59話 芽衣さんとのデート その1
「芽衣さん、ちなみに今日何するんですか?」
芽衣さんに「当日まで秘密だよ」と言われていたため、今日のデートプランをまだ俺は教えて貰っていなかった。
「今日は久々にロウワン行きたいかな」
「ロウワン?懐かしいですね、中学の時は馬鹿みたいに遊びに行ってましたね」
「そうだね。もう今日のプランをざっくり言っちゃうけど私は昔遊んだ場所で陵矢とデートしたいんだ」
中学の頃の遊び場と言えば今俺達がいる池袋だった。主にロウワンとゲーセンで遊ぶのが基本で月末には二人揃ってお小遣いが無くなっていたのはいい思い出だ。
「良いですよ。じゃあ早いとこ、ロウワン向かいますか」
「ああ、行こう」
俺と芽衣さんは人混みをかき分けながら街中へと歩いていく。
「今日は人多いですね」
「ああ、クリスマスも近いし、カップルも多い気がするよ」
「言われてみれば確かにそうですね」
クリスマスか。この日はさすがの俺でも莉緒とデートしようと考えていたところだ。しなければ、それこそ本当に莉緒の堪忍袋の緒が切れること間違いなしだ。
しかし、今こうして芽衣さんと並んで歩いているが周りからは俺達はどう見えているのだろう。時期もあるし、やはりカップルとして見られるのだろうか。
「……陵矢はクリスマスは何か予定はあるのか?」
「は、はい!」
「あの一位の金髪ツインテちゃんとデートか?」
「そ、そうです!まあ、妹ですけど一応は彼女ですし……」
なんなんだよ、あのランキングに入っている人達はお互いのことを順位でしか認識していないのか。莉緒も芽衣さんのこと二位呼ばわりしていたし。
「今更聞くのも変だが大丈夫だったのか?私とデートしても」
「……だ、大丈夫でしゅ!……です!」
思わず動揺して噛んでしまった。恥ずかしい。
「ははっ!その様子を見る限りではとても大丈夫には見えないぞ。少し申し訳ないことをしてしまったかな?」
「そ、そんなことないです!芽衣さんの誘いを断るなんて俺には出来ないです!」
「そうか。そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう、陵矢」
そもそも、このデートって芽衣さんに強制されたものなんだけどね。多分だけど芽衣さんは怒って我を忘れていたからそこまでの記憶はないのだろう。
この人の怒り方も特徴的だ。普段は温厚でクールなのに怒ると感情任せで口調も変わり、自分勝手に話をしてくるからとてもじゃないが俺では手に負えない。
「礼なんていいですから。後輩として当然ですよ」
「……後輩か」
「芽衣さん……?」
「……いや、何でもないよ。気にしないでくれ」
芽衣さんが何と言ったのか聞こえなかったが、とても寂しそうな表情をしていた。
* *
「芽衣さん、今日はどれで遊びます?フリータイムか、それとも三時間パックか」
「うーん、さすがに三時間では少ない気もするしフリーで良いんじゃないか?どうせ、料金もそんなに変わらないだろ?」
「ですね、今ならまだ学割も効く時間ですし。フリーにしますか」
「……そうしてくれ」
「じゃあ、すみません。学生のフリー二人でお願いします」
ラウワンに着いた俺達は受付で料金表を見ていた。中学の頃なら三時間もあれば多いくらいだったが高校生にもなれば少なく感じるだろう。
それに今はまだ昼の十二時前で学割が効き、2,500円のフリータイムがなんと1,800円で入れるのだ。これだとお得過ぎて学生辞めたくないよね。
ちなみに芽衣さんは初見の人とは話せないので会計は俺がいつも担当なのだ。
「毎回会計任せてしまってすまないな。どうしても初めての人とは話せなくてね」
「大丈夫ですよ。そういう可愛いところがある芽衣さんも俺は良いと思いますよ?」
「か、か、か、か、可愛くない……!」
「芽衣さん、顔真っ赤ですよ?」
「そ、それは陵矢が揶揄うからだろうが……!」
「別にそんなつもりで言ったわけじゃないんですよ?」
「……君のそういうところが……私は嫌いだ……」
芽衣さんは口元を手で隠して照れながら言った。でも俺は本心を伝えたんだけどな。
自分では気付かないだけで、少し鈍感な性格が周りの女子に対して変に好感度を与えているのかもしれない。
「よーっし!芽衣さん遊びますか!」
「相変わらず中に入ると元気が良いな」
「当たり前じゃないですか。ここに来てテンションが上がらない方がおかしいですよ。それに来るのは二年ぶりですからね」
「まあ、私も来るのは三年ぶりかな。陵矢と最後に遊んで以降は一回も来ていないからね。多少はワクワクしているよ」
芽衣さんの顔を見ると口元が緩んでいた。
「とりあえず、今回はスポーツから行きますか!」
「いいんじゃないか?久々に1on1でバスケ勝負しようか」
「やりましょう!絶対に負けませんよ!」
「陵矢が私に勝てたことあったかな?」
「きょ、今日こそは勝つんですよ!」
こうして俺達は屋上にあるスポーツコーナー向かった。
「さてと……それじゃあ始めようか。前と同じで十点先取の三セットでいいかな?」
「それは良いんですけど。芽衣さん、その格好で動けるんですか?」
「ん?ああ、問題ないよ。これはハンデだ」
「もしかして、俺かなりなめられてます?」
「残念だけどなめられてるね」
「……絶対に勝ってやる!」
そう意気込んで始まったバスケ勝負だったが決着はすぐについた。
芽衣さんはスポーツ万能。素早いドリブルと的確なシュートで俺は全くと言っていいほどに歯が立たなかった。
ヒールブーツというハンデとは一体なんだったのだろうか。どうしてブーツを履いたままであんなに綺麗なターンをして俺を抜けられるんだ。
「私の勝ちかな?」
「はぁはぁ……まだ……ですよ……」
「それなら地面に這いつくばってないで立ち上がったらどうなんだい?」
「……無理です」
「じゃあ私の勝ちだね。次はバドミントンで良いかな?」
「芽衣さん……少し休憩……したいです」
どうして俺が疲れ切って倒れているのに、芽衣さんは息切れ一つしていないのか本当に不思議でしょうがなかった。
「全く仕方ないな、飲み物買ってくるけど何がいい?」
「……ポカリで」
「分かった。買ってくるまでそのまま横になって休んでな」
額から少し垂れる汗を拭いながら髪をかきあげて芽衣さんは言う。
その姿は誰が見ても惚れてしまうくらいにカッコよくて魅力的だった。
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