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合同剣術大会その3

予選2日目の朝、晴明が食堂で朝食を取っていると箭内妹がわざわざ自分の目の前の席を陣取って来た。よく見ると目が赤く腫れている。昨日の敗戦が余程悔しかったらしい。

「…おはよう。」

箭内妹が挨拶をしている。最初は誰か他の人に話しているのかとも思ったが、目線はこちらに向いている。晴明は昨日との対応の違いに少々戸惑いながらも挨拶を返す。

「昨日の夜、おねえちゃんと話していたでしょ。」

唐突にどこか怒っているような口調で質問してきたので、本調子に戻ってきた感じかなぁと思いながら応対する。別に隠すことでも無いし、悪いことをしていたわけでも無いので怒られるようなこともないわけだ。

「戻ってきたおねえちゃんが出て行く前よりもスッキリした顔で帰ってきたのよ。私が負けた後あたりから落ち込んだ感じだったのに、あなたと話しただけで何で急に変わるのよ!」

たいした言い掛かりである。別に特別何かをした記憶もない。

「普通に話しただけだぞ?まあ今日勝つって宣言しちゃったくらいかな?」

嘘は何一つ言っていない。だが箭内妹はまだ疑っている。そしてとんでもないことをこれまた周りにも聞こえるほど大きい声でわめき始めたのだ。

「まさかおねえちゃん、こんな年下が好みとか??」

そんなことあるわけないだろ?っとツッコミを入れようとしたときである。

「誰が誰を好みだって?」

後ろからやや低い声が聞こえてきた。目の前で箭内妹が驚いた顔で口も大きく開いたまま固まってしまっている。

(誰に驚いてるんだ?)

後ろの気配を隠そうともしない相手を確認するために振り向くと、晴明も驚いて固まってしまう。

そこには本日の相手である山形男子がいたのだ。


山形男子は晴明を見てかなりお怒りモードである。箭内妹といい山形男子といい、なぜ怒っているのか分からない。すると山形男子が質問してきた。

「…さくら隊長とは、仲が良いのか?」

良いか悪いかで言ったら良い方だろう。そう思って答えたのが悪かった。

「こんな小学生に取られるとは…お前の何が良かったんだ?」

なるほどなるほど。状況が読めた。山形男子はさくら隊長に恋焦がれているが現在まるで相手にされていない状況であり、何故か盛大に晴明との仲を誤解をされているというわけだ。どう説明すれば良いかと考えている間に、箭内妹がそれに気が付き燃料投下に走る。

「あんたよりも優しいし話しやすいのよ。顔も悪くはないし、何よりおねえちゃんより強い男じゃないとね!」

完全に余計なことを言ってくれたようである。慌てて後ろから羽交締めにして口を閉じたが、……すでに遅かった。

山形男子が頭から湯気が出そうな勢いで完全にブチギレている。やっべーどうしよう?と何と、なんとかなだめようとしたときであった。

「晴明くん。昨日の夜はありがとうね。カッコよかった!今日はがんばってね♪」

さくら隊長が話しかけながら颯爽と通過して行った。挨拶は大事だと思うが、完全に今ではない。姉妹揃って火に油である。そして山形男子はもはや空気にされていていたたまれない。

(こいつ、さくら隊長の気を引きたかったんだろうけど完全に気が付かれてなさすぎだろ!)

憐れな山形男子である。晴明は勝手に山形男子に恋敵として認定さてしまったようで、同情する相手と試合をしなければならない状態にため息が出るのであった。


午前11時、仙台市の予選会場で晴明は目の前に立つ山形男子、改め高山さんと対峙していた。身長は高く180はあるだろうか。完全に剣術ではなくラグビーでもやっていそうなゴツい体で、今にも飛びかかってきそうなほどに敵意剥き出しである。小学5年の男子に対する高校3年生の対応の仕方ではない。

(少し考えれば不釣り合いなこと位わかりそうなものなんだけどな。)

箭内妹のせいで完全に誤解したままの高山を見て何度目かになるため息を吐いた。

「これより山形県米沢隊舎所属の高山選手対、青森県弘前隊舎所属の蒼井選手の対戦を行います。礼!」

審判の合図で試合がスタートする。一気に突っ込んでくるかと思われたが、高山に攻め急ぐ様子はない。晴明は抜刀体勢は崩さずに徐々に間合いを詰めて行く。だがこの身長差である。リーチの長さは確実に高山に分がある。

(できれば突っ込んできてくれた方がやりやすかったんだけどなぁ。)

晴明はなかなか誘いに乗ってこない高山の様子をじっくりと見ながら攻め手を考えていた。

先に動いたのは高山であった。高山が右足を踏み込んで晴明の刀を握る右腕に打ち込みにきた。パワーがありそうな剣であるが、当たらなければ特に問題にはならない。すかさず晴明は抜刀してその刀を打ち下ろし、返す刀で踏み込んだ右足のスネに一撃を与える。すかさず審判の白色の旗が上がった。白旗は有効打の判定である。ルールでは有効打が二本、決定打であれば一本で決まる。つまり晴明はあと一本取れば勝ちになる。

(あんなに踏み込んだらさすがにリーチ差があっても届くことくらい気がついていそうなものだけどなぁ…。)

前日箭内妹が負けたと聞いていたとき箭内妹の実力は分からないが、仙台隊舎で二番目に強いと言われて出てきたことを聞いて相当の実力者であると構えていた。しかし今の感じであれば、箭内妹の実力も怪しくなってきたような気がする。それだけ晴明としては今の一撃が不用意だったと言わざる終えない。


対する高山は一本取られたことで冷静に晴明を分析していた。

(ちょっとこづいてやろうと思ったが、思いもよらない反撃を受けてしまった。スピードはそこそこありそうだが、パワーは大したことない。一本もやれない状況ならこのままパワーで押し通すか。)

高山は一本取られたことで守らずに攻める判断をした。上段から打ち下ろし、すかさず踏み込んで左右に薙ぎ払うように切り込んでくる。巨体から繰り出す連撃は周囲の観客席にまで届きそうなほど大きい音が出ている。しかし晴明は身体を左右に動かして次々にかわしている。周囲の観客はその攻防に興奮して大きい歓声をあげている。

高山は肩で呼吸するほど疲れてきているがその手を休めることはない。晴明は冷静に高山の剣を見ていたがこれ以上何もないと確信すると、振り下ろして刀を自身の刀で上から打ち下ろし、さらに右足で踏みつけた。これにより高山の手から床に刀が滑り落ち、身体が前のめりになったところを晴明が首に刀を這わせたところで止めた。まさに一瞬であった。打ち込んでいた高山も気がついた時には自分の首に刀が置かれている状況に言葉も出ない様子である。審判はすかさず旗をあげる。今度は赤色、決定打である。その瞬間会場は割れんばかりの拍手に見舞われたのだった。


箭内あかねは自分を打ち負けした高山という男と、同年代で隊長からの覚えも良い晴明の試合を固唾を飲んで見守っていた。

昨日の自分は自慢のスピードで不用意に飛び込んでカウンターをもらい、そのまま負けてしまった。自分が強いと勘違いしたことが全て原因であったわけだ。特に相手の高山は前年度まで2年連続で本戦に出場している剣士である。ナメてかかって良い相手ではなかったはずだ。だからこそ自分の不用意な行動が恨めしいと考えて反省をしていた。

ここでしっかり晴明を観察して、午後の自分との戦いに活かそうと前のめりになって観戦していたのだが、試合の内容を観て一気に晴明のファンになってしまった。

一番見惚れたのはその無駄のない剣の筋である。相手がどんなにパワーがあろうとも力と力でぶつけることなく、上手くいなしている。身体のさばき方も相手の剣の軌道を全て把握して綺麗にかわしている。この芸当を同年代の男子が難なくこなしているのだ。体格差もものともせず、たった一振りで試合を決めた瞬間。あかねの瞳には先ほどまでとは180度見方が変わった少年の姿が映っていたのだった。自分でも気がつかないうちに口から感想が漏れていた。

「…かっこいい…。」

ハッと気が付き周囲を見渡すと、ニヤニヤした姉が隣に座っていた。

顔を真っ赤にして姉を睨み付けるが、尊敬する姉から頭を撫でられながら言われた一言で何も言えなくなってしまうのだった。

「なんであれ、いつ何があるか分からないんだから、自分にウソを付いて後悔するより、素直になったほうが楽だと思うけどなぁ。」と。

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