45話 義妹の最悪な日曜日 その1
翌日の朝、昨日のことなど無かったかのように何の気なしに朝食をとっていた。
そして俺がコーヒーカップを持った時に莉緒が口を開く。
「お兄ちゃん、今日買い物付き合ってよ」
「いいよ。何買いに行くんだ?」
「ブラジャー」
俺は飲んでいた珈琲を吹き出した。
「お、お前さ。もうちょい恥じらいとかないの?」
「うーん?お兄ちゃんだし、別にないかな」
「そ、そうか」
莉緒がそう言うなら俺は問題ないのだが、朝から妹にブラジャー買いに行きたいと言われる兄の気持ちを少しは考えて欲しいものだ。
「ちなみにブラジャーは冗談で、普通に食材の調達に行きたいから荷物持ちお願いね♡」
「……そんなことだろうとは思ってたさ」
俺は深いため息をついて珈琲を一口飲んだ。
「なんかお兄ちゃんの反応つまんないな」
「それだけお前のボケがつまらなかったってことだ。もっと面白いやつ考えて出直してこい」
「ブラジャーより面白いのなんてある?」
「いや、普通に考えてみろよ。あるだろ?お前のボキャブラリーは一体どうなってんだよ」
「ところで十二月に入ったわけだけど、何か食べ物でリクエストある?」
いきなり話題変えすぎだろ。話のテンポを考えろ。ブラジャーのくだりはもういいのかよ。
言いたいことが多すぎて頭が追いつかなくなってきた。しかし、ここで俺がブラジャーの話を再び振ってしまったら何も進展が生まれないので莉緒からの問いかけに答えることにした。
「十二月ね……なんか難しいな」
「簡単でしょ。どのみち二十五日はクリスマスだし。その日だけは今のところ決まってるよ」
「そういうところは抜け目ないんだな」
「あ、当たり前でしょ!お兄ちゃんと一緒にクリスマス楽しみたいんだから!」
クリスマスまで残り二週間。莉緒も楽しみにしているらしい。無論、俺も楽しみにしている。何をプレゼントしてあげようか絶賛考え中だ。
「そう思ってくれて俺は嬉しいよ。クリスマス本当に楽しみだな」
「うん!変なプレゼント寄越したら承知しないんだからね!」
これはプレゼントのハードルがかなり高くなったぞ。今度、詩音にでも相談してみよう。
「それで食べたい物なんだが、シチューとかグラタンとか鍋が良いな」
「また、かに鍋食べたくなったの?」
「かには食べたばかりだろ……。出来れば普通の鍋が食べたいんだ」
「普通って何よ?もっと具体的に教えて?」
俺はしばらく考える。
「普通……確かに普通の鍋ってなんだ?」
「いや、私が聞いているんだけど……」
俺が言うと、莉緒が思わず苦笑いをする。
「じゃあ、今日は鍋にしよう。そうすれば何を買えばいいか分かるしな」
「考えているよりもその方が手っ取り早いね」
俺達は着替えて食材調達のために家を出た……はずだった。
このあと、まさかあんなことが起こるなんて誰が想像出来ただろうか。
* *
「お兄ちゃん、ブラジャーは本当に冗談だったんだけどさ。少しだけ私物の買い物に付き合ってよ」
「ああ、いいぞ」
いいけど、街中で堂々とブラジャーとか口にするなよ。恥ずかしいだろうが。
「とりあえず、今日は渋谷に行きたいんだけど……って、ゲッ……」
「ん?どうした、莉緒?……あっ」
俺達の視線のすぐ先には詩音とその妹の瑠奈と瑠香がいた。
莉緒は以前の記憶が蘇ったのか、血の気が引いて真っ青な顔をしている。
「お兄ちゃん……私……無理」
「そう言われてもな」
俺達と詩音達の距離は25m程しかない。莉緒は俺の後ろに隠れたがバレるのも時間の問題だ。
「ねぇ、瑠香。何か匂わない?」
「そうだね、瑠奈。あの玩具の匂いがする」
「玩具?ああ、莉緒ちゃんのことか。アイツらが今こんな近くにいるわけないだろ」
いや、いるんだよ。てかなんだよ、お前ら姉妹はこの距離で人のこと匂いで判別出来んのか。犬並みの嗅覚かよ。
「兄ちゃんは私達の嗅覚知ってるでしょ。匂いがするってことは絶対にこの近くにいるんだよ」
「瑠奈に同じく。いるよ、感じるもん」
「それならどこにいるっていうんだ……って、ん?」
俺は振り返った詩音と目が合ってしまった。詩音はどうやら莉緒がいることも察知してくれたみたいでアイコンタクトで「逃げろ」と合図を送る。
「兄ちゃん、何してるの?」
瑠奈が詩音に聞いた。
「い、いや、別になんでもないぞ。早く行くか」
「兄ちゃん、怪しい」
今度は瑠香が詩音をじーっと見つめる。
「怪しくない」
「「怪しい」」
「怪しくない」
「「あーーやーーしーーいーー!」」
「あーーやーーしーーくーーなーーいーー!」
あの兄妹は一体何をしているんだ。
「瑠奈、答えは後ろだ!振り向けば分かる!」
「なるほど!さすが瑠香!じゃあせーので行こう!」
「お前ら、やめ――」
「「せーの!」」
遂に二人が振り向き、俺と目が合った。
「あ!陵矢さんだ!」
「陵矢さんがいるということはやっぱり!」
二人はそう言うと俺たちの方へ向かってくる。その速さは音速を超えていたのではないだろうか。
そして二人は俺の後ろに莉緒がいるのを知っているかのように両脇に回り込む。
「え……?」
莉緒は二人を見て驚きの表情をする。
「そこに隠れてても無駄だよ!私の玩具!」
「観念だね。私の玩具」
「玩具言うな!もーう!あのままやり過ごせると思ったのに!」
ここから莉緒にとって最悪の日曜日のスタートだ。
45話、読んで下さりありがとうございます。続きを読みたいと思って頂けましたらブックマーク登録、評価よろしくお願いします。
評価は下記にある【☆☆☆☆☆】をタップでお願いします。




