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パンツのうた

「はい、(かおる)君、新しいパンツ」


「はぁ……」



「ここに、着替えと一緒に、置いとくからね」


年上の彼女、(かおり)さんと、同棲を始めてから、一ヶ月。


最近、彼女が、頻繁に、俺に新しいパンツを買って来る。


てゆうか、明らかに、俺のパンツが無くなっている。


何だ?


この界隈に、熟女の下着ドロでも、出没してるのか?




「香さん……。


 最近、俺のパンツ、減ってませんか?」


「えっ!?


 そ、そう?」


「いや、毎日、香さんが洗濯してくれてるんだから、気付いてるでしょ?」


「さぁ……?数えてなかったなぁ?」



何か、反応が白々しいな。




「薫君、洗濯物あったら、出しといてね」


「はい……」


香さんは、家事全般が得意だけど、


洗濯する時は、特に楽しそうだ。


何でだろう?




「ん~……」



或る日の夕飯の後、リビングで二人でDVDを見乍ら寛いでいると、


香さんが、俺の首元に顔を寄せて来た。



スン、スン



「……何?」


「ん~、薫君、いい匂いするから……」


香さんは、初め、脇の辺りを嗅いでいたが、その内、


胸、腹と下って、股間でピタッと止まった。



スン、スン



「ちょ、何処を嗅いでるんですか!」


「ここが、一番、匂いが濃くて、いい感じ……♡」


香さんは、俺の股に顔を埋め、匂いを嗅ぎ続けている。


てか、そんな所に顔を近付けられたら、元気になってしまうんだけども。


「あれ、薫君、元気になってる」


「そりゃ、そんな所に、香さんの顔があったら……。


 責任取って?」


「しょーが無いなぁ……」




「ふぅ……気持ち良かった。


 風呂、入って来ます」


俺は、風呂に入ろうと立ち上がった。


「お風呂、入るの……?」


「? 入りますよ」


香さんは、口元を拭い乍ら、


信じられない、と言った顔で、俺を見ている。


「体洗ったら、匂いが落ちちゃう!」


「いや、俺、人前に出る仕事なんだから、


 エチケットとして、当たり前でしょ!」


「はぁい……」


香さんは、しゅんとして、俺の脱いだ服の匂いを嗅ぎ続けていた。


「スーハー、スーハー」


「………………」


愛されてるのは嬉しいけど、普通に引く。




「只今ー、今日は、疲れました~……


 って、あれ?」



いつも、俺の方が後に帰ると、パタパタ走って来る香さんが、


今日は出迎えてくれない。


どうしたんだろう?




コン、コン



「香さん?居るんでしょ?」


香さんが、リビングにも、ダイニングにも居なかったので、


彼女の部屋のドアをノックする。


「あっ、薫君、お帰り」


中から、香さんの声がした。


「どうしたんですか?部屋に篭っちゃって」


「! 駄目!入っちゃ!」


何だか、焦っている様だ。


「……入りますよ?」


「あっ!」


俺は、意を決して、ガチャリとドアノブを回した。




「……………………」



ドアを開けると、異様な光景が広がっていた。


洗濯カゴ一杯に積み上げられた、俺のパンツ(脱いだ奴)。


カゴを抱き締めて、パンツの山に顔を埋める香さん。



『薫君!薫君!

 うわぁあああああああん!!!

 あっあっー!

 薫君薫君薫君

 ぅううぁわぁああああ!!!

 あぁクンカクンカ!

 クンカクンカ!

 スーハースーハー!

 スーハースーハー!

 いい匂いだなぁ……くんくん

 んはぁっ!薫君のパンツを

 クンカクンカしたいぉ!

 クンカクンカ!あぁあ!!』



と、ル●ズたんのコピペを当てたくなる様な、香さんが居た。




何してんの、この人。


同棲してる恋人でも、流石にドン引きっすわ。


「香さん……。


 俺のパンツ、返して下さい」


「嫌だぁぁああ!!!


 洗ったら、匂いが落ちちゃう!」


何の執着だよ。


大丈夫か、この人。


「……じゃあ、こうしましょう。


 その日、脱いだ、最新のパンツを、アンタに貸してあげます。


 だから、他のは、返して下さい」


「本当……?」


正直、引いてるけど、パンツ一枚で、毎日、機嫌良くしててくれるなら、安いモンだ。


「約束します。だから、ね?」


「うん……」


香さんは、名残惜しそうに、パンツの束を差し出した。


どんだけ、俺の股の匂い、好きなんだよ……。




「薫君、お帰り!」


「只今ー」



先に帰っていた香さんは、いつも通り、


笑顔で、パタパタ走って来る。


「良い子にしてましたか?」


「うん!


 だ、だから、今日の分……♡」


「はい、はい」


俺は、脱衣場で、楽なスエットに着替えると、


履き替えて、脱いだパンツを、彼女に渡した。


「……!」


彼女の顔が、パァッと輝く。




正直、内心、滅茶苦茶引いてる。


引いてる、けど。


「えへへ……♡」


この、とても良い笑顔を見ていると、今更、止めてとも言えない。




うん。


愛の形は、千差万別。


一つ位。


一つ位、こんな愛の形があっても、良いんじゃないかな?



「薫君、ご飯、出来てるよ!」


「はーい!」



俺を呼ぶ彼女の声に答え乍ら、



俺は、そんな事を考えていた。

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