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食堂でのニアミス


「どうもです」


 クエストは終わった。魔界の扉への掣肘。並びに勇者パーティへの心砕き。


「お兄さん。腹減った」


「お師匠様~。よく考えると有り得ないですね~」


 アルデバランとアンジェールリカもどこか萎びた空気を纏っていた。


「任務に報酬も出るし適当に食堂に入るか」


 そんなわけで懐も温まったので食堂に入る。もちろん王都のだ。


「これからどうするか」


 一応アルデバランのフォロー有りきで演算もするのだが。


 葡萄酒を呷りつつ、ちょっと考える。


「うーん」


「うむ。試運転としては上等じゃったが、出来ればもうちょっと歯応えのある相手が欲しいのじゃ」


「グレイトドラゴンより歯応えがあるってなるともう一騎で国全損するレベルになるんだが……」


 アルデバランのステータスが異常なのは既に語ったが、そこまで強くなっておきながらコイツは同等のスペックを他にも求める。


「そうなると高難度のダンジョンとかになるな」


「アレより強いのがいるのか?」


「どうだろな。レベル相応の深度までしか潜ったことないから。勇者パーティでも高難度での暴挙はしなかった」


 まず生還することがダンジョンでは求められる。オートマッピング機能があるので、どこまでヤバいかは予測も立つが、それでも絶対は無い。なので冒険だけはしなかった。特に危機感皆無で突出する勇者のフォローに終始していた気もする。


「サク姉とポカも苦労してるんだろうな」


 俺が抜けた後の盗賊シーフの活躍については耳に入ってこないが。


「お兄さんはなんで其処まで気を揉むのじゃ?」


「何が?」


「お師匠様はちょっと勇者パーティを気にかけすぎ~」


「そうか?」


「うん」「うん」


 コックリ頷かれた。二人揃って首肯する。


「別に今のパーティを蔑ろにする気は無い。不安にさせたのなら申し訳ないな」


「じゃあ一緒にお風呂入ろう?」


「いいけど俺の風聞がなぁ」


 アルデバランもアンジェールリカも年齢相応だ。俺は成人男性だし、色々と問題が頻出しかねない。


「お兄さん?」


「お師匠様~」


 はいはい。両手を挙げて降参のポーズ。


 そんなことをしていると別の客が入店してきた。


「お腹減ったぁ」


「とりあえず果実水」


「俺様はとりあえず麦酒だ」


 うわー。


 葡萄酒を飲みつつ視線を逸らす。見なかったことにしたいがそうもいかない。


「あれ? クリュちゃん」


「お兄ちゃんだー」


 サク姉とポカはこっちに気付いて破顔し、


「……………………」


 一人勇者様が渋い顔をしていらっしゃる。


 まぁ面白くは無いよな。


「奇遇ぅ。フォローありがとね。助かっちゃったぁ」


「おいサクリファイス。そんな役立たずに礼をとるな」


「だってグレイトドラゴン倒したのクリュちゃんのパーティだし」


「凄かったね。アルデバランちゃんだっけ。骨法でアレだけ出来れば大したのだよ」


「光栄じゃの。勇者の仲間からそう褒められると」


「言っとくがな。俺様だけでもどうにか出来たんだぞ? しゃしゃりでて来やがって」


「そりゃ失礼じゃな」


「そもそもクリュエルグエルとはどういう関係だ?」


「んー。運命かのう……」


 ギラリと勇者はコッチを睨んだ。


「どうやって懐柔した?」


「それなりに対話してだな」


 別段高尚なことは何もない。相性そのものは抜群だが邂逅の原因でもないのだ。


「よし。じゃあお前。勇者パーティに入れてやる。ヘッドハントだ」


「断る」


 いきなり不条理なことを言い出した勇者も勇者だが、アルデバランの返しもあっさりしたものだった。


「は?」


「断る」


「……………………」


「あわわ~……」


 食堂の料理を平らげつつあっさりとアルデバラン。俺は目を伏せて葡萄酒を飲み、緊迫した空気にアンジェールリカはたじろいでいる。


「意味分かって言葉を紡いでいるんだろうな?」


「勇者殿が吾輩をヘッドハントするということじゃろう?」


「そうだ。崇め奉っていいぞ」


「有り難みも無いの」


「言っておくが勇者の言葉は政治的に意味を持つ。優秀な冒険者が勇者に協力するのは国の意思だ。却下は不可能だぞ?」


「吾輩はお兄さん……クリュエルグエルと一緒に居たい」


「ほう?」


 また俺が睨まれた。


「ということは勇者の言葉を蔑ろにするんだな? 政治的事情を私情だけではねつけるんだな? そのことが不利益となることを分かっていて言ってるんだな?」


「そうやって脅して仲間にしてもヘイトを溜めるだけじゃろうに」


「国家反逆罪を適応してもいいんだぞ」


「ほう。そうなると国家そのものが敵に回ると?」


 どこかアルデバランの言葉には艶が乗っていた。多分国家という存在そのものの強大さを認識するような。ていうか普通に強敵であれば国家でも構わないのだろう。


「言っとくが勇者が最強の一角だからな」


「なんじゃ。つまらん」


 不平不満の捉えどころが違うのだが……此処で言うことでもないか。


「舐めてんのかテメェら!」


 こっちで色々言っていると憤慨したブレイブが剣を抜いた。国家公認の勇者だ。その背景そのものはおそらく此処で一番大きい。たんに個人では及ばないってだけで。


「なんならクリュエルグエルを国家反逆罪に認定してもいいんだぞ」


「駄目」「却下」


「お前らには聞いてねえ!」


 サク姉とポカの抗弁にも耳を貸さない。


「なんでそうお兄さんに楯突くの? もと仲間でしょ?」


「そんな役立たずを仲間と呼ぶな! メンバーに加えたのも恥だ!」


「さいですかー」


 俺はまぁ真っ当な評価に胡乱げな言葉を吐いた。そりゃアルデバランのレベルアッパーがなければデバフ持ちの一盗賊でしかないのも事実で。その意味で良いタイミングで追放されたなとも思えども。


「すいません。葡萄酒追加で」


 さらに追加オーダー。


「とにかく貴様は俺様のパーティに入れ! なんならそっちの黒魔術師も一緒にな!」


「え~? 私も~?」


「さすがに男女比は釣り合いを求めた方がいい気もするが」


「テメェに言えたことか」


「ご尤も」


 葡萄酒をゴクリ。


「面倒じゃから殺していいじゃか?」


 いや。そっちの方が余計面倒になるから。


「俺様を殺せる気でいるのか?」


「簡単じゃぞ」


「やってみ――」


「ズドン」


 挑発して剣を振るおうとするブレイブより早く、アルデバランの拳が刺さった。店内を一文字に突っ切って壁に叩きつけられる。


「が――はぁ――ッ!」


「あー。どうしたものか」


「クリュちゃんは御苦労ね」


「お兄ちゃん。面倒掛けてごめんなさい」


「サク姉とポカが気遣うことでもないんだが」


「でもここでブレイブがごねたら……」


 どうなるだろうな?


 次回刮目して待て。


「むぅ」「む~」


 でアルデバランとアンジェールリカがサク姉とポカを睨んだ。


「何?」「何か?」


「お兄さんはこっちのパーティだから」


「お師匠様は私たちの管轄ですよ~?」


 ああ。そういう。


「勇者パーティに気を揉むなって話だったな」


「そうだけどそうじゃないじゃろ」


「お師匠様はちょっと勘違い~」


 えー?


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