47話 義妹の最悪な日曜日 その3
渋谷での買い物を終えた俺達は家の近くのスーパー付近まで戻ってきていた。
「腹減ったな」
「そうだね。色々あったからほんとに疲れた……」
今日の莉緒は如月姉妹に遊ばれて最悪な日だっただろう。
あまり顔色の方も良くない。
「今日は俺が夕飯作ろうか?」
「え?どうして?」
「お前疲れてるみたいだしさ。たまには俺がやってもいいかなって思っただけ」
「ほんとに……!?作ってくれたら助かるよ……!」
莉緒は涙目になりながら俺の手を握る。
この顔を見る限り余程疲れていたんだな。
「じゃあ、買い物だけは付き合ってくれよ」
「もちろん!お兄ちゃんありがと!大好き♡」
困った妹を助けるのが兄の役目だが、笑顔で「大好き」と言われると最高に嬉しいな。やはりこれが兄の特権だよな。
「さてと、鍋を食べるのはいいとして。何を買うかだよな」
「まずはお肉かな?それとも野菜?それとも鍋のもと?」
「もとじゃないか?それによって使う具材も変わってくるだろうし」
俺達は鍋コーナーへと向かう。
そこにはかなりの種類の鍋のもとが揃っていた。
「この中から選ぶの大変だな」
「私はお兄ちゃんが食べたいやつでいいよー」
「その回答が一番困るんだけどな……」
「そんな深く考えたくても大丈夫だって!お兄ちゃんのセンスを私は信じてるからさ!」
「余計に重くなったんだけど……」
俺としてはシンプルに醤油でいいんだけど。今日はちょっとあんまり食べたことの無いやつにしてみよかな。
そんな俺の目に止まったのは豚骨だった。
「お?お兄ちゃん珍しいね?」
「たまにはこういうのもいいかなって」
「いいね!いいね!これ〆にラーメンもいけるってさ!」
そうだ、莉緒の言う通り、この豚骨のもとは〆でラーメンが食べられる。俺はそこに惹かれたのだ。
「やっぱりお兄ちゃんセンスあるね!最高!」
「そりゃ、どうも」
莉緒は親指を立ててグッドサインを作る。
まったく、選ぶこっちの身にもなって欲しいものだ。
「後は具材だけだね。さっさと選んじゃおう〜」
「へいへい」
自分が作らなくていいと決まった瞬間からやたらと元気が良いな、こいつ。
さっきの言葉取り消しで夕飯の支度やらせようかな。
まあ、そんなことはさせないけどな。俺は優しいから。優しいから。
大事なことだから二回言ったぞ。
「お兄ちゃん大丈夫?重くない?」
買い物を終えた帰り道、莉緒が少し心配そうに俺に声をかける。
「心配するな。最近筋トレに力入れ始めたし、この荷物の量にも慣れたところだ」
袋二つにぎっしりと食材が詰め込まれているため、かなり重い。しかし、妹の前で弱音は吐けない。
前は吐いた気もするが心変わりのいうやつだ。こんな重いものを莉緒に持たせるわけにはいかない。
「ふふ、さすがお兄ちゃん。そういうところがほんとに頼りになるよね」
俺の腕に莉緒がぎゅっと抱き着く。
「お、おい!今はやめろよ!」
「今だめなら、いつならしていいの?」
俺は唸りながら数秒考え込む。道端でやられるのは俺としては困るのだ。未だに周りの視線だけは気になってしょうがない。
「好きにしろ……」
俺はため息をつきながらも抱き着くことを許した。
「やったー!じゃあ家までずっと抱き着いてるね♡」
「分かった分かった、歩くのだけは邪魔するなよ。荷物もあるんだからな」
「はーい」
疲れている今日くらいは甘やかしてあげてもいいだろう。
* *
家に着き、俺は夕飯の支度を始め、莉緒はソファに倒れ込んで休んでいた。いつもとは立場が逆なのでどこか新鮮味がある。
「そういえば、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「今更、聞くのも変だけどさ。お兄ちゃんって料理したことあるの?」
「今更にも程があるだろ。今もし、仮にここで俺が出来ないって言ったらどうなってたんだよ」
「お兄ちゃんだけ晩飯抜き」
「理不尽すぎだろ!」
さすがの俺でも料理くらいは出来る。母親が仕事で家にいなかったので、自分が食べる物は自分で作るがうちのルールだった。
「出来るなら早く作ってね〜」
「はいはい」
俺は慣れた手つきで鍋の準備を進める。
そもそも鍋って料理に含まれるのだろうか。食材を切って鍋のもとを入れれば誰でも作れる。この単純作業を失敗する人はほとんどいないだろう。
「あー、いい匂いしてきたー」
「そろそろ出来るから莉緒もこっち来いよ」
「はーい」
俺の呼び掛けに莉緒は立ち上がり、軽いスキップでテーブルへとやってくる。
「よし、じゃあ食べるか」
「うん!」
「「いただきまーす」」
「じゃあ、ほれ」
「ん?」
俺が右手を出すと莉緒は不思議そうな表情をする。
「お椀出せよ。よそってやるからさ」
「なんだが今日はやけに親切で逆に怖いんだけど。何かあった?」
「何もねぇよ。人の親切は黙って受け取れ」
「そう?じゃあお願いしようかな」
莉緒が差し出したお椀に俺はたっぷりと野菜とお肉をよそってあげた。
「沢山食べて大きくなれよ」
「これ以上どこを育てろと?」
「まあ、胸だろうな」
「もう!お兄ちゃんはほんとにそればっかりなんだから!」
呆れた表情で莉緒は軽く息を吹きかけてから熱々の野菜を口に運ぶ。
「冗談はこれくらいにして。普通に美味いな」
「だね〜。この濃厚さがいいね〜」
「これ選んで大正解だったな」
「いや、ほんとに最高。さすが私のお兄ちゃん」
「お前、それ何回言うんだよ」
俺達は美味しさのあまりに無言で食べ進め、あっという間に〆のラーメンまで食べてしまった。
「美味かったな〜」
「〆のラーメンが一番美味しかったかも。お兄ちゃん、今度豚骨ラーメン食べ行こうよ」
「食ったばっかりで、すぐに食べ物のこと考えられるのすげぇな」
「それくらいこの豚骨が美味しかったってこと!私別にそこまで食いしん坊じゃないし!」
頬を赤くして莉緒が言う。
「誰もそこまで言ってないんだけどな。さっさと洗っちゃうからキッチンまで持ってきてくれ」
「食べたばかりだから動きたくないでーす」
莉緒は席を立ってソファへと飛び乗った。
「食べてすぐ横になったら牛になるぞ」
「もぉー」
「なるの早いな」
「もぉー」
俺の妹が牛になったのだが、どうすればいいだろう。こんなやり取り前もやった気がするが。
とりあえず試したいことがあるのでそれをやってみるか。
「我が家の牛さん。食器を運んでください」
「もぉー」
「どれどれ、牛さんだからお乳は出るのかな?」
俺は莉緒の胸を揉んだ。
相変わらず俺好みの柔らかいお胸で何より。
「牛じゃないんだから出るわけないでしょ!」
「なんだ、出ないのかよ。残念」
「……将来は……出るかもしれないけど……」
「ん?なんか言ったか?」
「い、言ってないし!さっさと食器洗ってよ!ばーか!」
莉緒に右ストレートの腹パンチを食らわされた俺は痛みを堪えながら洗い物を片付けた。
俺には「将来は……」までは聞こえていたのだがその先の言葉は一体なんだったのだろうか。少し気になるところだ。
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