48話 義妹の最悪な日曜日 その4
洗い物を終えて俺がソファに座ると莉緒が寄ってきた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん。今日は久しぶりに一緒にお風呂、入らない?」
「いいぞ」
「え?いいの?」
莉緒がぽかーんとした表情のまま固まって動かない。
「なんで聞いてきたお前が驚いてんだよ」
「だ、だって!いつものお兄ちゃんなら断るじゃん!」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
俺は頭を掻きながら誤魔化すために最低限の言葉で話す。
「じゃあ入らなくていいのか?」
「ん〜!もう、そういうことじゃなくて!」
頬を膨らませて莉緒は手足をばたばたとさせる。
「じゃあどういうことだよ」
「どうして今日はやたらと私の要求を素直に受け入れてたり、優しくしたりするの!?」
俺は「はあ」とため息をついた後、答えることを決断した。本当は答えたくないんだけどな。
「さっきも似たようなこと言ったけど、別に大したことじゃない。お前が疲れているから。ただそれだけだ」
「……ほんとにそれだけなの?」
「ああ、そうだ」
「……何よそれ、馬鹿みたい」
莉緒が下を向いて顔を隠す。その行動が俺に対する軽蔑的ものなのか、感謝的なものなのか、現時点では分からない。
「馬鹿で構わない。俺はお前を大切に思っている。疲れていれば癒しを与えてあげたい。毎日元気な莉緒の姿を見るのが俺の幸せでもあるからな」
「……」
「やりすぎだなと思ったらその時はお前から打診してくれ。俺はお前のことを溺愛しているからな。いつかはオーバーヒートする日がくるよ」
「……」
「今日はあの姉妹にやられて疲れたと思うが、いつでも疲れた時は俺に言え。家事は俺も出来る。休みたい時は休め。お前一人で生きているわけじゃない。俺達は兄妹だ、この家で力を合わせて過ごしていこう」
「……お兄ちゃん」
下を向いたままだった莉緒がようやく口を開いた。
「あ、なんか長々と話してすまんな。ちょっと説教っぽくなっちゃったかな」
「ううん、そんなことないよ。お兄ちゃんが私のことどう思ってるか改めて理解出来た。ありがとね、お兄ちゃん。大好きだよ」
涙をぽろぽろと零しながら莉緒言う。
「お前、最近泣きすぎじゃないか?変に泣きぐせ付いちまったか?」
「べ、別にそんなことないし。お兄ちゃんの思い違いでしょ」
「それだといいけどな」
俺は白い歯を見せてニヤッと笑う。
「その笑い方、すっごい腹立つんだけど!」
「まあ、いいだろ。早く風呂入ろうぜ」
「なんか最後の最後で話を濁された感じがするけど……入る!」
俺と莉緒は脱衣所へと向かった。
一緒にお風呂に入るのは三週間ぶりくらいで、引っ越しをしてからは初めてだ。
「さて、お嬢様、今日はどこから洗ってあげましょうか?髪の毛から?身体から?それともお胸から?」
「胸と身体は一緒でしょ!髪からお願い。あとお嬢様はやめて。さすがに嫌だ」
「それでは、莉緒嬢、どこから洗って差し上げてございましょうか?やはり、お胸でございますか!?」
「それはヤクザっぽくってもっと嫌だ。普通でいいから。いつも通りで」
少しお嬢様気分を味わって貰いたいという俺からの配慮だったのだがお気に召さなかったか。
「じゃあ、髪から洗っていきまーす」
「よろしく〜」
俺はそこから莉緒の髪と身体を洗ってあげた。
相変わらずの綺麗な髪と白くてスベスベの肌に見惚れてしまった。
未だに莉緒の美貌には見慣れないままである。
「終わったぞ」
「よーし!次は私が洗う番だね!」
「はい、どうぞ」
「はい、どうも……って違うでしょ!」
俺が渡したタオルを莉緒は床に叩きつける。
「なんだよ、洗うなら早く洗ってくれよ」
「いつもなら「お前は先に湯船に浸かってろ」って言うじゃん!なんで言わないのよ!」
怒りを顕にした莉緒が顔を近づける。あと少しで互いの唇が触れそうなくらいな距離だ。
この距離感も久しぶりな気がするな。濡れた金髪美少女、火照った頬、そして全裸。両腕で寄せた谷間が何よりの絶景である。
「洗いたいって言ってるんだから洗わせてあげた方がいいかなって」
「いつもと違うペースで話が進むから私の頭の中、混乱し始めちゃったよ!」
「そんなの知らん。早く洗え」
「よくもまあ、こんな至近距離でそんな冷静でいられるね?私があと一歩前に出ればキス出来るんだよ?」
「したいならしたって俺は構わないよ?」
「なっ……!」
予想外の俺の反応に莉緒は戸惑いの表情を見せる。
「しないなら早く洗ってく――」
俺が言い切る前に莉緒の唇が俺の唇に重なる。
数秒間、唇を重ね合わせた後に莉緒は急いで湯船の中に飛び込んだ。
「し、してあげたよ!どうよ!?」
その顔は真っ赤に染まっていた。
「照れるくらいならするなよ」
「べ、別に照れてないし!お風呂が熱いだけだし!」
「それで、結局俺の身体は洗ってくれないのか?」
「洗うわけないでしょ!ばーか!自分で洗え!」
そんなこんなで引っ越し後、初の一緒のお風呂は莉緒のツンデレ発動という形で幕を閉じた。
* *
次の日の昼休み、俺と莉緒は詩音に呼ばれて学校の屋上にいた。
「莉緒ちゃん、昨日は本当にすまなかった!」
詩音が莉緒にむかって深々と頭を下げる。
「何も詩音先輩が謝ることじゃないですよ!……悪いのはあの糞ガキ二人なだけで」
おい、莉緒。本音が出ているぞ。
「いや、兄としてあの二人を止められなかった俺の責任だ。昨日あの後、二人にはキツく言い聞かせはしたんだが……もし、また会うようなことがあればその時は全力で逃げてくれ」
「言われなくてもそうします。もうあの二人と関わるのは私としても無理です」
「お詫びといってはなんだが、これ受け取ってくれ」
「なんですか、これ?」
詩音が莉緒に渡したのはチケット袋だった。
「とりあえず中身を見てくれ」
「は、はい……?」
莉緒は不安そうに袋から四枚の紙を取り出した。
俺もチラッと覗いてみる。
「ん……!?おい、詩音これは……!?」
「驚いたか!北海道旅行二泊三日のチケットだ!それで家族全員で北海道を満喫してこい!」
詩音は両手を腰に当てて「アッハッハッ!」と高笑いをした。
「お兄ちゃん!北海道旅行だよ!北海道!」
「分かったから!少し落ち着けて!」
「落ち着いてなんかいられないよ!あの行きたかった北海道に行けるんだよ!やったぁぁぁぁぁ!」
莉緒は目を輝かせて嬉しさを爆発させた。
「なんかすまんな、詩音。気を使わせて」
「元々こっちが悪いんだし、これくらい良いってことよ。それじゃあ俺はこれで」
詩音は右手を振り、教室へと戻ろうとした。
「詩音先輩!ありがとうございます!」
「莉緒ちゃん、礼なんていいよ……あとそうだ、一つだけ言っておこうと思う」
「な、なんですか?」
「別にあの二人は莉緒ちゃんが弄りやすいから絡んでるわけじゃないからね。あいつらは莉緒ちゃんのことが大好きなだけだから。それだけは理解しといてあげてね、よろしく」
「わ、私だってそれくらいは分かってるつもりです……」
「それなら大丈夫かな。あいつら帰ってからいつも反省してるんだぜ?今日は少しやりすぎたかなとかどうやったらもっと自然に話せるのかなって色々考えてる。莉緒ちゃんがもう少し寄り添ってあげればあいつらも変われるかもな」
詩音はそう言い残して教室へと戻って行った。
「……仲良く出来るなら私だって最初からそうしてるのに。出来ないからこうして抗っているんじゃん……」
「無理に仲良くする必要もないさ。お前が出来ないなら出来ないでそれはそれでしょうがない。そこまで気負うことはないと思うぞ」
「お兄ちゃん……」
「あの二人は色々と特殊だ。ゆっくり時間をかければ仲良くなれるさ」
「そうだね。焦る必要もないもんね。私のペースで仲良く出来るように頑張ってみる」
俺の言葉に少しだけ元気を取り戻した莉緒は仲良くなる決意を示した。
ここだけの話、俺はとてもじゃないがあの二人と仲良くはなれない。仲良くなったら殺されちゃうもん、精神的にね。
48話、読んで下さりありがとうございます。続きを読みたいと思って頂けましたらブックマーク登録、評価よろしくお願いします。
評価は下記にある【☆☆☆☆☆】をタップでお願いします。




