合同剣術大会その2
比翼連理のメンバーに大会の話をしたところ、もちろんオッケーであった。むしろ優先してくれようとしている事に、恐縮していたくらいだ。
怪狸にも同じ話をするとこちらも笑顔でオッケーであった。『いよいよ晴様の真のお力を披露するときですね!』とプレッシャーをかけられたが、剣術は陰陽術には関係ないだろうと言っておく。期待されても困るからだ。
予選は12月の第一土曜、日曜日から次週の土日と二週に分けて行われる。ブロック予選になるため東北・北海道地区で行われ、上位八人が本戦への出場を獲得できる。
今年は仙台開催のため弘前代表の5名でハイエースに乗り込み、金曜夜から2泊3日の遠征を二週続けて行う事になっている。
「晴様お疲れですね。肩でもお揉みしましょうか?」
車の座席に余裕があったため、編集作業をひたすら続けてくれる怪狸の息抜きになればと連れてきたのだが、逆に心配される始末である。土日を空ける都合上、平日夜に比翼連理のメンバーでゲーム実況を撮影して土日に編集する事にしたのだが、案外長い撮影になってしまい寝不足なのであった。
「少し寝れば大丈夫だよ。インターに着いたら起こしてくれ。」
子どもの体で肩を揉まれるのはくすぐったい以外の何ものでもなくむしろ逆効果なので、丁重にお断りして眠りについたのだった。
仙台に着いた初日は観光がメインになった。残してきたケイジや陸斗、比翼連理の四人にお土産を買って行かなくてはいけないだろう。予選は今週勝ち残らなければ次週は来ることもないため今のうちに購入する必要がある。
怪狸と駅前を散策しながらお土産探しをする。いまさら気が付いたのだが、怪狸はよく食べる。昼前について参加メンバー全員でお昼をとってからそれぞれ観光し始めたのだが、揚げかまぼこやずんだ餅など見付けたら次々に食べていく。動画編集作業で小遣い稼ぎはしているだろうが、基本食い物に消費されていくのだろう。
(別に食べなくても生きていけるって言ってなかったか?)
使役する召喚獣の管狸ではあるのだが、見た目は小柄で可愛らしい少女の姿なので周囲からは兄妹に見えていることだろう。服装もいつもの着物姿ではさすがに目立つため、この日のために冬服とコートを買ってきたのだ。パンツスタイルがどうも苦手のようでスカートが良いと言った以外は、全て比翼連理のメンバーの着せ替え人形にされていた。
「晴様、晴様〜♪夜の牛タンが楽しみですね〜。」
まだ食べるのかと呆れ返るが、連れてきて良かったと思う晴明であった。
次の日、朝食を取ったメンバーは、会場となる体育館へと移動する。
予選1回目はリーグになるため、同じ地区同士が当たらないように抽選されるらしい。晴明は抽選の結果地元の宮城出身の少女を含む5人でのリーグが組まれた。つまりは二日間で試合を4試合行えば良いことになる。そうなると試合と試合の間の時間がかなり空くため、Wi-Fiがある場所に移動して編集作業に移ることにした。
基本は怪狸が手慣れた手つきで見所をピックアップしていくのだが、BGMなどの選曲や間の取り方など、昔の感覚に比べるとやはり少し違うらしい。晴明は手直し程度で全て怪狸がやっている。できる狸である。
会場の隅でノートパソコンを広げて二人で編集作業をしていると急に話しかけられた。
「ずいぶんと余裕があるんですね。」
初めは誰に話しかけているのかと周りをキョロキョロしていると、目の前に立つ少女が少し怒り気味で再度話しかけてくる。
「あなたよ!あなた!!蒼井晴明!なんで無視するのよ!」
どうやら話しかけたのは目の前にいる自分と同年代位の少女らしい。
隣で怪狸が主人に対して失礼な少女にお怒りモードでプンプンしている。
「晴様!こんな失礼な人と話などする必要ありません。」
「何なのこの子!?私を無視するなんて許されないわよ!」
完全に自分を挟んでバチバチの二人。はーっとため息を吐きながら怪狸を制止し少女の方を向き直す。
「どうやらこっちの名前は知っているようだけど、キミの名前は知らないんだ。まずは教えてもらっても良いかな?」
丁寧に対応すると気をよくしたのかニコリと笑顔になる。
「私の名前は箭内あかねよ!小学4年生であなたと同じ埼玉の任務で昇格した四番隊隊員で今日の対戦相手よ。同期みたいなものだし、別に敬語はいらないでしょ?」
箭内?最近聞いたような気がするなと思っていると、後方から申し訳なさそうな顔の四番隊隊長がやってきた。
「あかね!晴明くんが困ってるじゃない。」
晴明としては前回の埼玉の任務以来の対面になる箭内さくら隊長である。と言うことは、目の前の年下の少女は妹となのだろう。
「この子ね、あなたがこの間の埼玉での任務で活躍したことに嫉妬してるのよ。四番隊では神童とか言われてもてはやされていたから。」
姉から暴露されてしまった少女はみるみる顔を赤くしていく。いやむしろ真っ赤になって若干涙目になっているじゃないか。
「あのー、妹さんもう泣きそうになってますよ。」
さくら隊長にこっそり耳打ちしたのだが、どうやらそれも聞こえてしまいトドメになってしまったらしい。
「覚えておきなさい!試合では私があなたに勝って本戦に出場するんだから!」
それだけ言うと走って何処かへ行ってしまった。きっと陰で項垂れている事だろう。
「ほんと!あかねがごめんね。完全に晴明くんのことを勝手にライバル視しちゃってるのよ。やりづらいとは思うけど、試合は試合だから手加減とかいらないからね!」
そう言いながら妹を追いかけるように去っていってしまった。隣で怪狸がまだぷりぷりと怒っているのであった。
午前中に一試合、午後にもう一試合とこなして難なく二勝することができた。明日の午前中に晴明と同じく二勝している山形から来た高校生と試合を行うことになっている。箭内妹はどうやらその山形男子に負けたようなのだ。ケガなどして危険等なければ、明日の午後に対決することになっている。
(試合は観なかったけど、箭内妹も自信ありげだったのに負けたと言うことは、山形男子は一筋縄では行かなさそうだな。)
そう思いながらベランダで冬の海風で夕涼みをしていると、真上の階から晴明を呼ぶ声が聞こえてきた。なんとなく話が長くなりそうな予感がして怪狸に上着を持ってきてもらう。しかし、怪狸が上着を持ってくるより早く上階からさくら隊長がベランダに降りて来た。危ないので、せめてちゃんと中を通って訪れてほしい。
「明日の初戦の相手のことなんだけど、晴明くんは今日の試合観てた?」
さくら隊長が尋ねて来た。残念ながら動画編集に忙しく、他人の試合まで確認する余裕など無い。正直さっきやっと終わって一息ついたところなのだ。
「…全く観ていませんね。どうかしたんですか?」
隊長が気まずそうに話す様子から何か落ち組む要因があったのだろう。するとさくら隊長はゆっくりと頷きながら話してくれた。
「ひいき目もあると思うけど、あかねは仙台本部でも予選出場メンバーの順列二位なのよ。それがあっさりとやられちゃったのよね。山形の男子高校生で強い人がいるとは聞いてたけど、まさかあれ程とは思わなくてさ。自分の受け持つ隊なのに実力を測れていなかったことが情けなくて、その人にも申し訳なく思っているところなのよ。」
確かに正当な評価が受けられていなかった山形の男子高校生は可哀想なのかもしれない。しかしそれはそもそも別に隊長のせいでも何でも無いので気にする必要もないのである。そんなことで一々落ち込んでいたらキリがない。そこで落ち込んでしまうあたりがさくら隊長の性格なのだろう。責任感の塊みたいな人である。この話を晴明にしたのも、一人で抱え込んで悩んでいたこの話を聞いてもらえる人が他にいなかったのだろう。そう思い、晴明は元気にさくら隊長に応えてしまうのだった。
「別にさくら隊長が落ち込む必要なんて何処にもありませんよ?今回その方の評価はしっかり認められたわけですし、この大会の意味もあるってもんじゃ無いですか!それに実際やってみないと勝敗なんて分からないですからね!そもそもオレも無名剣士ですが、予選なんかで誰にも負ける気なんてありませんよ!」
晴明としては別に優勝を目指しているわけでは無い。本戦の出場に意欲的なわけでもない。ぶっちゃけ佐々木さんに出ろと言われたから休日返上で参加しているだけである。そのため体裁良く負けて帰るはずだったのだが、この話を聞いておいては負けるわけにはいかなくなってしまった。そのせいもあり、晴明にしては珍しく、試合をする前から勝利宣言をしてしまったのである。
「ふふふ、さすがね!あなたのところの隊長様にも同じように報告したら、なんて返されたと思う?あなたが予選で負けるなんて考えられないから大丈夫って言われたのよ?初参加に対してとんでも無い高評価をするもんだから何も言えなかったわ。」
さくら隊長は笑顔で返してくる。晴明は自分が存じてもいない隊長様からの高評価がやっぱり理解できないのだが、そこまで言われていたとはどれだけ隊長からの評価が高いのだろう。負けて帰るつもりであったのだが、気づかせてくれてさくら隊長には大感謝である。お礼を述べようかと考えているうちに、さくら隊長からトドメの一撃が飛んでくるのであった。
「隊長の期待に応えられるように明日は頑張ってね!一太刀でも浴びたら許さないって言ってたから。」
さくら隊長を慰めていたつもりが、無茶苦茶な隊長からの注文を受け取ってしまう晴明なのであった。




