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魔導士団団長との面談




 互いの秘密を共有した数日後、リリエッタはシルバと共に再び王城に来ていた。

 今回はリリエッタなりにしっかりと化粧をし、手持ちの中で1番物がいいワンピースを着ている。

 それと言うのも、事前にシルバから今日の日時を聞いていたからだ。



 王城の森でシルバと二人夕食を食べたあの日、シルバはリリエッタの能力について上に報告していいかの伺いを立てていた。


「そんなこと聞くって事は、拒否もできるの?」

「もちろんできる。俺が虚偽の報告をするだけの事だ。ただ今回の任務は魔導士団の団長と俺の隊の隊長だけしか知らない。偽りなく報告したところで悪いようにはならないと思っていい」


 シルバ曰く、魔導士団の団長もシルバのように4つ目の魔法を持っており、その力で他者の体内に流れる魔力の流れを読み取れるのだという。

 何でも魔法を使える人間の中には特別な力が流れており、それを魔力と呼んでいるらしい。そしてその魔力の流れはその者が使える属性によって流れ方が違うのだという。

 前回リリエッタが王城に行った際、リリエッタの魔力の流れが見たこともない動きをしていたため何か特殊な能力を持っているのではと、今回シルバに探ってくるように命令したらしい。


(魔法士団長ってことは円卓の10人にいたってことよね。確かに黒いマントの人がいたのは覚えているけど、顔までは記憶がないわ。それよりも……)


「他人の魔力?の流れで魔法使いかどうかだけじゃなく属性まで分かるなんて、すごい能力ね」

「あぁ。あの人が団長になってから今まで見たことも聞いたこともないような特殊な魔法がどんどん発見されてるってウワサだ」

「へー。すごい人なのね。……ん?っちょっと待って。その人に私が目をつけられたってことは、私にも特殊な魔法があるってこと…?」


 リリエッタが首を捻ると「目を付けられたって人聞きが悪いな」とシルバは呆れる。

 そしてリリエッタの質問に首を捻り返す。


「お前が動物と話せるのも立派な特殊魔法だろ?」


 動物と話せるだなんて、頭がおかしいんじゃないか?とは何回も言われたことがある。

 リリエッタ自身、実は自分の頭はおかしくて話が通じていると思うのは自分の妄想で、動物たちと意思疎通なんて出来ていないんじゃないか。と自分を疑ったことが何回もあった。

 それがまさか魔法故だったなんて、誰が考えつくだろうか。少なくともリリエッタには想像すらできていなかった。


「……なんだ。また泣くのか?」


 リリエッタが膝に顔を埋めると、シルバの呆れたような声が降ってくる。


「泣いてない。喜びを噛み締めてるだけ」


 そう強がるリリエッタの声は間違いなく震えていて、シルバは「はいはい」と鼻で笑ってリリエッタの頭をポンポンと乱暴に撫でた。



 そんなこんなで、今日王城に来たリリエッタは魔導士団長に一言感謝を言うつもりでいた。実際一言では足りないが、偉い人の貴重な時間を貰っているのだから何とか一言で収めるつもりだ。


 一方、魔導士団長へは報告のみで終わらす予定だったシルバは、リリエッタが直接お礼を言いたいと言うのでその件も報告することになった。

 その際に団長と隊長から遠回しに、尾行をバラすなんて信じられない。と言う旨の言葉を受けたのは仕方のない事だろう。



「リリエッタ嬢。この度は御足労いただき感謝します。魔導士団団長を務めるラサエルです。こちらは第二部隊隊長のガレオン」


 前回行った謁見の間がある建物の東側。中庭を通って2階にある部屋の1つに案内された。広い部屋の左右には書棚が置かれ、中央にテーブルとソファ。1番奥の窓際には大きな机と、その横にひとまわり小さな机が置かれている。

 その一際大きな机に座った人物が立ち上がってリリエッタを迎えてくれた。


 ラサエルと言った団長は優しい顔をした男性で、歳は30代後半と言ったところだろうか。騎士団も魔導士団も武闘派のイメージが強いのだが、この団長はどちらかといえば薬室に居そうな、机仕事を専門にしていそうな印象を受ける。

 一方隣にいるガレオン隊長は、団長とは違い鋭い目つきで色濃く焼けた肌のせいもあり眉間の皺が目立つ。歳は団長と同じくらいに見えるが威圧感がすごい。


「リリエッタと申します。貴重なお時間をいただき感謝いたします」


 片手でスカートを掴み頭を下げる。聞き取り調査の時程ではないが、主にガレオン隊長の威圧で緊張して手が震える。


「そんなに畏まらなくて大丈夫です。ガレオンの人相が悪いのはいつもの事なので」


 ニッコリ笑って話す団長に、隊長は団長にまで睨みを効かせる。

 そんな隊長の視線などお構いなしに、団長はソファに移動しリリエッタにソファーテーブルに用意させたお茶を勧める。


「隊長は気にしなくていい。緊張すると目つきが悪くなるんだ」


 シルバがコソッと耳打ちして、ソファに腰を下ろしリリエッタを手招きする。

 団長が勧めたとはいえ、隊長よりも先に座るのはいかがな物だろうかとリリエッタは悩むが、団長に再度座るように促されシルバの隣に腰を下ろす。


「隊長も、いつまでも怖い顔してないで座りましょう」


 仮にも自分の隊の隊長に軽口を叩いて良いのだろうかとリリエッタは気にするが、隊長は特に咎める事もなくシルバの向かい、団長の隣に座った。


(緊張をしているから目つきが悪いって言ってたけど、隊長さんが私に対して緊張してるってこと?なんで?)


「改めて、僕の能力は聞いていますね。勝手に君の魔力を見たことを謝罪します」

「いえそんな!むしろ感謝しています。団長さんのお陰で私の力は恥ずかしい物ではないと思えました」


 深く頭を下げると、団長は悲しい顔をした。


「この国は魔法を特別視するわりに、ことわりから外れた力は受け入れない風潮が強いですからね。シルバのように分かりやすく魔法だと認められる能力はいいですが、立証が難しい能力はなかなか……ね」


 困ったような笑顔を浮かべる団長。彼ももしかしたら自分の能力を証明するのが大変だったのかもしれない。今でこそ団長という立場にまで上り詰めたが、人には見えない魔力の流れを信じてもらうのは一筋縄ではいかなかったのかもしれない。


「それよりも、僕は貴女の力が気になりますね。動物と話している所も見せていただきたいですし、今まで魔法を使った事がないと聞いていますが潜在能力も開発していきたいところです」


 ついさっきまでしんみりしていたのに、突然目を輝かせ早口になった団長にリリエッタは呆気にとられる。


「失礼。魔導士団は普段から訓練を欠かさない騎士団や衛兵団とは違い、魔法の研究も担っているんだ。団長はその最たる物で、魔法に目がない」


 そう説明してくれたのは団長の隣に座る隊長で、リリエッタが「なるほど」と隊長に目を向けるとサッと逸らされてしまった。

 それを見てシルバは珍しく楽しそうに声を殺して笑っている。


「隊長、いい加減免疫つけたらどうですか。こんなの見慣れたら普通の女ですよ。美人は3日で飽きるって言うじゃないですか」


 クックックと笑いながらリリエッタを貶すシルバだが、当のリリエッタは状況が掴めておらず怒ることもできない。


「お前はリリエッタ嬢と同じ寮なのに、平気なのが信じられん」

「むしろ同じ寮になれば益々顔だけだって気付くはずです。女らしさで言えば並以下…ー」


 そこまで言われ、やっと自分が貶されていることに気づいたリリエッタはこっそりと隣に座るシルバの足を踏みつけた。ヒールの高い踵で。

 こっそりやったつもりのリリエッタだが、低いテーブルでは脚の動きまで隠す事はできず、リリエッタがシルバの足を踏みつけたのは対面に座る二人にしっかり目撃されていた。


「今のはシルバ君が悪い」


 呆れた顔をする団長と、夢が砕かれた顔をする隊長に、リリエッタは誤魔化しの笑顔を向ける。


「話は逸れましたが、貴女の魔力の流れからすると、動物と話せる以外にも3属性の魔法が使えるはずです。大小は分かりませんが、今までの特殊魔法の例から見ても使える可能性は高いです」


 団長の話では、特殊魔法を使える人間は半分以上が火水風の属性魔法を使えるらしい。リリエッタもコツを掴めば使える可能性があるのだとか。


「そこでなんですが、魔導士団に入るつもりはありませんか?貴重な特殊魔法は保護されるべきですし、研究が進めば市民の利益になる使い方もいくらでも出てくるでしょう」


 目をキラキラと輝かせ熱烈な勧誘を受けるリリエッタだが、すぐにイエスとは言えない。

 魔導士団に入ったら寮母の仕事は両立できないだろう。今の仕事にもそれなりに慣れ、不自由もしていない。魔法を極めたいとも思っていないリリエッタには、自分が魔導士団に入るなど想像もできない。


(第一、まだ父さんにも魔法のこと伝えてないし)


 お断りしようと口を開こうとしたリリエッタだが、それより早く団長が待ったをかけた。


「今返事をしなくてもいいですよ。貴女にも生活はあるでしょうし、魔法を使いたい極めたいと思った時にまた勧誘するとしましょう」


 全てをお見通しのように言われてしまえばそれ以上断る事はできず、保留ということになったのだった。






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