合同剣術大会その4
晴明は自身の刀の手入れをしていた。刀身は自分の能力で補われることが多いため、今回のように刀自体に力を入れることが禁止されている場合は消耗品である。普通は刀身の方がメインで鍔や柄を替えるのが普通だろうが、柄に自分の能力を貯めることができるこの刀にとって、刀身など形だけである。試合中に打ち合いポッキリと折れてしまう参加者も多くいるのだ。その場合はもちろん『武器破壊』となり、折れた方の負けである。
(まあオレは一度も変えたことないんだけどね。)
晴明はこの刀を渡されてからは一度もどこのパーツも変えたことはなかった。自分に剣術の指南をしてくれていたじいちゃんからの物は大事にしなさいとの教えをずっと守っていたため、自ずと身体に刀を折らないような抜き方が染み付いているのである。
午後は箭内あかねとの対戦になる。間違いなく全力でぶつかってくるだろう。
高山との試合後にあかねに会ったのだが、どうも様子がおかしかった。今までの感じであれば罵ってきたり調子に乗んなとか言われそうなものなのだが、むしろ何も言わずに顔も背けたまま『おめでとう』とだけ言ってそのまま何処かに行ってしまった。
(トイレでも我慢してたのかなぁ…。)
晴明はデリカシーの足りないことを考えながら、次に向けて着々と準備をするのであった。
晴明が刀の手入れをしている同時刻、箭内あかねはまだ戸惑っていた。晴明の戦う姿は美しく、カッコいいと思ってしまったのは事実である。だがこれは恋愛感情なのかは甚だ疑問である。憧れのような気持ちがあるのは認めるが、それは本当に恋心が混じっているのか自分でも分からない。これまであかねは異性の誰に対しても恋愛感情を持つことはなかった。むしろあかね自身が周囲の男子から好意を持たれることが多く、周りの反応にもうんざりしていた。つまり憧れの存在は同性である姉だけであり、そして目指すべき相手なのである。姉以外で初めて現れた憧れた人、しかも異性の存在にむずむずして落ち着かない。
(もーっ!なんなのよこのモヤモヤした気持ちは!!これから対峙する対戦相手なのに…ってこの状態で向かい合うとか無理じゃない!?)
周囲はあかねが頭を抱えて一人で百面相している姿を見て、そっとしておこうと決めたのであった。
午後2時。いよいよ晴明とあかねの直接対決が行われることになった。
午前中の晴明の試合を見た観客がリピーターになり客席が賑わってきた。今度はどんな剣技を見せてくれるかと周囲は期待に胸を躍らせている。
そこに箭内さくら隊長がやってきたことで空気が一変した。晴明の勝ち方を観にきた観客の席に、対戦相手の身内である隊長が座ったのだ。下手なことは言って逆鱗にでも触れたら怖い。
そんな周囲をよそに、会うたびいつもさくらをイジる奴があらわれる。
「いよいよあかねちゃんと晴明くんの試合が始まるね。あかねちゃんはすでに一敗してしまっているけど、気持ちの整理は付けられたのかな?」
さくらは背後から急に話しかけられた声色からその声の主に気がついてヒュッとなる。声の主は六番隊長の黒坂であった。
「来てたなら先に声かけてよ!びっくりしたじゃない。」
目の前に急に現れた黒坂に背を向けて髪の毛を軽く整えながら悪態をついてみる。
驚くのも無理はない。予選に隊長がわざわざ顔を出すのは珍しい。隊長は例外なく本戦からの出場になるため、多忙の身でありながらわざわざ予選会に顔を出す必要はないからだ。
年上の隊長に対して周囲から見れば失礼になるんじゃないかと思われるかもしれない。しかしさくらは黒坂からいつも何かしらでいじられて、膨れっ面を見せている。このやり取り自体があいさつみたいなものなのだ。しかもこの二人は年齢が5個ほど離れてはいるが、入隊と隊長昇格時期は一緒であり同期と言える。またこの場には来ていないが、一番隊隊長も同期で仲の良い三人組なのであった。
「うちの隊のエース候補がどんな試合をするか観に来たんだよ。ついでにあかねちゃんとこの間活躍してくれた晴明くんが出るって言うからいい機会だと思ってさ。」
(…こいつもしかして暇か?)
さくらの考えはどうやら顔にも出ていたらしい。黒坂は苦笑いする。
「他のヤツらと違って就職活動はしなくて済むけど、卒論とか諸々やりながら任務にも出てるんだからたまにはいいだろ?」
暇じゃないアピールをされても、現時点でここに来られているということは『暇』なのだ。
さくらはツンっとしながらもせっかく来た同期に対して夕ご飯のお誘いをするのであった。
あかねは目をつぶり、大きな深呼吸をして集中力を高めていた。
先ほどの試合を見る限りでは、間違いなく自分に勝ち目はない。一本も取ることはできないだろう。晴明は同期の中でも、…いや間違いなく白虎隊の中でもトップの存在だろう。せっかくその胸を借りることができるのだ。この晴明に対する説明もできない気持ちは一度置いておいて、このチャンスを活かす事だけを考えよう。そんな子供らしからぬ考えを持てゆっくりと目を開けながら、対戦相手である晴明をみる。
「さあ!思いっきりやり切るぞ!」
パシンッと両手で左右の太ももを叩いて気合を入れ、挑戦者といて向き合うのであった。
対する晴明はあかねに対してどのように試合を進めるかを模索していた。一撃入れるのはマズイ。アザになりかねないし、万が一間違いがあって顔にでも当たってしまったら大変だ。ならば高山戦のように当て身しかないのだが、当て身を受けて納得してくれるものだろうか?負けず嫌いな性格であれば引かずに打ち込んでくるだろう。そんな事を考えていると審判から整列の合図がかかった。
「これより弘前隊舎所属の蒼井晴明対、仙台隊舎所属の箭内あかねの試合を始める。礼!」
始めの合図とともに一足飛びであかねが突っ込んできた。晴明はすかさず抜刀して半身の刀であかねの右払いの太刀を受ける。あかねは一撃振り込んだ身体をそのまま一回転させてながらしゃがみ込み、右足を狙って斬り払いに行く。晴明はあかねの初撃の勢いを活かして後方に宙返りしながら抜刀して二撃目を避けた。着地を右足一本で行うとあかねの払いが過ぎた瞬間に左足を一歩出して上段から打ち込んだのだ。あかねは身体ごと回転していたためこの上段の攻撃を刀では受けられないと悟り、左に飛んで回避したのである。この間僅か2〜3秒ほどの攻防であった。距離が4メートルほど空いた事でお互い仕切り直し、あかねが大きく息を吐く。その瞬間見守っていた観客から歓声が溢れた。
(打ち込む度にスタミナが削られる。一瞬でも気を抜けば一撃でやられる。)
あかねは晴明と対峙して、その剣圧に圧倒された。自分の刀を振り込むたびに、喉元に刃を当てられているかのような感覚に冷や汗が止まらない。対する晴明は涼しい顔であかねの呼吸が整うまで待つ余裕を見せている。
(これは勝ち負けじゃない。胸を借りにきたんだ!)
そう自分に言い聞かせる。自分の全力を出し切って、圧倒されたとしても後悔はない。それだけ晴明を認めての勝負の場である。せめて対戦者である晴明と観ている観衆に自分の力を示したい。
そもそも今回あかねがこの大会に参加した1番の理由は、自身が四番隊に推薦されたのは姉の七光りではない事を証明するためである。隊長の妹だから推薦を受けられて幼少隊から本隊へと昇格できたなどと、いわれのない一言で自分が責められるならまだしも、推薦者である姉が責められるのには我慢できなかった。そのためには剣術に置いても手を抜くわけにはいかなかった。だが、同じく昇格を果たした少年との力の差は歴然であった。
それは自分がその力に嫉妬し、憧れるほどに。
(次は一撃をもらうまで手は止めずに打ち込み続ける。届かなかったとしても良いから、腕が上がらなくなるまで振り続ける!)
冷や汗は出続けているが、フーッと息を吐いてから初めと同様に一足飛びで斬りかかる、自慢の瞬発力を活かした攻めを開始する。
右手で刀を持ち、左手で鞘を抜いて防御姿勢のまま突きで打って出る。刀を右側に構えている晴明を観察して左からの打ち込みを警戒した形だ。あかねの読みでは左右どちらかに回り込み、上段から斬りに来る。そう考えての行動であった。が、晴明はあかねの想像のさらに上を行くのであった。
あかねの突きを刀の峰の部分で受けたのだ。
(嘘でしょ!?)
晴明のとんでもない芸当に驚いた。
同時に鋒という峰に比べてもろい部分にあかねの突進力と体重全てが乗った事により悲鳴を上げて砕け散って行く刃の保身を考えねばならない。刀が砕けてしまえばそこで試合を止められてしまう。
慌てて刀身を右にずらして逃したのだが、次の瞬間あかねは床に仰向けに寝ていて晴明が上に覆い被さるようにあかねの首に刀を当てていたのであった。




