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勇者の嫉妬は物語の始まり

というわけで突発的に思い付いて連載。

十話くらいで完結予定です。


「てめぇ! コラ! クリュエルグエル!」


 ダン! と勇者は小さな樽を模したコップをテーブルに打ちつけた。


「何か?」


 目の前の彼は、ちょっと鈍い金髪の……精悍さを纏った青年だ。名前はブレイブ。職業は勇者。今はこうして酒に酔った兄ちゃんみたいに見えるが、実のところ神託で宣言されたマジモンの勇者だ。今時分に魔王と和解が済んで久しい現在に於いて珍しい職種ではあるが、有り難みがないと言えば嘘になる。実際に彼が勇者だと神言された以上、何かしらの魔族関係でおおごとを起こすのは事実だろう。もともともの神託という奴は時間の観念を無視するところがあるため、それが何時如何様に行なわれるかまでは知りようがないも。


「俺様は勇者だぞ!」


「知ってる」


 で、問題の俺がクリュエルグエル。職業は盗賊。とはいっても罪は犯さないので、この表現は厳密では無い。


「ただ軽装でナイフとか使って、ついでにダンジョンの罠とか解除する職業って感覚的に言って盗賊だよね~ぇ?」


 ……という凝り固まった観念からいまだに『盗賊シーフ』という職業名が改められることは無い。こっちとしてはサポーターくらいに改名して貰えると嬉しいのだが。


「なんで! なんで勇者の俺様がお前なんかを使ってやってると思ってる!」


「まぁお前じゃ宝箱の罠解除できないし」


「ぐ!」


 酒を飲みつつ……というより酒に呑まれつつ意識だけアッパーカット。


「それでも通すべき義理ってもんがあるだろう!」


「あるなー」


 俺もそこは賛成だ。


「なぁに? クリュちゃん。通すべき義理ってお姉さんとニャンニャン……」


「歳がバレるぞサク姉」


 サクリファイス。俺の座っている席に、同じく座っている色っぽいお姉さんだ。


 白いローブで身を包んでおり、ちょっと見た目怪しいお姉さんだが、その豊満な体は隠せていない。ぶっちゃけた話エロい。ちなみに俺と同じ席とは言ったが、隣り合っているわけでもない。俺は背中から抱きしめられていた。一つある椅子に座ったサクリファイス……サク姉の太ももに俺が座っていることになる。背中にパイオツが押し付けられており、ぶっちゃけその役得加減は天元突破もいたるところ。


「えへー。クリュちゃんは今日も可愛いねー」


「そこは格好良いと言ってくだされば嬉しいのだが」


「可愛いよぉ。ヒールかけてあげる」


「怪我してないので御結構」


 そしてまた酒を呑む。


 このポワポワしたお姉さんは白魔術師。もちろん同僚。


「お兄ちゃんはお酒強いよね」


 で、さらに同じ席に座っている幼女がジュースを飲みつつ俺に笑顔を見せる。ちなみに肩越しに。で、こっちも同じ席に『隣同士ではなく』座っているので、問題が頻出する。


 俺を背中から抱きしめて太ももに乗せているサク姉とは逆に、幼女は俺の膝に座っている。年齢的にアウトなので酒は呑んでいないが、俺が見るに雰囲気だけで酔ってるなコレ。


 幼女。ポカ。アポカリプスという名の黒魔術師だ。もちろん同僚。


 勇者ブレイブ。盗賊クリュエルグエル。白魔術師サクリファイス。黒魔術師アポカリプス。この四人が冒険者ギルドのS級パーティ『ルビーレッド』の全容だ。


「まずサク! ポカ!」


 グビグビと度の強い酒を呑みつつ勇者ブレイブが白と黒の魔術師に難癖を付ける。


「クリュエルグエルから離れろ!」


「嫌」「絶対嫌」


「リーダー命令だ!」


「えー」「理不尽」


 熟れた体のエロいお姉さん系白魔術師サクリファイス。


 未熟ながら熟れ頃じゃないけどいただけます系黒魔術師アポカリプス。


 元が勇者パーティとしてウチは有名なので、この二人はアイドルといって差し支えない。ぶっちゃけ勇者ブレイブがなくてもやっていけるのでは? ……と錯覚させるほど。


 魔王と神王と和解したこの世界で、勇者の神託にどれ程意味があるかはこの際論じないとして。


「で、だ。クリュエルグエル! お前は伝説の勇者パーティには相応しくない! 追放処分にする!」


「はあ」


「え?」


「は?」


 三者二様のリアクションがあった。


「そもそもお前役に立たないし!」


「この前のダンジョン探索で宝箱の罠解除した功績振りかざすなら、全部俺に所有権あるんだが?」


 もちろん戦ってはいないのでモンスタードロップのアイテムは俺以外の人間が所有権を持つだろうが、なんにせよ宝箱限定なら俺十割だ。


「戦闘のリスクを負ってないだろ!」


「盗賊だしな」


 いや。毒矢や毒ナイフで援護はしてますよ?


「殆ど前線は俺様が支えているじゃないか! サクとポカも後衛だし!」


「勇者なんだからそれくらいやれ」


「そうだそうだ~」「そうだそうだ~」


 サク姉とポカも援護射撃。


「てなわけでお前は首だ。元々ワンオフスキルも役に立たんし、なんでこんな奴を入れたのか……」


「役に立つよ~」「役立ちまくりだよ~」


 サク姉とポカの援護射撃。


「黙ってろお前ら!」


 既にアルコールに脳を浸蝕されているらしい。ブレイブの目が据わっている。


「てなわけでホイ! これが契約書だ!」


 革製のスクロールが酒の席のテーブルに広げられる。


 書類を読み込むと、『後腐れなく保障もなくクリュエルグエルは勇者パーティを脱退します』と旨を書かれていた。


「拇印を押せ」


「正気か? 一応そこそこ役に立ってる自負は在ったんだが」


「ふん! すでに王室から新たに有能な極意盗賊マスターシーフを推薦されている! 勇者パーティは国策だからな! むしろ今日まで使ってやったことを恩義と思え!」


「大丈夫か? 俺のワンオフスキルだって有用なはずだろう?」


 レベルダウナー。敵のレベルを下げることの出来るデバフ系のスキルだ。


「むしろソレが問題なんだよ!」


 勇者ブレイブは火でも吐きかねん勢いでビシィッと逆○裁○の指差し方をした。


「お前のレベルダウナー使えねーし!」


「デバフとしてはそこそこだと思うんだが……」


「一つ! 乱発できない!」


「まぁな」


「一つ! 効力が見合わない!」


「まぁな」


「一つ! レベルが下がると経験値や魔石の質が落ちる!」


「まぁな」


「なわけで! 今まではワンオフスキル持ちとして一応は仲間面してやったがもう要らん! コレからは優秀な五種類のデバフスキル持ちの王室推薦のシーフがお前の代わりにこの『ルビーレッド』を盛り立てる!」


「反対!」「反対!」


 ビシッとサク姉とポカが反論する。


「これは勇者としての権限の内だ! おまえらの意見は聞いてない!」


「そもそも神王にも魔王にもケンカ売らないし勇者って形骸化してない?」


「それでも俺様が勇者であるのは事実! ぶっちゃけ王権代理まで任されている。冒険者ギルドではあまり通用しないが、このS級パーティは政治的に管理されるべき人類の希望だ!」


「で?」「何?」


「もちろん実はお前らもクリュエルグエルの無能さには辟易していただろう? こんな役に立たんデバフスキルそうそうないしな」


「でもヤバいときには助けられたし!」


「おかげでボスが雑魚レベルまで堕ちて経験値もアイテムも雑魚ドロップだったじゃないか!」


「お兄ちゃんが居なかったらその黒剣手に入れてないよね?」


「でぇじょうぶだ! 王室推薦のシーフならもっといい宝箱を開けられる!」


「うー!」「う~!」


「で、ここにサインして捺印すればいいのか?」


 勇者と魔術師でやんややんやしている間に俺は書類にサインして拇印を押していた。


「あー!」「あー!」


 で、騒ぐサク姉とポカ。


「止めるの!?」「止めちゃうの!?」


「勇者が望んでないならな」


 勇者グループにいると生活費に困らなかったんだけど、ぶっちゃけ国政には逆らえない。元々勇者とは人類の希望だ。今は冒険者ギルドで働いているが、有事と為った場合民衆を率いて戦う御仁。神界と魔界にも政治的に不安は在るし、その意味で勇者ブレイブの掣肘が必要なのも常で。


「じゃこれでいいな。今までお世話になりました」


 王室直参の追放書類に捺印した時点で、俺は勇者パーティの預かりでは無くなったのだ。


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