昇格審査その2
イベント2日目
昨日同様に朝6時から夜警担当隊員と交代する。昨日の晴明達が担当していた時間に起きた3件の暴走以外にも、夜間に2件暴走者が捕縛されている。ライブ時間は夜の10時まで続くのだが、晴明と蝦名、笹山の三名全員が未成年であるため8時を上限に交代している。だが、交代して終わり!とはいかず、捕まえた3名の暴走者についての調書報告書を書くことになったのだった。
笹山が疲れた顔で夜警班に交代を告げると、すでにウワサは広まっているらしく労いの言葉をかけてくる。
「昨日の笹山隊はお手柄だったらしいじゃん?被害者も出さずに3名も捕縛したって聞いたぞ?」
笹山は、はーっとため息混じりで応える。もうこのやり取りも何度目だろうか。まるで自分の手柄のように言われるのが正直ツライ。だがウワサを聞いただけの隊員からすれば、昇格試験中の小学生が全て行ったなど誰も思うはずもなく、笹山本人が活躍したように話が流れるのは必然である。
「捕まえたのはあの子。報告を受けた時にはもうぐるぐる巻きの状態で力も抑えられた状態で地面に転がっていたのよ。」
晴明に指を差しながら小声で教える。聞かれたら応える程度にしておけと上からの御達しなのだ。
それを聞いた夜警班は晴明を驚いたようにみる。
「…ぐるぐる巻きって、あいつの能力は縄でも操るものなのか?」
「…紙よ。」
ひとつしか能力がないとすれば、『ぐるぐる巻きにされた暴走者』と聞けばそう思うのが通常だろう。しかし、巻かれていたのは縄ではなくお札のような紙だったのだ。笹山は晴明の能力をよく知らないため、紙を操る力としか認識していない。
「報告した時に聞こえてきたんだけど、一番隊の隊長名義で今回の昇格試験に推薦されていたらしいのよ。つまり一番隊隊長のお気に入りってこと。実力も申し分ないし、隊長候補生になるのも時間の問題かもね。まあまだ小学5年生らしいから、中学生になる頃には頭角を表してると思うわ。」
それを聞いた夜警班からは驚きの声が漏れる。実際、現在は隊長候補生になっている隊士はいないからだ。しかも顔も知られていない一番隊隊長からの推薦を受けた少年となれば、注目度もピカイチだろう。
こうして晴明の知らないうちに、注目度がうなぎ登りに上がっていくのだった。
晴明はソワソワしていた。なぜなら午前中の当番が終われば、ものの10分ほどでライブ開始時刻になるからだ。正直着替えすらギリギリなのだが、着替えないわけにもいかない。もちろん演奏を失敗するわけにもいかないというプレッシャーに苛まれているわけだ。
「…そわそわしてるけど、やっぱり暴走者の気配があるのか?」
蝦名少年が晴明の様子をみて真剣な眼差しで確認してくる。昨日のお陰で、晴明への対応がガラリと変わっていた。ただの御飾り呼ばわりしていた年下が大活躍してしまったのだ。年上としては立つ背がない状態なのである。
晴明は自分の行動を見られていたことに気が付き、全力で顔を横にブンブン振って否定する。
「この後の予定でライブのアシスタントのような事をするんですよね。人前に立って楽器演奏とかした事なんてないから、すでに緊張して手汗がヤバいんですよ。」
晴明は比翼連理のベーシストを担っていることを説明する。すると蝦名は驚いた顔でさらなるプレッシャーを与えてしまう。
「…このライブに参加してるのか?日本の有名アーティストがこぞって出場しているのに、そのステージに立つって!?」
知っている。知ってはいるけど、改めて言われると吐きそうになる。この野外フェス自体長い歴史があり、参加者もものすごく多い。果たしてそんなメンバーに挟まれて小学生バンドが出場して本当にいいのだろうか?急に学習発表会みたいなことにはならないだろうか?と考えてしまい、顔がみるみる青白くなってくる。
「別にビビらせるために言ったわけじゃないぞ!それだけすごいステージに立つんだって気持ちを盛り上げるために言ったんだからな?」
蝦名少年が慌ててフォローをしてくれるが、晴明はもはや何も耳に入ってこないのだった。
いよいよ出番である。晴明が着替えて合流すると、4人ともお揃いの袴姿であった。もちろん晴明は後方でアシスタントのため、衣装も暗い地味なものにしている。今回披露する新曲が、大正ロマンを題材にしたものであるため、袴姿というわけである。
始めは緊張してベースの持ち方すら忘れかけていた晴明だったが、友世の袴姿を見た瞬間にやる気がみなぎってきたのだった。晴明だけでなく、観客もこの4人のハイスペックな容姿に驚きを見せる。ネットで注目を浴びたバンドのため、まだ知名度はさほど高くは無い。しかし年齢もさる事ながら、その容姿に会場内での注目度が上昇しているのがわかる。
「こんにちは!私たちは比翼連理です!」
せーのと息を合わせて全員であいさつをすると、会場から割れんばかりの拍手が響いた。初ライブとは思えないほど堂々としたメンバーのお陰で、晴明の緊張は完全にどこかへ行ってしまった。
(このライブは何がなんでも成功させる!比翼連理初ライブのステージにオレが立ってるなんて数ヶ月前までは想像すらしてなかったんだから。)
友世が歌う姿を後方から見ながら演奏できる事を嬉しく思い、テンションを爆上げでベースを描きかき鳴らす。ギターの郁美とセッションするように顔を見ながらパフォーマンスを行う。正直めちゃくちゃ楽しいと感じていた。
楽曲はまだ4曲しか無いため、次がラストになる。あれだけ緊張していたのに、始まってしまえばあっという間である。亜希はドラムに合わせて最後の新曲を弾き始めたときだった。急にステージ正面の客席から高エネルギーが発生したのだ。
(暴走者がステージのすぐ前に現れた!?すぐに確保しないと被害者が出る!)
しかし、この力の大きさから考えると初めて捕縛した相手よりもはるかに高いレベルの暴走のようだ。
ステージの4人も全員気が付いている。明らかに動揺しているのがわかるからだ。
(演奏を止めずに捕縛するか?でもかなりレベルが高そうなんだが?もしかしてレベル7…とか?)
明らかに普通じゃなさそうな力の大きさに少し尻込みしてしまいそうだ。この時間の晴明は非番とはいえ、隊士が気付いてこのステージ前まで来るには時間がかかるだろう。やるしか無いかと、腹を括ろうとしていたそのとき、友世が晴明をチラリとみてきたのだ。多分これは『なんとかして!』とボーカル様の命令だな。と察し、完全にやる気に変わった。なぜなら友世に良いところを見せる最大のチャンスだからである。
もちろんベースが演奏をやめるわけにはいかない。つまり、今宙に飛ばしてある約300枚のお札で勝負をかけるしか無い。ダメならベース無しで頑張ってもらおう。
晴明は100枚の札を暴走者の上空に飛ばし、力を吸収力する五芒星の術式陣を描く。これで暴走者が制御しきれずに溢れ出た力で周囲に被害が出ないようにする。これだけ力が溢れすぎていると、隣にいる人など50メートルくらい吹き飛ばされそうな勢いだ。100枚の札が暴走者から放出されている力を吸い上げるように抑え始めた。
(ここまでは順調そうだな。あとは捕縛するだけ…。)
晴明が残る札で四肢を拘束しようとした瞬間、台風のような猛烈な風を感じたのだ。抑え込んだはずの力が抑えきれなくなっている。現在進行形で100の札で抑えているのに、まるで抑えていないような力の波動を感じるのだ。
(周囲も気づき始めている。やっぱり一度演奏を止めて専念するしか無いか?)
晴明が全札で拘束しようとすれば問題無く抑え込める。しかし、今は慣れない演奏で両手が使えない。せめて5秒時間が作れれば…。
そのときである。ボーカルで前面に立っていた友世が間奏に入った瞬間近づいて来た。
「晴明くん、私がお札を持ってキミに触れるから、私を通して力を込めて。あなたならこの間奏の7秒あれば十分でしょ?」
マイクを外して耳元で囁く声にドキドキしながらも、もちろん返事はイエスである。『これが初めての共同作業か』と、不謹慎だと思いながらもこの緊迫の場面でニヤニヤが頬に出てしまう。宙に飛んでいる札を4枚友世に向かわせ、その札を右手の人差し指と中指に挟んでから、左手で晴明の右肩に手を置いた。最高の感触が右肩に!!などという煩悩をグッと堪え、友世を通して札に力を込める。
わずか5秒であった。友世の持つ札が虹色に輝き始めたのだ。晴明は一瞬たじろぐ。なぜなら使った札は力を抑えて拘束する呪符であり、今まで虹色に輝いたことなど一度もない。友世の表情は読めなかったが、耳元で『上出来よ!』と語尾にハートマークが付いて来そうな声で聞こえて来た。
友世が前に出る。暴走者に向かって虹色に輝く4枚の呪符を投げると、まるでステージの演出のように上空に螺旋状に登っていき、光の柱が出来上がったのだ。今まで吹き荒れていた力の暴風は止み、暴走者は虹色の柱状の檻から出ることができないようだ。四肢の拘束が目的だったが、こんな使い方があるのかと改めて勉強になった晴明であった。
ライブ中、他にも2件暴走者が発生したのだが、そちらは晴明の残った呪符で拘束している。友世と抑えた暴走者はその後、黒坂六番隊隊長が来てS・ESP錠を付けて搬送していった。隊長自らが来たということは、かなりの高レベル判定なんじゃないかと思われる。
ライブ後に友世と2人で今回の暴走者の捕縛に対する書類作成を行うことになった。もちろん友世と2人で話せるという喜びもあったが、まずは先ほどの虹色に輝く呪符を確認しておきたかった。
「友世、オレの札が虹色に輝いた理由について何か心当たりとかはない?」
色々考えるよりも、単刀直入に聞いた方がいい。自分の力だけではあんな色の呪符にはならない。明らかに友世の力が混ざった結果である。では友世の能力とはなんなのか?聞かないわけにはいかなかった。
「こう見えて私もね、お札を使うことできるんだよ!」
つまりは友世も陰陽術が使えるということか?と聞くと首を横にふるふると振る。
「私はそんな大それたものなんかじゃ無くて、普通に巫女としての符術を使える程度だよ。晴明くんの符術に比べればたいしたことないかな?」
巫女の力…本当にそれだけなのか?
巫女であるというなら神に仕える事から神聖力と言われるものになるだろう。陰陽術は陰と陽の二面を扱うため、呪術の面も強い。しかし巫女であるなら陽の面だけという事だろう。しかしそれが混ざったら虹色に輝いて円柱状の結界になるものなのだろうか?陰陽が混ざって虹色になると言うなら、晴明の力だけでも虹色になっていてもおかしくはない。だが、今までそのような事は一度もなかったのである。
(何か他にも要因があったのか?友世が自分でも気がついていない力があるのかも知れない。)
このときの晴明は、友世が自分にウソを吐いたりすることを想定していない。晴明にとって沖田友世は覚醒者の先輩で、自分より早く一番隊に所属している可愛い女の子という認識である。しかも気になる女の子というフィルターもバッチリかかっているため、友世が隠している『本当の力』に気付くまで、まだあと一年ほどかかるのであった。




