私と貴方の幸せを祈って
この視点だけじゃ分かりづらいかもしれないので、シリーズとして別視点も書くことを予定しています。
「アルベリア!」
キラキラと無駄に、と言っても過言では無い王宮の舞踏会会場にプラチナのように輝いた髪の少年…否、この国の第二王子が何やら大声で叫ぶ。
「はい、殿下。わたくしはここにおります。」
なんだなんだと騒ぎ出す招待客の合間を縫って、輝く美しい金髪の少女が現れる。彼女はこの国の公爵令嬢だ。
「ここで私はアルベリアとの婚約を破棄する。そして、アルベリアの罪を告発する!」
婚約破棄、まではなんとなく呆然と聞いていた招待客達は罪の告発、という言葉を聞いて首を傾げた。
「婚約破棄はお受けします。わたくしの罪の告発の前に、破棄の理由をお聞かせ願いたいのですが…」
婚約破棄と聞いてもアルベリアは実に冷静である。この場で堂々と王子に対抗できるのは、きっとアルベリアぐらいだろう。
「分かっているくせに何をとぼける!ここにいるキャラメリア嬢を虐めただろう!」
随分と確信を持った言い方をするのだな、と心の中でアルベリアは呟いた。
「殿下、わたくしは虐めてはおりません。しかし、殿下はわたくしがその方を虐めていてもいなくても、その方を愛しているのですか?」
「、もちろんだ。」
話の主導権はあくまでアルベリアだ。王子は愛しているかと聞かれて、一瞬ほんの一瞬だったが、表情が固まった。親しい者にしか分からない程度だったが。
「では、婚約破棄を致しましょう。殿下と相思相愛の者を引き裂くのはわたくしも心が痛みますもの。」
にこりと女神のような笑顔を浮かべたアルベリアに会場の空気を和やかにする。
「あ、ああ。そうだな、」
王子もアルベリアの笑顔に流されたように頷いた。
「え、ちょっと、どういうこと?まだ、断罪をやっておりませんわ。」
しかし、その空気に流されぬ者1人…。いや、空気を読めない者と言うべきか。しかも、かなり口調が乱れている。会場の視線も王子の後ろに立っている少女、キャラメリア嬢に向かう。
「あの、失礼ですけれど名前を伺っても?」
アルベリアはやっと視界に入ったとばかりに驚き、名を尋ねる。尋ねられた少女は不快な顔を隠さなかった。
「あなた、失礼ね!サレム様に相手されなかったからといって私に八つ当たりしないでよ。あんたより私の方が魅力的だった。たったそれだけの事よ!」
これは貴族なのだろうか。全く話が通じていない。アルベリアも顔には出さなかったものの驚きで固まった。会場が静まる中、1人の女性が無表情でアルベリアに近づいた。そして、静まった会場に女性の声が響いた。
「アルベリア様、申し訳ありませんが時間です。このような者など放っておいて早く参りまょう。」
「そうね。そろそろ限界が来そうだわ。」
「は、帰るですって!ちょっと待ちなさいよ!逃げるのね!」
帰ろうとするアルベリアに喚くキャラメリア。アルベリアはそんな彼女も少し見てから口を開いた。
「わたくし達はもう二度と会うことはございません。ご安心くださいませ。断罪をしたいのかも知れませんが、これもすぐに解決致します。わたくしの罪はすぐに断罪されるでしょう。殿下、短い間でしたが有難うございました。では、勝手ながら帰らせて頂きます。」
意味が分からないと喚くキャラメリア。彼女がアルベリアに飛びかかろうとするのを止めたのは意外にも、第二王子のサレムだった。
「キャラメリア、もう良いだろう…」
最後の殿下の寂しげな言葉が忘れられない、とこの舞踏会に来ていた者たちは今でも言っている。
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2ヶ月後、王都に衝撃的なニュースが飛び込んだ。アルベリア・ミラー二公爵令嬢が亡くなったというニュースだった。なんと彼女は重い病気を患っていたのだ。しかも、かなり前から。
彼女の最後の言葉は
「殿下の幸せを祈ります。」
だったそうだ。
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