バズり
ある朝、携帯端末を確認するとメッセージフォルダがものすごい数で埋まっていた。何事かと驚いて確認すると、全て動画投稿サイトからのメッセージ機能であった。
(なんか設定をミスったのかな?)
そんなことをしばらく考えてメールの内容を確認しようとしたときである。ドアがノックされ、外から怪狸に声をかけられた。
「晴様おはようございます。下にいらっしゃる母上様から、早く起きろとの伝言を伝えに参りました。ご準備は整っておいででしょうか?」
言われて時計を確認するとすでに7時を回っている。学校までの距離を考えると最悪でも7時半には出なければ間に合わない。
メールの確認はとりあえず放置し、慌てて学校に行く支度をするのだった。
学校に着くと慌てた様子で楓がやってきた。
「なんか再生回数がヤバいことになってるんだけど、どういう事!?昨日まではチラホラ数字が上がってきてるのを確認してたのに、昨日の夕方からどんどん数字が伸び始めて再生数が一気に10万とかなってるんだけど。」
どうやら楓はチャンネルを自分で何度も確認して、再生回数をチェックしていたらしい。それ自体はあるあるだと思うのだが、何かの理由で昨日から再生回数が伸び始めたようなのだ。
「もしかしてこの異常なメールの数も……?」
晴明は恐る恐るもう一度メールBOXを確認してみる。朝に確認してからさらに千件以上のメールが来ていたのだ。その異常な状態に、慌てて動画投稿サイトからのメール受信設定を変更した。
休み時間に比翼連理の4人と晴明で集まり、メールの内容を確認する。その全てがチャンネル登録とコメント欄記入に対する通知であった。
「チャンネル登録者がもう5万人になってるんだけど…。確か昨日までは数百人だったよね?」
亜希の顔が引きつったように固まっている。実際昨日の朝までは再生数も千回に行くかどうかの状態であった。まあそれでも多い方ではあったのだが。
「何かの手違い…ということではないんだよね?」
郁美があまりの数字に驚いて、完全に亜希とシンクロしている。
晴明がコメント欄を遡って確認していくと、『マズルさんの動画から来ました!』とのコメントが付いていた。ちょうど昨夜7時頃である。再生回数が伸び始めたのが6時台ということは、無関係ということはないだろう。マズルさんとは有名動画クリエイターで、5人でのゲーム実況をメインに動画を投稿している。ちなみにその集団のリーダーである。つまり、ことの顛末はこうだ。比翼連理のMVをマズルさんがたまたま視聴し、それを自身の動画内で紹介。それによりマズルさんの動画から導線が伸びて、比翼連理チャンネルがバズったというわけである。
「…とりあえず、当初の宣伝って部分ではいきなり成功しちゃったわけだな。」
晴明も半信半疑ではある。今も伸び続けている再生数を見ても夢を見ているのかと疑ってしまうのであった。
ここからは比翼連理だけでなく、晴明も忙しくなる。
まずはマズルさんへのお礼をレスポンスしながらダメ元でのゲーム実況のコラボのお願い、さらに比翼連理チャンネルの動画を継続して視聴してもらうための毎日投稿である。
前者はなんと快諾して貰い、某クラフトゲームをダウンロードし、メンバー全員がプレイできるように準備をしてオンラインでのコラボを実現させた。さらに後者では、楽曲以外のチャンネルを開設し、ゲーム実況をメインに展開していくことにした。もちろん楽曲面でも、今あるオリジナルソングをMVにして続々配信する。鉄は熱いうちに打て!とは言うが、この業務を一人でこなすのは寝る時間も惜しいほどに忙しい状態であった。
「晴明大丈夫!?ちゃんと寝てる?」
あまりの多忙さに、楓が申し訳なさそうに声を掛けてくる。
ついこの前までは友世をダシに、使いっ走りにしてくれていたのに今ではいなければ回らない中核を担うまでになっている。
「アルバイト代は弾んでもらうから大丈夫だよ!それに怪狸も仕事を覚えてくれて手伝ってくれるようになったから今はすごく楽になってきたところだしな。」
晴明が毎晩遅くまで動画編集をしているのを心配した怪狸が作業を覚えて手伝ってくれている。今では学校に行っている間に編集作業をしてくれて、晴明の仕事は帰宅後に動画をチェックして配信をするのが主な業務になっている。マズルさんにはあれからもお世話になっていて、税金などについても相談に乗ってもらっている。多忙なのは変わりないが、怪狸の優秀さに頭が上がらないのであった。
こうなると、とんとん拍子で次々に仕事が舞い込んでくるようになってきた。ついに初ライブが決定したのだ。夏に埼玉で行われる巨大フェスのステージを担うことになったのである。登場時間は昼間に決定。比翼連理として客前で初めて行うライブにメンバーのテンションも爆上がりで練習に力が入っている。練習風景を動画にすべく撮影しに行き、晴明の目線は相変わらず友世に釘付けなのであった。
実は同時に晴明にも一つのミッションが舞い込んで来ていた。そのミッションとは、このフェス会場に白虎隊警備担当者として参加することである。ライブでテンションが上がると暴走する参加者も多く、毎年大変な警備になるらしい。またこの警備で実績を踏めば、幼少隊から白虎隊一番隊への昇格とする通知が届いたのだ。つまりは昇格試験ということである。
今回の任務にあたっては、比翼連理のマネージャーとして怪狸を付けている。もちろん遠征ということでそれぞれの保護者も付き添っているのだが、何かあった場合の連絡役として怪狸は適任である。また暴走者が近くにいた場合も、守ってもらえるだろう。
晴明も徐々に使役している妖とコミュニケーションが取れ始めて、手伝ってくれるようになってきている。もちろんメインは符術であるため、今ではかなりの枚数のお札を書き溜めている。怪狸には、『国を取るつもりなのか?』と疑われるレベルで力を付けてきた。どうやら前世のレベルに近づいてきているらしい。怪狸がサポートに付いてくれてから陰陽術にも理解度が上がり、図書館で調べ物をしたりしながら術を極めていった。動画編集などで忙しくとも、空いた時間で力を付けていたわけである。
(せっかくの初ライブだし、比翼連理の楽曲中は何もなければ良いんだけど、何かあった時にすぐに対処できるように完璧に準備しておかないと!)
晴明の頭の中では白虎隊からの会場警備依頼が、比翼連理のステージを守る任務にすり替わっているのであった。




