作戦会議
一度八戸で一泊してから恐山へと進むことになった。
その晩、チーム長から打ち合わせの招集を受けて21時にホテル内の会議室へ集合した。
「現在起きていることについての詳細が徐々に入ってきているためみんなに共有しておきたい。」
モニターに映し出された地図には、現在すでに調査を行なっている八戸隊舎と下北隊舎の隊員の布陣図が書かれている。恐山周辺に見たこともない生き物が彷徨いていて、人を見かけると襲ってくるとの話であった。
「その生き物が最初に目撃されたのはいつですか?」
なぜか会議に参加していた怪狸が挙手をして質問する。晴明は慌てて腕を下ろせと抱きつくように制止させるが、珍しく晴明に従わず頑なに聞いている。チーム長は手のひらを突き出して怪狸の行動を自由にさせろと指示するので、晴明はおとなしく従うことにする。
「初めに確認されたの一昨日午後に観光客が目撃したという情報がある。現在は恐山神社の周辺1キロメートルを立入禁止区域に定めて対応している状態だと言うが…、それが何か重要なものなのかい?」
見た目幼い怪狸に対してイカツイ40前後のチーム長が近づいてきて質問する。もちろん怪狸が晴明の使役する管であることはここにいる全員が知っているため見た目通りの対応ではないのだが、ホテルの人が見たら流石に止めに入りそうな雰囲気である。
そんなことは関係ないとばかりに、怪狸は今回の件について詳細を話しはじめた。
「今回その怪異が発生している件から推察すれば、今から千年前と同じ状況が起きていると予想されます。通称『地獄の蓋』と呼んでいたのですが、この魔力の溢れる中心地に穴が開いていて、そこから怪異が溢れ出てきていると思われます。」
その話を聞いたチーム長は眉をしかめつつも自分では判断できないため、急いで副隊長に連絡をして事の詳細を説明しはじめた。その結果、怪狸の意見が通り、とんとん拍子でオンラインでの会議を行うことになったのだ。会議の参加者は隊長、副隊長とここにいる仙台からの帰宅組であり、怪狸が先ほどの続きを説明することになったのだった。
『SOUND ONLY』と書かれた画面からは副隊長のみの声が聞こえる。隊長はこの状態でも秘匿されるのかと思ったのだが、今はそれどころではない。怪狸は先ほどの情報、さらには千年前に自分が観た光景を説明しはじめた。
晴明はこんな話をすぐに信じる首脳陣が心配になったのだが、怪狸の話を聞きながら隊長と副隊長の間で何かを擦り合わせているようにも感じる。
怪狸の一通りの説明の後に、副隊長から質問が出た。
「まず一つ、千年前はどのように対処したんだ?」
もっともな質問である。晴明は怪狸から聞いて知っている。ドウジが命をかけて封印し、出てきた敵をアリスが殲滅したのだ。その封印方法については聞いてはいない。
「…残っているならば、封印の楔となる何かが、開きはじめている穴の周囲にあるはず…です。」
怪狸はチラリと晴明を見てくるのだが、ドウジの記憶を引き継いでいない晴明には楔がどれなのかも見当がつかない。もちろん封印現場を見ていない怪狸も同じであろう。つまり、現時点では楔となっているものについて調べようもないのであった。
結論、行ってみるしかない!ということである。
「では次の質問、穴の予想地点はどこになると思われるか?」
確かにこれについて分かるのであればピンポイントに急行できるため、対処は格段に速くなるはずだ。しかしすでに千年の月日が流れ、周辺も変化していることであろう。怪狸の記憶にもゴツゴツした岩、近くに海があるという情報だけであった。多分海というのも湖のことで、はっきりとした情報ではない。かなり曖昧な記憶が頼りなわけである。
怪狸からの返答があまり思わしくないため、これ以上情報が得られないと判断し『協力に感謝する』という一言で終わった。
あとは明日かな?と早々に退出しようとしたところ、なぜかチーム長に呼び止められて残れと言われた。
「キミにはまだ質問がある。」
無機質な画面から聞こえてくる声はどこか緊張しているような雰囲気を感じたのだが、相手の顔も見えない以上は気にしても仕方がない。
晴明、チーム長、怪狸のみが残されて会議の続きが始まった。
だが先ほどとは違い、どうも副隊長が質問をまとめてしているのではなく、隣にいる隊長の言葉を代弁しているようなのだ。つまりここからの質問は全て隊長からのみの質問ということになる。初めての邂逅が画面越しと言うのも残念だが、都市伝説のように語られる人物がそこにいるのは間違いないのだろう。少し緊張しながら質問に耳を傾けていると、とんでもない質問が飛んできたのだった。
「今のキミに封印はできるか?」
副隊長(隊長)から告げられたその言葉を、理解できないでいる。
(なぜオレ!?なんかしたっけ?)
あまりに身に覚えがなさ過ぎて、思考が停止してしまった。
(穴の封印は分かるが、それを一介の隊士1人が行う業務なのだろうか?なぜそれを呼び止められて聞かれている?)
晴明の頭の中には数多くの?が並ぶ。
一度落ち着こうと周囲を見渡すと、チーム長もどうやら何事か分からない様子である。目が合うと両手を広げて(分からん!)のポーズを取っている。こっちも分からん!
「…そっちは見えなくても、こっちからは見えているからその点は理解してくれよ!」
画面の向こうから副隊長のため息混じりの忠告がきて背筋が伸びるのであった。
「…この話を聞いても何も分からないということで間違いないね?」
副隊長からの質問の意図が読めないのだが、もちろん答えはイエスだ。封印の手段なんて知るわけがない。だが続けて指示を受ける。
「では明日、朝イチで私が率いる副隊長隊に合流して、湖を渡るルートで恐山の菩提寺西側からアプローチをかける。よろしく頼む。」
そう話して通話を切ろうとしたところですかさずチーム長が確認のために会話に入る。
「それは我々剣術大会予選参加組全員ででしょうか?」
年下に対して敬語で質問するチーム長にはまだ慣れないのだが、この状態で逆に質問するのはさすが!っとチーム長を褒めたくなる。
質問の筋も納得である。湖のルートということは船上であるため逃げ場のない危険な任務になるだろう。ここにいる遠征組全員が高レベルの覚醒者というわけではない。そんなメンバーを湖超えの高難易度ミッションに参加させるのには異論も出るであろう。何か意図があるのかと考えていると、画面裏で相談していたようで結論が出たようだった。
「蒼井隊士のみで結構!怪狸という式神ももちろん連れてくるように。」
そう指示して通信が切れてしまった。
(…ウソだろ!?)
晴明が愕然としている横では、ほっと胸を撫で下ろすチーム長がいた。結果自分の保身かよ!っとツッコミを入れたくなったが、目上に対して文句を言うわけにもいかない。もう絶対に心の中でも褒めたりしないと誓う晴明であった。




