54話 芽衣さんの気持ち
芽衣さんに話があると言われた俺は放課後の教室で一人、窓の外を眺めていた。莉緒と陽菜ちゃんは部活に行ったので邪魔者はいない。
「陵矢、済まない。遅くなった。少し先生との話が長引いてしまってね」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それで話ってなんですか?」
「……ここで話すのもあれだからファミレスにでも行かないか?」
「誰かに聞かれたりしたらマズイことなんですね?」
「……まあ……そうだな」
いつもクールで表情一つ変えない芽衣さんが珍しく戸惑った表情をしていた。
芽衣さんが話しづらいなら仕方ない、場所を移そう。
「ちなみに一応聞いておきますけど、今ここで話せることってあります?」
「残念ながら無いね。まとめて話がしたいから」
「そうですか。それなら早く向かいましょう」
「ああ、そうしよう」
俺と芽衣さんは足早に学校を後にした。芽衣さんと放課後に遊ぶのはいつ以来だろうか。俺が覚えている限りだと中学二年生が最後だった気がする。
ファミレスに着いて席に座ると芽衣さんがメニュー表を開き俺に見せてきた。
「芽衣さんから先に選んで下さいよ」
「ここは私の奢りだ。好きなやつを頼んでくれ」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
俺はカフェラテとチーズケーキ、芽衣さんはブラックコーヒーを注文した。
「相変わらずブラックしか飲まないんですね」
「そうだね。今でも甘いのはどうも苦手で。すっきりして飲みやすいし、私はこれが一番落ち着くよ」
「自分も芽衣さんの真似して飲んでみたことありますけど、一番最初はめちゃくちゃ苦くて飲めませんでした」
「最初は誰だってそれはそうだよ。飲んで徐々に慣れていくことでその美味しさに気付くことが出来るんだ」
芽衣さんとの会話は何だか少し大人っぽい感じがするのは気のせいだろうか。でも一個しか歳が違わないのに、人間としての完成度が全く違うんだよな。仕草も行動も大人顔負けだ。
「……そういえば、こうして二人で会うのは私が中三の時以来か。懐かしいね」
「……覚えていたんですか」
芽衣さんがボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「当たり前だろ。当時の私は陵矢しか友達と呼べる相手がいなかったのだから。お前は私が卒業するまで部活でも何でも相手していてくれただろ。今でも感謝してるよ」
「別に感謝されることしてないですよ。俺は最初はただポツーンと立っていた芽衣さんに悪戯しただけですよ?」
「そうだったか?昔の話過ぎて忘れてしまったよ」
芽衣さんは窓の外を見ながらクスッと笑った。
「そこからですよ、俺が芽衣さんに声掛けるようになったのは。最初の頃の芽衣さんの目なんて死んでましたからね?魂も抜けてるんじゃないかってくらいに元気も無かったですし」
「当時は生きている心地がしなかったからね。人とどう接すればいいのか分からなくて本当に困っていたよ。その悩みも陵矢が話掛けてくれたことで全て解決したけどね」
俺と芽衣さんはそんな昔の話をしながら大いに盛り上がった。
そして遂に本題へと入る。
「……それで陵矢。そろそろ頃合いだと思うんだが言ってもいいか?」
「は、はい。大丈夫ですよ」
「よし、分かった。じゃあ言うぞ!」
「はい!」
「お前、私と付き合え!」
一瞬だが時が止まったような気がした。
いや、その前に芽衣さんの口からとんでもない言葉が飛び出たよな。
「……芽衣さん、もう一度だけいいですか?」
「私と付き合え!」
「ああ、なるほど。理解しました。買い物に付き合って欲しいんですね?」
「違うぞ、陵矢。私はお前に彼氏になれと言っているんだ!」
芽衣さんは立ち上がり俺を指差した。
「め、芽衣さん!一回落ち着いて下さい!」
「じゃあ、私の彼氏になるんだな?」
「それは無理です」
「どうして!?」
「お、俺、彼女いますもん……」
芽衣さんは砂のように静かに椅子に崩れ落ちた。
「……れだ」
「はい?」
「誰だ!その女は!?」
「俺の義妹の莉緒ですけど……」
「あいつか!あの金髪ツインテールの一年か!てか、お前の義妹なの!?」
芽衣さんは他人に対して余り興味を示さないため知らなかったみたいだ。たとえ学校中で話題になっても自分が必要な情報以外は全てシャットダウンしてしまう性格なのである。
「今年から義妹になりましたね。付き合い始めたのは十月辺りからですけど」
「なんで義妹なんか付き合ってるの?」
久々に聞いたな、この質問。自分の中では正当化し過ぎて最近では当然のことだと思っていた。
それでも、答えはいつもと変わらず一つしかない。
「好きだからですよ」
「……意味わからん」
少し芽衣さんが冷たい表情をしていたので間違いなく引かれただろう。
「俺は金髪ツインテールの義妹と彼女を両方手に入れたので今は満足しているんです。なので芽衣さんの気持ちは受け取れません」
俺は芽衣さんに頭を下げて謝った。
「そんなの関係ない!私と散々遊んでおいて最後は見捨てるつもりか!?お前は私のこと好きじゃなかったのか!」
「い、いきなりどうしたんですか?」
「私はな!陵矢、お前のことがずっと好きだったんだ!卒業してからずっと会えなくて寂しかったんだ!そしてお前がこの学校に入学したのを知って告白しようと思った!だけど恥ずかしくて言えなかった!それでここまで来ちまったんだよ!」
芽衣さんが俺のこと好きだったなんて初耳だ。誰からも聞いたことが無かった。
そんな素振りも芽衣さん自身も見せていなかったはずだ。
「でも莉緒がいる以上は俺とは付き合えませんよ?莉緒怒りますし」
「関係ないって言ってんだろ?あんな金髪なんて捻り潰してやるよ」
芽衣さんが熱くなり過ぎて段々口調もヒートアップしてきたぞ。
「と、とりあえず、俺はどうすればいいんでしょうか」
「お前は週末に私とデートしろ。拒否権はねぇから。金髪にもそう伝えろよ?」
「わ、分かりました」
「週末、覚悟しとけよ?女を弄ぶとどうなるか、しっかり教えてやるからな?」
「は、はい」
「それじゃあ、今日はこれでお開きだ。帰るぞ」
芽衣さんの逆鱗に触れた結果、奢りのはずが俺が払うことになってしまった。
しかし、このことを莉緒にどう伝えるべきだろうか。
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