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木札捜索その②

「ふーっ、やっと出てきたな。こんなのあと4つもあるとか神経やられるわ。」

みたま石の隙間から掘り起こした木札を確認しながら一息つく。すでに辺りは薄暗くなりつつあり、そろそろ合流しておかないと薄気味悪い場所で一晩過ごす羽目になる。それは勘弁願いたい。

木札を確認しながら文字が消えていたらどうしようかと考えていたが、幸い消えないように焼印としてしっかりと残っていた。消えてしまえば結界も無くなることを考えれば、当時の技術であれば焼印として処理するのが一番良いだろう。

「この術式は見た事あるな。一般的な『封印』の札で良かった。知らないものは流石に作れないからな!」

誰に話をするわけでもないが、疲れも相まってブツブツと独り言を言ってしまう。怪狸かいりはリーゼントからの連絡を受けて木片のある場所へと向かっていった。手が離せない晴明は置いて行かれた恰好なのだ。まあそれぞれが活躍しているところを見れば、良いチームなのだろう。

(最初は最悪だったけどな…。)

さてとっ、と晴明が立ち上がって合流しようかと行動に移した直後である。後方からいきなり斬りかかってこられたのだ。

晴明は振り向きざまに後ろへと飛びながら抜刀し、刀が首に当たる寸前で受け止めた。この至近距離であれば、薄暗い中でも相手が誰かくらいは判別できる。そこにいた人物は、晴明と一緒に船に乗ってきたミキとは違うもう一人の女性隊士であった。

受け止められたことで一度距離を取る。そして真顔でこちらを見つめ、再度刀を構え直している。どうやら間違えて攻撃しました!っと言う様子ではない。明らかに晴明の首を取りにきた攻撃である。

「おっかしいなぁ。確か他の木片を探して欲しいってお願いしてあったはずなんだけど、見つけて戻ってきた感じ…じゃないよね?」

晴明は真冬で極寒の場所であるのに、首筋にヒヤリと汗を感じている。少しでも対応を間違えていれば自分が死んでいた事実が恐ろしい。だがこの様子は暗殺が失敗したからと矛を収めてくれる気配はない。見られて尚、晴明の首を取りにきている。

「…あなたの命を刈り取る。異論は許さない。それが命令。」

一体誰からの命令なのか。それを聞き出す暇もなく攻撃がくる。剣術大会とは違う、本物の命の取り合いに刀を持つ手が震える。だが躊躇ちゅうちょしていては自分の命が危ない。晴明は覚悟を決めるのだった。


晴明が木札を掘り起こす少し前の出来事である。怪狸かいりがリーゼントに呼ばれて現場を確認すると、報告通りに刃物で綺麗に斬られた木札があった。

「斬られた残りはまだ地面にあるっぽいぜ。それと、一緒にいたはずの女性隊士の姿がしばらく見えなくなっちまった。迷子とかなってなければ良いんだけどよ。」

リーゼントは脇で引っ付いて話してくれないミキの相手をするので精一杯だったのだろう。もう一人の隊士が姿を消したことに気がついていてもどうしようもなかったのである。

「…元からのお知り合い…と言うわけではなかったんですね。」

怪狸かいりは少し驚いた様子でリーゼントに尋ねる。船のときも一緒にいたので勝手に3人セットで考えていたためだ。

「ミキちゃんが声をかけて一緒にいたんだよ。だって一人は指示役の小学生、もう一人も無口でガン無視決めてくる男か女かも分からないようなヤツだろ?」

つまり船から一緒だったと言うことである。全く知らない相手といたと言うことだったわけだ。怪狸かいりとしてはそんなよせ集めを一括りにしてしまって申し訳なく感じるが、非常時なので許して欲しい。一応何も言わずにペコリと頭を下げておく。

「この斬られた感じはつい最近みたいですね。切り口が綺麗すぎます。」

怪狸かいりは木札のカケラを受け取ってまじまじと観察する。工事関係者が誤ってと言うなら他の場所も土などが抉られていたりするだろう。だがその様子はない。観光客のイタズラにしては切り口が綺麗すぎる。ナイフで切ったとしてもここまで綺麗には切れたりしない。日本刀を持ち歩く危ないヤツがいたとでも言うのだろうか?

「とにかく、状況はリーゼントさんが言う通りみたいです。誰かが故意に木札を破壊したとしか言いようはありません。急いで報告する必要が、…。」

怪狸かいりが話しながらリーゼントの方を向いたときである。後方から何かが飛んでくるのを察知したのだが全く見えず、気がついた時には身体に切り傷ができていたのである。


「イッテー!!クッソなんだよおい!」

いきなりの襲撃に怪狸かいりはもちろん、リーゼントもまともに受けてしまった。よく見るとリーゼントの自慢の『リーゼント』の先端がスパッと切れている。もう少しズレていたらと考えると恐ろしい…が、なぜか笑いが湧きそうになって必死に堪える。だが酷い。愛称も()リーゼントとお呼びしなければ。

そんな考えをしてはいるが、怪狸かいりは次の攻撃を防ぐために防御の陣を取る。怪狸かいりは弱くても、簡易的な防御陣を作れるくらいには妖気を持っている。

「私の後ろに下がってください!!次が来るかもしれません。」

3枚の札を自分たちの周りに三角形になるよう設置して陣を完成させる。撃たれた方向からすればみたま石方面となる。晴明が心配になるが、自分の後ろにも守らなければならない人がいるため離れるわけには行かない。すると気味の悪い声が聞こえてくる。

「おやおや〜。久しぶりだねえ。たしか君はあの忌々しい陰陽師のくだタヌキじゃないか。」

そう話しかけてきたやつには身に覚えがあった。

「…こんなところで何をしているんだ?大天狗だいてんぐ。」

この怪狸かいり大天狗だいてんぐと呼ばれる見た目優男が木の上で足をぶらぶらさせている。スラリと高い背にさらに長い一本下駄を履き、銀髪の髪には鼻の長いお面を付けている。手には八手やつでを持ち、先ほどの見えない攻撃は八手やつでを振った時に発生するかまいたちによるものだ。

「なんでお前はここにいるんだ?一千年前にドウジ様によって弱体化されてから姿を見せていなかったと思うんだが?」

怪狸かいりは警戒心を最大限に引き上げながら、会話を試みる。

天狗てんぐと言えば烏帽子えぼしを被り、鼻が長くて赤い顔のイメージを持つ妖怪だろう。鼻の長いメンと言う違いはあれど、大体は合っている。当時は周辺一体の妖怪を絞めて頂点に立っていたのだが、人々に迷惑をかけるため討伐命令が下ったというわけである。さすがは大妖怪と言われるだけあり、当時の陰陽師が協力しても封印には至らず、ドウジが弱体化するに留まったというわけである。


「なぜって?お前はまだ気が付かないのか?だから人間に使われるだけの生き物になっちまうんだよ!」

怪狸かいりだって大体は想像がつく。ここにゲートが再び現れたこと、木札がスパッと斬られていたこと、目の前に大妖怪が一千年ぶりに姿を現したこと。何より今現在構築している結界が、()()()()()()()であることが全て繋がるのだ。

「このゲートを開いて妖気を取り戻そうとしているってことだよな?弱体化に関しても、ゲートが開き切れば解消されるってところか?」

天狗はふふん!っと得意げに笑い、怪狸かいりの答えに満足そうである。

「つまり今回のこの騒動はお前が企てたってことか。せっかく忘れかけていたのに嫌なことを思い出しちゃったよ。」

怪狸かいりは恨めしそうに天狗を見つめる。

しかし天狗はさらに高笑いをしながら、

「ハハハハー!あながち間違いじゃないが、真実とは少し違うな。()()での主は俺様じゃないのさ。」

と引っ掛かる物言いである。じゃあ誰の企てだというのだろうか?

怪狸かいりが頭を捻って考えているが一向に思いつかない。こいつ以上に得をするヤツを知らないからである。

すると天狗てんぐ八手やつで怪狸かいりを指しながらまた笑うのであった。

「今頃お前のご主人様がクビだけになっていなければ良いな!」っと。


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