57話 親友の激怒と激励
今朝、教室に入ってすぐ、詩音と莉緒との喧嘩の話になった。
「それで、莉緒ちゃんとは仲直り出来たのか?」
「ああ、どうにか出来たよ……」
「やけに眠そうだな、遅くまで話してたのか?」
「いや、仲直りはすぐに出来たんだけど、その後ちょっとな……」
昨日はあの後に約束通りに一緒に寝たのだが、それが失敗だった。莉緒がベッタリとくっ付いて中々眠れなかったのだ。
「なんにせよ、仲直り出来て良かったな。ちなみに喧嘩の原因はなんだ?」
「俺が芽衣さんからデートに誘われたって言ったら莉緒がヤンデレ化した」
「……ちょっと待て、意味が分からん」
詩音は頭を掻いたあとに難しい顔をする。
「まさか莉緒がヤンデレ化するとは思わなかったよ」
「待てって言っただろ、勝手に話を進めるな。莉緒ちゃんのヤンデレ化の前に、まず芽衣先輩の方が先だ。そっちから説明しろ」
「だから言ったじゃん。デートに誘われたって」
「その一文で俺が納得するわけないだろ!お前の芽衣先輩との関係を俺は知らないんだぞ!?」
「あれ?そうだっけか?」
怒る詩音に対して俺はとぼけた表情で答えた。
「お前なあ……芽衣先輩はこの学校の美少女ランキング二位なんだぞ?そんな人にデートに誘われるなんてお前何者なんだよ」
しれっと詩音が美少女ランキングに触れたが、こいつはその存在を既に知っていたことになる。二年間も同じクラスで同じ席に座っているのに俺だけ知らないのは謎だ。
「別に俺が凄いわけじゃなくて芽衣さんは中学の先輩で中一の時から友達だったんだよ」
「お前が芽衣先輩と友達?冗談はやめろよ、あの人は人付き合いしないって噂だぜ?」
「これが証拠」
俺はスマホにあった一枚の写真を見せた。
「……ま、まじかよ」
「信じてくれたか?」
「お、おう……」
見せたのは中学の卒業式に撮ったツーショット写真だ。俺は恥ずかしくて取りたくなかったんだが、芽衣さんに「世話になったから撮らせてくれ」と頭を下げられ頼み込まれて仕方なく撮った一枚である。
他にも遊んだ時に撮った写真が山ほどあるが、この写真だけはあまり人には見せたくない。理由は色々と勘違いされそうだから。
「というとでデートに誘われた。それで莉緒のヤンデレなんだけど――」
「待て待て、それで終わりにはならんだろ。じゃあなんだ、お前と芽衣先輩は付き合ってたのか?」
「付き合ってないよ?ただの友達」
「だ、だよな。お前は金髪ツインテールが好きなんだもんな。芽衣先輩は赤髪だし……ってことは!まさかとは思うが……芽衣先輩はお前のこと好きだったんじゃ……?」
「うん、昨日そう言われた」
俺が平然と答えると詩音は椅子から崩れ落ちた。四つん這いになった詩音は悔しそうに右拳を床に叩き付ける。
「し、詩音……?」
「……けるな」
「え……?」
「ふざけるな!なんでお前ばっかりそんな美味しい思いしてんだよ!一位の莉緒ちゃんはお前の妹で彼女、二位の芽衣先輩は友達で恋愛対象として見られていた、三位の陽菜ちゃんとも仲が良い。俺と人生交換しやがれ!馬鹿野郎!」
怒りが爆発した詩音は溜まりに溜まったストレスを俺にぶつけてきた。
「お前は可愛い妹が二人もいるからいいだろ」
「妹は所詮妹だろうが!恋愛対象にはなんねぇんだよ!ボケが!」
「俺はなるぞ?」
「お前と莉緒ちゃんは血が繋がってねぇだろ!こっちはちゃんと実妹なんだよ!アホが!」
久々に怒った詩音を見たが本当に面白いな。詩音は怒ると必ず語尾に「バカ」、「ボケ」、「アホ」、「クソ」のどれかがもれなく付いてくる。
「まあ、そんなに怒んなって。お前だってカッコイイだからモテるだろ?」
「モテてたら今頃お前なんかとつるんでねぇよ。彼女とイチャイチャしてるわ」
「お前なんかっていうのがちょっと引っかかるが、彼女出来なくて可哀想だな」
詩音は見た目がヤンキーなので中々女子から声を掛けられることがほとんど無い。逆に詩音の方から声をかけても逃げられる。そのため詩音は彼女が出来ない。
「そのお前の分かってる口調で言われるのがくそ腹立つ」
「本当のことなんだからしょうがねぇよ」
「ああ~、ピアスやめっかな~、この金髪も~」
「それだとお前らしさが全てなくなるからやめとけ。お前を好きだと言ってくれる金髪美女はきっと現れるさ」
俺は髪とピアスを触って気にする詩音を宥める。
「じゃあ、いつ現れるんだ?」
「それは俺も知らんって」
そんな未来予知の能力があったらお互い苦労しないだろ。
「なら連れて来いよ」
「どっから連れてくんだよ。俺の知ってる金髪はお前と莉緒くらいだわ」
「まだ探してもねぇのに諦めてんじゃねぇよ。俺のために頑張れ」
「嫌だ」
俺は真顔で即答した。
「これ以上話しても埒が明かねぇからいいや。それで莉緒ちゃんのヤンデレ化は一体何なんだ?」
「ああ、なんかデートの話したら急にツンデレがヤンデレに変わったんだ」
「それはお前が100%悪い。彼女に普通は言わねぇだろ。そもそも彼女がいたら他の女とデートに行かねぇよ」
詩音の正論に対して俺はおどおどしながら答える。
「でも……芽衣さんの頼みだから断れないよ……」
「お前、そんなこと言って同じこと繰り返したら莉緒ちゃん離れてくぞ?」
「そ、それは……」
「少しは莉緒ちゃんの気持ちも考えてやれよ。彼氏が他の女と遊びに行くんだぞ?十中八九、病むに決まってんだろ。莉緒ちゃんがお前以外の男と遊ばないだけでも有難いと思え、このドアホ」
「…………」
俺は何も反論出来ない。詩音の言っていることが正し過ぎる。
「俺はな、お前がモテることにことに対して妬ましい気持ちはある。だが、それと同時に心配だってしているんだ。お前が自分の信念をどこまで貫けるか、試されているのはきっと今じゃないのか?莉緒が好きなら莉緒ちゃんだけを見てやれ。そして寂しい思いをさせないようにいっぱいイチャイチャしろ、莉緒ちゃんもそれを望んでいるはずだ。なんならセックスまでしちまえよ」
「セックスは流石に言いすぎだが、莉緒が安心出来るくらいまではイチャイチャしようとは思うよ。芽衣さんと陽菜ちゃんに関してはどうにかして諦めて貰うしかないな。まあ、それが出来ていたら今頃こんなに苦労してないんだけどな……」
「お前が中途半端な受け答えしてるからあっちも攻めてくるんだろうが。はっきり言ってやれば諦めてくれるだろ」
それをしても諦めなかったのが陽菜ちゃんなんだけどな。果たして芽衣さんはどうだろう。すんなりと俺のことを諦めてくれるだろうか。
「週末の芽衣さんとのデートは行くことになってるからその時にはっきり言ってくるわ」
「お前デートは行くのかよ……どんな度胸してんだよ、逆に凄いわ」
「しょ、しょうがないだろ!行くしかないだから!」
「へいへい~、まあ頑張れや~」
呆れた表情をした詩音はもう会話する気力がないみたいだ。言葉に力が感じられなかった。
芽衣さんとのデートは明日。俺はここで芽衣さんとの決着をつける。
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