵対する人物からすれば脅威の排除につながるだろう。
(オレを暗殺するチャンスなんていくらでもあったんじゃん!なのにな んでこのタイミングで狙われてんだ!?。)
『今』じゃなければならなかったとすれば、怪狸がいない事くらいしか思いつかない。であるなら、実は怪狸とは知り合いまたは弱点である可能性が考えられる。
(少しカマをかけてみるか。)
晴明は質問を投げかける。
「怪狸がいないときをわざわざ狙ったのは何でなんだ??」
この言葉に、今まで無表情だった顔で眉がピクリと反応した。
どうやらビンゴである。怪狸がいると何かまずいのかも知れない。
立て続けに質問をしてみるが、その後は返答はもちろん、反応すら一切返ってくることはなかった。
ではこいつは一体何者なのか。
思い返しても晴明の記憶には一切の接点を見つけることはできない。
(怪狸がいてマズい事とか何かあるんだろうか…。そもそもこっちの攻撃を熟知したかのような避け方をしているのも気になる…。こいつは一体何を狙ってるんだ??)
晴明が警戒レベルを上げた次の瞬間であった。
急に周囲の景色がグニャリ曲がったように見えて、激しい目眩により一気に吐き気をもよおしたのである。
相手は相変わらず攻撃の手を一切変えず、愚直に前に前にと進んでくる。だが晴明は今までとは違い、ひどい目眩のせいで距離感が全く分からない状態となっている。晴明は術を用いてけん制する事で距離を取っていたが、相手との距離感がわからないため接近を許してしまう。
(くそ!!急に何が起こったんだ?世界が回っているように感じる。)
クラクラとしてついに地面に手を付いてしまう。完全に先ほどの余裕はない。相手は平気そうに刀を振り回しながら向かってくる。
とにかく冷静に相手との間合いを取るしかない。そう思い、後方に回避をした時であった。
「ぐっ、がはっ!」
ブシュッ、と左の脇腹に何かが刺さったのを感じる。敵は目の前にまだいる。じゃあ後ろにいるのは一体誰だ?
晴明はさまざまな状況を整理しながら、腹部を貫通した刀が抜けないようにそのまま根元まで刺さるようにして受けきった。もし抜かれてしまえば出血が止まらず数分後には三途の川を泳いでいるかもしれない。
背後の人物は晴明の行動を予想していなかったのであろう。刀ごと取られる前に、刀身を外して柄を守ったのである。
(まさか二人いるとは…。むしろなんでオレなんかに二人もついてるんだよ?)
背後の人物の刀を潰したとしても、まだ目の前には刀を振り上げた女性隊士がいる。左腹に刺さる刀のせいで、左腕が思うように上がらない。もちろん激痛も相まって足だって思うように動かない状態になっている。回避も困難な最悪の状態だ。
(こうなればもう術を直接当てるしかない。死んでくれるなよ!)
晴明は手に持っていた護符一枚に力を込めて女性隊士に向けて構える。その距離約5メートルほどだ。ヘタをすると自分も被害を被る可能性がある。だが躊躇などしてはいられない。
「土の相!隆起!」
女性隊士の足元からゴツゴツした岩が一気に隆起し、身体ごと跳ね飛ばした。晴明はギリギリのところで回避するが、もう動くことはできない。敵は上空に吹っ飛んでいるのが見える。落下ダメージで死んでしまわないだろうか不安になるが、どうやら晴明には相手を心配する余裕などないようである。
(…あれ?こっちに飛んでくる刀がスローに見えるんだけど…身体も動かないし、もしかしてこれって直撃コースじゃね!?)
晴明は目の前の隆起をかわすために脇腹を庇いつつ尻餅をつくように後ろにズリズリと下がるので精一杯だった。今はさらに背後に大きめの岩があり物理的にもこれ以上は下がれない。女性隊士が持っていた刀がくるくる回り、目の前にあってまさに今晴明に刺さる寸前なのである。
晴明はふと思ってしまったのだった。
(頭で受けて楽に死ぬか、肩口で受けて痛いけど生き残る可能性に賭けるか…。死にたくないけど痛いのもやだなぁ。)
こんな時でも冷静になっている自分が恨めしい。
その時であった。
「晴さま〜!!!」
目の前に急に現れた怪狸が防御陣を構築して晴明を守ったのである。
全く優秀なタヌキである。
執筆時期が夏なのに、話の中が冬なのでイメージができずに脳がバクったらごめんなさい。
いよいよ本編に分かりやすい敵も見え始めて、ストーリーも動いてきました。
色々わかりづらいところもあると思いますが、次回が解答編!?みたいになればいいと思っています。




