エリクシール騒動
「くあ」
とりあえず情報が欲しくて俺たちはスラム街に来ていた。欠伸をして目の前の状況を眺めつつ、今日の日向の暖かさを実感。
「終わったか?」
「じゃな」
うつぶせに倒れている五人の青年を積んで、その上に座ってるアルデバランが切れるような笑みを浮かべた。まぁお馬鹿さんと言うしかない。こと戦闘に於いてアルデバランに喧嘩を売った方が悪い。
「にしても此処は雰囲気がピリピリしているな」
「管理されてないエリクシールが何処かにあるんだ。誰だって狙うさ」
「そんなものじゃか?」
「ダンジョンで手に入れるよりリスクは少ないしな」
肩をすくめる。
そんなわけで王都のスラム街はいま厳戒態勢だ。普通に考えて必要レベルは一般より跳ね上がっている。
「えーと~」
アンジェールリカなどにはちょうど良い案件か。
「レベル上がったか?」
「まぁそこそこ」
今現在レベル14とのこと。チンピラと戦ってレベルアップってのも情けない話ではあるも。
さて。
チンピラの足を折って気付け。目を覚ましたところで指の骨を一本ずつ折っていく。悲鳴が上がったが此処では日常だ。エリクシールの行方を知らないか。知りたいのは其処だ。とはいえ向こうさんも知っているなら俺たちに喧嘩は売らないだろう。いや売ったかもしれないが、それでも一財産築けるお宝抱えて他人に絡む要素は無い。で、そうなると、
「大丈夫じゃか? お兄さん」
「俺はな。情報屋に行こうにも現生持ってないしな」
「ふむ。つまり吾輩の出番じゃな」
「よろしくお願いします先生」
そんなわけで掛かる火の粉はアルデバランが払う。時折アンジェールリカも手伝ったり。
俺はオートマッピングでスラム街を検索して、ブラックマーケットの位置を把握する。そこから歩き回ってモグリの薬品を取り扱うところを片っ端から当たる。
「見つかりませんね~」
「闇オークションに出てる可能性もあるな」
「買えます~?」
「無理」
だから現生持ってない。薬屋で事情を聞きつつ疲労を息にする。スラム街の薬屋が珍しいのか。アルデバランとアンジェールリカはしげしげと店内を見つめていた。
「エリクシールなら扱ってますよ~?」
「それ偽物」
「わかるんですか?」
「鑑定は盗賊の得意技だからな」
「さてそうなると」
オートマッピングの地図を見る。
「じゃあマフィアに話を聞くか」
「聞いてくれるのじゃ?」
「私抵抗できませんよ~?」
「大丈夫。アルデバランが居るから」
「というかクリュエルグエルも十分強かろう」
「まぁチンピラ程度なら」
薬撃は結構備えている。
そんな感じでそんなわけ。
中略。
「ほう。つまりわたくしの持つ情報を開示して欲しいと」
マフィアのボスにはあっさり会えた。ただ当然ながら向こうさんの機嫌がよかろうはずもない。気持ちは分かるが別にイエスノーだけ答えて貰えればそれでいいのだが。
「お時間を取らせて貰って申し訳ない。それからアルデバラン。アンジェールリカ。茶は飲むなよ」
「何故じゃ?」
「何で~」
「毒が入ってる」
ピクッとマフィアのボスさんの眉が跳ねた。で、俺は普通に茶を飲んだ。毒は入っているが俺に関しては問題ない。
「もしも件のエリクシールを確保しているなら渡して貰いたい。否ならすぐに出ていきます」
「エリクシールね」
「心当たりは?」
「ないとも」
さいでっか。
「で、どうする気かね?」
「用件は聞きました。お時間とらせて済みません。毒を茶に混入したのは今後の借りと言うことで。後でキッチリ取り立てます」
「怖いね」
「ええ。舐め腐られるのは仕事の都合上マズいんで。マフィアなら分かるでしょう?」
「うむ」
そんなわけで貸し一つ。マフィアの館を出る。今度は市場だ。さすがに王都全体は無理だが。
「こういうときサクリファイスが居てくれれば」
「呼んだぁ?」
いきなりのこと。愚痴ったら本人が現われた。
「サク姉」
「ちょっとぶりぃ。クリュちゃん元気~?」
「まぁそこそこに」
「そうなんだ。また戻ってきてよ勇者パーティ。クリュちゃんいないと張り合いが」
「新しく盗賊は補充したんだろ?」
「極意盗賊ねぇ」
ふわふわした物言いだ。実際に彼女の本音がどこにあるのかは俺でも見抜けないこと甚だしい。
「そう。それ。役に立つんだろ?」
「今度新しいパーティでダンジョンに挑むんだけど」
「ブレイブが居れば大丈夫さ。後アポカリプス」
「はぁ。やっぱりクリュちゃん分かってない」
「何が」
「鈍感」
だから何がよ?
「とにかくお姉さんにして欲しいことがあるんじゃないの?」
「ああ。クエスト成功したら謝礼弾むから協力してくれないか?」
「いいけどぉ。何を?」
「このマッピングにワールドアイビュー掛けて」
「あー」
そんなわけで盗賊と白魔術師の合わせ技。超絶チート。ダウジングが行なわれる。
「そちらの御仁は何じゃ?」
「お師匠様隅に置けません~」
「ああ。勇者パーティの仲間だ。元な」
「哀しいよぉ」
ギュッと何時もの様にサク姉は俺を抱きしめた。
「む」
「カチン~」
そして対抗するようにアルデバランとアンジェールリカも俺を抱きしめる。
「やめい」
で、一家離散。いや違うんだが。
「とにかくサク姉ありがとう。ほんとチート」
「クリュちゃんは人のこと言えないけどねぇ」
寂しげに笑って、紙包みのパンを抱えて王都の街にサク姉は消えた。
「じゃ、こっちも行くか」
「むー」
「む~」
で、何故かアルデバランとアンジェールリカがジト目で俺を見ていた。
「何か?」
「親しそうじゃった」
「お師匠様~……」
「しょうがないだろ。世話になってんだから」
「お兄さんは吾輩のパートナーじゃ」
「そこに違えはねえよ」
レベルアッパーとレベルダウナー。
「じゃ、参りますか」
「何処にじゃ?」
「もちろんエリクシールのあるところ」
俺は軽やかにウィンクした。