比翼連理PR作戦
晴明の部屋で、話し終えたタヌキがぬるくなったお茶をゴクゴクと飲み干した。
怪狸の話を聞いても、前世の記憶など思い出せずにいるため半信半疑ではある。しかし自分の力が陰陽術であることや、管であるこの怪狸が主従関係を今も守ってくれていることが何よりの証拠であろう。
試しに思念を飛ばしてみて欲しいと言うと、雑音の中にわずかに怪狸の声を確認することができた。
「信じてもらえましたか?まあなかなか信じられない内容ではありますが、全てわたしがみてきた主人様の記憶ですよ!なんたって御命令を受けてから今までそれだけを使命として生きてきましたから!」
怪狸が胸をポンっと叩いて自慢げに話している。なんとも従順なタヌキである。
「まあここまで色々話を聞いて、実は前世の記憶に心当たりがあってね。信じることにしたんだよね。」
心当たりとは最後のシーンである。その部分だけ、いつぞやの夢で見た記憶があるのだ。
(顔にモヤがかかってて大事な部分が思い出せていないんだけどね。)
肝心のアリスの顔が思い出せていないのだ。これでは近づいてきても気付けないんじゃないか?仮にも前世の死に際にプロポーズした相手の顔が思い出せないってどういうこと?っとなぜ前世の自分は記憶にもっと力を入れなかったのかと苦情を言いたい。。
「もしかして怪狸はアリスの居場所とか分かるんじゃないの?」
アリスをこっちから探せば顔が分からなくても問題ないんじゃね?と質問してみる。
「わたしはあなたの管であって、アリスと直接の繋がりはありませんからね。」だそうだ。残念。だが晴明は全く根拠はないのだが、そのうちアリスに会える気がしていた。
とりあえず、怪狸に主人と呼ばれるのはなんともむず痒いので、晴明から晴と呼んでもらうことにした。ちなみに怪狸は前世のオレが他に使役した妖も召喚することができるというので、今度こっそり一人ずつ面談することにした。
怪狸を親に紹介したところ、意外とすんなり受け入れられた。喋る化け狸など普通はなかなか受け入れられないと思うのだが、うちの両親は寛大だった。毎食人の姿でご飯を食べて、3時のおやつ付き。たいしたご身分である。
基本人の姿でいることが多いのだが、外での移動の際は晴明の肩がお気に入りらしく、タヌキの姿でしがみついて移動している。冬の間は暖かくて意外と良かった。だんだん暖かくなってきて、夏になったらどうなるのかを考えて怖くなるのだった…。
そんなこんなで4月になり、晴明達は5年生になったのである。
ある日教室で晴明が次の授業の準備をしていると、楓が話しかけてきた。
「比翼連理をPRするにはどうしたら良いと思う?」
とのことである。以前晴明の提案でグループ名が決まった頃から、何かあると色々とお願いされてきた。いつもは亜希や郁美が来るのだが、今回は比翼連理のリーダーである楓が晴明に相談しにきたのである。
晴明も乗りかかった船でいつも協力しているのだが、実際は友世にいいところも見せたいという下心が八割なのだった。
「動画投稿サイトに自分たちのMVを載せてみたらどうだ?」
この辺にライブハウスなどない。小学校の文化祭ではバンドなどの出し物を披露する場もない。ならばMVを作ってオリジナルソングを聴いてもらうのが一番だろう。その意見を聞いて楓は笑顔で提案を快諾する。
「それ良いね!早速今度の日曜日に撮りに行こうよ!」
その誘いは完全に自分が起案者の上に撮影を任される、一番損な役回りじゃないか!と考えて断ろうかと思ったとき、楓は一言付け加えてきたのだ。
「友世も喜ぶよ!」と。
これにより、またしてもうまく利用されることが決定したのだった。
日曜日、まだ桜も咲かない弘前城周辺でMV撮影を敢行する。と言っても、日中はメンバー四人が楽しそうに遊んでいるところをある程度撮って、残りは夜の弘前城をバックにバンド演奏シーン、さらに歌詞に沿ったシチュエーションシーンは後日別撮りして編集する。ちなみに晴明は女子四人ではベースが足りないとのことで、練習をさせられて音だけ参加させられている。完全に良い使いっ走りであった。惚れた弱みにつけ込むように利用されているのだが、晴明の想いに全く気付いていない友世は他のメンバーが晴明に仕事を振るたびに申し訳なさそうにしており、誰にも友世への想いを悟られてなどいないと思っている晴明本人は満更でもない様子なのであった。
始めは図書館前の広場や階段などで次々に撮影していく。体育館でバドミントンをするシーンでは白熱しすぎてシャトルがもはや残像になってしまっているほどだった。覚醒者が本気でやったらこうなるのかとその場の全員が納得してしまったが、それもまた面白かった。お昼にパンケーキを食べに行ったのだが、友世のほっぺたにクリームがついていてまた笑い、その映像は永久保存版だわとホクホクの晴明なのだった。
夜は晴明が事前に撮影許可を取っていて、弘前城のライトアップをバックに撮影をする。機械の関係で音が出ないのでフリではあるのだが、それでもエアーで演奏する姿は絵になる。苦労した甲斐がある映像が撮れた。
こうしてみんなが納得しながら撮影したシーンを晴明が一ヶ月ほどかけて編集したのだった。
完成したMVをメンバーにみて確認してもらい、動画投稿サイトに比翼連理のチャンネルを設定して投稿したのだが、事態は思わぬ方向に転がっていくのであった。




