52話 逆襲の翌日
「……ちゃん!」
「ん?」
「お兄ちゃん!朝だよ、起きて!」
「もう朝か……」
陽菜ちゃんに拉致された日の翌日、俺は珍しく莉緒に声をかけられて起床した。
一緒に生活を始めて一ヶ月以上経つが、起こされたのは今回が初めてである。
「おはよう、お兄ちゃん」
「ああ、おはよう」
昨日の鬼のような表情も落ち着き、今朝はいつもの可愛い莉緒の笑顔を見ることが出来た。
「お兄ちゃんがこんな遅くまで寝てるなんて珍しいね」
「いや、ちょっと疲れてな」
「昨日色々あったしね。どうする?今日休む?」
「……半分以上がお前のせいなんだけどな」
「なんだっけ?」
莉緒が唇に指を当てて不思議そうな顔で言う。
「まさかお前、帰ってきてから俺にしたこと忘れたわけじゃねぇよな?」
「………あっ!」
「思いっきり忘れてんじゃねぇか!」
「てへぺろ☆」
莉緒は舌を少しだけペロッと出し、右手を頭の上に軽く乗せた。
仕草はバチくそ可愛いが今はそれどころではない。
「それで主犯、罪の内容は覚えていますね?」
「誰が主犯だ!」
「お前だよ!お前!あの後帰ってきて散々いたぶってくれたじゃねぇか!」
「それはお兄ちゃんが悪いのよ!」
昨日帰ってきたあと、俺は再び拘束された。
そして莉緒に拷問を受けたのだ。それはもう言葉では言い表すことの出来ない酷く残酷なもの。
椅子に俺を縛り付けて、ひたすら顔面を往復ビンタ、強烈なボディブローを数発、とどめに濃厚なキスの連続攻撃を受けた。
「さすがにやりすぎだろ……」
「し、仕方ないじゃない!お兄ちゃんが陽菜のこと可愛いとか言うのがいけないのよ!」
「可愛いとは言ってないだろ」
「陽菜は可愛くないの?」
「いや、陽菜ちゃんは十分可愛いだ……ぶへしっ!」
莉緒のビンタが俺の右頬にクリーンヒット。
「あ、ごめん。衝動的にやっちゃった♡」
「こ、この野郎……わざとだろ」
「ほら早く起きてよ。遅刻しちゃうよ?ご飯は出来てるから着替えて来てね。じゃあね〜」
莉緒は笑顔で手を振って部屋から出て行く。
「全く……朝から人の顔ぶん殴っておいて、よくそんな笑顔が作れるな。可愛いからいいけどさ」
俺はベッドから起きて着替えをして莉緒の待つリビングへと向かうのであった。
「今日、陽菜ちゃん来ると思うか?」
「んー、どうだろうね。来るんじゃない?」
朝食をとりながら俺達は陽菜ちゃんの話をしていた。
「あの怪我で普通来るか?」
「陽菜は普通じゃないから来るでしょ」
「あ、そっか」
反論の余地もなく、俺はあっさり納得してしまう。
陽菜ちゃんが普通ではないことは重々承知である。
「そんなに心配する必要ないよ。あの子は根は強いもの」
昨日あんだけ殴って、そんなこと言えるお前の根の方が俺は心配だよ。
「とりあえず、もし来たら普通に接しろよ?普通だぞ?」
「はーい」
一通りの話を終えて俺達は家を出た。
果たして莉緒は陽菜ちゃんとどんな会話をするのだろう。
心配で心臓が潰れそうだった。
「あ!せんぱーい!莉緒!」
俺達が校門を通ろうとした時、陽菜ちゃんが後ろからやって来た。
絆創膏や湿布を貼ったその顔は昨日の惨劇を物語っていた。それ以外はいつもの陽菜ちゃんだ。
「お、おはよう。陽菜ちゃ……おふっ!」
陽菜ちゃんは俺に飛び付き押し倒した。
「せんぱーい、おはようございます♡」
「ちょっと陽菜!朝から何してんのよ!しかも校門前で!」
「莉緒おはよ。ただの挨拶だよ?そんなに怒らなくてもいいじゃん?」
「別に怒ってはいないけど。昨日の今日でよくもまあ、そんなことが出来るわね」
「私は私のしたいようにするだけだよ。悔しかったら莉緒も今してみたらいいんじゃない?」
仲直りしたのはいいが、逆に陽菜ちゃんが開き直りすきで喧嘩が増えそうな予感がする。
「ひ、陽菜ちゃん?とりあえず俺の上から降りてくれないかな?」
「ダメです」
あっさり却下された。人間ってこんな瞬間的に変われるものなのかね。まるで別人だぞ。
「お兄ちゃんが降りてって言ってるだから降りなさいよ。それにそこは私のポジションなのよ!」
莉緒さん、怒るポイントってそこですか。
「いつも乗ってるならいいじゃん。たまには私にも譲ってよ。先輩のここ乗り心地いいんだもん」
お前もお前で何言ってんだ。お前が座っているそこは、俺の股間だからな。
朝から変態心を暴走させるなよ。
「私はあんたみたいに股間乗ったりしないわよ!私が乗るのはお腹の上よ。あの綺麗に割れた腹筋に乗るのが好きなのよ!」
もう何をどう説明すればいいから分からなくなってきた。二人の会話に理解が追い付かない。
「そういえば先輩、今日私弁当作ってきたんですけど食べますよね?」
なんでそんな威圧的に言うんだよ。それだと俺の拒否権なんて皆無だろ。
「お兄ちゃんは私の弁当があるからいいのよ!それは陽菜が食べればいいでしょ!」
「自分の分あるもん。これは先輩の分♡」
「じゃあ、こうしよう!私の弁当と陽菜の弁当、どっちが美味しいかお兄ちゃんに決めて貰おうじゃない!」
「それは名案ね。もちろん、私が勝つけどね」
俺の知らないところで勝手に勝負が始まろうとしているんだが大丈夫だろうか。
そして全て俺に委ねられることになる可能性大だ。
「ということでお兄ちゃん、お昼休みに二人で教室に行くから。逃げないでね♡」
「逃げたらどんな手を使っても捕まえますからね、先輩♡」
「あ、ああ。分かった」
今日が俺の命日にならないことを祈り、どうにかして二人から逃げ切る算段を考えるのであった。
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