白虎隊幼少隊その1
初期の拙い文章を直しています。特に設定等は変更されていません。
検査を終えた後は普通の小学生として授業を受けることになる。正直落ち着きには定評のある晴明であっても、あの検査の後で授業に身が入るほどできた人間ではない。転校初日ということもあり、朝のSHRで自己紹介をさせられて授業に移ったのだが、流石は小学生である。転校生に強い関心で寄ってくるものだから、休み時間中は質問攻めでややグロッキーになってしまった。おかげで朝の出来事が忘れられたことには感謝している。
給食の時間も終わり、いつの間にやら落ち着きを取り戻したクラス内で、ケイジという高身長で髪の毛をツンツンと立たせたヤツが話しかけてきた。
「この時期に急に転校してくるってことはキミも覚醒者なんだろ?」
キミもということは、このケンジ少年もとういうことなのだろう。ちょっとカッコつけながらだったため笑いそうになってしまったが、ケイジは至って真面目にやっているようだったため、笑いをグッと堪えて応対する。
「このクラスには他にも同じ境遇の人がいたりするの?」
この青森県内で白虎隊の支部があるのはここ弘前の他は八戸とむつの2つだけである。つまり学校で能力測定が行えるのは、地域の学校と白虎隊の連携が取れているからであろう。であるならばクラスもそのような配慮のもとに振り分けがなされている可能性を考えたというわけである。
「このクラスの3分の1はそうかな?関係者は各学年の1組に集められてるよ。力の強さに違いがあるから訓練で一緒になるやつは学年をまたいで顔見知りになるな!」
予想通りの回答がきてニヤけてしまいそうになるがそこはグッと我慢する。大体各ブロックに隊長2〜3名が配属されており、ここ弘前には一番隊隊長がいる。まさにお膝元というやつなので、他の支部よりも覚醒者が集まりやすい。クラス内の比率も、他の支部に比べれば高いのだろう。まあ、その一番隊隊長様は正体不明で未だ表に出てきていないのだが。
「…ちなみにケイジの力は強い方なのか?」
覚醒者にはレベルというものが測定されたときに振り分けられる。強い人は将来有望だろうが、弱ければ暴走しないように訓練を行い、その後は特に何も無いのである。
実は目の前のやたらとフレンドリーな同級生がどの位置にいるのかなんて別に気にはならないのだが、話題をふらないと話が続かないと思い聞いてみる。しかし力の強さを聞くのはセンシティブな部分なのではないかと、聞いた後に少し考えてしまったが、その後のウザいドヤ顔を披露するケイジをみてその考えは無かったものとした。
「俺は幼少隊の第一隊にいるぜ!ちなみにこいつもな!」
幼少隊とは聞きなれないが、第一隊はケイジの態度を見る限り上位の隊なのだろう。《白虎隊の下部組織として幼少隊と呼ばれる子どもたち専用の教育機関があり(U18までは幼少隊となる)、第一隊から第五隊まである。もちろんケイジが参加する第一隊が上位者を教育する隊なのであるが、実力が認められれば年齢に関係なく隊長付きの隊に入ることになる。》
隊長は現在全部で15名となっており、一番隊は北東北3県、つまり青森秋田岩手を任されている。その3県から多くの子どもたちがここに集結してきているというわけである。もちろん子どもにとって弘前への越境留学が絶対ではないが、サポートも充実しているため、親が付き添いながら集まる傾向にあるのだ。
「急に後ろから来るなっていっつも言ってるだろ!」
ケイジに勢いよく肩を組まれて引き寄せられたメガネをかけたイケメン少年がキレている。胸に付いたネームプレートを見る限り陸斗なのだろう。ケイジがデカいせいで陸斗は小さく見える。いや実際にクラスでも背の順に並べば前の方なのだろう。
「晴明だっけ?ケイジがウザ絡みしてるようで大変じゃなかったか?」
「ウザさはあるけど有益な情報が得られたからプラスかな」
ケイジは『えっ!?』とショックでうなだれている。まったくいじりがいのあるキャラである。
「検査結果が出る前の段階でこんな話題を振るあたりがケイジらしいというか…。だから配慮が足りないっていつも言ってるんだよ。放課後までドキドキで何にも手がつかない奴もいるってのにさ!」
どうやら陸斗はケイジの世話係の様である。いつもってことは相当やらかしているらしい。
「でもな陸。晴明って結果発表前なのに凄く落ち着いてるから、隊に無関係か大物かのどっちかだろうと思ってさ。この感じは大物ってところだろ?きっと同じ第一隊メンバーに入ると思うんだよ。」
なるほどケイジは案外鋭いタイプなんじゃないだろうか。態度から推察するあたりはさながら名探偵である。そしてその推理も大物というところ以外はご明察ではないか。晴明はケイジを尊敬するような眼差しで見た瞬間。
「無関係者だったらむしろ初っ端で失礼だろ!この時期の転校生ってだけで、他に関係者って理由がないじゃんか?カッコつけて『キミも覚醒者なんだろ?』とか外した時恥ずかしすぎるだろ!!」
陸斗のもっともな意見を聞いた事で考えが180度変わってしまった。うむ、やっぱりケイジはポンコツの様である。まあ今回は大当たりを引いただけの様だ。
ケイジは真っ当な意見にぐうの音も出ない。晴明も尊敬の眼差しを一瞬でも向けた事を後悔し、すでに無かったことにした。
「晴明も放課後は隊舎に行くんだろ。折角だし一緒に行こうぜ!」
陸斗の爽やかなイケメンスマイルで誘われては頷くしかあるまい。ややケイジが不憫ではあるが、今は放って置こうと思うのであった。
学校から徒歩で10分ほどの場所に白虎隊の支部隊舎があった。
「おはようございます!」
放課後なのにおはようというのも何処か業界地味ているが気にしないでおく。同じように挨拶をしながらクラスメイトに続いて中に入る。まだ時間が早いからか小学生以外いないようだ。
「晴明くんはこちらに来て下さい。2人はいつも通り道場へ。」
ケイジと陸斗はランドセルを置くと道着に着替えて道場に進んで行った。訓練がどんなものか聞いておくのを忘れたなとぼんやり考えていると、朝見たお姉さんと見るからにエライ地位にいそうな50歳位のコワモテのおじさんがやってきた。もしかすると正体不明の一番隊隊長様はコワモテを気にして人前には出られないんじゃないのか?など失礼なことを考えながら道場脇を通り過ぎて進むと。
「晴明くん、お母さんもすでに来ていて中で待っているよ。」
コワモテさんにそう言われて道場脇にある建物の奥へと通された。応接室の中には困惑気味の母の顔が見えた。どうやら朝の結果は無視できない程度には高い数値を出したのであろう。この空気感を感じれば、どんなアホでも察しがつく。
……一瞬、晴明の頭にはヘラヘラしたケイジの顔が思い浮かんだのだが、ムシしておくことにした。
応接室のソファーに座った母の隣に座ると、向かい合わせにコワモテのおじさんが座った。
「先にお母さんには説明させてもらったのだけども、晴明くんの結果について突飛な事がわかったので伝えておくよ。」
コワモテの男性、改め佐々木さんが笑顔で説明を開始してくれた。正直テーブル越しとは言え膝を突き合わせて話すのには威圧感が半端ない。だがそこは我慢して聴くことに専念する。どうやら検査での光の強さの問題だけではなく、色の部分が問題のようである。
色はその属性を表し、赤なら火、青なら水のように表される。実際念動力のような力でもオレンジ色になるようだが、晴明のような白はレアケースであり、何の属性かも分からずにいるという事である。実際に何人かは白の判定を受けているが、能力として大成できたのは一番隊隊長様だけという事らしい。もしかして一番隊隊長が謎だらけなのは、その力が不明だから公表できないのか?と晴明は力そのものよりも、自分と同じ能力と聞いたことで親近感が湧き、隊長の正体が気になってしょうがないのだが。
「晴明は結局どんな訓練を受けることになのでしょうか?」
不安そうな顔の母親がおそるおそる質問をする。やはり子どもの行く末が心配のようだ。もちろん経験的にも説明し慣れている佐々木さんは笑顔を崩さずにゆっくりと説明してくれた。
白虎隊・新撰組ともに精神を鍛えるために剣術を取り入れている。精神を鍛える理由はもちろん自分の力を抑え込み、暴走させないようにする為である。それについてはテレビなどでも特集され、稽古の様子が映されていた。隊士が帯刀して見回りに参加するなど世間一般にも知れ渡っている情報なのだ。しかし能力訓練がどのように行われるかなどは一切触れられていない。秘匿性が高いものなのかと身構える気持ちもわかるのだが、実際は地味でメディア映えしないため映らないようだ。おおまかには、精神統一からの自分の能力についての理解、コントロールまでが訓練とされる。火属性の覚醒者が10人いたとして、実際指先から炎が出せる人はそのうち3名程度と言うわれるため、テレビ的には地味過ぎるのだろう。つまり出せないなら出せないなりの訓練を受けることになるのである。
「晴明くんは白認定だから、とりあえず精神を鍛えるところを重点的に行いましょう。能力については現時点では分かりません。ただ異常に高い数値は示しているので暴走だけは気をつけないといけないため、あまり熱くならないようにだけはしてくださいね。」
鬼ごっこなどで白熱してもダメなのかな?と小学生らしい思考を巡らせていたが、自分の力の大きさに気がつくまでにそう時間はかからないのであった。
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