合同剣術大会その9(決着)
(さすがに苦しくなってきた。だがあの少年だって同じはずだ!小学生の体でやれていて、高校生の俺がスタミナ面で負けていてどうする!!)
純一は何度も挫けそうになる気持ちを必死に上げて、晴明に打ち込んでいく。しかし、どんなに打ち込んでも紙一重で回避し続けるため、焦りも重なりスタミナが切れつつあった。純一の脳裏には一瞬の気の緩みから晴明の斬り返しにあって負けた奴の試合がよみがえる。それは予選での高山との戦いを見た時であった。
(あのとき、ほんの一瞬だけ高山の剣がブレた。そこを晴明くんは見逃さずに打ち込んでいた。今回も間違いなく狙いを定めているはずなんだ!…けど、いつ反撃してくるつもりなんだ?)
晴明はこの15分ほどの試合の間に純一に対して刃を打ち込んできたのは最初の攻防のときだけである。それ以外では回避で刀を合わせるくらいで反撃は一切してきていない。純一はこの事に一番危機感を覚えていたのだった。
(うーん…めちゃくちゃ手数が多くて懐に踏み込む隙がないんだよなあ。)
晴明は純一の攻め手に対して対処しながらも常に反撃を狙っているのだが、そのリーチ差の所為でなかなか踏み込めないでいたのだ。いつかバテるだろうと考えて持久戦を辞さない構えでここまで来たのだが、純一のスタミナを侮っていたらしい。
(普通はとっくに動けなくなってると思うんだけど、さすがは決勝戦の相手って事か。オレなら絶対もう動けなくなってるだろうなぁ。)
最小限で回避し続ける晴明と、重い刀を振り回している純一ではスタミナの減少速度は段違いであろう。だが目の前の人物は15分以上も振り込んできている。完全にスタミナオバケなのだ。
どこかで切り崩せないかな、っとお互いが考えながら消耗戦を続けているわけである。人の集中力の限界に達しつつある事を考えれば、どちらが先に糸が切れるか?という戦いになっていて、現在はは拮抗した状態なのだ。
開始から20分が経過した頃だろうか。先に糸が切れたのは晴明だった。回避を刀身で受け流すはずが、完全に受け流せずに受けてしまったのだ。純一の全力の一撃により、わずかに後ろへと飛ばされる。そのわずかがこの試合では命取りとなってしまう。純一はその瞬間を逃さないように一歩、二歩と前進しながら連続で打ち込んでいく。ここにきて完全に純一のペースで試合が続いていく…ように見えたのだが、純一が気がついた時にはすでに晴明が背中に回り込んだ後だった。
晴明の刀が首の後ろに当てられてすでに試合は決している。純一はどこで判断を誤ったのだろうか。それは必要以上に踏み込んだ一撃であろう。であるならばチャンスと見て打ち込んだことを考えれば、ミス自体が誘いであったと考えるのが妥当である。
「…まさか先ほどの受けの失敗は誘い込むためワザと…だったのかい?」
純一は晴明に確認するように質問をしてみる。
「懐に入る隙がなかったので、開かないなら後ろに回り込む以外無いですからね。」
肯定と取れる回答だ。確かに辻褄も合う。体格差がある相手には懐に入って来なければ打ち込む事はできない。だからこそ純一はあえて外から晴明に打ち込み終始試合の主導権を握っていたのだが、わざとミスを犯したように見せかけて、踏み込んだ隙に背後に回り込むなど本当に人間が成せる芸当だろうか?しかし目の前で見せられてしまえば納得せざる得ないだろう。
試合終了の合図が鳴り、会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こっている。
純一は目の前の小学生との実力差を痛感するのであった。
「お疲れ様!すごい試合だったね。」
会場内で観ていたさくらが声を掛けてくれた。
「ありがとうございます!少し時間が掛かってしまったのが反省点ですけどね。」
晴明のその『勝つのは当たり前』と言いたげな口ぶりについ質問してしまう。
「その言い方だと、今度はもっと早く決着を付けられるって事かな?」
その質問にも晴明はにこやかに頷くだけである。
小学生で優勝とか沖田友世という人物がいるせいで麻痺してしまい誰も不思議に思わないのだが、実際は友世が異常なのだ。だが今回異常な人物が増えてしまった。パワーもリーチの長さも違う相手に常勝し続ける小学生が同年代に2人もいる確率を考えると天文学的であろう。
今も目の前で妹のあかねに絡まれて困った顔をする小学生の男の子を見ながら、沖田友世という天才とどちらが強いのかと思いを馳せてしまうのであった。
純一が会場を出たところで高山が待っていた。
「どうだった?あの少年のヤバさがわかっただろ?」
「あんな小学生がいることが今でも信じられないんだが、彼を知って納得するしかないんだよな。本戦優勝の沖田もどんなバケモノなのか知りたくなったよ。」
高山は晴明を先に知る、被害者の1人である。予選で当たったのは不運であろう。純一は高山が小学生相手に手を抜いたから負けたと考えていたのだが、決勝戦を経験した事で考えが180度変わってしまった。
純一は晴明との試合前に小学生に負けるはずがない、負けられないと気を引き締めていた。しかし晴明と対峙して、自分の未熟さを知って考えが変わったのだ。
「なんとか敗者復活戦で抜けたから本戦に進むことができるよ。せっかくだから、俺か丸山のどちらかが沖田と一戦交えてみたいもんだよな!」
高山は決して弱くはない。予選で晴明とさえ当たらなければ悠々本戦への切符を手に入れていたことだろう。だがこのようなスーパールーキーが出てくると、予選大会が荒れるのだ。そのため本戦へのシードは誰しもが欲しがるのである。
「…せっかくだからメシでも食いながら反省会しないか?」
純一は同年代のライバルと親睦を深めるべく誘うと、高山は少し驚きながらも笑顔で承諾し、沖縄の本戦への想いをぶつけ合うのであった。
晴明達遠征組はその日のうちに青森へと帰宅する。もちろん来た時と同じく全員で車移動である。
あかねは敗者復活戦でも敗退してしまったそうで、晴明と沖縄に行けない事を悔やんでいた。いつに間にか懐かれた一つ下の同期の女の子から沖縄のお土産をねだられ、お土産の受け渡しを口実に連絡先の交換をさせられて、渡された大量の仙台土産とともに帰宅している。
(さすがに疲れたな。先週はもう一日仙台でゆっくりしてから帰ったけど、今回は試合終わりに直帰りだからなぁ…。)
隣で口を開け、端からよだれを垂らしながら幸せそうに寝ている怪狸に膝掛けを掛けてやる。
明日学校とか地獄だろ!などと考えて、体力温存のために一眠りしようとウトウトし始めていた時であった。
助手席に座る今回の遠征チーム長の電話が鳴り、事態が急変したのである。
「これから緊急任務に移る。行き先は弘前ではなく下北、恐山だ。」
車内がざわつく。一体何が起きたというのだろうか?チーム長に確認したが、『集合せよ』との指示を副隊長から受けただけで詳細を聞かされていないという。
晴明以外の一番隊のメンバーですら緊急任務なんて今まで一度もなかったそうで、余程のことではないかと緊張が走っている。
本隊と連絡を取りながら集合場所等を確認するチーム長をよそに、晴明は焦っても仕方がないと状況把握のみに徹していた。
(本隊もバタバタしていて正確な情報が今は得られなさそうだし、行ってみないと分からないなら今はやっぱり体力温存だな。)
と晴明が達観してまたウトウトし始めた時、怪狸が神妙な面持ちで話しかけてきたのであった。
「晴さま、地獄の蓋が開きはじめています…。」
剣術大会予選会はとりあえず一区切りです。
やっと少し本編に触れるエピソードに移れます!正直こんなに長くなるとは書いていて思わなかった…。
次回から地獄の蓋調査編が始まります!




