表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

落ちこぼれ

アリシアによって、ピョンと名付けられ、一日が経った。

その日は傷が治ったとはいえ、様子見のために一日安静にすることと言われ、大人しくその日は寝て過ごしたのだ。


そして、次の日。

窓から差し込んでくる陽の光が目に当たって、目を覚ます。

ゆっくりと覚醒する意識の中、まず視界に映ったのは、俺の主人であるアリシアの顔。

覗き込むように、目を輝かせながら見てくる彼女の姿にギョッと驚いてしまい、一気に意識が覚醒する。


俺が目を覚ましたことに気付いたのか、アリシアは笑顔を浮かべる。


「おはよう、ピョンちゃん! 今日はいっちばん! 気持ちいい朝だね!」

「ギ、ギギ……」


お、おはよう……と、とりあえず挨拶を返す俺。

何故俺のご主人様はここまでテンションが高いのだろうか……と思っていると、鼻歌を歌いながらスキップをし、台所へと向かい、朝食を作り始める。

何か嬉しいことでもあったのだろうか……と考えると、思い返せば、彼女は昨日からそんな感じだったと思い出す。

それも俺と契約してからだ。

ということはアレだろうか?

初めてテイムできたことで興奮状態が一日経っても冷めず、今でも上機嫌のままでいると言うことか。


まぁ、今までテイムするのに苦労してきたみたいだし、努力が実ったんだと感じれば、嬉しいものだろう。

俺だって、自分の努力が実れば、嬉しく感じるしね。

だからこそ、彼女の様子は微笑ましいものだ。


そう思っていると、あることを思い出す。

そういえば、彼女の両親や兄弟はどこなのだろうか?

昨日一日中いたのだが、帰ってくることは結局なかった。

彼女の家系はテイマーの家系らしいし、それで冒険者か何かをしていて、帰ってくる頻度が少ないのだろうか?

いや、そもそもこの世界に冒険者があるのかどうかはわからないけど……他に不思議に思うことは置かれているテーブルは小さな丸テーブルと椅子が一つだけ。

家族で住んでいるのなら、座る場所が一つだけっていうのはおかしな話だ。

ベッドだって一つしかないし……訳アリっぽいと感じていたが、なんだか段々雲行きが怪しくなってきたぞ。


そんなことを思っていると、アリシアはできた朝食テーブルの上に置き、俺の方を見ると手招きをしてくる。


「おいで、ピョンちゃん。朝ご飯にしよう?」

「ギギ!」


飯! と思わず反応する。

思えば、昨日はずっと寝たままだったので、何も食べていなくて腹ペコなのだ。

朝食ということはパンだったりするのだろうか?

いや、何か焼く音も聞こえたし、目玉焼きとか、ベーコンとかあるかもしれない。

まぁ、この世界の食文化がどれくらいかはわからないから、燻製肉とかあるかどうかはわからないけど。

それでも、やっとご飯ありつけるのだ。


俺は彼女の足元まで来ると、彼女は笑みを浮かべながら、テーブルに置いてあったのだろう、俺のご飯が入った皿を取り、目の前に置く。

目の前に置かれたご飯は……どこにでもある様な草や葉っぱ、他に野菜を小さく切ったのを入れて、サラダの様な感じに盛られたものだった。


「……ギ? (……アレ?)」


まさか、俺のご飯ってこれだけ? っていうか、野菜と葉っぱだけ?

思わず、目が点になってしまうが、アリシアは笑顔を浮かべて、こちらを見てくる。


「たくさん食べてね」


え? パンとかないんですか?

そう言いたくなる気持ちをグッと抑える。

まぁ、抑えたところで喋れないので、鳴き声として出るだけなのだが。

幾らバッタと言っても、魔物なのだから、肉とか……ッ!?


肉をイメージした瞬間、食欲が失せた感じがした。

まるで肉を食べるのを拒絶するかの様に……え? まさかだけど、この体。


「ピョンちゃん、どんな草とか、野菜が好きかわからないから、色々出してみたけど、どうかな?」


アリシアの言い方からして、ピンときた。

この体……草食系だ……!

だから、肉のことを考えると、拒絶反応が起きたのか……!?


元人間としては野菜だけでなく、色々食べたいと思うものだが……体は野菜や草、果物以外のことを考えると拒絶反応の様な感覚に襲われる。


というか、魔物に草食ってる奴って存在するのか?

こう、人間や家畜を襲ったりして、肉を食ってたりするイメージがあるのだが。

そんなことを考えている間に、アリシアは席につき、食事を始める。

まぁ、今はそんなことを考えるよりも、食事をとることが先決だな。

せっかく出してもらったわけだし、無化にはできないよな。

恐る恐る一つの草へと口をつけ、食べ始める。

少し咀嚼してから、感じたこと。


「ギ、ギギ……!? (う、うまい……!?)」


この体になったせいか、どこにでも生えてそうな草を食べておいしく感じてしまった。

いや、まぁ、逆にそれはありがたいと言えばありがたいのだが。

人間の時と変わらないままだったら、受け入れられなかっただろう。


そのまま食事を続け、アリシアに出してもらった野菜や草を完食。

アリシアは器を回収し、外へと出ていった。

恐らくだが、食器を洗うために井戸にでも向かったのだろう。

恐らく、というのは、井戸があるかどうか、俺は知らないからだ。

もしかしたら、近くの川かもしれないし、もしくは池かもしれない。


……アレ? これ、俺ついて行った方がよかったのでは?

今更思っても、時すでに遅しだな。

扉は閉められているため、今の俺では開けることはできない。

それに、もし井戸なら、近くにあるだろうから、心配する必要はないだろう。


さて、これからどうするか。

彼女、アリシアのテイムモンスターとなったからには、やはり……強くなければいけないだろう。

彼女のために戦い、守り、共に生きていく。

そのためには強くなる必要がある。

だが、スライムよりも弱い俺が強くなるには一体どうすればいいんだ……。

そんなことを考えている時だ。


扉がいきなり乱暴に開かれる。

その音に俺はビックリし、何事かと思い、そちらへと向き直ると入ってきたのは金髪の男。

それも如何にも身分が高いです、と主張するかの様な高そうな服を着ている。


その男二人の後に続く様に慌てて入ってくるアリシア。


「く、クルス兄さん、何か用なの?」


クルス、と呼ばれた男はどうやら、アリシアの兄の様だ。

クルスはアリシアの言葉を聞いてないのか、聞いていて無視したのか、わからないが、辺りをキョロキョロと見渡し始める。

そして、俺へと視線を向けると、ニヤッと、嫌な笑みを浮かべながら近づいてくる。

な、何事……!?


「へぇ、これがお前が連れて帰ってきた魔物か? どんな奴を連れ帰ってきたのかと思ったら……ブフッ! 最弱の魔物と名高いグラスホッパーじゃねぇかよ! こりゃ、傑作だ!」


コイツ、俺のことを確認するなり、急に笑い出しやがった。

いや、というよりも気になることが聞こえてきたんだが。

最弱の魔物……って、言ってなかった、コイツ?

え? 俺、最弱の魔物なの!?


そんな新事実に驚いていると、クルスは俺の体を掴んで持ち上げる。


「あ、ピョンちゃんに何するの!」

「ピョンちゃん? まさか、コイツの名前か? まさか、お前……コイツをテイムしたのかよ? アハハハハハハハ!」


更に俺の名前を聞いて、腹を抱えて笑い出す始末。

いくらなんでも酷くないだろうか?

最弱、というのは衝撃を受けたが、それでも自分の妹がやっとテイムできた魔物だ。

そこは兄として、よくやった、とか、頑張ったな、とか言ってやるところじゃないのか?

それをバカにするかの様に笑って……少しイラっと来るな。


「お前が拾ってきた魔物がどんなものか気になって、良さそうな奴だったら、俺が貰ってやろうと思ったが、その必要もなかった様だな。まぁ、『一族の落ちこぼれ』と最弱! お似合いのコンビな訳だ!」

「あ……う……」


強調するかの様に言った『一族の落ちこぼれ』というのにアリシアはビクッ! と反応し、顔を俯かせてしまう。

落ちこぼれ、と言われていることは気になったが、まず俺がやることは一つ。


俺の命の恩人を、マスターをバカにして、落ち込ませたコイツを許すわけにはいかない。


グラスホッパーはグラスホッパーでも、俺は転生者だ。元人間だ。

他のグラスホッパーが恐らくできない芸当ぐらいやってみせよう。


「ギギッ!」

「あ?」


体を一生懸命動かし、クルスの手からの脱出を図る。

俺が何かし出したことに気付いたクルスがこちらを見てくる。


「コイツ、何しようとしてんだ? まさか、自分の主人をバカにされたこと怒ってんのか? いや、それはないな。そもそもグラスホッパーの思考するほどの知能を持つ魔物じゃねぇしな」


え? そうなの?

なら、余計にアイツの虚を突けるかもしれない。

恐らく、今アイツは俺が掴まれ続けてるのを嫌がって、逃げ出そうとしているとでも考えているだろう。

フフフ……その油断が命取りよ。

命は取らないけどね。


「チッ! 鬱陶しいな。離してほしけりゃ、離してやるよ。ほらよ!」

「あ、ピョンちゃん!」


まぁ、案の定というか。

物を放り投げるかの様に投げ捨てられた。

アリシアは焦った様な声を出すが、俺はすぐさま体勢を整え、着地と同時にクルス目掛けてまっすぐに跳ぶ。

一発の弾丸になるかの様に。


「あ?」


いきなりのことでクルスも反応できていない様で、鳩尾目掛けて勢いよく体当たり。

良いとこに入ったかもしれない、なんて思いながら、床の上に着地。

体当たりをくらったクルスはこれでもか、というくらいに目を見開き、腹を抱えながら蹲る。

うむ、後ろ脚での蹴りも見舞ってやろうかと思ったが、体当たりだけで十分だな。


アリシア自身も何が起きたのか、理解できていないのか、目を白黒させ、口をポカーンと開いて、呆けている。


まぁ、普通、放り投げた奴がいきなり体勢を整えて、着地した直後に跳んで勢いよく体当たりをかます、とか思わないよな。

思考しないと思われてるグラスホッパーになら余計にだ。


「うぐっ……あがっ……!?」

「えっ……えっと、クルス兄さん、その……大丈夫?」


アリシア、優しい子。

自分のことをバカにしていた相手を気遣うとか、あの子天使ではなかろうか?

なんて思っていると、腹を抱えながらも、クルスは顔だけを動かし、アリシアを睨みつける。


「テメェ……落ちこぼれの分際で……! 俺に攻撃させるなんて……!」

「え? ち、違うよ。ボクがそう指示したわけじゃないよ……」

「なら……! 何であのバッタが、いきなり攻撃出来た……! マスターである、お前がしなきゃありえねぇだろうが……! あんな魔物が……! テメェ、俺に向かって、攻撃の指示なんざ生意気だぞ! 落ちこぼれの分際」

「ギィ」

「でっ!?」


まだ反省してない様なので、後ろ脚での蹴りを顔面に追加。

少し力を入れて蹴ったためか、クルスは少し吹き飛び、床を転がる。


少し力を入れるだけでも、成人……かはわからないが、男性を蹴り飛ばすほどの力はある様だ、俺の脚力。


なんて自身の能力に関心していると、顔を抑えて転げ回っていたクルスが俺を睨みつけてくる。


「コイツ……! 一度ならず二度までもッ!」

「ギィ(ざまぁ)」


テイマーとは言っても、本人の戦闘能力は低そうだ。

なんせ、最弱の魔物の攻撃を二度もくらっているわけですし。

まぁ、アリシアを落ち込ませたお前が悪いと言うことだな。

クルスは少ししてから、フラフラとしながらも立ち上がり、よろよろと玄関の方へと移動し、扉を開けてから、振り返って睨みつけてくる。


「お前等……! 後で後悔させてやる……!」

「あ、あのクルス兄ちゃん。ボクの話を」

「ふんっ!」


それだけ言い残すとクルスは扉を勢いよく閉めて出ていく。

その際になった大きな音にアリシアはビクッと反応し、自身の兄が出ていった扉を少し戸惑った様に見てから、俺を見てくる。


もしかしたら怒ってるかもしれない。


いくら酷そうな兄貴でも、あんなことをすれば、アリシアは俺の勝手な行動を怒るかもしれない。

実際にそのせいで、アリシアが疑われたのだから。


アリシアは俺の目線に合わせるかの様に屈む。

怒られるか……と思った時、頭に手が乗せられ、撫で始められたのに気付く。


「ギ……?」

「ピョンちゃん、もしかして、ボクのために怒ってくれたのかな? もし、そうだったら嬉しいよ。ピョンちゃんがボクに懐いてくれてる様で」

「ギィ……」


アレ? 怒ってない?

むしろ、嬉しそうな表情だ。


「……ピョンちゃん、クルス兄さんの言葉でわかったと思うんだけどね、ボクはピョンちゃん以外、テイムしたことがない。落ちこぼれのテイマーなんだ。兄さんたちやお父さん、お母さんは色々な魔物を……その、テイムしてるのに、ボクはピョンちゃんだけ。だから、落ちこぼれって言われて、バカにされて、親からも……見限られて」


アリシア……。


何かありそうだとは思っていたが、まさかそんなことがあったなんて。

確かにアリシアは俺をテイムする時に何度も森に入って、テイムしようとしたとは言っていた。

だが、まさかテイムができないせいで、落ちこぼれ扱いされるなんて。

幾らなんでも酷いんじゃないだろうか。

それほどテイムが上手なら、同じ家族であるアリシアに丁寧に教えてやるべきではないのだろうか?

そうすれば、きっとアリシアだって……アレ?


思えば、テイムっていう時に少し間があった気がする。

まだ何かありそうだな、コレは。

それに俺をテイムする時にアリシアは気になることを言っていた。


真の契約がどうとか。


ベルさん、とかいう人に教えてもらったって言っていたけど、真の契約とは一体どういうことだろうか?


そんなことを考えていると、アリシアは不安そうな表情を浮かべながら俺を見てくる。


「そんなボクだけどさ……それでも、ピョンちゃんはついてきてくれる……? 友達でいてくれる……?」


きっと、今の話を聞いたら、俺が離れていくかもしれないと思ったんだろう。

思考能力がないと言われた魔物なのに、その話をして不安がるなんて。

まぁ、アレだけの行動をしたのだから、アリシア自身は思考能力がない、なんて思ってないんだろうけど。


俺は不安そうな表情を浮かべるアリシアに近づき、膝に前を当て、頷いてみせる。

君が落ちこぼれだと言われていようと、俺はついていくと言う様に。

それが伝わったのか、アリシアは不安そうな表情から一変、笑顔へと変わる。


「ありがとう、ピョンちゃん!」


そう言って、俺に抱き着いてくる。

不安を拭えた様で、何よりです。


「あ、でも、流石にアレはやりすぎだから、反省してね? 嬉しかったけど」


あ、ハイ、わかりました。

やんわりとしたお説教を最後の最後に貰うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ