表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/55

合同剣術大会その8(予選決勝)

決勝戦当日である。

普通の人であればかなり緊張していてもおかしくはないのだが、晴明はその辺りは飄々(ひょうひょう)としていていつも通りブレたりはしない。朝食もいつも通り食べて、時間通りに会場に入る。しかしこう見えて気合は十分である。一緒にきた一番隊のメンバーが応援してくれて心強いと感じているし、なにより憧れの姫(友世)はさらに上にいる。ここで負けるわけにはいかないという思いは強いのだ。


決勝は10時開始のため、観客が続々と入ってきた。動画配信サイトでも生放送を行なっており、みてはいないがきっと携帯にはバンバンメッセージが来ているのだろう。それを見越してかはわからないが、昨晩友世からメッセージが来たのである。そこには『絶対に負けるな!』と『期待してる。』と書いてあった。そんなメッセージをもらっておいて負けて帰ったら会わせる顔がない。絶対に勝たなければならないのだ。

対戦相手も対面の自陣に入ってきた様だ。晴明は一人で入場しているのだが、向こうには付き人がいるようだった。今までも何人かは付き人とともに入場してきたのだが、晴明は疑問があった。

(必要か?むしろ狭いところに二人で詰める方が嫌じゃね?)

そこは人それぞれだが、誰しも一人で戦うのが平気なわけではない。側にいてくれるだけで安心するものなのである。いつも飄々(ひょうひょう)としている晴明には無用の長物ちょうぶつというだけなのだった。


審判にうながされ、お互いが会場内で向き合う形になると、期待感から会場内で拍手が起こった。近づくと確かに大きいと感じる。拍手が徐々にどよめきへと変わっていったのは、その体格差からであろう。

「よろしくお願いします!」

晴明が先に丸山にあいさつをすると、丸山もにこりと笑いかけながら握手をしてお互いが称え合う。近づいて握手したことで、さらにその身長差が際立ち大きなどよめきとともに拍手が起こったのだった。

(もしかすると高山さんより大きいかもしれないな。)

晴明はすでに180超えの高山と試合をこなしているため、今回の勝敗に対する評価は晴明の方が高かった。しかし勝負事はやってみるまで分からないものだ。

(まずは様子見かな。相手の出方を見たいし。)

晴明は早期決着ではなく、相手を観察してから勝負することが多い。実は決勝戦の昨日の3試合は全て開始からすぐに飛び出して、一撃の元に決めてきた。かかった時間は3試合合計でもたった1分程である。これは決勝戦を見越した攻めであり、相手は間違いなく晴明が飛び出してくると考えて、それを崩す作戦を考えていることだろう。昨日の三試合で仕込みはできたということだ。


「これより弘前隊舎所属蒼井晴明対、仙台隊舎所属丸山純一(まるやまじゅんいち)の決勝戦を始める。礼!」

丸山さんの名前は純一なのか、と悠長な事を考えていたところ、『始め』とともに丸山が一直線に晴明に向かって突っ込んできたのである。あまりに一瞬のことで晴明は対応が遅れたのだが、丸山の右からの斬り込みを刀で受けてそのままいなしてから、逆に下から潜り込むように相手の右足を取りに行く。

(貰った!)

と晴明が確信した時、いなした力をそのままに身体ごと一足飛びに回避したのだ。さらに一回転でんぐり返しをした後に晴明の周りを時計回りにぐるりと回ったかと思えば、攻め手を止めずに次々と打ち込んでくる。右から左へと縦横無尽じゅうおうむじんに駆け廻りながら打ち込まれるため、晴明も攻めあぐねることとなってしまった。まさに一瞬の判断が命取りの状態なのだが、防御も御手おての物と全てを回避して行く晴明に流石の丸山の手も止まったのである。

息を呑む展開に観客は息をする暇も無く、お互いの手が止まった瞬間にふーッと息を吐きだすための静寂が生まれ、その後大きな歓声が上がったのである。

(危なかった…。完全に油断した。読み合いでは負けちゃったな。)

晴明は始めの立ち回りの不味さに対して反省をしながら、次の展開を考えることになる。よもや意表をつかれる側になるとは思ってもいなかったため、完全に短期決戦のつもりだったのだ。


純一は試合前からすでに相手をじっくりと観察して、熟知するところからが試合であると考えているタイプである。それが小学生で体格差があるという、かなりアドバンテージがこちらにある相手だろうが変わらない。もちろん晴明の前日の試合も見ているし、決勝が決まった後には観られていない晴明の試合について調べてもいた。

だからこそ、純一は気がついたのだ。晴明は大事な一戦であるときは必ず相手の剣を()()()()()に観察して対応して行くということを。

(小学生と舐めてかかるから、沖田友世に優勝を持っていかれるんだ。俺は誰に対しても油断しないし、負けもしない!)

四番隊として参加する最後の大会になる。

箭内隊長と一緒にいられるのも後わずかなのだ。

昨年はこの大会で高山に負けて悔しい思いをした。

だからこそ、この一年辛い稽古に励んできた。高山は幼少より剣道をやっていたようだが、純一がやってきたのは野球である。竹刀なんて握ったこともなかった。能力が開花してから野球ができなくなったが、代わりに剣術を始めて打ち込んだ。高校入学前に箭内隊長に見い出されて昇格審査を受ることになり、四番隊本隊に昇格したのだ。それまではプロを目指して頑張っていた野球が奪われた事以外は、順調だったと言える。だからこそ、昇格後すぐのこの大会での挫折が今でも忘れられないのだ。

(今年は必ず優勝して本戦に行く!高山にもリベンジして、本戦優勝を箭内隊長にプレゼントしてから隊を移動する。)

今年の目標として純一はそう心に誓ったのだ。

(晴明少年は頭が良い。わざわざ決勝戦までは早く決着を付けたのも、俺への対策ということだろう。であるなら俺が最初にやるべき事は決まっているな。)

初手は逆手を取って攻め続けると決めた。一度決めたら決して曲げない。ワガママとも取られるような考え方であるが、決めた以上はブレずに迷う事なく勝負ができる。そういう強さを持つ男が丸山純一という人物なのである。


開始からすでに15分ほどが経っているのだが、どちらも引かずに一本の旗も上がることもない展開が続いている。観ている観客が固唾を飲んで見守り、応援する歓声も『おお〜。』という声へと変わり、会場全体がこの試合にのめり込んでいる。

(もう息が苦しい。観ているこっちが苦しいとか、試合をしている二人はどうなっているわけ!?)

観客席で見守るあかねは拳をギュッと握って見つめているが、いつお互いの剣が相手に刺さり、試合を決めてもおかしくはない展開に呼吸が荒くなるほどに飲まれていく。張り詰めた空気に耐えられなくなり目を覆いそうになってしまうが、晴明の頑張りをしっかりと目に焼き付けるようと懸命に拳を握って頑張っているのだ。

(わたしがこんなに頑張って応援してるんだから勝ちなさいよ!!)

晴明を陰から応援する気持ちが怨念おんねんへと変わっていってるような気もするが、あかねなりに気を送るのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ