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レベルアッパーとレベルダウナー


「うーむ。ヒマじゃ」


「コレも仕事だ」


 何をどういう因果に愛されたのか。俺は謎の幼女……アルデバランに付き合っていた。今は最下級の仕事である薬草採取である。


 ギルドに加盟もしていないのに、いきなりあれだけやらかして、反論を全部腕尽くで封じた後でアルデバランはぬけぬけと加盟した。もちろん最初のランクは最底辺。だがその能力は凄まじく、レベルで言えば既にS級とも遜色ない。


「吾輩のレベルは999じゃからの」


 とは妄言としても、99であっても驚けない程度にはコイツは強い。


 薬草をむしむしと千切っていく。


「レベルね」


 人間にはレベルが存在する。もともと天職を与えられており、その職務を従事することでランクアップが出来るのである。これを一般的にレベルアップという。最大値は99。俺は89。ほとんどこの領域になると人間を止めている。俺はシーフなのでまだしも穏当だが、ブレイブなんかはマジモンで怪物レベル。王属派遣傭兵もこのレベルか。


 俺の場合は戦闘に重きを置かず、ステータスを盗賊シーフ専門にしたので、地味なスキルが目立ち、結果としてサポーターとして大成した。こうして勇者パーティを追放されるなら戦闘スキルも上げておくんだった。グスン。


「薬草はこれでいいのかや?」


「適当に千切るな。それは毒草だ」


 ビシッとツッコむ。脳天唐竹割り。


「吾輩はこんな地味な作業はすかん」


「すかんぴんが良く吠えた」


 ジト目で睨みつつ、薬草を採取していく。


「もっとこうドラゴン討伐とかないのかの? 吾輩はソレなら誰より得意じゃぞ?」


「そういうのはギルドランクが上がってからな」


「じゃあ薬草をさっさと回収してくれ」


 喧嘩を売られているのだろうか?


 しばし考える。


 だがまぁこっちも乗りかかった船ではある。ギルドの警護兵を一蹴する期待の新人だ。無下にするのは憚れる。


「で、お前職業は何だ?」


「吾輩か? バトルマスターじゃ」


「……何ソレ?」


「知らんのか? ううむ。三千世界に鳴り響いているかと」


 多分に人界どころか神界や魔界にも存在しない。


「要するに戦闘職のオールラウンダーじゃ。あらゆる武力を複合して持つ」


「凄いですねー」


「心が籠もっておらんぞ」


 込めてないしな。


「しかしおんしこそ何者為るや。クリュエルグエル。吾輩のピックポケットをあそこまで迎撃する神業は少々意外じゃったぞ」


「そういうことだけ慣れてな」


「そのガードポケットスキルでドラゴンを倒せるのではないか?」


「ドラゴンはピックポケットをしないだろ」


「うむ。残念よな」


 お前の認識がな。


 薬草をむしって籠に入れる。


「御主レベルが薬草採取も不思議じゃの」


「こんな事しか出来ないし」


 ちょっと顛末を話す。ワンオフスキルは秘密で。


「ほう。勇者パーティを……」


「もう追放されたがな。で、かかる苦労をしているわけ」


「ではお兄さん。きさん、吾輩と手を組まんか?」


「俺が? アルデバランと?」


「うむ。吾輩は戦闘に関してなら図抜けておる」


 それは認める。


「もともとお兄さんはサポート役なのじゃろう? つまり戦闘職を欲しておる」


 間違ってはいない。


「であれば吾輩が取って代わって差し上げる。お兄さんは吾輩をマネージメントせよ」


「メリットは?」


「体が欲しいならあげるぞな」


「えー……」


「言っておくが処女じゃぞ?」


 聞いてないから。


「それにきさんとて吾輩の実力は把握しておるじゃろ」


 …………それはまぁ。


「なんなら秘密を打ち明けてもいい」


「秘密?」


「乙女の秘密じゃ。ついでに吾輩の強さの秘密でもある」


「知ることに対するリスクは?」


「吾輩が賞金首になるか。お兄さんが吾輩に殺されるか。そんなところじゃな」


「聞きたくないんだが」


「まぁまぁそう云わず」


 ポンポンと薬草採取している俺の肩を気軽にアルデバランが叩いた。


「お兄さん。キスは経験あるかや」


「ない」


「では吾輩が初めてじゃ」


 ふいに何を言われたのかわからなかった。それより先にズキュゥゥゥンと唇を奪われた。同時にステータスの変動が身に染みる。俺のレベルが上がっていた。


「な……ッ!」


「これが吾輩のワンオフスキル。レベルアッパーじゃ」


「レベルアッパー!?」


「ふむ。その様子では百を超えておろう。吾輩のアストラルポイントをそこそこ注ぎ込んだ故な」


 たしかにレベルが123となっている。何この異常事態。ギルドカードでステータスの客観的な確認。そっちでもレベルが123。ついでにステータスも一律上がっている。


「な……なん……なんなん……何なんだ……?」


「じゃから吾輩のスキルでレベルを上げた。自分以外に試したことはなかったが、上手くいったようじゃの」


 ホケッと何でもないようにアルデバランは語る。虹色の瞳が俺を捉えていた。


「言うたじゃろ。吾輩のレベルは999じゃ。もちろん相応にアストラルポイントは使ったがな」


「それであの強さか」


「まぁ天職の関係もありの」


 ケラケラと彼女は笑う。正気の沙汰では無い。戦闘職でレベル999。どう考えてもバランスブレイカーだ。しかも他人のレベルも上げられると来る。たしかに乙女の秘密だ。こんなシークレットが暴露されたら彼女に平穏は訪れないだろう。各国がこぞって誘拐を試みるに金貨二十枚。


「お兄さんもただものではあるまい。ワンオフスキルの一つは持っておるじゃろう?」


 持ってるが。


「レベルダウナー。お前とは真逆の能力だ」


 まぁ皮肉な口調にもなる。まったく正反対のデバフの能力。生産性ではどう考えてもレベルアッパーには敵わない。


「他言はしないでくれ。これのせいで『呪われてる』と粛清されかけたこともある。お前のレベルアッパーについても黙ってやるから、こっちも仁義で話したんだぞ」


「レベル……ダウナー……ッ?」


 アルデバランは唖然としていた。


「さほど大仰なスキルでもない。連発は出来ないし、下げるレベルにしてはデバフの効果は低いし、ついでに経験値や魔石やドロップアイテムも下がったレベル相応になる」


「吾輩のレベルも下げられるか!?」


「やろうと思えば」


「しかも下げたレベルよりステータスは下がらんのじゃろう!?」


「そうだな。デバフ効果としては不思議なんだが……そういうことになる」


 だから勇者パーティを追放されたわけで。


「……………………奇蹟じゃ」


 何が?


「お兄さん。お兄さんのその秘密を吾輩が独占したい! 契約してくれないか!?」


「契約?」


「吾輩のためにそのスキルを使ってくれ! 吾輩のレベルを落としてくれ!」


「いや。勿体ないだろ」


「なるほどなるほど! コレも天命じゃ! どれ! 薬草を摘むぞ!」


「やる気になってるとこ悪いが毒草を摘むな」


 ミッションに減点がつくんだよ。


「いやまさかこれ以上強くなれるとは思ってもみなかった。これもお兄さん有りきじゃ」


 なんでレベルダウナーがそんななのか……。


「じゃって――!」


 興奮するように、アルデバランは本人の意図するところを語った。


「えー?」


 ちょっと正気かと疑うレベル。


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