46話 義妹の最悪な日曜日 その2
「ちょっと二人とも離れなさいよ!」
「それは無理なお願いだね。ここで私達に出会ってしまったことが運の尽きだよ」
「瑠奈に同じく。大人しく玩具は玩具らしく遊ばれるのが一番」
「だから!私は玩具じゃないっての!……うわぁぁぁぁぁん!お兄ちゃん助けてぇぇぇぇぇ!」
はてさて、この状況どうしたものか。街中で美少女姉妹に押し倒された我が妹。
助けてと言われてもどう助けたらいいのか分からない。
ひとまずは様子を見るか。
「瑠奈ちゃん!あんたどこ触ってんのよ!」
「おっぱいですけど?」
「そんな真顔で言うな!本当に腹立つ!」
怒りのスイッチがONになった莉緒は「うぅぅぅ!」と唸り声を上げる。
「まあまあ、そう怒らないでよ。莉緒さんのおっぱいが揉んで欲しいって呼びかけて来るんだからしょうがないでしょ?」
「私のおっぱいはそんなこと呼びかけないわよ!それに私のおっぱいを揉んでいいのはお兄ちゃんだけなの!」
「ありゃ、そうなんだね。でも陵矢さんだけこのおっぱいを揉むなんてずるいよ。私も揉みたい」
莉緒の身体を瑠香ちゃんがしっかりと押さえ込み、その隙に瑠奈ちゃんがおっぱいを揉む。
なんて素晴らしい連携プレーなんだ。
「ねぇ!お兄ちゃん!感心してないで早く助けてよ!じゃないと今日の晩ご飯抜きにするよ!?」
「それだけは勘弁してくれ!……詩音!お前も手伝ってくれ、俺の晩飯がかかっているんだ!」
「はいはい、分かりましたよ」
俺が瑠香を、詩音が瑠奈を、手分けして莉緒から無理やり引き剥がした。
「ちぇー、もう少し揉んでいたかったんだけどなー」
「瑠香は揉んですらいない。瑠奈だけずるい」
「じゃあ、今揉ませてもらったら?」
「絶対に嫌だから!早く買い物行ってよ!」
莉緒は先程よりも怯えた表情で俺の後ろに隠れている。
「それじゃあ、俺達は行くわ。また明日な」
「ああ、また明日」
「「玩具、ばいばーい!」」
「だから玩具じゃないって言ってるでしょ!」
二人は笑顔で手を振ったあと、仲良くスキップをして詩音を追った。
「…………」
「大丈夫か?」
「これのどこが大丈夫に見えるの?」
「だな。すまん」
「別にいいよ。お兄ちゃんが悪いわけじゃないし。買い物、続けよう」
朝の元気はどこへ行ってしまったのか、そこには魂抜け切った莉緒の姿しかなかった。
やはり、あの二人に莉緒を会わせるの危険だ。今度見つけた時は直ぐに逃げればなんとかなるだろう。
「それで、何買いに行くんだ?」
「ピアス」
「え?」
俺は耳を疑った。
「ピアスだよ?」
「聞こえてるよ。でも、お前ってピアス穴開いてたか?付けてるところ今まで見たことないし」
「もちろん、開いてないよ?」
「それでどうやって付けるんだ?」
「お兄ちゃん、ピアスのこと何も知らないの?」
莉緒はスマホを取り出して、とある画面を俺に見せる。
「これは?」
「今はね、別にピアス穴なんて開ける必要ないんだよ。ノンホールピアスっていうのがあるから」
「ノンホールピアス……?」
「穴のいらないピアス。要はイヤリングだよ」
「へぇー、そんなのあるんだな」
母親がピアスを付けていたため、俺は昔からピアスは穴を開けて付ける物だとばかり思っていた。
耳に穴開けて痛くないのかと聞いたことがあったのだが、母親は全く痛くないと言っていた。
「付けてみたかったんだけど中々買いに行く暇がなくてね。痛くもないし、オシャレだから丁度良いじゃん?」
「そうだな。俺も良いと思うぞ」
「じゃあ、早速買いに行こう!」
こうして俺達は如月姉妹との騒動を終えて、ようやく渋谷へと向かうのであった。
「相変わらずお前が連れてくる店はすげーな」
「そうかな?結構私の友達来てるみたいだよ?」
「そうなのか。みんなオシャレなんだな」
白を基調とした落ち着きのある店内。綺麗に並べられたアクセサリーの数々。
とてもじゃないが、この中からすぐには選ぶことは出来ないだろう。
「お兄ちゃん、ピアスはあっちだから行ってみよ」
「わかっ……うおっ!」
俺は莉緒に右手を掴まれて強制連行された。
「よーし!この中から選ぶぞー!」
「早く……選んでくれよ……はぁはぁ……」
「お兄ちゃん、なんでそんなに息切れてるの?」
「お前のせいだろうが!」
「ほへぇ、まあ、いっか。どれがいいかな」
せめて今は謝罪の一言くらい欲しかったのだが。
どうやら悪いことをしたという自覚ないらしいな。
これは帰ってからお仕置きが必要かな。
「これなんてどうだ?」
「んんー、ちょっとシンプル過ぎない?」
俺が手に取ったのは金色の丸ピアスだった。
さすがにちょっとベタすぎたかな。
「お前はどういうのが欲しいんだ?」
「可愛いやつ」
「それ、俺より酷くないか?」
「う、うるさいなぁ!別に可愛いならいいでしょ!文句ある?」
文句はないが、可愛いやつと言ってしまったらそれ以上の物はないのではないだろうか。そして、もっと具体的に教えて欲しい。
「こいつは?」
「それはいいかも」
「普通に綺麗だよな」
「一応、候補に入れておこう」
俺が次に選んだのは先程のシンプルなゴールドのリングにミントグリーン色の天然石が付いたタイプの物だ。
「候補か、何個買うつもりなんだ?」
「そうだね、一つか、二つでいいかな。最初だし。付けてみて感触が良かったらまた買いに来る」
「まあ、それが妥当だな」
「あ!これいいかも!」
莉緒が手に取ったのは、極細の糸が球体になった物とパールを合わせた幻想的なタイプだった。
これは間違いなく買った方がいいとひと目でわかるくらい綺麗で完成度が高い。
「いいな、それ。大人っぽくて」
「なんかそれだと私が子供っぽいみたいな感じに聞こえてくるんだけど。気のせい?」
「たぶん、気のせいだろ」
「それならいいけど。とりあえずこれは買うことにして、後は……」
莉緒は俺が二番目に選んだピアスを手に取った。
「なんだ?結局それにするのか?」
「そ、そうだよ!わ、悪い……?」
「別に悪いなんて言うつもりはないけど」
「じゃあ買ったっていいじゃん!別にお兄ちゃんが選んでくれたから買うわけじゃないんだからね!私が可愛いなと思ったから買うだけだからね!」
「あー、はいはい。分かりましたよ」
欲しいならもっと素直になればいいのと思うのだが、それはいかがなものなのか。でもそのツンデレを含めて莉緒は莉緒なわけで。
とりあえず、全部が可愛いから良しとしておこう。
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