合同剣術大会その5
晴明は一瞬の行動を見逃さなかった。
あかねが刀身を守るために鋒をずらしてきた瞬間、あかねの腕を持ち背負い投げを繰り出したのだ。もちろんそのまま投げてしまえば背中を強打してしまう可能性がある。そこで180度回転しながら重力を分散し、あかねの上に跨って刀を喉元に当てたのであった。ごねる前に、身動きを取れなくして審判に旗を上げてもらおう作戦である。
晴明の思惑通り、審判が勢いよく赤い旗を上げてる試合が終了した。晴明の下であかねが肩で息をしながら、眼を見開いて驚いた表情になっている。晴明はスッと立ち、刀を鞘に収めると、まだ仰向けのまま身動きをしないあかねに手を貸して起こしてあげるのであった。
そのお互いを称えるフェアプレーに観衆からの鳴り止まない拍手が起こるのであった。
ちなみにあかねは自分で立てなかったのではなく、自身の上に覆い被さるように晴明の顔が近かった事を思い出して、ほおに手を当てて顔を真っ赤にしていたのである。
「剣も達者とかやっぱりすごいね!うちに来る気ない?」
あかねとともに試合会場から出てきた晴明に、黒坂が試合後に話しかけてきた。
社交辞令でも嬉しいなあと、晴明は黒坂からの言葉を『ありがとうございます』の一言で流すしてしまう。その晴明の自己評価の低さを感じ取り、黒坂はいつもの苦笑いをするのであった。
晴明の顔をまだ見れないあかねであったが、黒坂とともにやってきた姉の顔を見ると駆け寄って抱きついた。さくらは妹の頭を撫でながら労っているようだ。姉と2人でいる時のあかねは年相応の少女である。普段のあかねは必要以上に責任を感じて周囲に対しても大人顔負けの振る舞い方をする。しかし同年代の晴明に負けた事で、その重荷を少し下すことができて角が取れたような振る舞い方に変わったようだ。
さくらが晴明に声をかけてくる。
「ありがとうね。晴明くんと試合ができてあかねもいい経験になったよ。」
さくらの背中に隠れるようにして首をコクコクと縦に振るあかねに晴明もホッとした。正直あかねとの初めの対面が悪かったこともあり、あかねの性格を晴明は誤解していた。そもそものあかねは真面目で曲がったことが嫌いな正義感に溢れる少女なのである。
埼玉の昇格試験で晴明が活躍できたのは、たまたま目の前に暴走者が現れたラッキーボーイという噂があり、あかねはそれを鵜呑みにしてしまった訳である。今回の大会により、実力があるからこその活躍であったと理解した事で、あかねの晴明への評価はうなぎ登りなのである。ただ元々が素直になれないため、直接晴明への謝罪などできないのだ。
(あかねとも友好的になれて良かったな。同期と呼べる仲間もいなかったし、いい友人関係が築けると良いんだけど。)
晴明にとっても同年代で同じ任務に就く仲間という意識は高い。実際小学生で一人任務に赴くのは心細いわけで、気軽に話せる相手ができるのは素直に嬉しいのである。
「晴明くん。今日の夜は暇かな?せっかくきた黒坂隊長と食事でも行こうって話していて、あかねと晴明くんもどうかなって話していたんだよね。もちろん奢るよ!牛タンだぞ〜!」
さくらからのお誘いを受けてもちろんOKなのだが、その傍にいるあかねは大丈夫なのかと聞いてみると、『良いに決まってるでしょ!』っとそっぽを向いて答えてくれた。本当は夕方のバスで帰宅予定だったのだがキャンセルする事にして、駅まで迎えにきてくれる母親に連絡を入れる。思わぬ仙台観光が決定してしまった。
「わたしは一緒ではお邪魔ですか?」
ふと肩に重みを感じて振り向くと、右肩にタヌキの姿のまましがみつく怪狸の姿があった。多分昨日の昼に食べた牛タンを気に入っていたのでせっかくのチャンスにご相伴を預かろうと出てきたようである。まったく図々しい従魔である。
「何この可愛い狸!?晴明くんの従魔なの?」
さくらが気付いて怪狸を覗き込むようにして見つめている。その傍にいるあかねも興味津々だ。
「お初にお目にかかります。わたしは晴様の右腕である、管の狸、怪狸と申します。以後お見知り置きを!」
晴明の方からスチャッと降りて丁寧に挨拶をする。箭内姉妹はその姿にサル軍団の芸でも見ているかのように拍手してはしゃいでいる。
(うーん…もしかして青森と違い、宮城で狸は珍しいのか?)
別にタヌキが珍しいからはしゃいでいる訳ではない。そもそも従魔自体が珍しいのだ。晴明は前世の陰陽師からの従魔契約であるが、普通の人からすれば怪異を使役するなど無理である。それになかなか怪異と出くわす機会もないため、調教師や召喚士としての能力を身につけた人は犬猫の話す言葉がわかる程度なのである。まあそれも犬好き猫好きの人は喉から手が出る欲しい能力なのだ。
「こいつはいつも色々と手伝ってくれてるので、今回は息抜きとして連れてきたんですよ。他の従魔と違って見た目で害もないですし、慰安旅行的な扱いですね。」
そう晴明も怪狸を紹介したのだが、すごく真っ当な質問が飛んでくる。
「管って普通はキツネなんじゃ無いのかい?」
黒坂からの素朴な疑問に素直に答えても良いものか思案する。キツネは前世の父親の管で、怪狸とは前世からの付き合いです、などと説明してもわかってくれる気がしない。と言うよりめんどくさい。そんな事を考えていると、怪狸がこれまた余計な事を話してしまうのであった。
「いまさらキツネなんかに晴様の右腕の座は渡しませんよ!晴様とは前世の幼少時からの主従ですからね!」
まったく、おしゃべり狸は後でお仕置きです!っと盛大なため息をつきながら思う晴明であった。
怪狸のお陰で、黒坂隊長や箭内姉妹に前世について根掘り葉掘り聞かれる事になってしまった。山盛りの牛タンを目の前にしてご機嫌の怪狸は前世の回想話を披露し、その後は晴明への質問タイムと目白押しなのであった。晴明の陰陽術に黒坂、さくらはかなり興味深く聞いてきて、符術もいくつか披露する事になったのは言うまでもない。あかねだけはアリスについて怪狸に詳しく説明を求めていたようだが、正直今どこで何をしているのかも分からないのでこれ以上説明のしようもないのが現状だ。
「なるほど!だから遠い別々の場所に暴走者が現れても対処が可能だったわけか!」
晴明の能力に黒坂は感動してくれた。と同時に晴明が能力検定で白認定を受けた事を知り、何かメモを取り始めている。
「メモなんかとってどうしたんですか?」
さくらが黒坂の行動を不思議に思い聞いてみる。
黒坂は少し照れながら教えてくれた。
「実は大学で能力者について研究していてね。大学院への進学も決まっているんだよ。学士での研究テーマが様々な能力についてのまとめとかだったんだけど、修士ではさらに掘り下げて認定色をテーマに考えているんだよ。そしてあまり知られていないのが『白認定』ってわけ。能力がはっきり判明している白認定者って世界中探しても珍しくて日本で2人しかいないんだけど、その2人揃って白虎隊の一番隊にいるからさ。晴明くんには今のうちに聞いておこうと思って。」
日本に2人しかいない白認定者とはもちろん晴明以外では一番隊隊長である。その隊長の能力を晴明はまだ知らないわけなのだが、晴明の能力を聞いて黒坂には何かひらめきのような物があったのだろう。
「それで?何か研究に活かせそうな情報が手に入ったってわけ?」
さくらがメモを覗き込みながら興味深そうに聞いてみる。晴明からすれば、白認定自体が珍しい上に、能力がハッキリと使えるほど強い力を持つ白認定者はさらにその数パーセントと少ない。そんな情報の需要があるのかと疑問に思うのだが、自分の事となれば知りたいのである。
「まだ過程の話だぞ?もっと事例を集めて調べないと分からないんだけど、俺たちの力には種類があるんじゃないかと思ったんだよ。」
その言葉にそこにいた全員が頭にクエスチョンマークが浮かんだ事だろう。なぜならさくらであれば治癒能力、晴明ならば陰陽術と種類がある事は皆知っている事実だからだ。
その様子を見て黒坂は右手で頭をかきながら説明するために言葉をチョイスして詳しく話してくれた。
「…つまりはだ、俺たちの持つ力は大きく分けると『超能力』『陰陽術』、そして『魔術』に分類されているんじゃないかって事。色が出てくるのは『超能力』で、そもそも自分の体内から出る力が元になっているから色が出るんじゃないのかって考察したわけよ。つまり白認定者は自分の体内から出る力以外を使う能力者なんじゃないか?って考えたわけ。」
なるほど、一理ある考察である。世の中の能力者は一人一つの能力を与えられたと認識している。だが晴明はどうだろうか?調教師や召喚士のように従魔を使役し、発火能力のように火を使う事もできる。もちろん水や雷も使える言わばなんでもあり状態なのである。周りの人に言わせればチート以外の何ものでもない。
「力の源みたいな物が違う可能性もあるんじゃない?例えば魔力とか霊力?みたいなものとか。」
さくらは黒坂の話からさらなる可能性の話をする。確かにそれも一つの可能性としては考えられる。認定時の色が何に反応しているのかが分からないので力の種類と言われても納得なのである。
すると黒坂はアゴに手を当てながら考えて動かなくなってしまった。あれでもないこれでもないと考えを巡らせているのだろう。まあここで結論が出る話ではない。
そこで晴明は今までの話を聞いていて素朴な質問をしてみる事にした。
「魔力って使える人がいるんですか?」
すると黒坂とさくらが顔を見合わせてから少し悩んで教えてくれたのだった。
「あなたのところの隊長だよ。」っと。
本当は一日一話を目指していたのですが、中々時間も取れずに難しいですね。
最近は夜早くに眠くなってしまい、気がつくと文章がガタガタになっていて直すのに時間が…。
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