合同剣術大会その1
フェス終了後にホテルの最上階で開催された打ち上げの席で、白虎隊の黒坂六番隊隊長の元に酌をしに来る人は後を絶たない。黒坂は無礼講として自由に飲みたいタイプなのだが、周囲はそうはさせてくれないようだ。
しばらくしてトイレを理由に会場から出て一息入れに行く。
(ふー、どんだけ飲ませる気だよ。お腹もパンパンで苦しいって。)
夏の夜風はこの時間でも生温い。未成年も打ち上げに参加しているため開催時間が早く、時間がまだ8時台ということもあるが、それでも温暖化の影響で気温は30度をゆうに超えている。外に出た瞬間に汗ばむ首元がやや不快だ。
「今回は被害が少なくて良かったんじゃない?」
そう話しかけてくるのは誰だ?と後ろを振り向くと四番隊隊長と一番隊隊長が仲良く出て来た。今回の作戦は三隊合同での任務だったため、もちろんトップである隊長が打ち上げの席にいない訳にはいかないだろう。
「未成年が酒を飲んでたりしてないよな?」
手に持つのはソフトドリンクであることは知ってはいるが、黒坂は挨拶がわりに年下イジリは欠かせない。
「もう、必ずイジワル言うんだから。久しぶりに会ったのに。可愛くなったね!とか他に言うことないわけ?」
ほっぺたを膨らませて言い返しているのは四番隊隊長の箭内さくら、ピチピチの17歳女子高生である。大人びた雰囲気を作ってきたのだろう、肩まで伸びる青みがかった黒髪をパーティ仕様にくるくると巻いていて、ピンヒールを履いている。四番隊は基本救護班の面が強い。もちろん剣術も行い、戦闘訓練もしているのだが、このように他の隊と一緒に任務の時には、救護として後方支援が主になる。隊員も治癒系の人員が集められているので、隊舎附属の病院に集まって、様々な病気や怪我の治療への対策などを担っている隊なのである。そのため普段は研究職に近く、おしゃれなど久しぶりなのだ。
「今回は二人とも本当に助かったよ。一番隊が送り込んできたカレ、すごい見込みある少年じゃない。イチオシなんでしょ?正直六番隊で即戦力として欲しいんだけど、ダメ?」
もちろんカレとは晴明のことである。今回は昇格審査という名目でこの場に参加させているが、それも形だけである。実際小中の義務教育期間の少年少女が白虎隊本隊に入隊するためには、所属の隊長が実力を認めるだけでは許可できず、他の隊の隊長の推薦も必要になるため、このような合同任務に出なければならないのだ。つまり晴明が暴走者を捕まえなくとも、見回りに参加さえしていれば黒坂が認め、一番隊の本隊への昇格をさせる手筈になっていたのだ。しかし今回、暴走者の大半を被害無く捕縛したのは晴明であり、文句なしの昇格、さらに隊長候補者として東京の本部に連絡をすることになるだろう。隊長候補者になったからと言ってすぐに隊長に昇格する事はもちろんないが、遠方での任務に参加させて実践を積ませることが多くなり、今回のような場に推薦されることで評価がされやすくなる。つまりは出世しやすくなるというわけである。
「彼はうちの大事な戦力だし、一番隊の業務にも本来合ってる能力の持ち主でもあるんだよね。それに式神が可愛いのよ!色々手伝ってくれてるし、いなくなられたら困るから渡せと言われても絶対放出なんてしないからね!」
一番隊隊長のお気に入りというのは間違いないようだ。むしろ自慢されてしまったと黒坂は苦笑いするしかなかった。一番隊の本来の業務は偵察などの情報収集である。式神を使役したり、符術を駆使して闇夜に紛れる陰陽術はまさに隠密行動に適しているわけである。
黒坂はそんな一番隊長をみてやれやれと苦笑いするのであった。
「おめでとう、黒坂隊長と箭内隊長の両名から君の昇格を認めると署名をもらって、一番隊への入隊が正式に認められたよ。今日から白虎隊本隊所属で給料も発生するからしっかり頑張ってね。」
ゴリマッチョの佐々木さんに事務に呼ばれたと思ったら昇格通知を渡された。佐々木さんの筋肉もどうやら順調に昇格しているな、と考える晴明だったが、こんなにとんとん拍子で昇格するものなのかと半信半疑ではある。確かに今回の実績で昇格しない事はないだろうと確信していたのも事実である。しかし幼少隊第一隊に入隊してから一年足らずでの昇格は早すぎるのではないだろうか。
「佐々木さん。この間の埼玉での任務の際に『一番隊長のお気に入り』と言われたのですが、その隊長と面識がないためいまいち状況が飲み込めないです。隊長が誰なのかとか、踏み込んだ質問をする事は御法度ですか?」
晴明としてはなぜ気に入られたのかも、果たして本当に気に入られているのかも分からない。納得する材料がないのである。佐々木さんは少し困ったような表情をしながら返答する。
「…まあ、隊長のお気に入りっていう話ならそうなんじゃないかと思うよ。今回の埼玉の任務についても君の実力を知っていて、昇格チャンスに名前を出したわけだからね。隊長の素性を私の口からは言えない事になっているから、ここで君が知りたい情報を教えてあげる事はできないのだけれども、近いうちに必ず隊長自ら君に教えてくれる日が来ると思うよ。」
佐々木さんは渋い良い声で優しく諭してくれるのだった。
幼少隊から一番隊本隊へ昇格したと言えど、その実あまり変化はない。学校から直で隊舎に行き、剣術稽古を積んでまたいつものメンバーで帰宅する。休みの日には比翼連理の動画撮影などにも参加して、平日に編集してアップしていく。
比翼連理チャンネルの登録者もどんどんとアップしていき、10代20代を中心に知名度も上昇してきている。夏のフェスでの一件でメンバー全員が覚醒者であることが判明したことも注目を集めるきっかけになった。
さらに音楽番組やバラエティーのひな壇に呼ばれるなど、ネットだけで無くテレビにもたまにではあるが出演するようになってきたのだ。動画を始めてからわずか半年での激変になかなかメンバー全員がついていくのに必死である中、晴明がマネージャーのようにサポートしているのである。個人事務所のような状態で比翼連理を運営しているのだが、マネージャーは誰か他の人を雇うなどして欲しい。友世専属のマネージャーなら別だが、と思う晴明であった。
暦も11月に入り、青森ではそろそろ雪が降るため寒さ対策が進む。朝の気温が5度を下回る寒い中、晴明はまたしても佐々木さんに呼ばれて本部事務室に来ていた。呼ばれる時は大体外部での任務についてのため、今回はどこに飛ばされるのかと考えながら待っていると、一枚の紙を持ってゴリマッチョ佐々木さんが入ってきた。
「今回は任務では無くて大会の案内なんだけど、これに出場して欲しいんだよね。」
その紙に書かれていたのは白虎隊と新撰組合同で開催する剣術大会の案内であった。
内容は単純で、能力の使用は身体強化のみ許可が下りていて、それ以外の能力は禁止。純粋な剣術のみで試合をする。予選からスタートして本戦のベスト16以上は次年度の本選への直通パスを手に入れられる。優勝者は賞金と名声が手に入るというわけだ。
「晴明くんはこの間隊舎内で開いた剣術大会で参加者の中で一番だったからね。各隊5名の推薦枠を持っているから、出場する権利が発生したというわけだよ。」
確かに10月中旬に一番隊の剣術大会が開かれて、晴明は得意の剣術を惜しみなく披露して優勝したのだが、まさかその結果合同剣術大会に参加する事になるとは思わなかったわけである。そもそもそんな大会があることも知らなかったのだ。本隊メンバー以上でなければ出られない剣術大会であったし、つい最近昇格した晴明は知らなくとも仕方がないわけである。
「今年から取材と、決勝トーナメントでのネット中継が入るから注目度は上がるはずだよ!」
佐々木さんが細かい情報もくれるが、実際プライベートが多忙の晴明は富や名声よりも時間が惜しい。
しかも比翼連理に関する仕事を怪狸一匹?に任せて行っても良いものなのだろうか?彼女たちのも相談しなければならない案件である。
「日程を確認してからでも良いですか?別案件で最近多忙でして…。」
そう佐々木さんに話すと笑いながら許可してくれた。
「そこは問題なく参加できるよ。」
と言いながら。




