木札捜索その①
余計な時間を取られる事にはなったものの、晴明が当初考えていた以上に順調に進んでいた。というのも、最初に想起していたほどモンスターと言われるものが強くなく、量も多くなかったためである。しかし、考えていた物が見つからないのだ。
「…穴、無くないか?」
晴明は怪狸の方を向いて確認するように言うのだが、怪狸も頭を抱えているようだ。
「ドウジ様は確かに『穴』とおっしゃっていたんです!…だからその、…地面に穴が空いているものかと。」
まあ確かに怪狸の昔話の中でも、怪狸自身が見たとは一言も言っていない。会話の中でそのような物がある、そして封印したと言われただけなのだ。
「もしかして俺たちが考えているような物でもないんじゃないか?」
実際モンスターが出てくるところを確認できれば良いのだが、晴明が先行させた護符で周辺を一掃してしまっている。そのためどの辺りに集まっていたのかなども分からず、現在は出てくるのを持つと言う本末転倒な状況が生まれてしまった。
ちなみにもこもこ隊士と式神雪菜、リーゼントと2名の女性隊士の二班に分けて結界構築のために、もとの結界?を探してもらっているのだが、今の所成果はない。
「これじゃちょっと危ない状態で観光の続きをしているに過ぎないよな。まあ元々ここが心霊スポットって言われているだけあって、余計なものが沢山いるのが気になるんだけど…。」
晴明は能力覚醒により幽霊なども見えてしまうようになった。霊力?みたいなものがあるから陰陽術が使えると考えられるが、先ほどの様子を見るとリーゼントやその他2名の女性隊士が見えている様子はなかった。つまり、晴明の能力と超能力系統の能力では力の根幹が違うと言う事になる。
「そういえば、うちの隊長は魔力?が使えるとか言っていたような…。」
晴明の研究者としての探究力が発揮されてきてしまった。
普段様々な資料を見ながら陰陽術を研究する過程で、地元の国立大学の教授と仲良くなり、覚醒者の能力についても様々な考察や研究を手伝うようになっていた。
(この情報を持って帰ったら、あの教授きっと喜ぶだろうな。)
晴明は今の考えを携帯のメモに残して置く。この手の研究は覚醒者の普段の生活にも直結する事になるため、晴明としては自分のことのように研究に積極的なのだ。実際覚醒者になれば、新撰組や白虎隊での能力訓練に参加しなければならないだけでなく、私生活でも制約が付く。その一つに能力を抑えるESP錠の存在だ。暴走者を取り押さえる時にも使うのだが、基本は覚醒者が自分の能力を暴走させないために普段から身につけるものになっている。これは初めかなり不評を買ってしまったために様々なブランドとコラボを通すことでデザイン性を上げ、現在ではおしゃれアイテムとして活躍している。しかし、完全に抑えられるわけではない。覚醒者となればオリンピックはもちろん、プロスポーツ選手などにはなれなくなってしまう。その反動で夢を絶たれた人は少なくないのだ。学生時代の部活動での途中リタイヤがニュースを騒がせたり、一時期は覚醒してしまったプロ選手たちを追いかけるテレビ番組が高視聴率を獲得していたりするのである。
(そう言った人の中には人生を悲観してしまったり、自暴自棄になって反社会に身を投じていく人も多いんだよなぁ。実際ヤクザとか覚醒者を積極的に引っ張ってるとか聞くし、覚醒者は引くて数多なんだろうけど…。)
晴明の周りは若くして覚醒した奴らが多いため、このような研究が発展していくことはありがたいのである。
晴明が研究内容をまとめていたとき、怪狸がついに『穴』を発見するのであった。
「晴さま。怪異の出入口を発見しました。」
その一言に晴明は急いでメモを閉じて向かう。発言が穴ではなくなったことからも、やはり認識が違ったようだ。
「その出入口ってどこにあるんだ?」
晴明は怪狸がいる岩陰に入り、先を覗くように確認する。初めは何もない空間がそこにあるだけであったが、よく見ると空間と同化した縦長の薄い膜のようなモヤがかった物が見えた。一見すると気がつかないが、よく見るとそこだけ空間が歪んでいると言う程度である。横から見れば絶対に気がつかない。
「先ほどあそこから人型の牛が出てきました。正直妖気のような物もまだ薄いように感じます。穴が開いてからまだそんなに時間が経っていないため、気がつきにくいのかもしれません。」
そもそもこの恐山一帯が妖気に包まれたような状態になっている。そこにまだ小さく妖気が大きく溢れる前の穴が開いていたとしても確かに気がつかないだろう。もう少し気がつくのに遅れていたら最悪の状態が起きていた可能性がある。
「観光客が気がついてくれてラッキーだったってことだな。てか穴というよりゲートって感じだな。空間の歪みがなければ絶対気づかない自信がある!」
とりあえず副隊長に穴の確認ができたことを報告し、同時に座標も送って置く。これでいつでも確認が可能だろう。
(あとは封印の件だが…って、もこもこから連絡が来てる?)
副隊長に送信したタイミングで通信機にメッセージと座標が飛んできたのである。メッセージを見ると次の内容が書かれていた。
『結界発見!みたま石。』
みたま石とはゴツゴツとした岩が2つ並んでいる石なのだが、なぜこれが結界だと分かったのだろうか。駆けつけ一番にもこもこに聞いてみると、何も言わずに指を指している。岩を確認すると、岩と岩の間の地面に木札が埋まっている。
「なるほど!紙札じゃなくて木札だったのか!でも地中に埋められているって事は他はまだ埋まってる可能性があるんじゃないか?」
うーんと考えながら、通信機に送って共有している地図を改めて見た時にふと気が付いてしまった。それは先ほど発見した穴とみたま石の位置から考えた時に、五芒星を結んでその頂点を当ててみたのだ。それは大体だが観光のスポットになっている。もし違っていても、きっとその周辺にあると晴明の直感が告げているのだ。これは晴明が今まで様々な資料から陰陽術を学んできたことで、五芒星が地図上に見えたのであった。
「怪狸!この場所を式神に探させてくれ!オレはこの埋まっている木札を詳しく調べてみる。」
地図上に簡易的に五芒星を書き入れて即座に共有して置く。もし副隊長が気づいてくれればついでに探してくれるかもしれない。
そこでもし木札が見つかれば、それを元に新しい木札を作って立てれば良いだろう。
(埋まってる木札を全て掘り起こすのは時間的に無理だな。もしかして全ての木札が埋まってるのか?もしそうなら木札の経年劣化が原因って感じになるのかもしれないな。)
晴明はみたま石の木札を掘り起こすために土の相を使って地面を隆起させ、なるべく無傷で手に入れるように慎重に進めていく。もちろんみたま石も傷一つ付けるわけにはいかない。想定しているよりも時間がかかりそうだと思い、夕方に差し掛かったことで小腹が空いたなと、昨晩の夕食を思い出してしまうのであった。
晴明が木札を掘り起こそうと躍起になっている頃、他の木札を探すために出た式神が予定地をくまなく探している。側から見れば穴から出てきたモンスターと間違われても仕方がない様相をしているので心配してしまうが、西側は晴明を班長とする部隊だけが行動しているため、討伐される心配はないだろう。
「…仲間だって言われても、怖いものは怖いよね」
リーゼントの脇で怯えながらも捜索を続けている女性隊士がポツリと呟く。彼女は一番隊では珍しい治癒系隊士であり、いつもは前線には出てこない。パトロールもなく、夜勤といっても詰所でみんなの帰宅を待つばかりの任務が常であった。そんな中今回の任務を当てられ、よりにもよって晴明隊に選抜されてしまったのだ。戦闘経験などない軍人が、いきなり最前線に送り込まれるようなものである。年も大学を卒業したばかりの22歳。早生まれなのでまだ誕生日も来ていない。社会人ほやほやと言える彼女には、この任務は酷だろう。いくら晴明が完璧な索敵をしてくれていても、周囲がモンスターを倒してくれていても、そのストレスはかなりのものであった。
「ミキちゃん大丈夫だから落ち着こうぜ!あの班長様の方が100倍おっかね〜って分かったじゃん。」
彼女をミキちゃんと呼び励ましているのがリーゼントである。この2人は任務前から知り合いであり、今回は青森隊舎から派遣されたよしみでもあった。学校はそれぞれ別々に通っていたのだが、同学年の同期でもあるため隊舎内では交流が多く、合コンをせがまれた時にはお互いが連絡を取り合いセッティングしたりもしていた。お互いがミキちゃん、カズくんと呼び合うほどには仲良しであり、周囲が2人の関係を疑うほどであった。
「そうなんだけどさ、あの子の式神!?って、完全に妖怪とか言われてるヤツの姿そのままだし、なんならアニメとかよりグロいしで恐怖を感じちゃうんだよね。」
気持ちは分かる。大体の式神は可愛くデフォルメされた状態でアニメなどでは描かれる。リアルを描けばそのキャラクターの人気が無くなり、ビジュアルを構築するのも大変であろう。もちろん晴明の式神の大半は人型などへの容姿変更は可能なのだが、この緊急時にそんな悠長なことを言っている場合ではないのだ。
そんなビビり散らしているミキは、話しかけてきた一体の式神の姿を見て絶叫してしまうのであった。
「なんだなんだ?どうしたんだ?」
リーゼントが驚いて駆け寄る。対してミキは涙目でこちらを見ていて、その側では一ツ目小僧と言われる妖怪がオロオロしている。リーゼントはミキを1人にしたことを後悔しながら事情を聞くことにした。
「あの像の後ろに木札と思われる木片が落ちているんだけど、完全に割れてしまっていて状態が悪いみたいなんです。それを主人に連絡してもらいたいと思って話しかけたのですが驚かせてしまったようで…。」
妖怪とは随分と礼儀正しい奴等じゃないか。と思いながらも、木札が見つかったとなれば班長に報告しなければならないだろう。報告のためにはその木片がどんな状態なのかも確認して置く必要がある。一ツ目小僧に木片が落ちている場所を聞いて、ミキの手を引きながら向かう。リーゼントが落ちている木片を見つけて良く見てみると、早急に知らせなければならなさそうな状態だった。
「…刃物でスパッと切られてやがる。」
リーゼントはすぐさま情報を晴明に共有するのであった。
その場にいたリーゼントはもちろん、式神でさえ木札の状態に気を取られており、そのやり取りを遠目から見つめニヤリと笑う人影があることに、誰も気がつかないのであった。




