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追放された後


「しかしどうしたものか」


 ちょっと気取って「勇者パーティ? 追放されたぜ」って気取ってみたけど現実は残酷だ。冒険者ギルドそのものには登録してあるので書類上困ることは無いのだが、およそ俺の職業適性は盗賊シーフ。ダンジョンをマッピングしたり、宝箱の罠を解除したり、ポーションを多数運んだりと裏方に徹する仕事である。つまり戦えない。もちろんレベル的にマージンさえ取れば戦えはするのだが限界というものが存在する。


 今までは前衛がブレイブで後衛がポカ。フォローがサク姉で俺はサポートに徹していたのだが、これがソロとなると全て自分で担わなければならない。もちろんそれが出来る超人も存在するが俺には無理だ。根っからのシーフなのでサポート系列でスキルは埋まっているし、俊敏値も筋力値の三倍以上と根っからステータスが偏っている。レベルは無駄に高いのだが、そもそも勇者パーティでレベリングして出来上がった結果であって、俺自身が戦うという発想がそもそも存在しない。


 勇者の発言は王権代理でもあるため、一度吐き捨てられると覆すのも面倒。とはいえ懐が冷えると体温も冷えるわけで。


「え? 勇者パーティ追放?」


「ん」


 安い宿屋の一階。食堂を兼任しているそこで俺は朝食をとりつつ看板娘に愚痴っていた。


「なにしたんですか?」


「むしろ何もしてないから追放されたというか」


 ワンオフスキルについては公開していない。こんなデバフ持ってると知られれば場合によっては魔女狩りだ。


「でもクリュエルグエルさんレベル九十の罠も解除できますよね?」


「いや。八十後半で限界だ。それ以上になると数パーセントトラップ起動を覚悟する必要がある」


「それでも十分な気がするんですけど」


「でもパーティに還元してないのはその通りなんだよな」


「あの。アレですか? サクリファイス様とアポカリプス様……」


「知ってるか」


「むしろ知らない人が凄いんですけど。S級勇者パーティの二大魔術師ですよ?」


「中々に御苦労の忍ばれる肩書きだな。ミートローフお代わり」


「はい。承りました。それでクリュエルグエルさん。今後どうするので?」


「どこかのパーティに拾って貰うかぁ……」


 虚ろな瞳で天井を見上げる。


「なんならウチで保護しましょうか? クリュエルグエルさんなら歓迎ですよ?」


「いや。客商売に向いた性格じゃないんで」


「別に働かなくともいいですよ。ただ居てくれるだけで」


「そんな駄目ンズ共依存みたいな提案をされるとは思わなかった」


「いや。ぶっちゃけこの宿屋の生涯賃金以上を貰っているので。ここで手を差し伸べないと枕を高くして眠れないというか」


「普通に宿泊料は払ってるだろ?」


「ウチのお父さんの病気にエリクシール使ってくれましたよね? 言っておきますけどあの珍事だけで宿屋売っても保障できない借りをクリュエルグエルさんに持ってますからね」


「余ってたから使っただけだ」


「普通マジックショップに売ったら豪邸立つんですけど」


「あの手の類って売ると商売ルートに軋みが生じるんだよ。売却権の売却とかブラックマーケットの相場変動とか。個人で使った方が経済的に安心できるんだよ」


「だからって庶民の病気に万能薬を平然と使うクリュエルグエルさんマジパない」


「良心は欠片も無いがなぁ」


 ミートローフをモグモグ。


「じゃあコレからどうするんです?」


「冒険者ギルドに行って仕事を探す。人相手よりまだしも気楽だ」


「クリュエルグエルさんなら勧誘で引っ張りだこのはずです」


「だったらいいな」


 とはいえ楽観も出来ないわけで。シーフって基本戦闘に於いては寄生職だ。いたら便利だけどいなくても不都合はない。そんな役職。勇者パーティに居た頃ならまだ金銭授受もあったけど……ガチでコレからどうしよう?


「なんなら私をお嫁さんにして田舎に引っ込みますか?」


「それもいいな」


「ふぇぁゎ!」


「何故ひっくり返る?」


「いえ……。その……。なんでもありません……」


 さいでっか。


「とにかく朝食ごっそさん。今日も美味しかったぞ」


「ハバナイスデイ!」


 グッと彼女のサムズアップ。




    *




「ゴブリンコミューンの調査。薬草採取。仮パーティ募集中……か」


 で、ところ変わって冒険者ギルド。


 中々巨大な木造建築で、威厳と風格と権威が胃を痛くする本社で、俺は仕事を探していた。さっそく勇者パーティの追放から難儀している俺。哀しすぎて涙も出ない。


「クリュエルグエル氏。そんな仕事を選んで良いので?」


「貴賤は無いはずだが」


「いえ。その。一応S級なんですけど貴方」


「でも戦闘できないからこれくらいしかやれることないし」


 本気で宿屋に食客しようか悩みどころ。


「じゃあ受理しますけど。アレなら自分が掛け合いますよ?」


「いや。勇者パーティに突っかかるのはよくない。場合によっては王権反逆罪に問われる」


「いえー、そのー、ソッチではなく……」


 どっちだ?


「とにかくクエスト受理を宜しく頼む。心機一転頑張るので――」


 何故か困惑しているギルド員に誠実に言葉を放っていると、


「失礼」


 ドンと背の低い誰かがぶつかってきた。


 ほぼ同時に意識が加速する。


 ――スキル発動。ガードポケット。


 いわゆるカウンタースキルで、ピックポケットへの防御行為だ。


 相手方の右手が、こっちの両手に、一瞬の内に五千二百四十五回払われた。同時にあまりの速度に空気が破裂し、超音速のやり取りはソニックウェーブを生む。防御維持をエンチャントされたギルドのカウンターが炸裂して全損する。


「ん?」


 そこまで認識したときには手遅れだった。ビリビリと筋肉が痺れる。一秒の半分で五千二百四十五回の攻防があったのだ。俺じゃなきゃ腕の筋繊維が千切れていただろう。


「なんだテメェ」


 で、そこまで理解して漸く相手がこっちの懐を探っている事実に突き当たる。


「……………………」


 その相手はフードを被った謎の人物だった。相手方のモーションにこっちが自動反応しただけなので、こっちはスキルに掛かりきり。相手がピックポケットを発動したのだとしても、超音速で魔術強化したカウンター席を破壊する衝撃波を生みだす威力はちょっと見ない。


「ごほっ。ごほっ。なん……っ?」


 で、いきなり衝撃波が発生して困惑しつつ一部損壊した受付を見て、ギルド員さん大混乱。


「へえ。お兄さんやるね」


「懐寂しい俺をターゲットにするとはふてぇ野郎だ」


「まぁ誰でもよかったんだけど……これは当たりを引いたかな?」


 何の話だよ。


 即刻憲兵に突き出すか迷っていると、フードの人物は掛け物をパサリと払った。現われたのはちっこい幼女。だいたいアポカリプスと同じくらいか。貧相な体つきに、矛盾したオーラを纏った徳の高い人物。


「お兄さん。お名前を聞いても?」


「クリュエルグエルだ。そういうお前は何だ泥棒?」


「吾輩の名はアルデバラン。近い未来に英雄と呼ばれる御仁よ」


 自分で御仁とか言うか普通。


「警備兵!」


 そこで漸くギルド員さんが動いた。相手方の幼女が不敵に笑っている中を、社兵と冒険者が取り囲む。


「ふむ」


 だが謎の幼女は不敵にたたずんでいた。波紋が広がるような破壊後の中心で。


 まぁ俺のガードポケットに五千二百四十五回付き合ったのだ。相応の威力は持っているのだろう。となるとここで衝突するとヤバいんじゃないか?


「優しいね、お兄さんは」


「何を根拠に」


「心配してくれるんじゃろう? この最強の吾輩を」


 幼女が吾輩って一人称だと畏敬を覚えるな。


「ギルドでの破壊行為は罰則対象です。ギルドメンバーですか?」


「いや? それはこれからなるところじゃ」


「?」


 不可解に囲んでいる護衛兵が首を傾げる。


「なに。吾輩は気分が良い。戯れてやる。掛かってこい」


 右手の平を上に向けて、クイクイと指を曲げる。まさに「掛かってこい」だ。


「罰則の対象ですから」


 その言葉を口火に、謎の老齢幼女とギルドの私兵がぶつかった。


 中略。


「まぁこんなところじゃな」


 まとめて成敗されたギルド員の五体を高く積んで、その頂上で幼女はあぐらを掻いていた。


「かっかっか。うむ。心地よい」


「何者だ!」


「名はアルデバランと申す。そうじゃな。ギルドに加盟したい」


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