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61話 芽衣さんとのデート その3

「陵矢……くん。次はボーリング対決でもしようか」


「また対決するんですか?」


 クン付けを恥じらっている芽衣さんに対して俺は呆れながら訊ねる。


「当然だろ!負けたままじゃ私のプライドが許さない!」


 闘志を爆発させて芽衣さんは言う。


「……分かりました。今回は罰ゲームあるんですか?」


「私が勝ったら陵矢くんが私の家に泊まるんだ」


「……さっきの継続なんですか?」


「それ以外に罰になりそうなものが思いつかないから良いだろ?」


 芽衣さんは別に良いかもしれないが、さっきも言った通りで俺には莉緒が待っているからそういうわけにはいかないのだ。

 

「じゃあ、芽衣さんが負けたら俺のことは永久的に「陵矢くん」って呼んで貰いますからね?」


「ど、どうしてそうなるんだ!お前、私のこと〇したいのか!?」


「いやいや!芽衣さんは精神的ですけど、俺なんて物理的に〇されますからね!?お互いそれくらいのリスクがあってもおかしくないですよね!?」


 俺が莉緒に物理攻撃されるよりも、芽衣さんが俺のことを永久にクン付けで呼ぶ方がどう考えても軽い罰ゲームに決まっている。そもそも天秤にかけられるレベルではない。


「陵矢くんを家に呼ぶためだ。仕方ない、その罰ゲームで勝負だ」


「対決はボーリングで最後ですからね?これ以上はもうしませんからね?」


「分かったよ。これが正真正銘、最後の対決だ」


 こうして俺と芽衣さんのボーリング対決が開始された。ちなみにボーリングはほぼ互角。今日のコンディションと運が勝敗を決めるといっても過言ではないだろう。


「靴も履き替えたし、今度はハンデ無しだ。ガチで行くぞ」


 そう言って投じた芽衣さんの一投目は見事にストライク。流石だな、この人。


「初っ端から飛ばして来ますね。それでスタミナ持つんですか?」


「そんな簡単な挑発には乗らないよ。私は私の力を信じて投げるだけだからね」


「そうですか。それなら俺も最初からトップギアで行かせて貰います!」


 芽衣さんに続いた俺の一投目も見事にストライク。

 開始早々から両者譲らない展開となった。


「少しは先輩に対して花を持たせるとかさ、気の利いたことは出来ないのか!陵矢くん!」


「そんなの無理ですね!彼女との約束の方が優先事項です!」


「今は私とのデート中だろ!一位の金髪ツインテちゃんのことは忘れろ!」


「大好きなんで無理です!」


「そういう惚気話はいらないんだよ!」


 交互に一投ずつ放ちながら会話をしている俺達を周りのひとがざわつきながら見ていた。

 それもそのはず、今のところ両者共にストライク継続中。

 どこまでこの記録が伸びるのかと誰もが固唾を飲んで見守っていた。


「別に好きなんだから良いじゃないですか!」


「好きだからってわざわざ言う必要ないだろ!鬱陶しい!」


「……芽衣さん、もしかしてヤキモチ妬いてます?」


「だ、誰がそんなもの……ってしまった!」


 芽衣さんの七投目、遂にストライクが途切れた。

 

「芽衣さん、惜しかったですね」


「お、お前のせいだぞ!どうしてくれるんだ!これで勝てる確率がほとんどないじゃないか!」


 若干半泣きになった芽衣さんは俺に怒鳴り散らす。


「だ、大丈夫ですよ。まだ俺が外す可能性ありますし」


「とか言って外す気なんて皆無だろ?」


「まあ、それはそうですけど……」


「ほら!私の勝てないじゃん!」


 子供のように駄々をこねる芽衣さんを横に俺は七投目を投じる。

 もちろん、華麗にストライクを決めた。

 その瞬間に芽衣さんの顔から笑顔が消え、絶望的な表情へと一変する。


「め、芽衣さん!まだ二投ありますから!諦めないで下さい!」


「もう無理だよ、人生諦めが肝心だよ、陵矢くん。うふふっ……はははっ……」


 ここまで壊れた芽衣さんを見るのは初めてだ。

 集中力が欠如した芽衣さんのその後のスコアは悲惨なものだった。一方の俺は最後まで気を緩めることなく全球ストライクの偉業を成し遂げる。

 結果としてボーリング対決は俺の勝利で幕を下ろした。


「じゃあ、芽衣さん。これからは絶対に「陵矢くん」って呼ぶようにして下さいね?それ以外で呼んでも俺は一切返事しないんで。分かりましたか?」


「了解したよ、陵矢くんはははっ……」


 死んだ魚のような目をした芽衣さんは棒読みで答えた。

 言ったら失礼ですがこれ全部あなたが悪いんですからね、芽衣さん。


「そろそろ三時になりますね。残っているやつ、ぱっぱと遊んじゃいますか」


「そうだな……」


 俺達は残っていたスポッチャを適当に終わらせてロウワンを後にする。

 その次はカラオケに行き、二時間近く熱唱した。俺も芽衣さんもそこまで歌は上手ではないのだが、採点機能を加えることで少しは盛り上がったはずだ。


「芽衣先輩、相変わらず音程は外さないんですけどほとんど棒読みでしたよ」


「陵矢くんははっきり言って雑音に近かったがな。とてもじゃないが聴いていられるレベルじゃないよ。あれは魔曲だよ」


「そんなに褒めないで下さいよ~」


「褒めているんじゃない。貶しているんだ、ばか者」


 そして最後に向かったのは行きつけだったゲーセン。

 ここで週末は芽衣さんと音ゲーとレースゲームをしていたんだよな。

 本当に懐かしい思い出だ。


「芽衣さん、ここでは何するんですか?前みたいに音ゲーとかやります?」


「いや、今日はちょっと違うことをしたくてね……」


「違うことですか?他にやる事なんて無いと思いますけど?」


 照れる芽衣さんに俺は首をかしげながら訊ねる。


「そのだな……プリクラを……撮ってみたいんだ」


「良いですよ」


「い、良いのか!?本当か!?」


 俺の軽い反応に思わず芽衣さんは目を丸くする。


「なんでそんなに驚いているんですか。良いに決まってるじゃないですか」


「いや、だってプリクラって普通はカップルで撮るものじゃないのか?」


「ああ~、確かにそうかもしれないですね。でも芽衣さんが撮りたいなら撮りましょうよ。折角の機会なんですから」


「じゃ、じゃあ!よろしく頼む!」


 芽衣さんの表情も一気に明るくなったので俺としても一安心だ。

 そして俺達はプリクラコーナーへとやってきた。


「私撮るの初めてなんだけど大丈夫なのか?」


「音声の指示にちゃんと従えば問題無いと思いますよ」


「わ、分かった!」


 俺達はカップルモードを選択して機械の中へと入る。

 俺が撮るのは詩音とふざけて撮った時以来だな。

 莉緒ともまだ撮ったことがないからそのうち撮りに来よう。


『それでは撮るよ~!最初はカメラに近づいて困ったポーズだよ~!』


「え!困ったポーズってなに!?」


「こんな感じじゃないですか?」


「な、なるほど」


 俺と莉緒さんは頬に人差し指を当てて首を傾げるポーズをした。


『次は両手を頬に当ててスマイルだよ~』


 「こ、これは大丈夫そうだな」


『次は男の人が後ろからハグしてね~』


「え……?」


 芽衣さんが思わず固まる。


「じゃあ、芽衣さん行きますよ~」


「ちょ、待て!陵矢くん!心の準備が~~~~~~!」


 芽衣さんの悲鳴と共にカメラのシャッター音が鳴り響いた。


『ラストはお互い見つめあってハグしてね~』


「絶対無理!」


「やりましょうよ~」


「嫌だ!」


「時間ないですから!ほらっ……!」


「お、おい!やめろ!離れろって!」


 芽衣さんの方から来ないので俺からハグをしに行った。


「すぐ終わりますから」


「……私の心臓の鼓動聞こえないか……?大丈夫か……?」


「何か言いました?」


「な、何も言ってねえよ!ばーか!」


 そう言うと芽衣さんもようやくハグをしてくれた。

 プリクラを撮り終えた俺達は駅へ向けて歩みを進めていた。


「芽衣さん、今日は楽しかったですね~」


「そうだな。デートしてくれてありがとな」


「いえいえ、後輩として当然ですよ」

 

「……()()か」


 俺が何気なく歩いていると芽衣さんが足を止めた。


「芽衣さん?どうしたんですか?」


「陵矢、お前は本当に私と付き合う気はないのか……?」


 真剣な眼差しで芽衣さんは俺に聞いてきた。


「無いです。ごめんなさい」


 俺ははっきりと言い頭を下げる。


「どうしてなんだ?お前は私のことが好きじゃなかったのか?それともこんな男っぽい女は嫌いか?」


「芽衣さんのことは好きです。でも恋愛対象としては俺は見れません。俺には莉緒という彼女がいます。莉緒のことをこれ以上裏切る行為は俺には出来ません」


「お前は金髪ツインテが好きだったな。もし私がなったら恋愛対象として見てくれるのか?」


「ならないですね。莉緒という存在がいる以上は見れないです」


「そうか。今日のデートで少しでもお前の気持ちが変わればと思ったんだがな。全く効果は無かったというわけか。それもそれで悲しいな」


 僅かだが芽衣さんの目から涙が零れていた。


「芽衣さ――」


「それ以上は何も言うな。私が惨めになるだけだ、やめてくれ。悪いが、今日はここで帰らせて貰うよ。じゃあな、陵矢くん」


「……はい」


 そう言い残して芽衣さんは駅へと歩いて行ってしまう。しかし、ここで俺は追いかけることは出来ない。

 家で待っている莉緒のためにも、俺はここを耐えなければいけないのだ。

 追いかけたら負けだ、俺はそう言い聞かせながら遠のいていく芽衣さんの後ろ姿を眺めることしか出来なかった。



61話、読んで下さりありがとうございます。続きを読みたいと思って頂けましたらブックマーク登録、評価よろしくお願いします。

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