55話 我慢の限界
帰宅した俺は早速だが、芽衣さんとのデートの件について莉緒に説明をした。
「……あの二位さんはそんなこと言ってたんですか。そうですか。そっちがその気ならこっちだって武力行使するまでですよ。何たって私の方が一位なんだから、二位は大人しくしていればいいのよ」
陽菜ちゃんの時と同様に莉緒は怒りを露にした。てか、なんで敬語なの。
「……それで俺はデートしに行っても大丈夫なのか?」
「いいんじゃない?行って来ても。彼女ほったらかしで別の女と遊ぶ『不倫クソ野郎』っていうレッテルが貼られるだけで。こんなにも可愛い義妹で後輩の彼女がいるのにね。まさか女の先輩とデートだなんて論外よ。まじ論外、一回両方共に土に埋めてあげようかしら」
「うっ……それは」
莉緒にまた変なあだ名を付けられた上に、捨て台詞まで吐かれた俺は何も言い返せなかった。
陽菜ちゃんとの事件もあったばかりだから莉緒は相当ご機嫌斜めだ。こんなこと滅多に言わないんだが。こればかりは全ての元凶は俺だから仕方ないと思うしかない。
「ねぇ、お兄ちゃん?最近何か忘れてなーい?」
莉緒が軽いトーンで言い、笑顔で俺の方を見ている。
「最近?心当たりが無いな」
「……ほんとに?」
少し莉緒の表情筋がぴくりと動いた。
「うん」
「ほ・ん・と・に?」
莉緒の言葉が一区切り事になり笑顔にもなんだが圧を感じられるようになってきた。
「うん」
「これで最後だからね。ほ・ん・と・う・に・わ・か・ら・な・い・の?」
「……分からない」
「良し……じゃあ、お兄ちゃん〇ねや~~~~~~~!」
そう言い放ったと同時に莉緒の右ストレートが俺の左頬を直撃。今回はそれだけで止まらず、お次は左フックが右頬を直撃。バランスを崩した俺の顎にトドメの右アッパーが入る。
その場に倒れた俺は立ち上がることが出来ずにテンカウントでKО負けとなった。
「あの、莉緒さん?女の子が軽々しく〇ねとか言っちゃいけないと思うんですよ」
「その前に自分がボコボコに殴られた経緯を聞くのが先なんじゃないの?」
「そ、そうだな」
「でも私のパンチ食らったんだからしばらく動かない方がいいよ。多分動きたくても動けないと思うけどね」
「ああ、全く動けん」
強烈なパンチを食らった俺は軽い脳震盪を起こしていた。頭の中がごちゃごちゃしていて何を考えればいいか分からない状態だ。
「どう?お兄ちゃんそろそろ落ち着いた?」
「まあ、ぼちぼちってところだ」
「それなら良かった」
「何も良くねぇよ。殴り倒したのお前じゃねぇかよ」
「だからお兄ちゃんが悪いんじゃん?悪いって認めないならもう一発殴るけど?良いの?」
莉緒は再び拳を握り、笑顔で俺に近づいてくる。
「悪かった悪かった、俺が全部悪かったから。その拳を引っ込めてくれ」
「良く認めたね、偉いね~。じゃあこれくらいで勘弁してあげるね、えいっ♡」
「ぐはっ……!」
莉緒は俺の脇腹を蹴りつけた。今日の莉緒はさすがに暴力的過ぎないか。
「いや~、殴って蹴ってすっきりした~」
「その分、俺のダメージが大きいけどな」
「なに、まだなんか文句あるの?」
「いや、無いです……すいません」
「というわけで、週末デートに行くなら今日は私とイチャイチャしなきゃダメ」
「何が「というわけ」だよ。意味分かんねぇ」
「お兄ちゃん、最近私に対してサービス少ないと思わないの?他の女にはしているくせに彼女の私には無いの?それっておかしくない?お兄ちゃんが大好きなのって『金髪ツインテールの美少女』だよね?優先順位としては私が一番ってこと忘れてるでしょ?」
莉緒は手に持ったツインテールを振り激しく主張する。
「いや、別にそういう訳ではないんだけど……」
俺としてもここ最近の莉緒との時間が減ってきていたこと自体に関しては自覚していた。
ただ陽菜ちゃんの一件で精神的に疲れていたところに、今回の芽衣さんだ。莉緒がそう言うのもしょうがないことなのである。
「じゃあ私にもっと没頭してよ。私だけを見てよ。私はお兄ちゃんにしか興味ないんだよ?それなのにお兄ちゃんは私の気持ちを踏みにじるつもりなの?」
「分かったから!一旦落ち着けって!」
ツンデレだったはずの莉緒が段々ヤンデレ化し始めてきた。
これは非常にマズイかもしれない。
「……キスして?」
「え?」
「キスしてくれたら落ち着いてあげる」
「い、いまするの?」
「してって言っているんだから今でしょ。それともしたくないの?したくないなら別にいいよ、もうお兄ちゃんとは口聞かないから」
そう言うと莉緒はソファから立ち上がりリビングから出て行こうとする。
「待て!莉緒!」
俺は莉緒の腕を掴み引き止める。
「……なに?キスしないんじゃな――」
莉緒の腕を引っ張り俺は近づいてきた莉緒の顔を掴む。そして莉緒の発言を止めるように俺は唇を重ね合わせた。
「……これで満足か?」
「うん、お兄ちゃん大好き♡」
莉緒の顔は今まで見たことがないくらいに赤く染まり、目にはハートが浮かんでいた。俺はこの時確信してしまう。莉緒の開けてはならない扉に触れてしまったんだと。
「それじゃあ、そろそろご飯作ってくれ……って何すんだ!」
「一回で満足するわけないでしょ?本番はこれからだよ、お兄ちゃん♡」
気付いた時には莉緒に押し倒されて馬乗りにされていた。
「いやいや、待ってくれって!」
「待たないよ。私の方がずっと、ず~~~~~っと待っていたんだから。もう逃がさないよ♡」
「頼む!トイレ行かせてくれ!」
「漏らしていいよ。私がちゃんと処理してあげるから」
「嘘だろ~~~~~~!」
神様、仏様、先人様、どうやらここが俺の死に場所みたいです。
「それじゃあ、頂きまーす♡」
「え、頂きますって何だよ?え、うっ……あっ……あぁ~~~~~~~!」
キスをされるのかと思ったら莉緒は俺の首筋を舐めたのだ。初めて舐められた感想としてはゾワッとして背筋がゾクゾクしたり、莉緒の舌が肌に吸い付く感じだった。
いやいや、こんな呑気に感想を述べている場合ではないはずだぞ。
「ふふふっ……変な声出して、お兄ちゃん可愛い♡」
「可愛いとかそういうのはいいんだよ!早く俺の上からどけ――」
莉緒もまた俺と同様に発言を止めるようにして唇を重ねてきた。そして、俺の口を舌で無理やりこじ開けてそのまま突っ込む。舌と舌が絡み合う濃厚なキスはしばらくの間続く。
「ほろほろははへほ!(そろそろ離れろ!)」
「はははほ♡(まだだよ♡)」
キスをしてからもうすぐ五分は経つ。莉緒は一向に離れようとしない。俺の息もそろそろ限界だ。
「……ぷはっ!莉緒、お前一体いつまでキスしてるつもりなん――」
離れたと思って口を開いたら再びキスをされて俺は発言の場を失った。
「はふぁはふぁ、ほへはは!(まだまだ、これから!)」
「ふはへふは!(ふざけるな!)」
莉緒のキスは止まることを知らず、俺は三十分以上遊ばれる結果となった。
皆も彼女がいる人は気を付けた方が良いだろう。いつどこで彼女が覚醒してヤンデレになるか分からない。そもそも、そういう状況作らなければいい話だな。
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