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勇者さんのかかる御苦労


「ふ、ふふふ、ふふふふふ」


 他方で。


 勇者ブレイブは泊まっている宿屋で夜這いを仕掛けていた。相手はパーティの仲間だ。サクリファイス女史とアポカリプス嬢。二人は仲良くダブルベッドで寝ているので襲うのに手間が要らない。二人相手にするという意味で。ブレイブに負けの発想はなかった。


「サクリファイス! アポカリプス! 勇者の価値を教えてやる!」


「ホーリーロンド」「ジャルガスフレイヤ」


「ギャー!」


 聖なる光と魔の炎がブレイブを襲った。しかも勇者装備を外していたので彼はガチで死にかけていた。ポーションを飲んで復活。


「何をする!?」


「自己防衛」「乙女のやんちゃ?」


 二人はネグリジェ姿だった。サクリファイスの方は体が熟れきっており、そのバストに至っては三桁台に突入している。タユンタユンだ。アポカリプスの方は起伏の少ない体つきだが、むしろソレが背徳をそそる。


「俺様たちは仲間だろう!」


「かな?」「大分違う気もするけど」


「勇者とパーティなら……ほら……夜伽も仲間の結束を強くするだな……」


「体目当て?」「性欲猿?」


「ていうかぶっちゃけ勇者にそんな態度とっていいのか? 王室に話通すぞ!」


「最低」「ゲス」


「もうクリュエルグエルはいない! 俺たちは俺たちで結束しないといけないんだ!」


「じゃあお姉さんも抜ける」「ポカも」


「ダメだ。勇者パーティの指名権は勇者に帰順する。お前らは王室が不要とするまでパーティを抜けられない! だからアイツの事なんて忘れて、この選ばれた勇者ブレイブ様と恋に落ちてもいいんだぜ?」


「どう思う?」「多分意見は一緒かなー」


「ええ?」


 冷ややかなサクとポカの言葉に、


「こんなはずでは」


 とブレイブが困惑する。


 そもそもブレイブは能力の無能さもさることながらクリュエルグエルのモテモテ度が気にくわなかった。勇者パーティで一番貢献しているのは勇者ブレイブだ。前衛はほとんど彼が維持している……と自負している。なのにその前衛を無視して後衛でクリュエルグエルはサクリファイスとアポカリプスとイチャイチャして集中を乱す。皮肉にしても盛大すぎる。


「絶対追放してやる!」


 も宜なるかな。


 そして実際に王室の意向として追放してやった。これでサクリファイスもアポカリプスも勇者ブレイブの存在価値に気付くだろう。そう思っていたが、むしろヘイトを集める結果になった。自分は勇者だ。選ばれた存在なのだ。女の子が噂して屯し、衆人環視は賞賛の嵐……王族からナイトの称号を賜るような存在である。あくまで未来形として。そしてその可能性があるため国も勇者としてブレイブを優遇している。実際にブレイブは強かった。なのに絶世の美少女であるサクリファイスとアポカリプスは全く靡かない。むしろ去っていったクリュエルグエルの心配すらする始末だ。


「あんな奴! 無能のワンオフスキル持ちだぞ? どう考えてもS級パーティには必要ないだろ?」


「でも盗賊としては最高位だよ?」「うんうん。お兄ちゃんいるだけでダンジョンの罠怖くないもんね」


「それなら心配ない。王室推薦の盗賊が配属される。そうすれば一挙に逆転だ! クリュエルグエルの無能さをお前らも把握する事だろう」


「能力の問題じゃないんだよねぇ」「お兄ちゃんは癒し……」


「今夜からは俺様がいるぞ?」


「ともあれ」


 スッとサクリファイスが左手の人差し指をブレイブに向ける。


「いつまで乙女の寝処にいるつもりで」


「だから俺たちの絆を強くするためにこれからのことを」


「帰れ」「帰れ」


 そんなわけで魔術をブッ飛ばされて死にかける勇者だった。




    *




「サク姉。お兄ちゃん本当に止めちゃったのかな?」


「サインしちゃったからね。少なくとも追放ではあるよぅ」


「でもお兄ちゃんいないとポカ……やる気出ない」


「それはお姉さんも同じよ。ああ、クリュちゃん癒やしだったのに……」


「じゃあポカたちも止めようよ」


「それが勇者パーティって拘束力持つから政治的にやらかさないと任意では抜けられないのよね」


「でもお兄ちゃんいないし……」


「代わりの盗賊シーフも不安だし」


 なわけで王都の冒険者ギルド。ブレイブとサクリファイスとアポカリプスは補充されるパーティメンバーと合流するためにギルド内で酒やら茶やらを飲んでいた。


「書類だけ見るといい子らしいね」


 そんな印象を受ける。クリュエルグエルを追放したときの羊皮紙ではなく、もっと粗雑な紙でのステータスポップだった。名前はゲイダー。レベルは七十八。ステータスもそこそこ。盗賊シーフらしく五種のデバフを扱うサポート系の職種で、王室も能力は保障している。


「しかも永遠の十七才だぞ? 乙女として勇者に恋してます……だぞ?」


「(残念すぎる……)」


「(言わない約束だよポカちゃん)」


 ボソボソと黒魔術師と白魔術師が小声で会話する。


「きっと可愛いシーフなんだろうな! これで俺様のハーレムが完成……」


「はぁい。ここがかの伝説の勇者パーティ? S級の『ルビーレッド』?」


 そう声をかけてきたのは青年だった。いや、その対象を青年と言って良いのか。


「そうだが……お前は?」


 警戒しつつブレイブが青年に疑問を向ける。


「あらいい男。貴方が勇者ブレイブ様ね。食べちゃいたい」


「ひぃッ!」


 軽やかにウィンクする青年に、怖気を覚えて引き下がる。


 実際に男の印象は強すぎた。


 ムッキムキのボディビルダー然とした体つき。マッチョもマッチョ。筋肉お化けという言葉がしっくりくるテカり具合だった。バルクなんて盛り盛りに盛り上がっている。しかもそのマッチョの肉体をカクテルドレスで飾っている。髪はピンクのアフロで紫色の口紅を唇に塗りたくっており不気味な印象さえ与える。ハイヒールを履いており、マッチョなお姉系であることは一目で悟れる。


「どちら様?」


 こういうとき幼いアポカリプスの率直さはプラスに働く。


「今日から勇者パーティにお世話になるゲイダーよ。勇者様にお近づきになれると思って頑張っちゃった♪」


 最後の音符マークがひたすらに嫌な予感を告げる。


「お前がゲイダー?」


「そうよぅ勇者様。これからはあちしが勇者様のチームメンバー。うふん。よ・ろ・し・く・ね?」


「乙女だって書類では!」


「もちろん乙女よ。この心は純情よ?」


「男だろうが!」


「あら失礼しちゃう。あちしは心だけはどんな乙女より乙女よ? ウフン♪」


「俺様は乙女を求めてるんだ」


 まさに外道。


「あら。それじゃ夜伽の方もお世話しなくちゃね。大丈夫。あちしがお姉さんとしてリードしてあげるから」


「いやだぁぁぁぁああああぁぁ!」




「自業」「自得」




 サク姉とポカは十字を切った。


「お姉さんたちはどうしましょう」


「ポカはパーティ止めたい。お兄ちゃんと一緒にいたい」


「お姉さんもそうなのよねぇ」


 頬に手を添えるサク姉。


「問題は勇者の指名権が勅命って事よねー」


「国ごと滅ぼす?」


「やって出来ないではないけど、後が面倒ね」


「じゃあどうするかって話で」


「ちょ。サクリファイス! アポカリプス! 助けろ!」


「ニャンニャンしてればいいよ」


「童貞卒業おめでとうございます」


 もはや横暴な勇者の言うことは馬耳東風だった。


 あえて言うなら、


「ざまぁ」


 だろう。


「ほら。ちょっと脱いで。あちしのアソコに入れるだけだから」


「止めろこのガチムチ変態!」


「乙女募集していたじゃない」


「お前みたいなカマHELL嬢なんて求めてねえよ!」


「でも勅命だし」


 王室が必要と判断したのだ。もっとも「クリュエルグエルより役に立つ盗賊を推薦しろ」と言ったのはブレイブの方なので完全に自業自得だが。


「なわけで勇者のお伽も仲間の仕事。あちしがねっとりしっぽりお付き合いしますわよん」


「こんな展開望んでないいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」






「最初にエッチするならお兄ちゃんが良いな……」


「お姉さんもクリュちゃんでこそ初めてが良いのよね」


 ポカとサク姉も大概だった。


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